皆さん、こんにちは。メンタルトレーナーの三凛さとしです。私は20代の頃、借金苦と 人生の挫折からメンタルトレーニングの重要性を学びました。その後、ビジネスに成功し、30代で一度FIREを達成。その体験などをもとに「人生を好転させるヒント」をSNSで発信しています。
日刊SPA!では「ストレスなく生きていくための方法」をお伝えできればと思っております。連載第5回となる今回は「FIRE生活をやめた理由」と「復帰できた理由」について、お話していきます。
◆30代にして手に入れた「FIRE生活」をやめた理由
2017年、私は一度FIRE(経済的自立と早期リタイア)を達成しました。正直、FIRE直後に感じたのは「もうこれからは目標に向かって頑張らなくてもいいんだ」という安堵感です。あとは、お金の心配をすることなく、世界中を旅する悠々自適な生活へと突入しようというワクワク感にあふれていました。
しかし、FIREを達成した、たった1年後の2018年4月。私は再び仕事を始めるようになっていました。「なんでせっかくFIREしたのに、また仕事を始めたのか」。多くの人にそう質問されましたが、そこにはいくつかの理由がありました。
◆“感動”や“喜び”が薄れていく感覚に…
FIRE突入後、まずショックだったのは、感動や喜びに対する感度が急速に鈍くなってしまったことです。たとえば、お金がなかった20代、初めてアメリカに行ったときの感動は今でも鮮明に覚えています。「自分が知らない世界がこんなに広がっているのか。これから自分もこの世界で頑張って一旗挙げてやる」という期待感もあったし、初めて出会うバックグラウンドの違う人たちとの交流は本当に楽しいものでした。
海外旅行は自分の中で大好きなもののひとつだったので、FIREを達成した直後、ラオスやベトナムといった東南アジアから、オランダ、フランスなどの欧州まで、以前から「行きたい」と思っていた場所に次々と足を運びました。最初は楽しかったものの、次第に感じるようになったのが「どこか満たされない感覚」です。
以前は旅先で新しい世界にいる異なる文化や人々との出会いに心が躍ったのに、その感覚を味わえない。「ここに来たら感動するはずだ」と思っていた場所に行っても、「あれ、こんなものかぁ」と感じてしまう。旅を重ねていくなかで、「忙しい日常があったからこそ、旅という非日常が楽しめたのだ」と痛感するようになったのです。
◆「刺激がないFIRE生活」の虚無感
また、FIRE後の日常生活では、「目標」を持てなかったのも、大きな理由でした。思い返すと、FIREという目的に対して、たくさんの試行錯誤がありました。もともとスポーツマン気質な私は、目的に向かって進んでいくことが好きなタイプです。失敗しては学び、また挑戦する。大変なこともありましたが、それすらも楽しみながら挑戦を続けていました。
さらに、自分が成長している実感があったため、辛いことや大変なことがあっても、前向きに頑張れたのだと思います。でも、FIRE後には「頑張るきっかけ」がなくなったことで、喪失感が生まれてしまったのかもしれません。
以前から、「定年退職した人が急にボケてしまう」という話はよく聞きますが、私自身はこの話には納得感しかありません。お金も時間もあるから、旅行に行ったり、おいしいものを食べたり、自分を楽しませたりすることはできる。でも、それだけだと、どこか物足りない。そんな空虚な日々を送るようになりました。
◆ビジネスは「人に感謝される絶好の機会」
もうひとつ、FIRE後に強く感じたことがあります。それは、「感謝される機会が減ると、人生はつまらない」ということです。ビジネスをしているときは、自分の提供する価値をお客様に感じてもらえる場面がたくさんありました。たとえば、自分が提供する何かのサービスやコンテンツが「よかった」「役に立つ」と思ってもらえたら、お金という対価が発生します。単なる取引以上に、ビジネスで対価を得ることは、自分が社会で役立っている証明でもあったのだと気が付きました。
でも、FIRE後は仕事がなくなるので、必然的に「社会とのつながり」が薄れていきます。「お金を稼がなくてもいい」という状態でいられることは、ひとつ幸せなことかもしれませんが、その分、誰かに感謝される場面も減ってしまうでしょう。その結果、どこか退屈さを感じるようになったのです。
