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飲食店の倒産が過去最多ペースに…好調な「丸亀製麵」にも気になる“3つの兆候”が

日刊SPA! 2024年11月11日 8時52分

 帝国データバンクの今年10月発表の調査によると、飲食店の倒産が過去最多ペースで発生しているとのことだ。業態別では、居酒屋を主体とする「酒場、ビヤホール」の倒産が最も多い。深刻なのは倒産だけでなく個人店の廃業も増えていることである。
 個人経営の小規模事業者が多い飲食業界は、食材、人手不足と人件費上昇、光熱費の高騰などで、ただでさえ低収益なのに、今後さらに厳しい経営を余儀なくされそうだ。

 コロナ収束後、期待したほど客足が回復せず、加えて客離れを懸念し、価格転嫁を躊躇し売上が伸びないのに経費ばかり負担が大きくなっているのが実情だ。そんななかこれまで好調を維持してきた丸亀製麵を運営する株式会社トリドールホールディングスにも気になる兆候が出てきた。同社の取り組みと今後の課題について説明する。

◆丸亀製麵が売上の半分を占める

 うどん業界で最多店舗数を誇る丸亀製麺を運営するのは株式会社トリドールホールディングス。2000年11月、讃岐うどん専門店「丸亀製麺」1号店を出店。現在の店舗数は840店舗(2024年3月期)である。2016年10月持株会社体制移行に伴い、株式会社トリドールホールディングスに商号変更して現在に至る。

 収益状況は、国内その他と海外事業を含めて、売上2320億円、営業利益116億円、営業利益率5.0%である。中核ブランドの丸亀製麺は、売上の約50%を占めるなど順調に推移しており、売上実績は1021億円(2023年3月期)→1149億円(2024年3月期)。前年比12.4%増と伸ばしており、過去最高も更新している。

◆業界2位の「はなまるうどん」との差

 営業利益も116億円(2023年3月期)→183億円(2024年3月期)と、59%増と伸ばしている。営業利益の16.0%は驚異の収益力であり、客数を減らさずにこれだけ儲ける力があるのは見事だ。

 うどんチェーン業界は店舗数・売上と共に、1位と2位には開きがあり、2位の「はなまるうどん」は店舗数418店舗、チェーン売上334億円、営業収入292億円(2024年2月期)だ。丸亀製麺のほうが出店数は2倍以上、売上は3倍以上の差があり、圧倒的な優位性を確保している。

 同じトリドール傘下のラーメン「ずんどう屋」も大阪など関西の既存店が特に好調に推移しており、店舗数は87店舗(2024年3月期)と増えている。トリドールは、現在、21のブランドを展開しており、適切なポートフォリオ・マネジメントができるようモニタリング体制を強化中だ。

◆丸亀製麺を中核としたトリドールの課題

 丸亀製麵を中核として勢いを増すトリドールだが、一方で課題も多い。筆者が主な課題だと思う点を3つに分けて紹介したい。

 1つ目の課題は、今回の決算だ。トリドールの2024年4〜6月期の連結決算(国際会計基準)は純利益が前年同期比43%減の15億円だった。英国で展開している「フルハムショア」の一部店舗で減損損失5億7800万円、また、海外で繰り延べ税金資産の取り崩しなどで税金費用が増加したようだ。

 また、前出のずんどう屋、カフェの「コナズ珈琲」など「国内その他」は既存店が売上は好調で約2割の増収だったが、運営管理面で人員の投入を増やしたことで、人件費率が上昇、原材料価格も高止まりしている。同部門の事業利益は5%減となっていた。

 しかし、こういった特損や営業費用の増加がありつつも、売上は25%増の658億円、事業利益は13%増の44億円といずれもこの期間として過去最高だった。売上の半分を占める丸亀製麺の事業利益は22%増と他業態を牽引している。25年3月期の連結業績予想は据え置くなど、経営課題が多いのも事実だが、今後に期待したい。

◆ライバル「資さんうどん」の動向

 続いて2つ目の課題は、競合他社の動向だ。2024年10月、すかいらーくは九州を地盤にした成長著しい「資さんうどん」の全株式を取得し、傘下に加える。すかいらーくは自社で不足する業態は、自社でイチから開発せずM&Aを活用し、時間を節約する経営方針であり、その一環だ。

 創業40年で年間売上100億円超(23年実績、123億円)を達成した資さんうどんの買収金額は240億円とのことだが、事業規模から考えて相当な将来性を見込んでいると言われている。丸亀製麺としては、コンセプトが違うとはいえ、同じうどん店として強敵となることは間違いない。

 資さんうどんとしては大手資本の傘下に入り、全国展開に向けた準備ができそうだ。現在は店舗数71店舗(24年8月時点)だが、2割の常連客が延べ客数の8割を占めるといったリピート率の高さが強みで、絶対的な顧客基盤を有している。第三極になるか否か、すかいらーくと資さんうどんの統合効果が期待される。

◆最後の課題、原材料高騰をどう対処?

