中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
月間の利用者数が5600万人のレシピ動画サービス「クラシル」を運営するdelyが12月19日に新規上場する見込みです。巣ごもり特需とインフレによる飲食費の高騰で自炊をする人は増加中。市場の変化を巧みにつかんで成長しています。
◆コロナ禍で売上高は4倍近く急増
delyの2025年3月期上半期の売上高は58億3600万円。今期は通期の売上高を125億6800万円と予想しています。90年代からレシピサービスを提供するクックパッドは、2024年12月期第3四半期累計の売上収益が44億6500万円。前期の通期売上収益は76億700万円でした。
今や売上規模においては、delyが上回っています。稼ぐ力も強く、営業利益率は21.7%で、クックパッドが14.6%。delyは国内有数のレシピサービス提供会社となりました。
業績が大きく変化したのが2021年3月期。売上高は前期の3.9倍となる52億8300万円に急拡大。黒字転換を果たしたうえに営業利益率は25%を超えました。
2016年2月にサービスを開始した「クラシル」は、2019年12月にアプリのダウンロード数が2000万に到達しました。2020年に入ると、新型コロナウイルス感染拡大の影響が深刻化。飲食店の利用が控えられ、自宅時間が急増します。「クラシル」は、このわずか1年で600万ダウンロードを上乗せしました。
緊急事態宣言後の2020年5月はアプリ内での検索数が前年比の200%に急増。ユーザーが積極的にサービスを利用している様子がわかります。
レシピ市場はコロナ収束後も追い風が吹いています。消費者の外食頻度が低下しているのです。
◆外食単価は2019年と比べて300円近く高い
リクルートのグルメ外食総研によると、2024年3月の外食実施率は首都圏、関西圏、東海圏の3圏域で70.2%。2019年3月は77.2%でした。7ポイントあまりも低下しています(グルメ外食総研「外食市場調査」)。
外食頻度は月4.00回で、2019年は4.35回でした。
日常を取り戻したことやインバウンド消費で外食の需要は回復していますが、日本に住む多くの人はかつてほど飲食店を利用していません。インフレによる価格の高騰やリモートワークが影響していると見られています。外食単価は2019年の2639円から2913円へと300円近く上昇しています。
2019年は2000万だった「クラシル」のダウンロード数は、今や4400万を超えるようになりました。「クラシル」は無料で使うことができますが、月額480円の有料会員になると限定人気レシピランキングの閲覧、お気に入り数の上限解除などの特典サービスを受けることができます。これが収益基盤の一つ。その他に広告収益、タイアップ広告などで稼ぐ仕組みです。
◆若者の認知率は「90%」
delyはLINEヤフーの連結子会社。ヤフーは2016年にベンチャーキャピタルを通して出資をしていましたが、2018年7月に追加で29.6%の株式を取得。議決権の所有割合は45.6%となりました。93億円あまりで買収しています。
delyは2017年10月期の売上高が3億円ほど。当時は30億円を超える営業損失を出していました。純資産額は20億円。ヤフーはその将来性を高く評価していたことがわかります。
今回の上場の想定売出価格は1170円。これを基に時価総額を算出すると483億円となります。LINEヤフーの上場前の保有比率は50.1%。この出資は成功と言えるのではないでしょうか。上場後も連結子会社という位置づけは変わらないとの方針を打ち出しています。
「クラシル」は20代から30代によく知られており、この世代の認知率は90%を超えています。「クラシル」のレシピは簡単なものが多い理由がここにあります。料理の初心者はクラシル、ある程度の知識やスキルを持っている人はクックパッドという使い分けが意識されるようになっているのです。
若年層はレシピ情報をSNSで取得する傾向が強く、InstagramやX、TikTok、YouTubeの運用に注力していた「クラシル」は、料理初心者を獲得する仕組みそのものが構築されつつあります。大学生の一人暮らしの割合は4~5割。そうした若年層との親和性が高いことは、サービスの強みの一つとなっていると言えるでしょう。