◆「お金がある=幸せ」ではない
FIREした後、海外の富豪たちのセミナーに参加したことがあります。講師たちは、50億円、100億円という資産を持つお金持ちたちばかり。正直、大富豪なので、新たにお金を稼ぐ必要はまったくありません。
しかし、彼らの多くは純粋に「自分の知見が他人のためになれば」「人前で話すのが好きだから」「教えるのが楽しいから」という理由で講演活動を行っている。経済的には「もう十分だ」と感じつつ、自分の好きなこと、すなわち周囲を喜ばせる行為を続けるその姿を見て、「人間って、ただお金があれば幸せになれるわけじゃないんだな」と感じました。
◆自分が動かざるを得ない環境を作って、脱FIREを実現
自分のためだけに生きる日々はつまらない。そう感じたとき、頭をよぎったのが「このままでいいのか?」という焦燥感です。「いま、始めないともう自分は歩みを止めてしまうのではないか。何か始めるならいましかない」と思った私は、その日から新たに仕事を始めようと決意しました。
具体的にやったのは、オンラインや対面でもコーチングを復活させること。以前は、コーチングで培った知見をオンラインコンテンツ化することで収益を得ていたのですが、自分自身が直接コーチングするプランを作ることで、「強制的に自分が動かなければならない環境」を作り上げました。
久しぶりにリアルの現場でお客さんたちに会うと、感謝もされるし、いろんな反応も返ってくる。その日々は、FIREしていた時代よりも、びっくりするほど張り合いがあるものでした。
◆「もう二度と止まらない」と決めた
再びビジネスを始めて間もないとき、ひとつ忘れられない出来事がありました。それは、同じくFIREした40代半ばの知人男性との会話です。彼は日本で2つの会社を売却し、金銭的には寝ていても生きていけるくらいの資産を手にしています。ときには日々に刺激を求めて、海外の僻地を旅もしていますが、「どこか心が満たされない」のだと言います。 私が再びビジネスを始めたことを告げると、彼はこう言いました。
「いや、それは楽しそうだね。最近は人に会うと『何か面白いことない?』って聞くのが習慣になっちゃったよ。でも、俺はもうアクセルを踏むきっかけがなくなっちゃったからさ……」
おそらく彼も、何かに熱中し、真剣に取り組める目標を探しているのだと思います。でも、再びアクセルを踏む気力が湧かないし、一歩踏み出すのはもう怖い。だから、刺激がなくとも、ぬるま湯のようなFIRE生活をずるずると続けてしまう。そんなFIRE達成者は 案外多いのではないかと思います。
その友人の言葉を聞いて、私が決めたのは「もう二度と完全に止まらない。今後は、どれだけ稼いでも、ずっと自分がやりたいことをし続ける」ということでした。お金を稼ぐ必要があるかどうかに関係なく、好きな仕事に向かって働き続けることが、自分にとっては自然だし、やりがいがあるのだと強く感じたからです。
◆FIREは「結婚に似ている」と感じたワケ
いま、自身のFIREを振り返ってみて思うのは、「FIREは結婚に似ているな」ということ。結婚することを“ゴールイン”と表現されることがありますが、むしろ「スタートラインに立った」とも考えられますよね。FIREを目指している方は「FIREを達成すればすべてが楽になる」と考えがちですが、実際はそうではありません。達成後にも自分なりの目標ややりがいを見つけ、それを続ける努力が必要になるわけです。
◆FIRE達成は新たな人生の始まり
FIREをめざすのは、決して悪いことではないと私は思います。一つの目的に対して頑張 る経験はとにかく刺激的で楽しいし、仮に達成できた場合は、少なくとも経済的な不自由からは解放されるわけで、人生の悩みがひとつ減ることは間違いありません。
しかし、FIREを達成しても、それは終わりではない。あくまで、新しいステージの始まりです。そこから先の人生をどう作り上げていくかが、本当の意味での「人生での成功」を左右するのだと思います。
文/三凛さとし
【三凛さとし】
富とお金のメンタルトレーナー。ニューヨーク州立大学卒業後、借金苦と人生の挫折からメンタルトレーニングの重要性を学び、不動産ビジネスで成功。その成功体験をもとに、人生を好転させるヒントをSNSで発信。YouTube、X、Instagramなどで合計45万人以上のフォロワーを獲得し、初書籍「親子の法則」の発行部数は6万部を記録。自身が開発したコーチングプログラムは約10年でのべ20万人以上が参加。
