野村総合研究所の定義としては、純金融資産額が5億円以上の世帯が「超富裕層」とされているが、2021年に行われた調査の結果では9万世帯と意外に多い。にもかかわらず、その実態はあまり知られていない。
超富裕層たちは、閉塞感の漂う今の世の中とは無縁の、驚くべき生活を送っているという……。彼らは日々どんな暮らしをして、何に悩んでいるのか。
お金があるぶん、好きなものを好きなだけ買える超富裕層だが、ハイブランドの商品を実物を見ないまま数百万円や数千万円も購入したり、ついつい買いすぎてトランクルームを8個も借りたり……。
今回は、そんな彼らの買い物事情について、国内外の超富裕層向けに執事やメイドのサービスを提供する、日本バトラー&コンシェルジュ株式会社 代表取締役社長の新井直之さんに話を聞いた。
◆ブランドものは「買ってから誰にあげるか考える」
私たち庶民にとってブランドものは、記念日やクリスマスなどの特別な日に買うものだ。緊張しながら、慣れないブランドショップへ足を踏み入れた人もいるだろう。
しかし超富裕層はブランドものに対して、全く違う接し方をしているそうだ。
「超富裕層は店舗に出向かなくても、ハイブランドのショップの方から家に来ます。たとえば、某高級ジュエリーブランドなら『新作のネックレスがございます』という案内をするために、訪問営業をしに来るわけです。そこで必要性を感じなくても、『確か、うちの新井君が仕事を頑張ってくれてるから、これをプレゼントするか!』といって購入するシーンも何度か見てきました。
そもそも彼らは『特別な日にブランドものを買う』という発想をしません。私たち庶民と逆の発想なんですね。先に物があって、次に誰にあげるかを考えるんです」
あげる相手は社員や家族など、人間関係を円滑にしてくれたり、ビジネスの上で有利になったりする人たちが対象になるのだという。もらう側は、なんとも羨ましい話である。
◆「ハイブランドの外商」が自宅まで訪問営業に来る
ともあれ、百貨店の外商については聞いたことがあるが、一般庶民からすると“ハイブランドの外商”なんて縁がないはずだ。
「ハイブランドの外商たちはアポイントを取って来ることもありますけど、急に『今から行ってもいいですか?』と、飛び込みで来る場合もあります。超富裕層たちも『わざわざ来てもらったと思うと、つい買っちゃうんだよね』と苦笑いされていますね」
家に来てもらえたとしても、高価な物を売りつけられて、うんざりしそうだが……。
「外商たちは物を売るだけじゃなくて、接待もしてくれるんです。たとえば、歌舞伎の好きな超富裕層には『歌舞伎座のチケットが入りました! 一緒に観に行きませんか?』と誘ってくれたりします。
また、接待は家の外にも及びます。ハイブランドのショップは一等地にあることが多いので、外出のついでに超富裕層が立ち寄ることもあるんです。そこで『お茶でも飲んで行きませんか?』と、奥の個室に案内してもらえます。“サロン”と呼ばれるその部屋には、シガーやお酒が置いてあることもあり、ゆったりとくつろぐことができます」
他にもレストランを併設している某高級装飾品ブランドでは、『ちょっと上で食事でも』とごちそうになり、『何か買わないと悪いな』という思いから、そのまま下のショップで買い物……という流れになることもあるのだとか。
◆実物を見ずに、数千万円の買い物をする
ショップで買い物というのは分かるが、家で営業を受けると、外商もすべての商品を持ち歩いているわけではないはずなので、実物を見ずに買うことになりそうだ。
「超富裕層は実物を見ずに買うことが多いですね。パンフレットを見たり話を聞いたりしただけで、数百万円や数千万円が動くことはザラです。『自分で使うもの以外は特にこだわらない。ハイブランドなら、とりあえず買ってみる』というわけですね。
品質はしっかりしているので、買ってみて『裏切られた!』という声は聞いたことがありません。逆に自分で使うものにはこだわって、ブランドにとらわれずにものを選ぶ方が多いです」
ハイブランドといえば、筆者(綾部まと)はジュエリーを思い浮かべるが、「アパレルブランドでもこのような接待は多い」と新井さんは話す。
しかし、何でも好きに買えることには、デメリットもあるのだとか。
◆物が増えすぎて「トランクルームを8個借りている人も」
私たち庶民は1年に一度、年末に大掃除をするが、超富裕層はもっとペースが早いという。
「彼らは半年に1回か、早ければ3ヶ月に1回の時もあります。我々執事が整理整頓を任されることが多いのですが、不用品といえど高級品なので、簡単には捨てられず、誰かにあげたり、下取りに出したり、なかなか骨が折れます。
特に大変なのは、捨てられないタイプの方ですね。過去にトランクルームを8個借りていた方もいらっしゃいました。どんどん物が増えていって、管理費が膨れ上がるばかりでした」
“超一流は物を大事にする”というような言葉も聞いたことがあるが、実際はどうなのだろうか?
