2024年、反響の大きかった記事からジャンル別にトップ10を発表。危険な運転は許さない「あおり運転」部門、仰天のエピソード第3位の記事はこちら!(集計期間は2024年1月~10月まで。初公開2024年5月17日 記事は取材時の状況、ご注意ください) * * *
ニュースなどで頻繁に取り上げられる「あおり運転」。被害者の精神的苦痛は深刻であり、トラウマにもなりかねない。
自動車損害保険を扱うチューリッヒ保険は、『2023年あおり運転実態調査』を実施。あおり運転をされたことがあるドライバーは53.5%であった。約半数のドライバーが被害経験を持っており、現在も社会問題となっている。
今回は、あおり運転に遭遇した2人のエピソードを紹介する。
◆ガラの悪い男たちに立ち向かっていく叔父
吉田美穂さん(仮名・30代)は、定年退職したばかりの叔父が運転する車に母親と同乗していた際にあおり運転に遭遇した。ショッピングセンターで買い物をし、帰る途中だったそうだ。
「田舎で街灯もなく、住宅がポツポツとあるような道を走っていたのですが、後ろから白いセダンが近づいてきたんです。かなりのスピードだったと思います」
叔父さんは左車線に入り、セダンを抜かせようとしたが、ピッタリと車の後ろに張りついたまま、車体を小刻みに左右に振ってきたという。そんな異常な行動が徐々にエスカレートしていった。
「何度も激しくクラクションを鳴らしてきました。私も母も驚きと恐怖で悲鳴を上げました。叔父さんは脂汗をにじませながら、なんとか冷静に運転していたのですが……」
そのとき、左前方にコンビニが見え、叔父は左折ランプを点灯させて駐車場に入った。すると、あおっていた白いセダンも駐車場についてきたという。
「叔父は『やれやれ、ちょっと行ってくる』と言い、車から降りました。同時に20代半ばくらいの男性が2人、白いセダンから降りてきたんです。ガラが悪く、まさにチンピラって感じですが、にやにやしながら叔父に近づいていきました」
◆叔父の正体に真っ青
吉田さんと母親は、車内で固まっていた。身の危険を感じたため、吉田さんは警察に連絡し、電話を切った瞬間がいちばん怖かったと振り返る。
「男性2人が叔父さんに話しかけてきました。ポケットに手を入れたままガサゴソと何かを取り出そうとしているので、すごく恐ろしかったですね。でも、叔父はまっすぐに彼らを凝視し、“現役のとき”さながらの声を出していました」
「私はつい先日まで警察署に勤めていたんだが、何か君たちにあおられるようなことしたのかな?」
この言葉でその場の空気が一変。暗がりでも男性2人の顔色が真っ青になったのがわかったという。1人はひどく狼狽し、「そんなのハッタリだ!」と唾を飛ばしながら叫んでいたようだ。そのとき、パトカーのサイレンの音が聞こえた。
「パトカーが近づいてきて駐車場に入りました。そして、叔父の元部下の人たちが出てきたんです。『遅くなりました。刑事、ご無事ですか?』。その一言ですべてが終わりました」
吉田さんは警察に連絡したときに、場所や状況とともに“叔父の前職”を伝えていたとのこと。男性2人はその場でさまざまな質問をされ、最終的に警察へ連れて行かれた。
◆信号待ちでスマホのカメラを起動
保育園のお迎えのために車を走らせていた田中陽介さん(仮名・30代)。トラックにあおり運転をされた際のエピソードを教えてくれた。
「私がスピードを上げてもずっと張りついてきたんです。振り切ってやろうとスピードを出すと距離をとれたのですが、あいにく赤信号につかまってしまいました」
そのとき、田中さんはYouTubeで見た「あおり運転の対処法」を思い出したという。
「ドライバーや車のナンバーの撮影をすることでした。信号待ちの間に窓から携帯を出して、カメラを起動させたんです。運転手は、私の車に近づいたところで、撮影されていることに気づいたようでした」
