ドラマ『JIN-仁-』シリーズの坂本龍馬から、『きのう何食べた?』シリーズのケンジまで、全く異なるキャラクターを、それぞれその世界に生きる人物として説得力と魅力を与えてきた俳優・内野聖陽さん(56歳)。
現在は最新主演映画のクライムドラマ『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』が公開中。第一線で走り続ける内野さんに、チームワークの大切さや、後輩へのアドバイスなどを聞いた。
◆チームが一丸となっているときほど感動的な瞬間はない
――現在、主演映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』が公開中です。“スクワッド”は“一団”の意味ですが、内野さん自身、多くの現場でチーム作業の大切さを感じてきたのではないでしょうか。
内野聖陽(以下、内野):映画でもテレビでも舞台でも、まず大事なのがチームワークですね。チームの誰かしらが怠けていては崩れますし、逆にチームが一丸となっているときほど感動的な瞬間はありません。たとえば、いま僕はひとり芝居(『芭蕉通夜舟』)をやっていますが裏方スタッフの働きの凄さを見せてあげたいくらいです。その作品に向けて、自分の持ち場を全うしようという、細やかな心遣いや熟練の迅速さや阿吽の呼吸でやっている姿は、端から見ていても、また当事者として入っていても、チームワークというものの美しさを常に感じますね。
◆失敗の中から、本当の血肉ができていく
――俳優業にフォーカスすると、“後輩”や“先輩”といった存在には、いま現在どんな思いがありますか?
内野:後輩といっても幅広いのですが、10代後半から20代くらいの若い子たちは、やはりこれからのエンタメ業界を背負っていく存在ですからね。10年後、20年後には彼らが主役として立っているのだろうと感じながら見ています。そして「たくさん失敗や痛い思いをしろよ」と思っています。
――内野さん自身も失敗をしてきたのでしょうか。
内野:当然です。失敗の中から、本当の血肉ができていくと思っています。若い子たちには、当然「お前、まだ何も知らないんだな」と思う部分もありますが、だからこそ「たくさん失敗しろよ」と。失敗も挑戦心がないとできません。どんどん果敢にチャレンジして、自分にとって良きものを探していって欲しいと感じます。
――先輩に対してはどんな思いがありますか?
内野:戦ってきた背中というものを感じますね。そこをたくさん想像するし、その背中を見て自分ももっと頑張ろうと励まされます。弱音を吐けないなと思います。
◆監督と完成させていった脚本は14稿に
――『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』では、真面目な税務署職員の熊沢二郎が、詐欺師と手を組んで、10億円を脱税している権力者に挑んでいきます。オファーを受ける際、「撮影前にがっつりコミュニケーションが取れるなら」とお話されたとか。
内野:上田慎一郎監督(『カメラを止めるな!』)は、打ち合わせやリハーサルをしっかりやられてから撮る方だと聞きました。今回もそうした時間が持てるかどうか、不安を抱えてらっしゃったようでしたし、僕もやりたいのならやったほうがいいと思うタイプなので「それはやったほうがいい。上田くんがやりたいように」と伝えました。僕が演じた熊沢というキャラクターに関する話から始まって、岡田(将生)くんともセッションしたりしながら作っていきました。
――最初の台本に、内野さんがたくさん付箋を貼られていたと。
内野:この作品は、韓国のテレビドラマが原作なんですけど、もともと16話あったものを、ひとつの映画にしていく必要があったので、大変な作業だったんです。最初のお客さんとして、純粋に台本を読んで浮かんだ疑問をひとつひとつぶつけていきました。改稿されていくたび、どんどん物語の精度が上がっていきました。ほかの作品でも、台本は何稿も重ねられるものですが、これほど話した内容以上のものに磨きをかけ、削ぎ落としたりしてくる人は見たことはありませんでした。結局、14稿まで行ったのかな?