「2代目、3代目などの“親リッチ”は物を大事にする、質実剛健な傾向があります。逆に一代で財を築いた方の中には、物を大事にすることに意識がいかない方も多くいらっしゃいます。急にお金持ちになると、欲望の塊になってしまうみたいで……。仕事を頑張った反動で、“自分へのご褒美”に買いすぎてしまうのでしょうね」
◆「カルピスを2時間以内に500本用意してくれ」
超富裕層ならではの「買いすぎ」エピソードは、他にもあるそうだ。
「日本に来られたヨーロッパの方が『こんなに甘酸っぱい飲み物は本国にはない!』と、カルピスウォーターにひどく感動したんです。そこで『カルピスウォーターを出発までの2時間以内に500本用意してくれ』と仰り、私たちは必死になって街中で買い占めました」
そんなにたくさん積んでしまうと、飛行機の荷物検査で引っかかりはしないのだろうか。
「彼らは民間航空機ではなくて、プライベートジェットを使います。プライベートジェットだとテロが起こるリスクが少ないため、荷物のチェックがそこまで厳重ではないんです」
◆プライベートジェットを使うのは「民間航空機のハイジャックや襲われるのを防ぐため」
ちなみに「彼らがプライベートジェットを好む理由は、他にもあります」と新井さんは続ける。
「一つ目はビジネスの関係です。超富裕層の世界では『交渉は時間を切られた方が負け』と言われています。動く金額がとてつもないので、彼らは交渉にものすごく神経を使うんです。民間航空機だと飛行機の時間を気にしなくてはなりませんが、プライベートジェットならいくらでも変更できます。
二つ目はペットを連れて行けることです。一部の航空会社を除いて、ペットは貨物になってしまいますが、プライベートジェットなら犬や猫と客室で一緒に移動できます」
ただし、プライベートジェットを使う理由は、前向きなものばかりではないという。
「世界の大富豪やVIPとなると、搭乗している飛行機を知られることがリスクになるんです。民間航空機だとハイジャックやテロにあうかもしれないし、空港で待ち伏せされて襲われるかもしれません。
超富裕層は、生きているだけで恨みを買っています。上場企業の経営者なら、社員の家族から『心を病んで退職させられた。社長を許さない!』という怒りを、知らないところで買っているかもしれません。そんななかでプライベートジェットなら、身の安全を確保できるというわけです」
——好きなものを好きなだけ買える超富裕層だが、整理整頓だけでなくリスク管理も大変そうだ。どの層にも、相応の悩みがあるのかもしれない。
<取材・文/綾部まと>
【綾部まと】
ライター、作家。主に金融や恋愛について執筆。メガバンク法人営業・経済メディアで働いた経験から、金融女子の観点で記事を寄稿。趣味はサウナ。X(旧Twitter):@yel_ranunculus、note:@happymother
―[超富裕層の生活]―
超富裕層たちは、閉塞感の漂う今の世の中とは無縁の、驚くべき生活を送っているという……。彼らは日々どんな暮らしをして、何に悩んでいるのか。
お金があるぶん、好きなものを好きなだけ買える超富裕層だが、ハイブランドの商品を実物を見ないまま数百万円や数千万円も購入したり、ついつい買いすぎてトランクルームを8個も借りたり……。
今回は、そんな彼らの買い物事情について、国内外の超富裕層向けに執事やメイドのサービスを提供する、日本バトラー&コンシェルジュ株式会社 代表取締役社長の新井直之さんに話を聞いた。
◆ブランドものは「買ってから誰にあげるか考える」
私たち庶民にとってブランドものは、記念日やクリスマスなどの特別な日に買うものだ。緊張しながら、慣れないブランドショップへ足を踏み入れた人もいるだろう。
しかし超富裕層はブランドものに対して、全く違う接し方をしているそうだ。
「超富裕層は店舗に出向かなくても、ハイブランドのショップの方から家に来ます。たとえば、某高級ジュエリーブランドなら『新作のネックレスがございます』という案内をするために、訪問営業をしに来るわけです。そこで必要性を感じなくても、『確か、うちの新井君が仕事を頑張ってくれてるから、これをプレゼントするか!』といって購入するシーンも何度か見てきました。
そもそも彼らは『特別な日にブランドものを買う』という発想をしません。私たち庶民と逆の発想なんですね。先に物があって、次に誰にあげるかを考えるんです」
あげる相手は社員や家族など、人間関係を円滑にしてくれたり、ビジネスの上で有利になったりする人たちが対象になるのだという。もらう側は、なんとも羨ましい話である。
◆「ハイブランドの外商」が自宅まで訪問営業に来る
ともあれ、百貨店の外商については聞いたことがあるが、一般庶民からすると“ハイブランドの外商”なんて縁がないはずだ。
「ハイブランドの外商たちはアポイントを取って来ることもありますけど、急に『今から行ってもいいですか?』と、飛び込みで来る場合もあります。超富裕層たちも『わざわざ来てもらったと思うと、つい買っちゃうんだよね』と苦笑いされていますね」
家に来てもらえたとしても、高価な物を売りつけられて、うんざりしそうだが……。
「外商たちは物を売るだけじゃなくて、接待もしてくれるんです。たとえば、歌舞伎の好きな超富裕層には『歌舞伎座のチケットが入りました! 一緒に観に行きませんか?』と誘ってくれたりします。
