2002年に5歳でデビューし、ドラマ『僕と彼女と彼女の生きる道』にて、草彅剛が演じた主人公の娘役を演じ“天才子役”と世間の注目を集めた美山加恋。これ以降も、連続テレビ小説『純情きらり』や『ちびまるこちゃん』、『砂時計』など、映像作品を中心に数多くの作品に出演し八面六臂の活躍を見せたが、そんな彼女は現在、映像作品だけでなく舞台やアニメの世界にも活動の幅を広げている。
今年で芸歴22年。経験に裏打ちされた確かな実力も持っている。そんな彼女が、フィールドを広げたのはなぜか。直近の出演作に触れながら、その理由を紐解く。
◆声優業は異業種に転職したような感覚
――美山さんは「声優」としても活動しています。なりたいと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
美山加恋(以下、美山):アニメは小さい頃から大好きだったんですが、高校生の頃に声優ブームが来たことで声優さんをより意識して見るようになったのが、大きなきっかけかもしれません。それまで私が経験してきたものとは違う“声のお芝居の世界”を認識して、挑戦してみたくなったんですよね。当時、「やりたいと思ったことは、20歳までにやってみよう」と自分のなかで掲げていたこともあって、すぐに行動に移しました。
――実際にやってみて、いかがでしたか?
美山:最初は、同じお芝居の世界なのに全然別物だなと思っていました。たとえば、ドラマの現場で挨拶をするときは役名と名前を言うんですけど、声優の現場では所属事務所と名前だけなんですよ。
――役名は言わないんですね。
美山:そうなんです。そこがすごく新鮮でした。収録スタジオではドアの近くに新人が座って開け閉めをする慣習があると知ったときも、この世界ならではだなと思いましたね。あとは“マイクワーク”も。収録に参加している声優さんが何十人といても、収録用のマイクは大体4本くらいしかないので、自分の出番のときにどこのマイクに入れそうか見当をつけておかないといけないんですよ。
――テレビ番組などでもたまに見る光景ですが、神業ですよね。よくぶつからないなと思います。
美山:本当に! はじめたての頃は、一番意味がわかりませんでした(笑)。「これじゃあ、お芝居に集中できないよ!」って。まるで異業種に転職したような、不思議な感覚でしたね。
◆お芝居を引っ張ってくれる“絵の力”
――どうやって克服していったのでしょうか?
美山:「どうしたらうまくなりますか?」と、先輩にたくさん質問をして、少しずつ乗り越えていきました。特に、はじめてのレギュラー作品で一緒になった小野賢章さんは、ご自身も子役時代からお仕事をされているのでよく話を聞いてくださって。一つひとつ丁寧に教えてくれたのを覚えています。
教わりながら実践を繰り返していると、だんだんと慣れてくるものなんですよ、やっぱり。結局マイクワークって技術なので、身につけば体が自然と動くようになる。そうして、芝居に集中できるようになっていきました。
――とすると、あとは芝居を突き詰めればいいと。
美山:そうですね。アニメでは“絵に合わせるお芝居”も必要なので、どんなに悲しい場面でも絵が微笑んでいればそちらに合わせなければいけないし、言葉を発するタイミングも絵に任せることになるんです。
ただ、そのぶん絵の力に引っ張られて、自分が思ってた以上の表現に繋がることも多くて。毎回めちゃくちゃ勉強になりますね。お芝居の幅もすごく広がった気がしています。
◆『プリキュア』で芽生えた声優としての自覚
――2017年に放送された『キラキラ☆プリキュアアラモード』では、1年もの長期間にわたり、主人公の宇佐美いちか(キュアホイップ)役を務めました。特別な1年になったでしょうね。
美山:1年間ずっと同じ役をやる経験なんて、なかなかできないですからね。それに、自分といちかがどんどん重なって見えるようになってくるんです。
いちかって前向きだから、最初は「私とは正反対だな」とどこか遠い存在だと思っていたんですけど、話が進むにつれていちかにも抱えているものがあるとわかるんです。「そういう面があるからこそ、ポジティブに頑張れるんだ」と、理解できる。だからすごく愛着が湧きました。
――美山さんにとってかけがえのない存在になったんですね。
美山:はい。この作品でいちか役になれたことで……やっと、声優としての自覚が芽生えたように思います。
共演しているみなさんと一緒に毎週収録していたんですけど、序盤はまだわからないことが多いこともあって「声優さん方と一緒にやらせていただいている」という意識が強かったんでしょうね。
でも、1年間かけてたくさん学ばせていただけたことで、ようやく「私は声優です」と言えるようになりました。
◆舞台稽古で受けたショックに心が折れた
――仕事をするうえで、原動力になっているものは何ですか?
