みなさんは今日、歯磨きをしましたか? 歯磨きをしないという患者さんは現在ほとんどいらっしゃいません。多くの人が朝晩の歯磨きをしています。
では、“歯間清掃”はしましたか?
令和4年の歯科疾患実態調査では、歯間ブラシやデンタルフロスを使って歯間清掃をしている人は全体で50.9%ではあったものの、男性ではほとんどの年代で50%以下でした。
◆“歯間清掃”をしていないなら「歯磨きをしていないのと同じ」
どんなに良い歯ブラシを使用したとしても、歯と歯の間の汚れをとることはできません。つまり、どれだけ頑張って歯磨きをしていても、歯と歯の間が磨けていないことから、歯の病気に罹るリスクを予防できているとは言えないのです。
デンタルフロスか歯間ブラシでしっかりと歯と歯の間の歯面についた汚れをとる必要があります。ここで気を付けてほしいことが2つあります。
◆①歯と歯の物詰まりをとるのが歯間清掃ではない
まず一つ目は、歯間清掃は、歯と歯の間の物詰まりを取るのが目的ではないということです。
ある患者さんは、歯間ブラシを使用されていましたが、歯と歯の間の歯面の汚れが落ちていませんでした。
ただ歯の間に入れて抜くだけでは、歯間ブラシを使っていないのと変わりません。歯間に入れたら両側の歯面をゴシゴシと擦ることで、歯にこびりついているプラーク(歯垢)が落ちます。
歯間ブラシのサイズは歯科医院で自分に合ったサイズを確認をするのが正解です。サイズが小さいとしっかりと汚れが落とせなかったり、サイズが大きいと歯茎を傷つけてしまうためです。
デンタルフロスの使い方も歯間ブラシと同様です。歯と歯の間に入れたら片側の歯の歯周ポケット(歯と歯茎の間の溝)に入れてゴシゴシしながら上に動かします。同じようにもう片側の歯面も磨きます。
デンタルフロスは使用法をしっかりとマスターしていれば、清掃効果が高いです。しかし、デンタルフロスを正しく使いこなすのはなかなか難しく、実際当院にいらっしゃる患者さんも使いこなすのに時間がかかります。特に歯と歯の間が広くなっている患者さんでは、フロスでのしっかりとした清掃が難しいです。
そのため歯間ブラシが入るのであれば歯間ブラシを使用した方が、より清掃しやすいという論文(※1)もあり、それは実際の臨床でも実感するところです。
デンタルフロスしか入らない場合は、歯科医院で使用法の確認をしてみてください。
(※1)参考文献(Kiger RD, Nylund K, Feller RP. A comparison of proximal plaque removal using floss and interdental brushes. J Clin Periodontol 1991 Oct;18(9):681-684.)( Kotsakis G, Lian Q, Ioannou A, Michalowicz B, John M, Chu H. A network meta-analysis of interproximal oral hygiene methods in the reduction of clinical indices of inflammation. J Periodontol 2018; 89:558-570.)
◆②歯間清掃は“歯磨きの前にする”のが今の常識
そして気をつけてほしいことの二つ目は、歯間清掃は“歯磨きの前にする”ということです。
歯磨きをする前に行うことでの利点は、3点あります。
まず、歯磨き前に歯間清掃をした方が後にするよりも清掃効果が高いという論文(※2)が出ており証明されているためです。
次に、歯磨き粉に含まれるフッ素などの薬効成分が歯間に届きやすくなるということも論文で証明されています。
たしかに、歯と歯の間のプラークがしっかりと落ちている状態の方が、歯磨き粉に含まれる薬効成分が行き渡る印象はありますよね。
最後に、うがいの回数が減ることで歯磨き粉に含まれるフッ素がお口の中に残りやすいことです。フッ素はむし歯予防に有効であるため歯に長く停滞させる必要があります。
歯磨きの後に歯間清掃をするとしたら、歯磨きをしてうがいをし、歯間清掃をしてまたうがいがしたくなりますよね。むし歯予防に有効なうがいの方法に“イエテボリ法”というものがあります。
これは、歯磨き粉のフッ素を歯に長く停滞させるために、歯磨き後のうがいは、1回だけで5秒のみにしましょう、という方法です。うがいをしすぎてしまうと、せっかく歯に作用しているフッ素が全て吐き出されてしまい、歯に長く停滞しません。1回のうがいでは気持ち悪いのであれば、最低でも2回ほどに留めておきましょう。
歯間清掃を歯磨き前にするのであれば、まだ歯磨き粉を使用する前なので、歯間清掃後たくさんお口をゆすいでから歯磨きをしてOKです。
歯磨き前に歯間清掃をするだけでこんなにも良いことがあるのです。
(※2)参考文献(Mazhari F, Boskabady M, Moeintaghavi A, Habibi A. The effect of toothbrushing and flossing sequence on interdental plaque reduction and fluoride retention: A randomized controlled clinical trial. J Periodontol. 2018 Jul;89(7):824-832. )
◆歯間ブラシやデンタルフロスはどんなものがオススメ?