また、接待は家の外にも及びます。ハイブランドのショップは一等地にあることが多いので、外出のついでに超富裕層が立ち寄ることもあるんです。そこで『お茶でも飲んで行きませんか?』と、奥の個室に案内してもらえます。“サロン”と呼ばれるその部屋には、シガーやお酒が置いてあることもあり、ゆったりとくつろぐことができます」
他にもレストランを併設している某高級装飾品ブランドでは、『ちょっと上で食事でも』とごちそうになり、『何か買わないと悪いな』という思いから、そのまま下のショップで買い物……という流れになることもあるのだとか。
◆実物を見ずに、数千万円の買い物をする
ショップで買い物というのは分かるが、家で営業を受けると、外商もすべての商品を持ち歩いているわけではないはずなので、実物を見ずに買うことになりそうだ。
「超富裕層は実物を見ずに買うことが多いですね。パンフレットを見たり話を聞いたりしただけで、数百万円や数千万円が動くことはザラです。『自分で使うもの以外は特にこだわらない。ハイブランドなら、とりあえず買ってみる』というわけですね。
品質はしっかりしているので、買ってみて『裏切られた!』という声は聞いたことがありません。逆に自分で使うものにはこだわって、ブランドにとらわれずにものを選ぶ方が多いです」
ハイブランドといえば、筆者(綾部まと)はジュエリーを思い浮かべるが、「アパレルブランドでもこのような接待は多い」と新井さんは話す。
しかし、何でも好きに買えることには、デメリットもあるのだとか。
◆物が増えすぎて「トランクルームを8個借りている人も」
私たち庶民は1年に一度、年末に大掃除をするが、超富裕層はもっとペースが早いという。
「彼らは半年に1回か、早ければ3ヶ月に1回の時もあります。我々執事が整理整頓を任されることが多いのですが、不用品といえど高級品なので、簡単には捨てられず、誰かにあげたり、下取りに出したり、なかなか骨が折れます。
特に大変なのは、捨てられないタイプの方ですね。過去にトランクルームを8個借りていた方もいらっしゃいました。どんどん物が増えていって、管理費が膨れ上がるばかりでした」
“超一流は物を大事にする”というような言葉も聞いたことがあるが、実際はどうなのだろうか?
「2代目、3代目などの“親リッチ”は物を大事にする、質実剛健な傾向があります。逆に一代で財を築いた方の中には、物を大事にすることに意識がいかない方も多くいらっしゃいます。急にお金持ちになると、欲望の塊になってしまうみたいで……。仕事を頑張った反動で、“自分へのご褒美”に買いすぎてしまうのでしょうね」
◆「カルピスを2時間以内に500本用意してくれ」
超富裕層ならではの「買いすぎ」エピソードは、他にもあるそうだ。
「日本に来られたヨーロッパの方が『こんなに甘酸っぱい飲み物は本国にはない!』と、カルピスウォーターにひどく感動したんです。そこで『カルピスウォーターを出発までの2時間以内に500本用意してくれ』と仰り、私たちは必死になって街中で買い占めました」
そんなにたくさん積んでしまうと、飛行機の荷物検査で引っかかりはしないのだろうか。
「彼らは民間航空機ではなくて、プライベートジェットを使います。プライベートジェットだとテロが起こるリスクが少ないため、荷物のチェックがそこまで厳重ではないんです」
◆プライベートジェットを使うのは「民間航空機のハイジャックや襲われるのを防ぐため」
ちなみに「彼らがプライベートジェットを好む理由は、他にもあります」と新井さんは続ける。
「一つ目はビジネスの関係です。超富裕層の世界では『交渉は時間を切られた方が負け』と言われています。動く金額がとてつもないので、彼らは交渉にものすごく神経を使うんです。民間航空機だと飛行機の時間を気にしなくてはなりませんが、プライベートジェットならいくらでも変更できます。
二つ目はペットを連れて行けることです。一部の航空会社を除いて、ペットは貨物になってしまいますが、プライベートジェットなら犬や猫と客室で一緒に移動できます」
ただし、プライベートジェットを使う理由は、前向きなものばかりではないという。
「世界の大富豪やVIPとなると、搭乗している飛行機を知られることがリスクになるんです。民間航空機だとハイジャックやテロにあうかもしれないし、空港で待ち伏せされて襲われるかもしれません。
超富裕層は、生きているだけで恨みを買っています。上場企業の経営者なら、社員の家族から『心を病んで退職させられた。社長を許さない!』という怒りを、知らないところで買っているかもしれません。そんななかでプライベートジェットなら、身の安全を確保できるというわけです」
——好きなものを好きなだけ買える超富裕層だが、整理整頓だけでなくリスク管理も大変そうだ。どの層にも、相応の悩みがあるのかもしれない。
<取材・文/綾部まと>
【綾部まと】
ライター、作家。主に金融や恋愛について執筆。メガバンク法人営業・経済メディアで働いた経験から、金融女子の観点で記事を寄稿。趣味はサウナ。X(旧Twitter):@yel_ranunculus、note:@happymother
―[超富裕層の生活]―