日刊SPA!では「ストレスなく生きていくための方法」をお伝えできればと思っております。連載第5回となる今回は「FIRE生活をやめた理由」と「復帰できた理由」について、お話していきます。
◆30代にして手に入れた「FIRE生活」をやめた理由
2017年、私は一度FIRE(経済的自立と早期リタイア)を達成しました。正直、FIRE直後に感じたのは「もうこれからは目標に向かって頑張らなくてもいいんだ」という安堵感です。あとは、お金の心配をすることなく、世界中を旅する悠々自適な生活へと突入しようというワクワク感にあふれていました。
しかし、FIREを達成した、たった1年後の2018年4月。私は再び仕事を始めるようになっていました。「なんでせっかくFIREしたのに、また仕事を始めたのか」。多くの人にそう質問されましたが、そこにはいくつかの理由がありました。
◆“感動”や“喜び”が薄れていく感覚に…
FIRE突入後、まずショックだったのは、感動や喜びに対する感度が急速に鈍くなってしまったことです。たとえば、お金がなかった20代、初めてアメリカに行ったときの感動は今でも鮮明に覚えています。「自分が知らない世界がこんなに広がっているのか。これから自分もこの世界で頑張って一旗挙げてやる」という期待感もあったし、初めて出会うバックグラウンドの違う人たちとの交流は本当に楽しいものでした。
海外旅行は自分の中で大好きなもののひとつだったので、FIREを達成した直後、ラオスやベトナムといった東南アジアから、オランダ、フランスなどの欧州まで、以前から「行きたい」と思っていた場所に次々と足を運びました。最初は楽しかったものの、次第に感じるようになったのが「どこか満たされない感覚」です。
以前は旅先で新しい世界にいる異なる文化や人々との出会いに心が躍ったのに、その感覚を味わえない。「ここに来たら感動するはずだ」と思っていた場所に行っても、「あれ、こんなものかぁ」と感じてしまう。旅を重ねていくなかで、「忙しい日常があったからこそ、旅という非日常が楽しめたのだ」と痛感するようになったのです。
◆「刺激がないFIRE生活」の虚無感
また、FIRE後の日常生活では、「目標」を持てなかったのも、大きな理由でした。思い返すと、FIREという目的に対して、たくさんの試行錯誤がありました。もともとスポーツマン気質な私は、目的に向かって進んでいくことが好きなタイプです。失敗しては学び、また挑戦する。大変なこともありましたが、それすらも楽しみながら挑戦を続けていました。
さらに、自分が成長している実感があったため、辛いことや大変なことがあっても、前向きに頑張れたのだと思います。でも、FIRE後には「頑張るきっかけ」がなくなったことで、喪失感が生まれてしまったのかもしれません。
以前から、「定年退職した人が急にボケてしまう」という話はよく聞きますが、私自身はこの話には納得感しかありません。お金も時間もあるから、旅行に行ったり、おいしいものを食べたり、自分を楽しませたりすることはできる。でも、それだけだと、どこか物足りない。そんな空虚な日々を送るようになりました。
◆ビジネスは「人に感謝される絶好の機会」
もうひとつ、FIRE後に強く感じたことがあります。それは、「感謝される機会が減ると、人生はつまらない」ということです。ビジネスをしているときは、自分の提供する価値をお客様に感じてもらえる場面がたくさんありました。たとえば、自分が提供する何かのサービスやコンテンツが「よかった」「役に立つ」と思ってもらえたら、お金という対価が発生します。単なる取引以上に、ビジネスで対価を得ることは、自分が社会で役立っている証明でもあったのだと気が付きました。
でも、FIRE後は仕事がなくなるので、必然的に「社会とのつながり」が薄れていきます。「お金を稼がなくてもいい」という状態でいられることは、ひとつ幸せなことかもしれませんが、その分、誰かに感謝される場面も減ってしまうでしょう。その結果、どこか退屈さを感じるようになったのです。
◆「お金がある=幸せ」ではない
