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大阪の「100円たこやき」店主を直撃。オープン時は人件費ゼロ、お金を得るよりも大切な“資本”とは

日刊SPA! 2024年11月13日 8時52分

たこ焼き一舟(1パック)500~700円が相場の時代に、たこ焼き4個を100円で販売する店がある。その名も「100円たこやき」。しかも店内にある“無料チケット”を使えば、通常4個100円で販売されているたこ焼きが、高校生までタダというから驚くしかない。
ズバリ儲かっているのかも含め、高校生までが無料になるカラクリや店をはじめたキッカケについて取材すべく、店舗のある大阪府高槻市の住宅街へ。現役教師であり、「100円たこやき」を切り盛りする“たこやき先生”こと川人佑太(37歳)さんに話を聞いた。

◆「100円たこやき」は儲かるの?

「100円たこやき」は、子どもから大人まで誰もがたこ焼き4個を100円で購入できる激安店。そのうえ高校生以下は、店内にある“たこやきチケット”を利用することで、たこ焼き4個が無料で味わえる。客にとっては嬉しい店だが、利益があるのかは気になるところ。

「内訳についてはお教えできませんが、オープン当初から赤字ではなかったです。もちろん商売としてやっていこうという気持ちはありましたが、趣味の延長だったからこそ僕の人件費という概念を無視してはじめられたという部分はあります。オープンから3年以上経ち、僕の人件費もようやく捻出できるようになりました」

実際、最初の頃はずっとタダ働きだったと話す。そのような苦しい状況であれば、普通は値上げも考えることだろう。それなのにたこやき先生は、最初100円で販売していたたこ焼きを、高校生以下であれば無料で購入できる制度までスタートさせている。一体なぜなのか。

◆人件費無視の「たこ焼き屋」になるまで

キッカケは、数年前に遡る。新型コロナウイルスがパンデミックを引き起こし、緊急事態宣言が発令された。外出制限や営業時間短縮など、これまでの生活が一変し、自分の生き方を考え直したという人も少なくない。実は、たこやき先生もそんなひとり。

「緊急事態宣言が明けても、遠くまで行けないなど自粛期間が長く続きました。でも大阪市出身で、少し前までフルタイムで働いていた僕は、居住地の高槻市周辺に友だちがいない。そのような状況のなかで、奥さんや子ども、職場の人たちとは違う、身近な誰か。そういう人たちと雑談がしたいと考えるようになりました。

雑談がしたいというのは、メタファー(わかりやすく説明するために挙げた、ひとつの例)。気軽に雑談ができるような、そういったコミュニティがあれば、というような思いがだんだん強くなっていった感じです」

そして、2021年4月。たこ焼きを焼く1Fに少し客席があり、2Fにも客用スペースのある「100円たこやき」をオープンさせた。けれど、ここで疑問がわく。なぜ、たこ焼きを破格の100円で提供しようと思ったのか。厳しい経営になることは簡単に予測できたはず。

◆そうだ…高校生以下は無料にしよう!

たこ焼きを100円で提供しようと思った理由については、記事の序盤でも触れた「趣味の延長だから」という思いにつながる。そこに、価格を安くすることで「(お客さんが)たくさん来てくれたらいいな」といった考えや社会関係資本の概念が後押しをした形だ。

「近い距離で気軽に雑談できるコミュニティを持っていないと気づいたことが、自分の生活を取り巻く資本を見つめ直すキッカケになりました。日々の生活を支える金銭や財産などの経済資本、そして、人とのかかわりなどによる社会関係資本の大きく2つです。

すると、自分のなかに社会関係資本が不足していることに気づきました。逆に、僕は通信制高校で数学を教える教師。月々お給料をもらっているので、経済資本の面においては満たされている。そう感じたことも『100円たこ焼き』のオープンへとつながりました」

その後しばらくは、家賃や材料費だけでカツカツ。人件費は捻出できない状況が続いている。普通なら、たこ焼きの単価アップを検討するだろうが、たこやき先生はさらに高校生以下が無料でたこ焼きを食べられるようにしようと思いつく。

◆キッカケは友人の言葉

高校生以下が無料でたこ焼きを食べられるようにしようと思いついたキッカケは、店に来店してくれた友人の言葉。友人が支払い時に、「あまった分はおごチケ(おごりチケット・ほかの誰かにおごってあげて)にでもしてあげて」と言ったことだった。