美山:お芝居を「楽しい」と思える気持ち、ですかね? これがないと、頑張れないなと。
――芸能の仕事をしている方は、特にその気持ちが強いかもしれないですね。
美山:もちろん大変なこともいっぱいありますけど、全部やりきったら「あー、楽しかった!」と言える。だからお芝居が好きだし、この先も続けたいなと思えます。
――最初から「楽しい」と思えていましたか?
美山:そんなことはなかったです。お芝居を楽しいと思えるようになったのは……中学2年生のときに、舞台『太陽に灼かれて』に出演してからだと思います。ちょうど「芝居ってなんだ?」というフェーズに入っていた時期だったので、「私は、芝居をしたいのかな?」と思いながら挑戦した舞台だったんですよ。そうしたら……案の定、稽古で心が折れたんです。
――グラグラした状態で稽古に入ったばかりに。
美山:というか……私、デビュー作が5歳のときに出た舞台『てるてる坊主の照子さん』なんですけど、それからは映像作品ばかりで。『太陽に灼かれて』が、デビュー以来2度目の舞台だったんです。だから舞台の芝居を全然知らず、基礎の基礎から学ぶことになってしまったんですよね。そこで、「今まで、舞台の芝居を何一つ学んでこなかったんだな……」とショックを受けたんです。
◆お芝居で将来が見え始めたのは中学3年生のとき
美山:でも、実際にステージに立ってお客さんから反応をいただけだとき、喜びに変わりました。それまで、ブログに書き込んでもらったコメントを読むことで観た方のリアクションを確認できていましたけど、舞台だとそれがダイレクトに返ってくるんです。それが楽しくて! 「私、今お芝居してる!」「お芝居楽しい!」と、そこで一気に芝居の楽しさに気づきました。
――では、いつ頃から「この仕事で食っていきたい」と考えていましたか?
美山:中学3年生くらいからです。中学に入ってからは、『太陽に灼かれて』以外だとゲスト出演するようなドラマが多かったんですが、そんななか『鈴子の恋』という昼ドラで主人公の幼少期の役を任されたんです。幼少期とはいえ、前半はずっと自分が座組を引っ張っていかなければいけないので自然と責任感が芽生えて、頑張れたんですよ。そうして「私、このお仕事を楽しめるかもしれない」と。
――将来がはっきり見えはじめたんですね。
美山:受験の時期になって志望校を決めるときも「高校でもお仕事を続けたいな」と思い、芸能活動ができる学校を選びました。で、進学してからも「そういう学校に入ったんだから、お仕事頑張ろう!」と気合いを入れてお仕事に臨むようになりましたね。
◆15年間、積み重ねている感じがしなかった
――では、役者として22年ものあいだ活躍している美山さんの、今の武器は何ですか?
美山:女優と声優、どちらもできるところです。この5年くらいでようやく自信につながった部分なので。20代になったばかりの頃の私は、この世界で仕事をしていく自信をなくしていたんです。
――中高生の頃、一度は「この世界で頑張りたい」と思っていたけれど。
美山:はい。しかも当時すでに15年くらい芸歴を重ねていたんですけど、積み重ねている感じがあまりしなくて。新しい現場に行くたび、「私は何も持っていないから」「この現場でゼロからのスタートだ」と思って臨んでいたんです。
だけど、最近になって主演や年相応の役、自分のイメージにない役など、できる役が一気に広がって。「これまで挑戦してきたことは、こうやって形になっていくんだ」と、今になってようやく子役時代から積み重ねてきたものの大きさを実感しています。現場で、「こういう表情もできるんだね!」と言っていただけたとき、すごく嬉しくて。またひとつ、自信がつきました。
◆現場での立ち回りは役に引っ張られがち
――現在はドラマ『デスゲームで待ってる』に出演中。美山さん演じる木野まどかは、主人公が属することになるデスゲーム制作会社「ドリーミア」の小道具を担当している女性ですね。
美山:はい。すでにクランアップしているんですが、撮影は「ドリーミア」チームで撮ることがほとんどで。みなさん気さくな方々ばかりだったので、和やかな雰囲気のなかで撮影に臨めました。特に、波岡一喜さん(瀬戸内ツネ役)と濱津隆之さん(小山内想介役)のお二人がすごく盛り上げてくださいました。
――そんな現場で、美山さんはどんなポジションになることが多いですか?