――すごいですね。撮影前の打ち合わせの場には、タッグを組むことになる詐欺師・氷室マコト役の岡田さんも参加されてたんですね。
内野:岡田くんが参加したときも何回かありました。そこで上田さんと「このセリフはああだ、こうだ」と修正していきました。
◆ラスボスを演じた小澤征悦さんの芝居に「あっぱれ!」
――ラスボスと言うべき権力者の橘を演じた、小澤征悦さんとの対決に変化が見えていくのも面白かったです。
内野:この映画の一番の大黒柱は、実は僕が演じた熊沢ではなくて橘だと思っています。嘘をどれだけリアルに持っていくか考えたときに、巨悪がいないと成立しませんからね。僕は小澤さんとは何度か共演していますし、ビシっと決めるところを決めてくれる方なので、橘を小澤さんがやってくれて良かったなと。たとえば僕が小澤さんから頭にワインをかけられるシーンがあるんですけど、そこも本当に上手にかけてくださいました(笑)。
――上手に(笑)。
内野:スタッフさんが事前にカメラテストでやってくれたりしていましたが、小澤さんが本当に上手に計算しながらかけてくれて。本番で「OK!」となったとき、僕より小澤さんのガッツポーズのほうがデカかったですからね(笑)。小澤さんのことを、僕は征悦の“征”から、“せいちゃん”って呼んでるんですけど、思わず「せいちゃん、ナイスだったね!」と伝えました。最後の対決のシーンもね、オチは言えませんけど、小澤さんの表情がとってもいい! 「あっぱれ!」と思いました。
◆完璧に見えるが焦ったビリヤードシーン
――詐欺の仕掛けにまつわるシーンでは、内野さんはビリヤードのシーンが大変だったかと思いますが、とてもステキでした。
内野:勉強したもん。何度も何度もビリヤード場に行って。劇中の熊沢と同じです。「下手な役なんだから、これくらいでもういいでしょう!(笑)」と思ったんだけど、スーパーショットも出てくるので、上手くならないといけない。あそこの撮影は本当に大変で、テストまでは何度もショットが決まって、「俺、すごいじゃん!」と盛り上がっていたんですけど、本番になった途端に入らなくなっちゃったんです(苦笑)。撮影時間も深夜に渡り、プロデューサーさんたちも撮影隊を撤収させないとだからNGを重ねられない。
――内野さんでもそんなことがあるんですね。
内野:周りのいろんな圧を受けながら、それでも入らなくて。さっきまで入ってたじゃん!みたいな(笑)。結局、監督の一声。「ここカット割りで処理します」ってなっちゃって。「ちきしょう、俺の努力は!?」とシュンとなりましたけど…結局、成功したテイクがあったらしくて、それが使われていたようでホッとしましたが(笑)。
◆これは、演技を通じて人間回復していく物語
――まさにそのビリヤードのシーンから、物語はクライマックスへと進んでいきました。最後に、本作で大切にしたことを教えてください。
内野:僕のキャラクターに関する限りでお話すると、“怒り”という感情を忘れてしまった人物が、詐欺という演技をする中で、人間回復していく様を軸にしていきました。「生きるって面白いね」「演技するって楽しいね」と、次第に感情に、怒りに目覚めていく。公務員が詐欺で復讐しようとするなんて、はっきりいって荒唐無稽なわけです。そこのフィクションをどう乗り越え、ふり幅を付けていくかを常に考えていました。
――面白かったです。
内野:そのひと言は上田くんが喜びます! ゴールが見えなくて、心が折れそうなときもあったと思うんだけど、完走できたのは彼の熱意があったからだし、僕も「とことん付き合うよ!」という気持ちでした。現場に入ったときには、監督の一番の理解者は自分なんじゃないかというくらいのところまで来ていたから、観客の方が楽しんでくれたら、僕もそんな嬉しいことはないです。
<取材・文・撮影/望月ふみ>
【望月ふみ】
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi
現在は最新主演映画のクライムドラマ『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』が公開中。第一線で走り続ける内野さんに、チームワークの大切さや、後輩へのアドバイスなどを聞いた。
◆チームが一丸となっているときほど感動的な瞬間はない
――現在、主演映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』が公開中です。“スクワッド”は“一団”の意味ですが、内野さん自身、多くの現場でチーム作業の大切さを感じてきたのではないでしょうか。
内野聖陽(以下、内野):映画でもテレビでも舞台でも、まず大事なのがチームワークですね。チームの誰かしらが怠けていては崩れますし、逆にチームが一丸となっているときほど感動的な瞬間はありません。たとえば、いま僕はひとり芝居(『芭蕉通夜舟』)をやっていますが裏方スタッフの働きの凄さを見せてあげたいくらいです。その作品に向けて、自分の持ち場を全うしようという、細やかな心遣いや熟練の迅速さや阿吽の呼吸でやっている姿は、端から見ていても、また当事者として入っていても、チームワークというものの美しさを常に感じますね。
◆失敗の中から、本当の血肉ができていく
――俳優業にフォーカスすると、“後輩”や“先輩”といった存在には、いま現在どんな思いがありますか?
内野:後輩といっても幅広いのですが、10代後半から20代くらいの若い子たちは、やはりこれからのエンタメ業界を背負っていく存在ですからね。10年後、20年後には彼らが主役として立っているのだろうと感じながら見ています。そして「たくさん失敗や痛い思いをしろよ」と思っています。
――内野さん自身も失敗をしてきたのでしょうか。
内野:当然です。失敗の中から、本当の血肉ができていくと思っています。若い子たちには、当然「お前、まだ何も知らないんだな」と思う部分もありますが、だからこそ「たくさん失敗しろよ」と。失敗も挑戦心がないとできません。どんどん果敢にチャレンジして、自分にとって良きものを探していって欲しいと感じます。
――先輩に対してはどんな思いがありますか?