前述したように歯間清掃のツールは歯科医院で相談をして教えてもらうのがオススメです。しかし色々なタイプが販売されている現在、どんなものを購入すべきかを迷われている患者さんも多くいらっしゃいます。
論文上での考えを述べるのであれば、デンタルフロスは柄がついているものと指巻タイプでは有意差を示した論文はあまりヒットしないものの、歯間ブラシでは柄が曲がっているものよりもストレートのものの方が清掃効果が高いという論文(※3)があります。
しかし、私はこうした論文にとらわれすぎず、自分が続けるのが困難ではないものを選ぶのがいちばん良いと思います。自分のお気に入りのもの、使いやすいものを長く使い、習慣化させることが重要です。
(※3)参考文献(Jordan RA,Hong HM,Lucaciu A,Zimmer S.(2013)「Efficacy of straight versus angled interdental brushes on interproximal tooth cleaning : a randomized controlled trial.」『International Journal of Dental Hygiene』2014 May;12(2):152-7 Prof.Kerstin Öhrn)
◆今日から歯間清掃を始めましょう
本来、朝晩の歯磨きの際に歯間清掃をするのが良いのですが、まずは夜寝る前の歯磨きから歯間清掃を始めてみてください。使い方や選んだツールに不安を感じたら、すぐに歯医者さんに相談をしましょう。
<文/野尻真里>
【野尻真里】
一般診療と訪問診療を行いながら、予防歯科の啓発・普及に取り組んでいる歯科医師です。「一生涯、生まれ持った自分の歯で健康にかつ笑顔で暮らせる社会の実現」を目標にメディアで発信をしています。X(旧Twitter):@nojirimari
では、“歯間清掃”はしましたか?
令和4年の歯科疾患実態調査では、歯間ブラシやデンタルフロスを使って歯間清掃をしている人は全体で50.9%ではあったものの、男性ではほとんどの年代で50%以下でした。
◆“歯間清掃”をしていないなら「歯磨きをしていないのと同じ」
どんなに良い歯ブラシを使用したとしても、歯と歯の間の汚れをとることはできません。つまり、どれだけ頑張って歯磨きをしていても、歯と歯の間が磨けていないことから、歯の病気に罹るリスクを予防できているとは言えないのです。
デンタルフロスか歯間ブラシでしっかりと歯と歯の間の歯面についた汚れをとる必要があります。ここで気を付けてほしいことが2つあります。
◆①歯と歯の物詰まりをとるのが歯間清掃ではない
まず一つ目は、歯間清掃は、歯と歯の間の物詰まりを取るのが目的ではないということです。
ある患者さんは、歯間ブラシを使用されていましたが、歯と歯の間の歯面の汚れが落ちていませんでした。
ただ歯の間に入れて抜くだけでは、歯間ブラシを使っていないのと変わりません。歯間に入れたら両側の歯面をゴシゴシと擦ることで、歯にこびりついているプラーク(歯垢)が落ちます。
歯間ブラシのサイズは歯科医院で自分に合ったサイズを確認をするのが正解です。サイズが小さいとしっかりと汚れが落とせなかったり、サイズが大きいと歯茎を傷つけてしまうためです。
デンタルフロスの使い方も歯間ブラシと同様です。歯と歯の間に入れたら片側の歯の歯周ポケット(歯と歯茎の間の溝)に入れてゴシゴシしながら上に動かします。同じようにもう片側の歯面も磨きます。
デンタルフロスは使用法をしっかりとマスターしていれば、清掃効果が高いです。しかし、デンタルフロスを正しく使いこなすのはなかなか難しく、実際当院にいらっしゃる患者さんも使いこなすのに時間がかかります。特に歯と歯の間が広くなっている患者さんでは、フロスでのしっかりとした清掃が難しいです。
そのため歯間ブラシが入るのであれば歯間ブラシを使用した方が、より清掃しやすいという論文(※1)もあり、それは実際の臨床でも実感するところです。
デンタルフロスしか入らない場合は、歯科医院で使用法の確認をしてみてください。
(※1)参考文献(Kiger RD, Nylund K, Feller RP. A comparison of proximal plaque removal using floss and interdental brushes. J Clin Periodontol 1991 Oct;18(9):681-684.)( Kotsakis G, Lian Q, Ioannou A, Michalowicz B, John M, Chu H. A network meta-analysis of interproximal oral hygiene methods in the reduction of clinical indices of inflammation. J Periodontol 2018; 89:558-570.)