美山:いつも役に引っ張られがちなので、現場によって結構違うんです。『デスゲームで待ってる』だと、まどかが一歩引いて周りを見てツッコミ役に回るような役どころだから、カメラが回っていないときも一歩引いている感じでした。とはいえ、回を追うごとにまどかの人間性が少しずつ出ていくと思いますし、注目していただきたいですね。伏線……というわけではないですが、「伝わる人には伝わるといいな」くらいの感覚で“小ネタ”のような芝居を細かく入れているんですよ。みなさんそれぞれに。
――アドリブで?
美山:そうです。「ドリーミア」での撮影はカメラに映り込む人数が多いので、1人が喋っている場面ではほかの人たちが手持ち無沙汰になるんですよ。なので、そこで細かな芝居を入れて、自由にやり取りしています。ストーリーの本筋にはあまり関係ありませんが(笑)、ちょっとほっこりするような場面もあると思います。
ちなみに、オープニングとエンディングも本編もみなさん一緒にその場のノリを大切にしながら撮っているんですが、最終回ではちょっとジーンとくる内容になっているはずです。最後の最後まで楽しんでもらいたいですね。飛ばさずに!
◆初めてのシェイクスピア「早くこの世界に馴染みたい」
――また、舞台『夏の夜の夢』では、ヒロインのひとりハーミア役を務めています。シェイクスピアには初挑戦とのことですが、挑むにあたり何か準備はしましたか?
美山:事前に原作を読みました。あとは、蜷川幸雄さん演出のシェイクスピア作品に多く出演されていた方から「そもそもシェイクスピアとは」といった話を聞いて勉強したり、趣味でシェイクスピアを研究している同業の方にいろんな解釈を聞いてみたりもしました。
シェイクスピアって、「なんでこういう言い方をするんだろう?」と疑問に思うような独特なセリフがあったりするんです。今回だと豆の花や蛾の羽がでてくるんですが、「なんで蛾の羽……?」と、一瞬思うじゃないですか? そこに、ちゃんと意味があるのがシェイクスピアなんですよ。
――本当に奥が深いんですね。
美山:今は、そういったことを解き明かしていくのが楽しい段階ですね。あと、古典なのでお芝居のメソッドがたくさん詰まっているんです。歌舞伎でいう“見得を切る”ようなセリフの言い方もあれば、シェイクスピア特有の長ゼリフを言いやすいように区切る方法もあったりして、初めて学ぶことばかりで楽しい。早くこの世界に馴染みたいです。
【美山加恋】
1996年、東京都生まれ。2002年、5歳のときに子役デビュー。近年は、『around1/4 アラウンド・クォーター』『ラーメン大好き小泉さん』シリーズなどに出演している。ドラマ『デスゲームで待ってる』は、フジテレビ系で毎週木曜24:25から放送中。また、舞台『夏の夜の夢』は、彩の国さいたま芸術劇場 大ホールにて12月16日まで上演中
<撮影/尾藤能暢 取材・文/松本まゆげ ヘアメイク/池戸朝都 スタイリング/藤井希恵(THYMON Inc.)>
今年で芸歴22年。経験に裏打ちされた確かな実力も持っている。そんな彼女が、フィールドを広げたのはなぜか。直近の出演作に触れながら、その理由を紐解く。
◆声優業は異業種に転職したような感覚
――美山さんは「声優」としても活動しています。なりたいと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
美山加恋(以下、美山):アニメは小さい頃から大好きだったんですが、高校生の頃に声優ブームが来たことで声優さんをより意識して見るようになったのが、大きなきっかけかもしれません。それまで私が経験してきたものとは違う“声のお芝居の世界”を認識して、挑戦してみたくなったんですよね。当時、「やりたいと思ったことは、20歳までにやってみよう」と自分のなかで掲げていたこともあって、すぐに行動に移しました。
――実際にやってみて、いかがでしたか?
美山:最初は、同じお芝居の世界なのに全然別物だなと思っていました。たとえば、ドラマの現場で挨拶をするときは役名と名前を言うんですけど、声優の現場では所属事務所と名前だけなんですよ。
――役名は言わないんですね。
美山:そうなんです。そこがすごく新鮮でした。収録スタジオではドアの近くに新人が座って開け閉めをする慣習があると知ったときも、この世界ならではだなと思いましたね。あとは“マイクワーク”も。収録に参加している声優さんが何十人といても、収録用のマイクは大体4本くらいしかないので、自分の出番のときにどこのマイクに入れそうか見当をつけておかないといけないんですよ。
――テレビ番組などでもたまに見る光景ですが、神業ですよね。よくぶつからないなと思います。
美山:本当に! はじめたての頃は、一番意味がわかりませんでした(笑)。「これじゃあ、お芝居に集中できないよ!」って。まるで異業種に転職したような、不思議な感覚でしたね。
◆お芝居を引っ張ってくれる“絵の力”
――どうやって克服していったのでしょうか?
