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元東京国税局局員のライターが教える、フリーランスの税金対策と「フリーランス新法」の活用術

日刊SPA! 2024年11月11日 8時51分

 元東京国税局職員から35歳でフリーランス・ライターへ転身。2020年に発行した『すみません、金利ってなんですか?』(サンマーク出版)が14万部のベストセラーを記録した小林義崇氏。
 小林氏の新刊『新しいフリーランスの歩き方』では、「食べていけるフリーランスに必要な生存戦略」を仕事術やブランディングから資金管理やメンタルの保ち方まで多岐にわたって書かれている。

 今回、公務員からフリーランスに転じた小林氏に、フリーランサーとして生活し続ける術について聞いた。

◆上阪徹氏がロールモデル的な存在になった

――紆余曲折があったものの、35歳で東京国税局を退職してフリーライターに転身しました。

小林:30歳すぎで「自分らしい生き方」を模索して、働き方を考え直し始めたわけですが、独立に踏み切らないまでも、転職するにも段々と年齢的に難しくなっていきます。この時期を逃したらムリだな、と思っていました。

 最初に知り合ったライターさんが上阪徹さんだったのは大きい。

 成功されている方だし、仕事についての哲学やライフスタイルに憧れる気持ちも強かった。僕にとって背中を追いかけるロールモデル的な存在で、勇気づけられました。ご縁なんでしょうね。

――人との縁や物事と出会うタイミングに恵まれたのは確かでしょう。

 ただ、異業種交流会やメディア関係者の集うイベントに参加したり、ブックライターの上阪徹さんに著書の感想を送ってブックライター塾に通ったり、小林さんが能動的に動いたからこそ独立が叶ったように映ります。

小林:周到に準備したつもりはありません。ただ、できることはやってみよう、とは思っていました。

 イベントも誘われれば断ることなく参加していましたし、機会があれば、どのようなことにも応じていました。確かに、振り返れば、業界のイベントなどに誘われて、断ったことはほとんどありませんね。

◆収入が安定するまでに2年を要した

――強い思いと行動力をもって念願のライターになったわけですが、すぐに安定した収入を得られたのですか?

小林:独立してライターとして仕事を始めて、生活できるまでに2年かかりました。

 3年目に前職並みの収入になり、4年目に手がけた『すみません、金利ってなんですか?』(サンマーク出版)がヒットして大きく跳ねたので、収入的にはずいぶん助かりました。

 妻の入院をきっかけに、仕事のやり方や案件の単価にこだわるように……。

――およそ2年、十分な収入を得られない期間があったわけですね。独立前、フリーライターの仕事が軌道に乗るまで、生活を成り立たせる準備などしていましたか?

小林:退職前に多少の貯金があったのと、公務員なので退職金が少し出たので、半年は生活していける……という試算はしていました。

 実際は、貯金を食い潰しながら生活していたというのが本当のところです。ライターになった当初は、単価の安い案件も多かったですね。

 大阪まで行って1日かけて取材して交通費+1万円という仕事もありました。これでは、家族にお土産を買ったら、ギャラがほとんどなくなってしまう(苦笑)。最初は、低単価の案件でも面白い、と捉えていたので仕事を受けていたんです。

◆家族の入院を機にフリーランスのリスクを痛感した

 ところが、独立した年に妻が入院してしまったんです。当時、妻は三男を妊娠中で定期的に検診を受けていたのですが、血圧に異常値が見つかり、緊急に入院することになったんです。

 当初、お医者さんの話では1週間の入院だったのですが、数値がなかなか戻らず、結局、入院期間は2か月に及びました。さらに、早産だったため、出産後に三男も1か月入院したので、3か月にわたって取材に出かけることができなくなってしまったんです……。

 仕事が満足にできない上に、入院費もかかり、お金の不安を抱える状態が続きました。この経験から、フリーランスのリスクを痛感した僕は、仕事のやり方や案件の単価にこだわるようになりました。

◆「元国税ライター」と名乗るようになったきっかけとは?