◆②歯間清掃は“歯磨きの前にする”のが今の常識
そして気をつけてほしいことの二つ目は、歯間清掃は“歯磨きの前にする”ということです。
歯磨きをする前に行うことでの利点は、3点あります。
まず、歯磨き前に歯間清掃をした方が後にするよりも清掃効果が高いという論文(※2)が出ており証明されているためです。
次に、歯磨き粉に含まれるフッ素などの薬効成分が歯間に届きやすくなるということも論文で証明されています。
たしかに、歯と歯の間のプラークがしっかりと落ちている状態の方が、歯磨き粉に含まれる薬効成分が行き渡る印象はありますよね。
最後に、うがいの回数が減ることで歯磨き粉に含まれるフッ素がお口の中に残りやすいことです。フッ素はむし歯予防に有効であるため歯に長く停滞させる必要があります。
歯磨きの後に歯間清掃をするとしたら、歯磨きをしてうがいをし、歯間清掃をしてまたうがいがしたくなりますよね。むし歯予防に有効なうがいの方法に“イエテボリ法”というものがあります。
これは、歯磨き粉のフッ素を歯に長く停滞させるために、歯磨き後のうがいは、1回だけで5秒のみにしましょう、という方法です。うがいをしすぎてしまうと、せっかく歯に作用しているフッ素が全て吐き出されてしまい、歯に長く停滞しません。1回のうがいでは気持ち悪いのであれば、最低でも2回ほどに留めておきましょう。
歯間清掃を歯磨き前にするのであれば、まだ歯磨き粉を使用する前なので、歯間清掃後たくさんお口をゆすいでから歯磨きをしてOKです。
歯磨き前に歯間清掃をするだけでこんなにも良いことがあるのです。
(※2)参考文献(Mazhari F, Boskabady M, Moeintaghavi A, Habibi A. The effect of toothbrushing and flossing sequence on interdental plaque reduction and fluoride retention: A randomized controlled clinical trial. J Periodontol. 2018 Jul;89(7):824-832. )
◆歯間ブラシやデンタルフロスはどんなものがオススメ?
前述したように歯間清掃のツールは歯科医院で相談をして教えてもらうのがオススメです。しかし色々なタイプが販売されている現在、どんなものを購入すべきかを迷われている患者さんも多くいらっしゃいます。
論文上での考えを述べるのであれば、デンタルフロスは柄がついているものと指巻タイプでは有意差を示した論文はあまりヒットしないものの、歯間ブラシでは柄が曲がっているものよりもストレートのものの方が清掃効果が高いという論文(※3)があります。
しかし、私はこうした論文にとらわれすぎず、自分が続けるのが困難ではないものを選ぶのがいちばん良いと思います。自分のお気に入りのもの、使いやすいものを長く使い、習慣化させることが重要です。
(※3)参考文献(Jordan RA,Hong HM,Lucaciu A,Zimmer S.(2013)「Efficacy of straight versus angled interdental brushes on interproximal tooth cleaning : a randomized controlled trial.」『International Journal of Dental Hygiene』2014 May;12(2):152-7 Prof.Kerstin Öhrn)
◆今日から歯間清掃を始めましょう
本来、朝晩の歯磨きの際に歯間清掃をするのが良いのですが、まずは夜寝る前の歯磨きから歯間清掃を始めてみてください。使い方や選んだツールに不安を感じたら、すぐに歯医者さんに相談をしましょう。
<文/野尻真里>
【野尻真里】
一般診療と訪問診療を行いながら、予防歯科の啓発・普及に取り組んでいる歯科医師です。「一生涯、生まれ持った自分の歯で健康にかつ笑顔で暮らせる社会の実現」を目標にメディアで発信をしています。X(旧Twitter):@nojirimari