美山:「どうしたらうまくなりますか?」と、先輩にたくさん質問をして、少しずつ乗り越えていきました。特に、はじめてのレギュラー作品で一緒になった小野賢章さんは、ご自身も子役時代からお仕事をされているのでよく話を聞いてくださって。一つひとつ丁寧に教えてくれたのを覚えています。
教わりながら実践を繰り返していると、だんだんと慣れてくるものなんですよ、やっぱり。結局マイクワークって技術なので、身につけば体が自然と動くようになる。そうして、芝居に集中できるようになっていきました。
――とすると、あとは芝居を突き詰めればいいと。
美山:そうですね。アニメでは“絵に合わせるお芝居”も必要なので、どんなに悲しい場面でも絵が微笑んでいればそちらに合わせなければいけないし、言葉を発するタイミングも絵に任せることになるんです。
ただ、そのぶん絵の力に引っ張られて、自分が思ってた以上の表現に繋がることも多くて。毎回めちゃくちゃ勉強になりますね。お芝居の幅もすごく広がった気がしています。
◆『プリキュア』で芽生えた声優としての自覚
――2017年に放送された『キラキラ☆プリキュアアラモード』では、1年もの長期間にわたり、主人公の宇佐美いちか(キュアホイップ)役を務めました。特別な1年になったでしょうね。
美山:1年間ずっと同じ役をやる経験なんて、なかなかできないですからね。それに、自分といちかがどんどん重なって見えるようになってくるんです。
いちかって前向きだから、最初は「私とは正反対だな」とどこか遠い存在だと思っていたんですけど、話が進むにつれていちかにも抱えているものがあるとわかるんです。「そういう面があるからこそ、ポジティブに頑張れるんだ」と、理解できる。だからすごく愛着が湧きました。
――美山さんにとってかけがえのない存在になったんですね。
美山:はい。この作品でいちか役になれたことで……やっと、声優としての自覚が芽生えたように思います。
共演しているみなさんと一緒に毎週収録していたんですけど、序盤はまだわからないことが多いこともあって「声優さん方と一緒にやらせていただいている」という意識が強かったんでしょうね。
でも、1年間かけてたくさん学ばせていただけたことで、ようやく「私は声優です」と言えるようになりました。
◆舞台稽古で受けたショックに心が折れた
――仕事をするうえで、原動力になっているものは何ですか?
美山:お芝居を「楽しい」と思える気持ち、ですかね? これがないと、頑張れないなと。
――芸能の仕事をしている方は、特にその気持ちが強いかもしれないですね。
美山:もちろん大変なこともいっぱいありますけど、全部やりきったら「あー、楽しかった!」と言える。だからお芝居が好きだし、この先も続けたいなと思えます。
――最初から「楽しい」と思えていましたか?
美山:そんなことはなかったです。お芝居を楽しいと思えるようになったのは……中学2年生のときに、舞台『太陽に灼かれて』に出演してからだと思います。ちょうど「芝居ってなんだ?」というフェーズに入っていた時期だったので、「私は、芝居をしたいのかな?」と思いながら挑戦した舞台だったんですよ。そうしたら……案の定、稽古で心が折れたんです。
――グラグラした状態で稽古に入ったばかりに。
美山:というか……私、デビュー作が5歳のときに出た舞台『てるてる坊主の照子さん』なんですけど、それからは映像作品ばかりで。『太陽に灼かれて』が、デビュー以来2度目の舞台だったんです。だから舞台の芝居を全然知らず、基礎の基礎から学ぶことになってしまったんですよね。そこで、「今まで、舞台の芝居を何一つ学んでこなかったんだな……」とショックを受けたんです。
◆お芝居で将来が見え始めたのは中学3年生のとき
美山:でも、実際にステージに立ってお客さんから反応をいただけだとき、喜びに変わりました。それまで、ブログに書き込んでもらったコメントを読むことで観た方のリアクションを確認できていましたけど、舞台だとそれがダイレクトに返ってくるんです。それが楽しくて! 「私、今お芝居してる!」「お芝居楽しい!」と、そこで一気に芝居の楽しさに気づきました。
――では、いつ頃から「この仕事で食っていきたい」と考えていましたか?