――現在、「元国税ライター」の肩書きを名乗り始めたのも、仕事のやり方を見つめ直したこの頃ですね。

小林:ブランディングを考えて、「元国税ライター」や「マネーライター(元東京国税局職員)」などと名乗っています。独立してしばらくの間、この肩書きを使わなかったのは勘違いしていたからです。

 というのは、せっかく独立したのだから税金以外のテーマの仕事をしたいという思いがあったから。フリーライターとしてどんな案件でも幅広くできたほうがいいのかな、と考えたんです。実際、幅広い案件を受けたのですが、報酬は総じてそれほど高くはなかった。

 そんな折り、ライター仲間からのアドバイスもあり、「元国税専門官」ライターと名乗り、肩書きに「フリーライター」としか書いていなかった名刺に、「元東京国税局職員」と一文を加えました。

 効果は絶大で、この肩書きだけで何度も仕事が受注できたんです。

◆フリーランスになったら税金対策が大事!

――新著には、フリーランスという働き方の魅力やメリットとともに、フリーランスになると避けては通れないデメリットも包み隠さず明かし、その対処法も書かれています。

小林:会社員や、僕のように公務員からフリーランスになると、まずお金の問題に直面することになります。

 日本では、フリーランスは会社員に比べて、著しく不利なんです。

 仕事をすると、さまざまな経費が発生しますよね。会社員なら、交通費から接待費にいたるまで会社が負担してくれますが、フリーランスは全額自己負担しなければならないのです。経費は、確定申告によって税金を抑える効果があるものの、全額が戻ってくるわけではありません。

 フリーランスになると税金の負担も大きくなります。

 会社員には給与所得控除があるのに対して、フリーランスにはありません。前にも述べたように、会社員は経費を会社が負担してくれる上に給与所得控除があるので、かなり優遇されていると言っていいでしょう。

 社会保険料の納付額も増えます。

 会社員は「会社の健康保険と厚生年金」に加入しますが、フリーランスになると「国民健康保険と国民年金」に切り替わります。会社員のときは、社会保険料の半分を会社が負担してくれていましたが、フリーランスになると全額自己負担しなければなりません。

 また、会社員の健康保険は扶養家族の人数がいくら多くても、負担する額は変わりませんが、フリーランスが加入する国民健康保険は世帯人数によって納付額が増えます。

 家族全員分の国民健康保険料が算定され、世帯主が納める形になっているからです。僕は5人家族なので、その分、高額になってしまいました。

◆法人化することで社会保険料の負担を軽減

 さらに、年金保険料も増える恐れがあります。

 会社員や公務員に扶養されている配偶者(国民年金第3号被保険者)は、保険料の支払いが免除されていますが、フリーランスに扶養されている配偶者は免除されません。独立すると、夫婦2人分の年金保険料を納めなければいけません。

 僕の場合はこれらの負担増が重なり、公務員からフリーランスになって社会保険料が年間50万円以上も増えてしまいました。

 こうした事態を前に、具体的に対策を講じたのは独立してからでした。ただ、税金なら控除枠を目一杯使って納税額を圧縮することもできますが、国民健康保険は対策の取りようがない。

 あまりにも負担が重いので、僕はフリーランスの仕事を法人化しました。自分への役員報酬を少なめにすれば、社会保険料を抑えることができます。

◆「フリーランス」ならではのメリット

――フリーランスになると支出が増えてしまうわけですが、それでも小林さんはフリーランスという働き方に魅力を感じているわけですね。

小林:はい。とても魅力的です。

 独立してすぐに妻が入院し、フリーランスのリスクを真剣に考えるきっかけになったと前に述べました。でも、3か月もの長期間、家族に寄り添うなんて、公務員だったら到底ムリでした。フリーランスならではのメリットと言えます。

 とはいえ、フリーランスがいくら自由だからといって、社会保険料や年金保険料の負担増など、歓迎したくない現実があることも知っておくべきでしょう。

◆フリーランス新法は、フリーを目指す人にとっては心強い法律です

――フリーランスになった人が陥りやすい問題などはあるんでしょうか?

小林:フリーランスになったばかりの人が失敗しがちなのが、税金を支払うタイミングです。

 フリーランスは確定申告しなければいけませんが、基本的に報酬は所得税が源泉徴収されているので、それほど多く税金を納めなくてもいい場合が多い。逆に、還付金としてお金が戻ってくることもあります。

 ところが、住民税は前年の所得によって納税額が決まりますし、源泉徴収がないので還付金が出ることは通常あり得ません。つまり、必ず後から支払うわけです。

 また、同じフリーランスでも業種によっては事業税を納付しなければならないし、インボイス制度が導入されたので、課税事業者になった場合は消費税も支払う必要が出てきます。