FIREした後、海外の富豪たちのセミナーに参加したことがあります。講師たちは、50億円、100億円という資産を持つお金持ちたちばかり。正直、大富豪なので、新たにお金を稼ぐ必要はまったくありません。
しかし、彼らの多くは純粋に「自分の知見が他人のためになれば」「人前で話すのが好きだから」「教えるのが楽しいから」という理由で講演活動を行っている。経済的には「もう十分だ」と感じつつ、自分の好きなこと、すなわち周囲を喜ばせる行為を続けるその姿を見て、「人間って、ただお金があれば幸せになれるわけじゃないんだな」と感じました。
◆自分が動かざるを得ない環境を作って、脱FIREを実現
自分のためだけに生きる日々はつまらない。そう感じたとき、頭をよぎったのが「このままでいいのか?」という焦燥感です。「いま、始めないともう自分は歩みを止めてしまうのではないか。何か始めるならいましかない」と思った私は、その日から新たに仕事を始めようと決意しました。
具体的にやったのは、オンラインや対面でもコーチングを復活させること。以前は、コーチングで培った知見をオンラインコンテンツ化することで収益を得ていたのですが、自分自身が直接コーチングするプランを作ることで、「強制的に自分が動かなければならない環境」を作り上げました。
久しぶりにリアルの現場でお客さんたちに会うと、感謝もされるし、いろんな反応も返ってくる。その日々は、FIREしていた時代よりも、びっくりするほど張り合いがあるものでした。
◆「もう二度と止まらない」と決めた
再びビジネスを始めて間もないとき、ひとつ忘れられない出来事がありました。それは、同じくFIREした40代半ばの知人男性との会話です。彼は日本で2つの会社を売却し、金銭的には寝ていても生きていけるくらいの資産を手にしています。ときには日々に刺激を求めて、海外の僻地を旅もしていますが、「どこか心が満たされない」のだと言います。 私が再びビジネスを始めたことを告げると、彼はこう言いました。
「いや、それは楽しそうだね。最近は人に会うと『何か面白いことない?』って聞くのが習慣になっちゃったよ。でも、俺はもうアクセルを踏むきっかけがなくなっちゃったからさ……」
おそらく彼も、何かに熱中し、真剣に取り組める目標を探しているのだと思います。でも、再びアクセルを踏む気力が湧かないし、一歩踏み出すのはもう怖い。だから、刺激がなくとも、ぬるま湯のようなFIRE生活をずるずると続けてしまう。そんなFIRE達成者は 案外多いのではないかと思います。
その友人の言葉を聞いて、私が決めたのは「もう二度と完全に止まらない。今後は、どれだけ稼いでも、ずっと自分がやりたいことをし続ける」ということでした。お金を稼ぐ必要があるかどうかに関係なく、好きな仕事に向かって働き続けることが、自分にとっては自然だし、やりがいがあるのだと強く感じたからです。
◆FIREは「結婚に似ている」と感じたワケ
いま、自身のFIREを振り返ってみて思うのは、「FIREは結婚に似ているな」ということ。結婚することを“ゴールイン”と表現されることがありますが、むしろ「スタートラインに立った」とも考えられますよね。FIREを目指している方は「FIREを達成すればすべてが楽になる」と考えがちですが、実際はそうではありません。達成後にも自分なりの目標ややりがいを見つけ、それを続ける努力が必要になるわけです。
◆FIRE達成は新たな人生の始まり
FIREをめざすのは、決して悪いことではないと私は思います。一つの目的に対して頑張 る経験はとにかく刺激的で楽しいし、仮に達成できた場合は、少なくとも経済的な不自由からは解放されるわけで、人生の悩みがひとつ減ることは間違いありません。
しかし、FIREを達成しても、それは終わりではない。あくまで、新しいステージの始まりです。そこから先の人生をどう作り上げていくかが、本当の意味での「人生での成功」を左右するのだと思います。
文/三凛さとし
【三凛さとし】
富とお金のメンタルトレーナー。ニューヨーク州立大学卒業後、借金苦と人生の挫折からメンタルトレーニングの重要性を学び、不動産ビジネスで成功。その成功体験をもとに、人生を好転させるヒントをSNSで発信。YouTube、X、Instagramなどで合計45万人以上のフォロワーを獲得し、初書籍「親子の法則」の発行部数は6万部を記録。自身が開発したコーチングプログラムは約10年でのべ20万人以上が参加。