「試行錯誤を経て、チケット制度を導入。まず、子どもたちにたこ焼きを食べてほしいと思った大人が料金を支払って“たこやきチケット”を購入します。そして、店内に設置。そのチケットを、高校生以下の子どもたちが使うことで、たこ焼4個と引き換えられる制度です」

店頭では、100円から100円単位で好きなだけ“たこやきチケット”を購入可能。そのほか、メディアプラットフォーム「note」を通じてサポーターになることもできる。

「僕が立ち上げているnoteの“100円たこやき公式サポーター”というページでは、100円・300円・1,000円という3パターンから選んでサブスクリプションに申し込めます。ただ、この“100円たこやき公式サポーター”は、見返りを求める方にはおすすめできません」

なぜなら、「子どもたちがたこ焼きを無料で食べられるということ以外に形として何か残るようなリターンはないですし、月々使われなかったチケット分は僕の人件費になるからです」と続ける。

◆これから先もずっとつきまとう不安

昨年2023年10月頃からサポーターが増え、いまは“たこやきチケット”の供給も安定。最近ではたこやき先生の人件費がようやく捻出できるようになってきたという。2024年9月現在の公式サポーターは600人以上。秋冬などたこ焼きが恋しい季節には、多いときで1日に60~70人程度もの人が足を運んでくれるようになった。

「ただ、サポーターは永遠ではないので、減ってしまうこともあります。サポーターがいなくなれば、無料たこ焼きの提供はできなくなるし、タダ働きに逆戻り。そういった不安は、この先もずっとつきまといます。

それでも毎日が楽しいです。オープンから3年以上が経ついま、友達と呼んでいいのかどうかはわからないんですが、年齢を問わず気軽に雑談ができるような関係性が築けているのではないかと思います。教師と生徒や職場の人間関係などとは違うコミュニティです」

たこやき先生の言葉を裏付けるかのように、「100円たこやき」は取材時、オープンの15時半前から子どもたちで賑わっていた。そして多くの子どもたちが、たこやき先生に話しかける。それは、「暑い」とか「店の2階のクーラーが効かない」とか、他愛のないこと。

「いまの現状を見て、子どもたちの居場所づくりのために店をオープンしたのかと聞かれることもありますが、そうではありません。自分のなかに不足していた“社会関係資本”を見つめ直して小さなコミュニティを築いた結果、良い方向に進んだという感じです」

◆たこやき先生が築いた新しいコミュニティ

新しいコミュニティを築くことに成功したたこやき先生だが、たこ焼き屋を開くとは想像もしていなかったとか。紆余曲折を経て通信制高校の数学教師となり、「100円たこやき」をオープン。そんな彼に共感する多くの “サポーター”により、支えられている。

「割合的には少ないですが、店舗でチケットを購入してくれる方もいます。ただ、noteで僕の立ち上げている “100円たこやき公式サポーター”のページからサポーターになってくれる人がほとんど。なので、子どもたちがたこ焼きを食べる様子を見られるわけでもない。

そのため、多くの人にとって何のリターンもないと思うのです。それでも、サポーターの方に、『(サポーターの制度を利用して)こんなにほっこりするのは、はじめて』というようなことを言っていただいたこともあります」

大阪高槻市の住宅街にある「100円たこやき」は、いい意味で価格が時代錯誤のたこ焼き屋。誰かとすれ違っても挨拶も阻まれる、何か言えば炎上や問題視される殺伐とした現代に、人と人とのかかわりについて考えさせられる店だった。<取材・文/山内良子>

100円たこやき
大阪府高槻市にある、たこ焼き4個を100円で提供する店。店内にある“たこやきチケット”を使えば、高校生以下はたこやき4個が無料になる。オーナーは、趣味の延長で「100円たこやき」を営む現役の数学教師のため、休日や営業時間はInstagramやXなどのSNSで事前にチェックしてから足を運ぶのがおすすめ。

【山内良子】
フリーライター。ライフ系や節約、歴史や日本文化を中心に、取材や経営者向けの記事も執筆。おいしいものや楽しいこと、旅行が大好き! 金融会社での勤務経験や接客改善業務での経験を活かした記事も得意

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