今週はメジャーリーグの個人タイトル受賞者が次々と発表されている。新人王から始まり、最優秀監督、サイヤング賞がすでに発表済み。そして大トリとして、日本でも最注目のMVPが現地21日(日本時間22日)に発表される。
◆大谷翔平は3度目の満票受賞なるか
MVPとはMost Valuable Playerの略で、文字通りシーズンで最も優れた成績を収めた選手に贈られる賞だ。すでに各リーグから最終候補3選手ずつが発表されているが、ア・リーグはヤンキースのアーロン・ジャッジが、ナ・リーグはドジャースの大谷翔平が受賞するとみられている。最大の焦点は満票かどうかだろう。
ともに中心選手としてシーズンを通してチームをけん引し、リーグ優勝に導くと、ワールドシリーズでは両者による夢の対決も実現した。
ただし、ポストシーズンではともにレギュラーシーズンほどの活躍を見せることができず。特にジャッジは9月にやや成績を落とすと、ポストシーズンでは大不振に陥る事態に。打撃面だけでなく、ワールドシリーズ第5戦では痛恨エラーを犯し、戦犯扱いされた。
ただMVPの対象となるのは、あくまでもレギュラーシーズンのパフォーマンスに対して。攻守に大活躍したロイヤルズのボビー・ウィットJr.に1位票を投じた記者がいてもおかしくはないが、かなり高い確率でジャッジが満票で受賞することになるだろう。
一方の大谷は史上6人目の「40本塁打&40盗塁」をスピード達成すると、9月に自慢の打棒が大爆発。最終的に「54本塁打&59盗塁」までその数字を伸ばした。こちらも満票で、自身3度目の受賞が濃厚とみられる。
◆前例のない「DH専任選手のMVP受賞」
ただし、大谷にMVPを与えない理由が一つだけあるとすれば、一度も守備に就かなかったことだろう。今季は自己最多の159試合に出場した大谷だが、すべて指名打者(DH)でのもの。これまでDH専任選手は一人もMVPを受賞していない歴史的事実が重くのしかかる。
実際に、SNS上には「大谷はあくまでも最優秀“打者”。最優秀選手はリンドーアだ」という書き込みもあったほど。投票権を持つ記者の中に、DH専任選手には1位票を投じないという考えがあってもおかしくないだろう。
もしその記者が大谷以外に1位票を投じるとすれば、名前の挙がったフランシスコ・リンドーアになるはずだ。リンドーアはメッツのリーダーとしてチームをけん引。ナ・リーグ優勝決定シリーズでドジャースに敗れたものの、最後まで抵抗したのはリンドーアによるところが大きかった。遊撃手としての守備の貢献度も加味すれば、8月までは大谷とMVPを争う存在だったのは間違いない。
ところが、リンドーアは9月にケガで戦列を離れた期間があり、その間に大谷が歴史的快挙を達成。そのため、リンドーアはMVP争いで大きく後れを取ってしまった印象だ。
◆ニューヨークの記者がリンドーアに投票する可能性も
ここで改めてMVPの投票システムを紹介しておこう。
両リーグともに全米野球記者協会(BBWAA)に所属する記者による投票となっている。各リーグの本拠地都市から2人ずつの30人、両リーグ合計60人が、それぞれ10選手に1位から10位までの順位をつける。
もちろんメッツが本拠地を置くニューヨークも2人の記者が投票権を持っており、彼らが大谷ではなく、リンドーアに1位票を投じている可能性はゼロではないだろう。
◆ジャッジが満票受賞できなかった“2年前の因縁”
やはり記者も生身の人間。シーズンを通して見続けている地元選手を贔屓することがあっても不思議ではない。実際に2022年のア・リーグMVP投票ではある“因縁”が勃発していた。
その年のア・リーグでMVPを受賞したのは、本塁打のリーグ新記録を塗り替えたジャッジだった。ヤンキースの主砲が157試合の出場で残した成績は、打率.311、62本塁打、131打点というもの。当然、ファンはジャッジの満票受賞を信じて疑わなかったが、1位票は30人中28人。残る2人は当時エンゼルスの大谷に1位票を、ジャッジに2位票を投じていた。その2人というのが、ともにロサンゼルスの記者だったのだ。
ちなみに同年の大谷は、打者として157試合に出場し、打率.273、34本塁打、95打点、11盗塁をマーク。投手としても28試合に登板し、15勝9敗、防御率2.33と、二刀流選手として完成の域に達したシーズンだった。
ジャッジの62本塁打と、大谷の34本塁打&15勝。どちらも歴史的快挙といえる成績に違いはないが、多くがジャッジを支持したこともまた事実である。
もし今季、2年前とは正反対に、ニューヨークの記者だけがリンドーアに投票していたとすれば、やや後味の悪さが残るかもしれない。果たして大谷は満票で自身3度目のMVPを手にすることができるか。
文/八木遊(やぎ・ゆう)