◆マーケティングにおける「長年の課題」を解決
delyはレシピサービスを提供しているだけではありません。
急成長しているサービスの一つが「クラシルリワード」。2022年7月から提供を開始したショッピングのサポートアプリです。スーパーなど小売店のチラシを2万店舗以上掲載。ユーザーは「チラシを見る」、「店舗を訪れる」、「買い物をする」などの行動を通して電子マネーなどに交換できるコインを集めることができます。いわゆる「ポイ活」促進サービスの一つです。「クラシルリワード」の2025年3月期第2四半期における月間アクティブユーザー数は188万を超えました。
このサービスはユーザーと広告の出稿をする企業双方にとってメリットが高いのが特徴。ユーザーは購入した商品のレシートをアプリ上にアップすることでコインが得られます。企業は販促の費用対効果を可視化することができるのです。
◆「3兆円を突破する市場」で存在感を示せるか
これまで、広告の出稿は購買に至るまでの明確な効果までが見えづらいという欠点がありました。
「クラシル」は小売業や食品メーカーなどとのタイアップコンテンツを数多く手がけてきました。しかし、どの程度クライアントの売上に貢献しているのかまではわかりません。
そこで、オフラインでの購買までを見える化するマーケティングツールとして開発したのが「クラシルリワード」です。
矢野経済研究所によると、2023年度の国内ポイントサービス市場規模は2.7兆円と巨大(「ポイントサービス市場に関する調査を実施(2024年)」)。2026年度には3兆円を突破する予想を出しています。
レシピやスマートキッチン家電などを含む、パーソナルミールソリューションの市場規模は2020年度の段階で390億円ほど。規模には圧倒的な差が生じています。
delyは2023年11月に人材採用の「クラシルジョブ」もスタートしていますが、ベンチャーらしい新事業への取り組みも成長する原動力の一つになっています。
<TEXT/不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
月間の利用者数が5600万人のレシピ動画サービス「クラシル」を運営するdelyが12月19日に新規上場する見込みです。巣ごもり特需とインフレによる飲食費の高騰で自炊をする人は増加中。市場の変化を巧みにつかんで成長しています。
◆コロナ禍で売上高は4倍近く急増
delyの2025年3月期上半期の売上高は58億3600万円。今期は通期の売上高を125億6800万円と予想しています。90年代からレシピサービスを提供するクックパッドは、2024年12月期第3四半期累計の売上収益が44億6500万円。前期の通期売上収益は76億700万円でした。
今や売上規模においては、delyが上回っています。稼ぐ力も強く、営業利益率は21.7%で、クックパッドが14.6%。delyは国内有数のレシピサービス提供会社となりました。
業績が大きく変化したのが2021年3月期。売上高は前期の3.9倍となる52億8300万円に急拡大。黒字転換を果たしたうえに営業利益率は25%を超えました。
2016年2月にサービスを開始した「クラシル」は、2019年12月にアプリのダウンロード数が2000万に到達しました。2020年に入ると、新型コロナウイルス感染拡大の影響が深刻化。飲食店の利用が控えられ、自宅時間が急増します。「クラシル」は、このわずか1年で600万ダウンロードを上乗せしました。
緊急事態宣言後の2020年5月はアプリ内での検索数が前年比の200%に急増。ユーザーが積極的にサービスを利用している様子がわかります。
レシピ市場はコロナ収束後も追い風が吹いています。消費者の外食頻度が低下しているのです。
◆外食単価は2019年と比べて300円近く高い
リクルートのグルメ外食総研によると、2024年3月の外食実施率は首都圏、関西圏、東海圏の3圏域で70.2%。2019年3月は77.2%でした。7ポイントあまりも低下しています(グルメ外食総研「外食市場調査」)。
外食頻度は月4.00回で、2019年は4.35回でした。
日常を取り戻したことやインバウンド消費で外食の需要は回復していますが、日本に住む多くの人はかつてほど飲食店を利用していません。インフレによる価格の高騰やリモートワークが影響していると見られています。外食単価は2019年の2639円から2913円へと300円近く上昇しています。
2019年は2000万だった「クラシル」のダウンロード数は、今や4400万を超えるようになりました。「クラシル」は無料で使うことができますが、月額480円の有料会員になると限定人気レシピランキングの閲覧、お気に入り数の上限解除などの特典サービスを受けることができます。これが収益基盤の一つ。その他に広告収益、タイアップ広告などで稼ぐ仕組みです。
◆若者の認知率は「90%」
delyはLINEヤフーの連結子会社。ヤフーは2016年にベンチャーキャピタルを通して出資をしていましたが、2018年7月に追加で29.6%の株式を取得。議決権の所有割合は45.6%となりました。93億円あまりで買収しています。
delyは2017年10月期の売上高が3億円ほど。当時は30億円を超える営業損失を出していました。純資産額は20億円。ヤフーはその将来性を高く評価していたことがわかります。
今回の上場の想定売出価格は1170円。これを基に時価総額を算出すると483億円となります。LINEヤフーの上場前の保有比率は50.1%。この出資は成功と言えるのではないでしょうか。上場後も連結子会社という位置づけは変わらないとの方針を打ち出しています。
「クラシル」は20代から30代によく知られており、この世代の認知率は90%を超えています。「クラシル」のレシピは簡単なものが多い理由がここにあります。料理の初心者はクラシル、ある程度の知識やスキルを持っている人はクックパッドという使い分けが意識されるようになっているのです。
若年層はレシピ情報をSNSで取得する傾向が強く、InstagramやX、TikTok、YouTubeの運用に注力していた「クラシル」は、料理初心者を獲得する仕組みそのものが構築されつつあります。大学生の一人暮らしの割合は4~5割。そうした若年層との親和性が高いことは、サービスの強みの一つとなっていると言えるでしょう。
◆マーケティングにおける「長年の課題」を解決
delyはレシピサービスを提供しているだけではありません。
急成長しているサービスの一つが「クラシルリワード」。2022年7月から提供を開始したショッピングのサポートアプリです。スーパーなど小売店のチラシを2万店舗以上掲載。ユーザーは「チラシを見る」、「店舗を訪れる」、「買い物をする」などの行動を通して電子マネーなどに交換できるコインを集めることができます。いわゆる「ポイ活」促進サービスの一つです。「クラシルリワード」の2025年3月期第2四半期における月間アクティブユーザー数は188万を超えました。
このサービスはユーザーと広告の出稿をする企業双方にとってメリットが高いのが特徴。ユーザーは購入した商品のレシートをアプリ上にアップすることでコインが得られます。企業は販促の費用対効果を可視化することができるのです。
◆「3兆円を突破する市場」で存在感を示せるか
これまで、広告の出稿は購買に至るまでの明確な効果までが見えづらいという欠点がありました。
「クラシル」は小売業や食品メーカーなどとのタイアップコンテンツを数多く手がけてきました。しかし、どの程度クライアントの売上に貢献しているのかまではわかりません。
そこで、オフラインでの購買までを見える化するマーケティングツールとして開発したのが「クラシルリワード」です。
矢野経済研究所によると、2023年度の国内ポイントサービス市場規模は2.7兆円と巨大(「ポイントサービス市場に関する調査を実施(2024年)」)。2026年度には3兆円を突破する予想を出しています。
レシピやスマートキッチン家電などを含む、パーソナルミールソリューションの市場規模は2020年度の段階で390億円ほど。規模には圧倒的な差が生じています。
delyは2023年11月に人材採用の「クラシルジョブ」もスタートしていますが、ベンチャーらしい新事業への取り組みも成長する原動力の一つになっています。
<TEXT/不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界