 こうした税金の納付が控えていることを忘れて、今あるお金を遣ってしまうと支払いに困ることになります。

◆立場の弱いフリーランスを守る「下請法」

――フリーランスは仕事を受注する立場にあるため、どうしても不利な状況に置かれがちです。そんなフリーランスを擁護するため、今年11月1日から「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス新法)が施行されました。

小林:フリーランスは、きちんと仕事をしたのに発注側の都合で報酬を払ってもらえなかったり、受注したときの条件が後から変わったりすると、大変困ってしまいます。

 このように立場の弱いフリーランスを守ってくれるのが、下請法という法律です。

 下請法は発注側に禁止行為を定めており、例えば、納品物を受け取ることを拒否したり、報酬の支払いが遅れることなどを禁じています。インボイス制度を理由に、双方の合意もなく報酬を10%減らすのも、明確な下請法違反になります。

◆「下請法」と「フリーランス新法」の違い

 僕にも困った経験があります。ブックライティングの仕事でほぼ1冊を書き終えたのですが、制作サイドの都合で発売が見送られ、報酬は払えないというのです。このときは下請法の話を持ち出し、報酬の一部を支払ってもらうことができました。

 ただ、下請法にも難点があります。この法律の規制を受けるのは、資本金1000万円超の事業者に限られ、資本規模の小さなクライアントから仕事を受注したフリーランスは保護されないのです。

 こうした状況を受けて、2024年11月1日から「フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」が施行されました。

 法律の内容は下請法と重なる部分も多いのですが、もっとも大きなポイントは資本金1000万円以下の事業者も規制を受ける点です。

 これによって、下請法の保護を受けられなかったケースでもフリーランス新法が助けてくれます。今後、フリーランスを目指す人にとって、心強い法律と言っていいでしょうね。

◆変わりつつある日本人の働き方

――近年、日本人の働き方も大きく変わってきています。2018年には政府が推進する「働き方改革」の一環として、それまでのモデル就業規則にあった副業禁止規定が原則削除され、「副業元年」とも言われました。新著はフリーランスを目指す人だけでなく、副業をこれから始める人にも役立ちそうです。

小林:完全に独立しないまでも、副業を志す人にも役立つ内容だと思います。

 僕自身、フリーランスを目指し始めた公務員時代、ライティングスキルだけで食べていくのは難しいと感じていましたが、報酬が発生しない副業的なかたちでライターの経験を積めたのが非常によかった。

 その後、セルフブランディングをするようになりましたが、ブランディングが効果を発揮するまでは時間がかかりますから。

◆「他責的な人」はフリーランスには向いてない!

――最後に、フリーランスを目指す人にアドバイスを頂けますか。

小林:今回出した本のタイトルに「新しいフリーランス」とありますが、何をもって新しいと言えるのか、僕自身、あまり言語化できていなかったんですが、フリーランスって必ず何かを犠牲にしてなるものではないと思うんです。

 独立の相談を受けていると、収入が減ったり、労働時間が増えたり、「安定」を犠牲にするのが前提と考えている人が少なくない。でも、こうしたことは工夫次第で何とかなりますし、いろいろ工夫できるのがフリーランスのいいところ。

 自分らしい働き方や生き方が、今後、ますます求められていくでしょうけど、組織では自分らしい働き方をすることはとても難しい。

 自分らしい働き方を楽しみながら整えていけるのが、これからのフリーランス像ではないかなと思います。多くの人がそうした「自分らしさ」を守っていってほしいですね。

 ただ、万人がフリーランスに向いているわけではないのも事実。

 他責的な人は向いていないと思います。クライアントとトラブルが起きたとき、クライアントのせいにすればラクかもしれませんが、それでは生産性がないし、かえって効率が悪い。

 自分で改善できるところがあれば、改善したほうがいい。こうした仕事やお金の問題にきちんと向き合える人が、フリーランスに向いていると思います。

小林義崇(こばやし・よしたか)
2004年に東京国税局の国税専門官として採用され、以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事。2017年7月、東京国税局を辞職し、フリーライターに転身。書籍や雑誌、ウェブメディアを中心とする精力的な執筆活動に加え、お金に関するセミナーを行っている。『僕らを守るお金の教室』(サンマーク出版刊)、『元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者』(ダイヤモンド社刊)ほか著書多数。公式ホームページ

<取材・文/齊藤武宏  撮影/山田耕司(扶桑社)>

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