 最後の課題は原材料の高騰だ。うどん店も主力食材である小麦粉も1.5倍の値上がりし、その他のコストも他と同様に高騰している。国内最大のうどんチェーンである丸亀製麺も、この難局を自店に優位になるように、値上げや付加価値の追求で顧客に理解を求めながら、創意工夫して運営力の強化に努めないといけない。

 具体的にはメニューの釜玉うどんや天ぷらなどで顧客離反を起こさないように適切に価格弾力性を勘案しながら、値上げを実施することだろう。最新の決算でもことし1月に実施した値上げが奏功し、客単価が8%上昇している。

 付加価値を高めたトマたまカレーうどんなど期間限定商品も好調で顧客満足度を追求しながら客単価も上昇させているようだ。しかし、現状の結果は出ていても、物価高騰で苦しむお客さんが今後これらをどう評価するかは未知である。

◆常に新たなことに挑戦する組織風

 トリドールは中華圏での出店を加速しており、傘下の「肉のヤマ牛」の中国本土1号店を上海でオープンした。肉のヤマ牛は「炭火仕上げの牛カルビ焼肉丼」を主力商品としたトリドールの牛肉専門店で、「切りたての牛肉の美味しさを提供すること」をモットーにしている。

 現在は国内で24店舗(2024年8月末日時点)を展開しているが 4月に出店した香港のポップアップ店が好調なので、今回の出店を決めたそうだ。現状に甘んじることなく、新たなことに挑戦する姿勢が組織文化として定着しているようだ。

 もちろん中核事業の丸亀製麺でも、顧客に感動価値も提供するなど演出力の強化に力を入れている。全店に製麺所を設置したうどん店は他店にない明確な差別的要素になっており、この競争優位が2位以下を引き離す原動力のようだ。

 昨年5月の新商品「丸亀シェイクうどん」の異物混入というつまずきこそあったが、迅速な謝罪と再発防止策を発表した。うどんをドーナツにする奇想天外の発想で商品化した「丸亀うどーなつ」も販売好調だ。季節ごとのフェア商品も強化しており、人気商品、新作も続々投入しているのも頼もしい。

◆外食業界の苦境のワケとは

 経済社会の視点から考えると、物価が高騰し、賃金上昇が追いつかない中、節約のために外食を手控えるのは仕方ない。そもそも倒産・廃業が増える理由は経済社会的・客側・店側の3つの視点が考えられる。

 外食は業種業態にもよるが、原価の3倍の支払いを店にするものだ。人に料理を作ってもらって食事をすれば、その分を払わなければならない。

 しかし、スーパーで食材を購入し、家で自分が作れば光熱費と手間だけで、それ以外の負担がなく食べられる。もう背に腹は代えられない時期になっているのではなかろうか。

 次に、客側の視点から考えると、職場の人間関係や労働環境の変化も影響している。約30年前、筆者が会社員だった頃を思い起こせば、残業は当たり前で、遅くまで働き、仕事が終わって終電近くまで同僚、上司、部下と飲んで帰るのが日課だった。

◆攻めに転じない企業は難しい

 しかし、今の若い世代は働き方も違い、自らのプライベートを大切にし、かつお酒を飲まない人も増えているようだ。コロナ過で働き方が変わり、職場の人間関係も稀薄になったことも要因だろう。忘年会など最も居酒屋が潤うシーズンも、開催の減少、参加人数の減少に見舞われているようだ。

 最後に後継者不足の問題だ。親が子供を連れて楽しく食事する風景など、かつてはよく見られたが、失われた30年で店主の高齢化と共に常連さんの高齢化も進んでいる。さらに貧困家庭が増えたことで、親世代のようには頻繁に外食に行けないのが実情だ。

 店の伝統とこだわりを重視し過ぎ、店主と顧客の世代交代に向けた店舗政策を講じなければ顧客の若返りは期待できず、店の存続は困難であることを物語っている。「中小企業白書」によれば、経営者が若返りした企業は業績も向上している。

 それは経営者が高齢化すると、どうしても守りに入ってしまうからだ。守りから攻めに転じて、経営革新に力を入れていかねば成長は難しい。

◆昔とは変わってきた外食への価値観

 人手不足や賃金上昇を背景に、ITを積極的に利活用した業務の効率化・省力化・自動化を推進したDX化を導入する外食大手は多い。しかし、外食は他の産業と違い、付加価値額が多い産業であることを忘れてはいけない。

「企業は人なり」と多くの企業が認識を持つが、特に労働集約型の外食業界はその意識を強く持たないといけない。「賃金を上昇させる」と言っているものの、現実的には難しいのが実情だ。

 実質賃金が下がり節約志向が高まる中、外食をやめて自らがスーパーで食材を購入して調理する内食が増えているのは仕方ない。

 原価3割程度のビジネスを成立させるために必要なのは、7割の付加価値分をお客さんが気持ちよく支払ってくれるビジネスモデルが必要だ。少ない投資で大きな効果を狙い、より効率性を重視する大手ファミレス企業の一方で、トリドールのようなクリエイティブな効果を狙う外食企業と、今後は二分されてくるのではなかろうか。

<TEXT/中村清志>

【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan

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