運転手はクラクションを鳴らし、停止したトラックから降りようとする。田中さんは危険を感じ、信号が青になった瞬間に逃げるように車を走らせた。運転手も急いでトラックに乗り、再びクラクションを鳴らしながら追いかけてきたそうだ。
「保育園につながる細い道があるのですが、トラックは入れない狭さなのでその道に入りました」
安心したのもつかの間……。トラックはその細い道に突っ込んできたという。ただし、道の中までは進めず、運転手は鬼の形相で田中さんを睨みながらクラクションを鳴らし続けていた。田中さんはそのまま家に帰ったのだが……。
◆「動画を消せ」と言われたが…
「上司から電話があったんです。どのように特定したのかは分かりませんが、運転手から職場に連絡があったようで、運の悪いことに相手は取引先の人間でした。上司から『これから一緒に謝りに行こう』と言われたんですよね。もちろん、全力で断りました。でも、『謝ったほうがよいから』と聞く耳を持ちませんでした」
相手の家に着くと、「会社にいられないようにしてやろうか!」と、脅迫ともとれる罵詈雑言を田中さんに浴びせてきた。そして……。
「私に『動画を消せ』と迫ってきました。仕方なく動画を消し、それを確認した相手は、満足気でしたね。急に優しくなって、『気をつけような』なんて言ってきたんです」
しばらくして田中さんが帰ろうとしたとき、田中さんの携帯が鳴った。それは、田中さんの妻がお世話になっている自動車会社の社長からだったそうだ。電話に出ると……。
「社長は開口一番に『あおり運転されたらしいな。奥さんから聞いたぞ』。そして、『その地域の警察の副所長と仲良しだから、ややこしくなったら遠慮なく言えよ』という言葉が続きました。その会話が相手にも聞こえていたらしく、急にそわそわしはじめ、私から逃げるように家へ入っていきました」
田中さんはそもそも罵詈雑言を言われたときも腹は立っていなかったようだ。なぜなら、ボイスレコーダーにあおり運転の証拠を録音し、動画データもコピーして妻に渡していたという。
あおり運転をされてから数年経つが、その後は遭遇していないそうだ。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。
ニュースなどで頻繁に取り上げられる「あおり運転」。被害者の精神的苦痛は深刻であり、トラウマにもなりかねない。
自動車損害保険を扱うチューリッヒ保険は、『2023年あおり運転実態調査』を実施。あおり運転をされたことがあるドライバーは53.5%であった。約半数のドライバーが被害経験を持っており、現在も社会問題となっている。
今回は、あおり運転に遭遇した2人のエピソードを紹介する。
◆ガラの悪い男たちに立ち向かっていく叔父
吉田美穂さん(仮名・30代)は、定年退職したばかりの叔父が運転する車に母親と同乗していた際にあおり運転に遭遇した。ショッピングセンターで買い物をし、帰る途中だったそうだ。
「田舎で街灯もなく、住宅がポツポツとあるような道を走っていたのですが、後ろから白いセダンが近づいてきたんです。かなりのスピードだったと思います」
叔父さんは左車線に入り、セダンを抜かせようとしたが、ピッタリと車の後ろに張りついたまま、車体を小刻みに左右に振ってきたという。そんな異常な行動が徐々にエスカレートしていった。
「何度も激しくクラクションを鳴らしてきました。私も母も驚きと恐怖で悲鳴を上げました。叔父さんは脂汗をにじませながら、なんとか冷静に運転していたのですが……」
そのとき、左前方にコンビニが見え、叔父は左折ランプを点灯させて駐車場に入った。すると、あおっていた白いセダンも駐車場についてきたという。
「叔父は『やれやれ、ちょっと行ってくる』と言い、車から降りました。同時に20代半ばくらいの男性が2人、白いセダンから降りてきたんです。ガラが悪く、まさにチンピラって感じですが、にやにやしながら叔父に近づいていきました」
◆叔父の正体に真っ青
吉田さんと母親は、車内で固まっていた。身の危険を感じたため、吉田さんは警察に連絡し、電話を切った瞬間がいちばん怖かったと振り返る。