内野:戦ってきた背中というものを感じますね。そこをたくさん想像するし、その背中を見て自分ももっと頑張ろうと励まされます。弱音を吐けないなと思います。
◆監督と完成させていった脚本は14稿に
――『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』では、真面目な税務署職員の熊沢二郎が、詐欺師と手を組んで、10億円を脱税している権力者に挑んでいきます。オファーを受ける際、「撮影前にがっつりコミュニケーションが取れるなら」とお話されたとか。
内野:上田慎一郎監督(『カメラを止めるな!』)は、打ち合わせやリハーサルをしっかりやられてから撮る方だと聞きました。今回もそうした時間が持てるかどうか、不安を抱えてらっしゃったようでしたし、僕もやりたいのならやったほうがいいと思うタイプなので「それはやったほうがいい。上田くんがやりたいように」と伝えました。僕が演じた熊沢というキャラクターに関する話から始まって、岡田(将生)くんともセッションしたりしながら作っていきました。
――最初の台本に、内野さんがたくさん付箋を貼られていたと。
内野:この作品は、韓国のテレビドラマが原作なんですけど、もともと16話あったものを、ひとつの映画にしていく必要があったので、大変な作業だったんです。最初のお客さんとして、純粋に台本を読んで浮かんだ疑問をひとつひとつぶつけていきました。改稿されていくたび、どんどん物語の精度が上がっていきました。ほかの作品でも、台本は何稿も重ねられるものですが、これほど話した内容以上のものに磨きをかけ、削ぎ落としたりしてくる人は見たことはありませんでした。結局、14稿まで行ったのかな?
――すごいですね。撮影前の打ち合わせの場には、タッグを組むことになる詐欺師・氷室マコト役の岡田さんも参加されてたんですね。
内野:岡田くんが参加したときも何回かありました。そこで上田さんと「このセリフはああだ、こうだ」と修正していきました。
◆ラスボスを演じた小澤征悦さんの芝居に「あっぱれ!」
――ラスボスと言うべき権力者の橘を演じた、小澤征悦さんとの対決に変化が見えていくのも面白かったです。
内野:この映画の一番の大黒柱は、実は僕が演じた熊沢ではなくて橘だと思っています。嘘をどれだけリアルに持っていくか考えたときに、巨悪がいないと成立しませんからね。僕は小澤さんとは何度か共演していますし、ビシっと決めるところを決めてくれる方なので、橘を小澤さんがやってくれて良かったなと。たとえば僕が小澤さんから頭にワインをかけられるシーンがあるんですけど、そこも本当に上手にかけてくださいました(笑)。
――上手に(笑)。
内野:スタッフさんが事前にカメラテストでやってくれたりしていましたが、小澤さんが本当に上手に計算しながらかけてくれて。本番で「OK!」となったとき、僕より小澤さんのガッツポーズのほうがデカかったですからね(笑)。小澤さんのことを、僕は征悦の“征”から、“せいちゃん”って呼んでるんですけど、思わず「せいちゃん、ナイスだったね!」と伝えました。最後の対決のシーンもね、オチは言えませんけど、小澤さんの表情がとってもいい! 「あっぱれ!」と思いました。
◆完璧に見えるが焦ったビリヤードシーン
――詐欺の仕掛けにまつわるシーンでは、内野さんはビリヤードのシーンが大変だったかと思いますが、とてもステキでした。
内野:勉強したもん。何度も何度もビリヤード場に行って。劇中の熊沢と同じです。「下手な役なんだから、これくらいでもういいでしょう!(笑)」と思ったんだけど、スーパーショットも出てくるので、上手くならないといけない。あそこの撮影は本当に大変で、テストまでは何度もショットが決まって、「俺、すごいじゃん!」と盛り上がっていたんですけど、本番になった途端に入らなくなっちゃったんです(苦笑)。撮影時間も深夜に渡り、プロデューサーさんたちも撮影隊を撤収させないとだからNGを重ねられない。
――内野さんでもそんなことがあるんですね。
内野:周りのいろんな圧を受けながら、それでも入らなくて。さっきまで入ってたじゃん!みたいな(笑)。結局、監督の一声。「ここカット割りで処理します」ってなっちゃって。「ちきしょう、俺の努力は!?」とシュンとなりましたけど…結局、成功したテイクがあったらしくて、それが使われていたようでホッとしましたが(笑)。
◆これは、演技を通じて人間回復していく物語
――まさにそのビリヤードのシーンから、物語はクライマックスへと進んでいきました。最後に、本作で大切にしたことを教えてください。
内野:僕のキャラクターに関する限りでお話すると、“怒り”という感情を忘れてしまった人物が、詐欺という演技をする中で、人間回復していく様を軸にしていきました。「生きるって面白いね」「演技するって楽しいね」と、次第に感情に、怒りに目覚めていく。公務員が詐欺で復讐しようとするなんて、はっきりいって荒唐無稽なわけです。そこのフィクションをどう乗り越え、ふり幅を付けていくかを常に考えていました。
――面白かったです。
内野:そのひと言は上田くんが喜びます! ゴールが見えなくて、心が折れそうなときもあったと思うんだけど、完走できたのは彼の熱意があったからだし、僕も「とことん付き合うよ!」という気持ちでした。現場に入ったときには、監督の一番の理解者は自分なんじゃないかというくらいのところまで来ていたから、観客の方が楽しんでくれたら、僕もそんな嬉しいことはないです。
<取材・文・撮影/望月ふみ>
【望月ふみ】
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi