海外移住は夢のまた夢? 昨今の物価上昇や急激な円安の影響により、以前にも増して“難しい”と感じてしまうはずだ。しかし一方で、依然として海外移住に新たな希望を見出す日本人も少なくない。
今年の春からタイ・バンコクに移住してきたのが、旅系YouTuberとして人気を誇る「EXIT JACK」のマンペーさん(34歳)である。マンペーさんは2022年、タイ人モデルのヴィエンナさん(29歳)と結婚し、現在は一児の父でもある。
かつて「月5万円で生活できる」と言われていたタイも、現在では状況が大きく変化しているが、今回はタイ移住の経緯、国際結婚や現地での子育てについてマンペーさんに話をうかがった。
◆人気YouTuberがタイに移住したワケ
現在、日本からタイ・バンコクに生活の拠点を移しているマンペーさん。移住の決断に至った理由とは何だったのか。
「妻のヴィエンナがタイ人であることから、彼女の母国に住みたいと考えたことが大きな理由です。お互いの仕事が動画の撮影などで場所に縛られないという点もありました」
国際結婚の際に特に苦労したことや費用についてもたずねてみた。
「実際に苦労したのは婚姻届の提出に必要な書類関係です。日本とタイの両方に婚姻届を提出しなければならず、妻のほうは婚姻状況証明書や住居登録証、独身証明書などが必要でした。
僕の場合は、日本の領事館とタイ国外務省領事局で『認証を受けた戸籍謄本・英語訳文』と『タイ語翻訳文』の両方に領事認証が必要で、領事館に電話がなかなかつながらずに苦労しました(笑)。最終的に入籍手続きには書類の翻訳代などを含めて5万円ほどかかりましたね」
◆タイでの子育て事情
そんな2人には昨年(2023年)11月20日に子ども(モニカちゃん)が生まれ、マンぺーさんは一児の父となったが、タイでの子育てはどうなのか。
「日本と比べて、タイではベビーシッターを頼みやすいので助かっています。週1回のペースでお願いしていますが、1日頼んでも1万円程度。服やベビーカーなどのベビーグッズも日本に比べて割安です。さらに、タイは1年中温暖な気候で、バンコクは雨季でも雨が1日中降り続けるなんてことはないため、意外と快適に過ごせています。
タイ人は子どもに対してとても優しく、外食に行ってもスタッフが子どもと遊んでくれたり、泣いても周りの人があやしてくれたりすることが多いので子育てしやすいと感じています」
一方で、苦労することもあるという。
「3月から5月の暑季は日中の気温が40度近くまで上がります。また、バンコクは交通量が多いため排気ガスがすごいんです。子どもをベビーカーに乗せていると、ちょうど排気ガスが当たる位置になってしまい、かわいそうだと感じます。道路には穴があったり割れ目ができていたりして、ベビーカーでの移動がしにくいのが難点。子連れでの移動には車が便利だと思いますね。
また、良い保険をまだ見つけられていないので、子どもが中耳炎にかかったときに病院に連れて行ったら、日本円で約8万円ほどの費用がかかってしまい驚きました。自分も含め、どの医療保険に加入するかも今後の課題ですね」
◆生活費は家賃も含めて月に平均10万バーツ(約44万円)
タイは東京に比べて家賃が安いのが魅力だというマンペーさん。
「現在住んでいるのはバンコクのコンドミニアムで、日本でいうところの1LDKほどの広さがあります。詳しい家賃はお話しできませんが、たとえば東京都内であれば50~60万円ほどする物件が、タイではその約1/3程度で借りられます」
旅系YouTuberとして、タイには何度も旅行で来ていたが、移住前に抱いていたイメージと実際の生活には、どのようなギャップがあったのだろうか。
「物価が安いイメージがありましたが、単身と家族連れでは生活費が全く違います。僕一人なら、スーパーのフードコートやローカル食堂で1日の食費が300バーツ(約1,300円)程度、月にすると9,000バーツほどで収まります。なので、単身なら月2万バーツ(約9万円)ほどで生活が可能だと思います。
ただし、家族で生活するとなると、家賃も含めて、月に平均10万バーツ(約44万円)が現在の我が家の生活費です」
◆「陽気な雰囲気のタイで子育てがしたかった」
増税や低賃金が叫ばれる日本と比べて、どちらが住みやすいと感じているのだろうか。
「子育てを含めて、僕としてはタイの方が生活しやすいですね。僕は日本に会社があるため、住民票は日本に残していますが、タイでは所得税のみが課税対象で日本のような住民税がないため、生活コストが抑えられます。また、今の日本は少し空気が重いというか、落ち込んでいる印象があるので、陽気な雰囲気のタイで子育てがしたかったというのもあります」
このままタイでの子育てを続けていくつもりなのか。