【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。
◆大谷翔平は3度目の満票受賞なるか
MVPとはMost Valuable Playerの略で、文字通りシーズンで最も優れた成績を収めた選手に贈られる賞だ。すでに各リーグから最終候補3選手ずつが発表されているが、ア・リーグはヤンキースのアーロン・ジャッジが、ナ・リーグはドジャースの大谷翔平が受賞するとみられている。最大の焦点は満票かどうかだろう。
ともに中心選手としてシーズンを通してチームをけん引し、リーグ優勝に導くと、ワールドシリーズでは両者による夢の対決も実現した。
ただし、ポストシーズンではともにレギュラーシーズンほどの活躍を見せることができず。特にジャッジは9月にやや成績を落とすと、ポストシーズンでは大不振に陥る事態に。打撃面だけでなく、ワールドシリーズ第5戦では痛恨エラーを犯し、戦犯扱いされた。
ただMVPの対象となるのは、あくまでもレギュラーシーズンのパフォーマンスに対して。攻守に大活躍したロイヤルズのボビー・ウィットJr.に1位票を投じた記者がいてもおかしくはないが、かなり高い確率でジャッジが満票で受賞することになるだろう。
一方の大谷は史上6人目の「40本塁打&40盗塁」をスピード達成すると、9月に自慢の打棒が大爆発。最終的に「54本塁打&59盗塁」までその数字を伸ばした。こちらも満票で、自身3度目の受賞が濃厚とみられる。
◆前例のない「DH専任選手のMVP受賞」
ただし、大谷にMVPを与えない理由が一つだけあるとすれば、一度も守備に就かなかったことだろう。今季は自己最多の159試合に出場した大谷だが、すべて指名打者(DH)でのもの。これまでDH専任選手は一人もMVPを受賞していない歴史的事実が重くのしかかる。
実際に、SNS上には「大谷はあくまでも最優秀“打者”。最優秀選手はリンドーアだ」という書き込みもあったほど。投票権を持つ記者の中に、DH専任選手には1位票を投じないという考えがあってもおかしくないだろう。
もしその記者が大谷以外に1位票を投じるとすれば、名前の挙がったフランシスコ・リンドーアになるはずだ。リンドーアはメッツのリーダーとしてチームをけん引。ナ・リーグ優勝決定シリーズでドジャースに敗れたものの、最後まで抵抗したのはリンドーアによるところが大きかった。遊撃手としての守備の貢献度も加味すれば、8月までは大谷とMVPを争う存在だったのは間違いない。
ところが、リンドーアは9月にケガで戦列を離れた期間があり、その間に大谷が歴史的快挙を達成。そのため、リンドーアはMVP争いで大きく後れを取ってしまった印象だ。
◆ニューヨークの記者がリンドーアに投票する可能性も
ここで改めてMVPの投票システムを紹介しておこう。
両リーグともに全米野球記者協会(BBWAA)に所属する記者による投票となっている。各リーグの本拠地都市から2人ずつの30人、両リーグ合計60人が、それぞれ10選手に1位から10位までの順位をつける。
もちろんメッツが本拠地を置くニューヨークも2人の記者が投票権を持っており、彼らが大谷ではなく、リンドーアに1位票を投じている可能性はゼロではないだろう。
◆ジャッジが満票受賞できなかった“2年前の因縁”
やはり記者も生身の人間。シーズンを通して見続けている地元選手を贔屓することがあっても不思議ではない。実際に2022年のア・リーグMVP投票ではある“因縁”が勃発していた。
その年のア・リーグでMVPを受賞したのは、本塁打のリーグ新記録を塗り替えたジャッジだった。ヤンキースの主砲が157試合の出場で残した成績は、打率.311、62本塁打、131打点というもの。当然、ファンはジャッジの満票受賞を信じて疑わなかったが、1位票は30人中28人。残る2人は当時エンゼルスの大谷に1位票を、ジャッジに2位票を投じていた。その2人というのが、ともにロサンゼルスの記者だったのだ。
ちなみに同年の大谷は、打者として157試合に出場し、打率.273、34本塁打、95打点、11盗塁をマーク。投手としても28試合に登板し、15勝9敗、防御率2.33と、二刀流選手として完成の域に達したシーズンだった。
ジャッジの62本塁打と、大谷の34本塁打&15勝。どちらも歴史的快挙といえる成績に違いはないが、多くがジャッジを支持したこともまた事実である。
もし今季、2年前とは正反対に、ニューヨークの記者だけがリンドーアに投票していたとすれば、やや後味の悪さが残るかもしれない。果たして大谷は満票で自身3度目のMVPを手にすることができるか。
文/八木遊(やぎ・ゆう)
【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。