「男性2人が叔父さんに話しかけてきました。ポケットに手を入れたままガサゴソと何かを取り出そうとしているので、すごく恐ろしかったですね。でも、叔父はまっすぐに彼らを凝視し、“現役のとき”さながらの声を出していました」
「私はつい先日まで警察署に勤めていたんだが、何か君たちにあおられるようなことしたのかな?」
この言葉でその場の空気が一変。暗がりでも男性2人の顔色が真っ青になったのがわかったという。1人はひどく狼狽し、「そんなのハッタリだ!」と唾を飛ばしながら叫んでいたようだ。そのとき、パトカーのサイレンの音が聞こえた。
「パトカーが近づいてきて駐車場に入りました。そして、叔父の元部下の人たちが出てきたんです。『遅くなりました。刑事、ご無事ですか?』。その一言ですべてが終わりました」
吉田さんは警察に連絡したときに、場所や状況とともに“叔父の前職”を伝えていたとのこと。男性2人はその場でさまざまな質問をされ、最終的に警察へ連れて行かれた。
◆信号待ちでスマホのカメラを起動
保育園のお迎えのために車を走らせていた田中陽介さん(仮名・30代)。トラックにあおり運転をされた際のエピソードを教えてくれた。
「私がスピードを上げてもずっと張りついてきたんです。振り切ってやろうとスピードを出すと距離をとれたのですが、あいにく赤信号につかまってしまいました」
そのとき、田中さんはYouTubeで見た「あおり運転の対処法」を思い出したという。
「ドライバーや車のナンバーの撮影をすることでした。信号待ちの間に窓から携帯を出して、カメラを起動させたんです。運転手は、私の車に近づいたところで、撮影されていることに気づいたようでした」
運転手はクラクションを鳴らし、停止したトラックから降りようとする。田中さんは危険を感じ、信号が青になった瞬間に逃げるように車を走らせた。運転手も急いでトラックに乗り、再びクラクションを鳴らしながら追いかけてきたそうだ。
「保育園につながる細い道があるのですが、トラックは入れない狭さなのでその道に入りました」
安心したのもつかの間……。トラックはその細い道に突っ込んできたという。ただし、道の中までは進めず、運転手は鬼の形相で田中さんを睨みながらクラクションを鳴らし続けていた。田中さんはそのまま家に帰ったのだが……。
◆「動画を消せ」と言われたが…
「上司から電話があったんです。どのように特定したのかは分かりませんが、運転手から職場に連絡があったようで、運の悪いことに相手は取引先の人間でした。上司から『これから一緒に謝りに行こう』と言われたんですよね。もちろん、全力で断りました。でも、『謝ったほうがよいから』と聞く耳を持ちませんでした」
相手の家に着くと、「会社にいられないようにしてやろうか!」と、脅迫ともとれる罵詈雑言を田中さんに浴びせてきた。そして……。
「私に『動画を消せ』と迫ってきました。仕方なく動画を消し、それを確認した相手は、満足気でしたね。急に優しくなって、『気をつけような』なんて言ってきたんです」
しばらくして田中さんが帰ろうとしたとき、田中さんの携帯が鳴った。それは、田中さんの妻がお世話になっている自動車会社の社長からだったそうだ。電話に出ると……。
「社長は開口一番に『あおり運転されたらしいな。奥さんから聞いたぞ』。そして、『その地域の警察の副所長と仲良しだから、ややこしくなったら遠慮なく言えよ』という言葉が続きました。その会話が相手にも聞こえていたらしく、急にそわそわしはじめ、私から逃げるように家へ入っていきました」
田中さんはそもそも罵詈雑言を言われたときも腹は立っていなかったようだ。なぜなら、ボイスレコーダーにあおり運転の証拠を録音し、動画データもコピーして妻に渡していたという。
あおり運転をされてから数年経つが、その後は遭遇していないそうだ。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。