「妻は子どもにいろいろな国を経験させたいと考えているので、小学校入学までの間は家族で2〜3年ごとにさまざまな国に移り住むことを考えています。また、将来的には子どものためにも英語圏の国で暮らすことができたらいいなと」
◆YouTuberとしては“転換期”「家族で楽しめる動画も」
以前は観光客が訪れないような海外の危険なスポットの撮影や、ぼったくり店の潜入などの体当たり企画も行っていたが、家族ができたことで変化がありそうだ。今後のYouTuberとしての展望についてもたずねてみた。
「独身の頃はスラム街に行ったり、ナンパ企画や夜の店のレポートもしていましたが、やっぱり子どもが生まれてからは少し方向性を変えていこうと思っています。以前はどんな危険地帯でも怖くなかったのですが、今は家族のために死ぬことが怖いと感じるようになりました。
ちょうどYouTuberとして転換期でもあり、今後は家族で楽しめる動画も作っていけたらと考えています。たとえば、同じ国での旅でも、独身の貧乏旅行と子連れ旅行では視点が全然違うじゃないですか。ただし、EXIT JACKの本来の方向性は崩さずに、夜の街のレポートなど、ギリギリセーフな部分で過激さも残しておきたいです」
最後に、これからタイへの移住を考えている日本人に向けてメッセージも聞いてみた。
「日本円の収入で生活する場合、円安の影響もあって、昔のようなイメージとは異なり、節約生活が強いられるかもしれません。ただ、せっかくタイに来たのに節約ばかりだと、本来の目的を見失ってしまうこともあります。ですから、タイに来るなら、現地採用でタイバーツを稼ぐ仕事を探すのが良いかもしれませんね」
【マンペー】
大阪府出身のYouTuber。34歳。「EXIT JACK」のチャンネル登録者数は57.4万人。観光地ではなくスラム街や貧困街をメインに発信しており、これまで訪れた国は80カ国以上。2022年にタイ人モデルのヴィエンナと結婚。現在は一児の父。2024年よりタイ・バンコク在住。
<取材・文・撮影/カワノアユミ>
【カワノアユミ】
東京都出身。20代を歌舞伎町で過ごす、元キャバ嬢ライター。現在はタイと日本を往復し、夜の街やタイに住む人を取材する海外短期滞在ライターとしても活動中。アジアの日本人キャバクラに潜入就職した著書『底辺キャバ嬢、アジアでナンバー1になる』(イーストプレス)が発売中。X(旧Twitter):@ayumikawano
今年の春からタイ・バンコクに移住してきたのが、旅系YouTuberとして人気を誇る「EXIT JACK」のマンペーさん(34歳)である。マンペーさんは2022年、タイ人モデルのヴィエンナさん(29歳)と結婚し、現在は一児の父でもある。
かつて「月5万円で生活できる」と言われていたタイも、現在では状況が大きく変化しているが、今回はタイ移住の経緯、国際結婚や現地での子育てについてマンペーさんに話をうかがった。
◆人気YouTuberがタイに移住したワケ
現在、日本からタイ・バンコクに生活の拠点を移しているマンペーさん。移住の決断に至った理由とは何だったのか。
「妻のヴィエンナがタイ人であることから、彼女の母国に住みたいと考えたことが大きな理由です。お互いの仕事が動画の撮影などで場所に縛られないという点もありました」
国際結婚の際に特に苦労したことや費用についてもたずねてみた。
「実際に苦労したのは婚姻届の提出に必要な書類関係です。日本とタイの両方に婚姻届を提出しなければならず、妻のほうは婚姻状況証明書や住居登録証、独身証明書などが必要でした。
僕の場合は、日本の領事館とタイ国外務省領事局で『認証を受けた戸籍謄本・英語訳文』と『タイ語翻訳文』の両方に領事認証が必要で、領事館に電話がなかなかつながらずに苦労しました(笑)。最終的に入籍手続きには書類の翻訳代などを含めて5万円ほどかかりましたね」
◆タイでの子育て事情
そんな2人には昨年(2023年)11月20日に子ども(モニカちゃん)が生まれ、マンぺーさんは一児の父となったが、タイでの子育てはどうなのか。
「日本と比べて、タイではベビーシッターを頼みやすいので助かっています。週1回のペースでお願いしていますが、1日頼んでも1万円程度。服やベビーカーなどのベビーグッズも日本に比べて割安です。さらに、タイは1年中温暖な気候で、バンコクは雨季でも雨が1日中降り続けるなんてことはないため、意外と快適に過ごせています。
タイ人は子どもに対してとても優しく、外食に行ってもスタッフが子どもと遊んでくれたり、泣いても周りの人があやしてくれたりすることが多いので子育てしやすいと感じています」
一方で、苦労することもあるという。
「3月から5月の暑季は日中の気温が40度近くまで上がります。また、バンコクは交通量が多いため排気ガスがすごいんです。子どもをベビーカーに乗せていると、ちょうど排気ガスが当たる位置になってしまい、かわいそうだと感じます。道路には穴があったり割れ目ができていたりして、ベビーカーでの移動がしにくいのが難点。子連れでの移動には車が便利だと思いますね。
また、良い保険をまだ見つけられていないので、子どもが中耳炎にかかったときに病院に連れて行ったら、日本円で約8万円ほどの費用がかかってしまい驚きました。自分も含め、どの医療保険に加入するかも今後の課題ですね」
◆生活費は家賃も含めて月に平均10万バーツ(約44万円)
タイは東京に比べて家賃が安いのが魅力だというマンペーさん。
「現在住んでいるのはバンコクのコンドミニアムで、日本でいうところの1LDKほどの広さがあります。詳しい家賃はお話しできませんが、たとえば東京都内であれば50~60万円ほどする物件が、タイではその約1/3程度で借りられます」
旅系YouTuberとして、タイには何度も旅行で来ていたが、移住前に抱いていたイメージと実際の生活には、どのようなギャップがあったのだろうか。
「物価が安いイメージがありましたが、単身と家族連れでは生活費が全く違います。僕一人なら、スーパーのフードコートやローカル食堂で1日の食費が300バーツ(約1,300円)程度、月にすると9,000バーツほどで収まります。なので、単身なら月2万バーツ(約9万円)ほどで生活が可能だと思います。
ただし、家族で生活するとなると、家賃も含めて、月に平均10万バーツ(約44万円)が現在の我が家の生活費です」
◆「陽気な雰囲気のタイで子育てがしたかった」
増税や低賃金が叫ばれる日本と比べて、どちらが住みやすいと感じているのだろうか。
「子育てを含めて、僕としてはタイの方が生活しやすいですね。僕は日本に会社があるため、住民票は日本に残していますが、タイでは所得税のみが課税対象で日本のような住民税がないため、生活コストが抑えられます。また、今の日本は少し空気が重いというか、落ち込んでいる印象があるので、陽気な雰囲気のタイで子育てがしたかったというのもあります」
このままタイでの子育てを続けていくつもりなのか。
「妻は子どもにいろいろな国を経験させたいと考えているので、小学校入学までの間は家族で2〜3年ごとにさまざまな国に移り住むことを考えています。また、将来的には子どものためにも英語圏の国で暮らすことができたらいいなと」
◆YouTuberとしては“転換期”「家族で楽しめる動画も」
以前は観光客が訪れないような海外の危険なスポットの撮影や、ぼったくり店の潜入などの体当たり企画も行っていたが、家族ができたことで変化がありそうだ。今後のYouTuberとしての展望についてもたずねてみた。
「独身の頃はスラム街に行ったり、ナンパ企画や夜の店のレポートもしていましたが、やっぱり子どもが生まれてからは少し方向性を変えていこうと思っています。以前はどんな危険地帯でも怖くなかったのですが、今は家族のために死ぬことが怖いと感じるようになりました。
ちょうどYouTuberとして転換期でもあり、今後は家族で楽しめる動画も作っていけたらと考えています。たとえば、同じ国での旅でも、独身の貧乏旅行と子連れ旅行では視点が全然違うじゃないですか。ただし、EXIT JACKの本来の方向性は崩さずに、夜の街のレポートなど、ギリギリセーフな部分で過激さも残しておきたいです」
最後に、これからタイへの移住を考えている日本人に向けてメッセージも聞いてみた。
「日本円の収入で生活する場合、円安の影響もあって、昔のようなイメージとは異なり、節約生活が強いられるかもしれません。ただ、せっかくタイに来たのに節約ばかりだと、本来の目的を見失ってしまうこともあります。ですから、タイに来るなら、現地採用でタイバーツを稼ぐ仕事を探すのが良いかもしれませんね」
【マンペー】
大阪府出身のYouTuber。34歳。「EXIT JACK」のチャンネル登録者数は57.4万人。観光地ではなくスラム街や貧困街をメインに発信しており、これまで訪れた国は80カ国以上。2022年にタイ人モデルのヴィエンナと結婚。現在は一児の父。2024年よりタイ・バンコク在住。
<取材・文・撮影/カワノアユミ>
【カワノアユミ】
東京都出身。20代を歌舞伎町で過ごす、元キャバ嬢ライター。現在はタイと日本を往復し、夜の街やタイに住む人を取材する海外短期滞在ライターとしても活動中。アジアの日本人キャバクラに潜入就職した著書『底辺キャバ嬢、アジアでナンバー1になる』(イーストプレス)が発売中。X(旧Twitter):@ayumikawano