美山:中学3年生くらいからです。中学に入ってからは、『太陽に灼かれて』以外だとゲスト出演するようなドラマが多かったんですが、そんななか『鈴子の恋』という昼ドラで主人公の幼少期の役を任されたんです。幼少期とはいえ、前半はずっと自分が座組を引っ張っていかなければいけないので自然と責任感が芽生えて、頑張れたんですよ。そうして「私、このお仕事を楽しめるかもしれない」と。
――将来がはっきり見えはじめたんですね。
美山:受験の時期になって志望校を決めるときも「高校でもお仕事を続けたいな」と思い、芸能活動ができる学校を選びました。で、進学してからも「そういう学校に入ったんだから、お仕事頑張ろう!」と気合いを入れてお仕事に臨むようになりましたね。
◆15年間、積み重ねている感じがしなかった
――では、役者として22年ものあいだ活躍している美山さんの、今の武器は何ですか?
美山:女優と声優、どちらもできるところです。この5年くらいでようやく自信につながった部分なので。20代になったばかりの頃の私は、この世界で仕事をしていく自信をなくしていたんです。
――中高生の頃、一度は「この世界で頑張りたい」と思っていたけれど。
美山:はい。しかも当時すでに15年くらい芸歴を重ねていたんですけど、積み重ねている感じがあまりしなくて。新しい現場に行くたび、「私は何も持っていないから」「この現場でゼロからのスタートだ」と思って臨んでいたんです。
だけど、最近になって主演や年相応の役、自分のイメージにない役など、できる役が一気に広がって。「これまで挑戦してきたことは、こうやって形になっていくんだ」と、今になってようやく子役時代から積み重ねてきたものの大きさを実感しています。現場で、「こういう表情もできるんだね!」と言っていただけたとき、すごく嬉しくて。またひとつ、自信がつきました。
◆現場での立ち回りは役に引っ張られがち
――現在はドラマ『デスゲームで待ってる』に出演中。美山さん演じる木野まどかは、主人公が属することになるデスゲーム制作会社「ドリーミア」の小道具を担当している女性ですね。
美山:はい。すでにクランアップしているんですが、撮影は「ドリーミア」チームで撮ることがほとんどで。みなさん気さくな方々ばかりだったので、和やかな雰囲気のなかで撮影に臨めました。特に、波岡一喜さん(瀬戸内ツネ役)と濱津隆之さん(小山内想介役)のお二人がすごく盛り上げてくださいました。
――そんな現場で、美山さんはどんなポジションになることが多いですか?
美山:いつも役に引っ張られがちなので、現場によって結構違うんです。『デスゲームで待ってる』だと、まどかが一歩引いて周りを見てツッコミ役に回るような役どころだから、カメラが回っていないときも一歩引いている感じでした。とはいえ、回を追うごとにまどかの人間性が少しずつ出ていくと思いますし、注目していただきたいですね。伏線……というわけではないですが、「伝わる人には伝わるといいな」くらいの感覚で“小ネタ”のような芝居を細かく入れているんですよ。みなさんそれぞれに。
――アドリブで?
美山:そうです。「ドリーミア」での撮影はカメラに映り込む人数が多いので、1人が喋っている場面ではほかの人たちが手持ち無沙汰になるんですよ。なので、そこで細かな芝居を入れて、自由にやり取りしています。ストーリーの本筋にはあまり関係ありませんが(笑)、ちょっとほっこりするような場面もあると思います。
ちなみに、オープニングとエンディングも本編もみなさん一緒にその場のノリを大切にしながら撮っているんですが、最終回ではちょっとジーンとくる内容になっているはずです。最後の最後まで楽しんでもらいたいですね。飛ばさずに!
◆初めてのシェイクスピア「早くこの世界に馴染みたい」
――また、舞台『夏の夜の夢』では、ヒロインのひとりハーミア役を務めています。シェイクスピアには初挑戦とのことですが、挑むにあたり何か準備はしましたか?
美山:事前に原作を読みました。あとは、蜷川幸雄さん演出のシェイクスピア作品に多く出演されていた方から「そもそもシェイクスピアとは」といった話を聞いて勉強したり、趣味でシェイクスピアを研究している同業の方にいろんな解釈を聞いてみたりもしました。
シェイクスピアって、「なんでこういう言い方をするんだろう?」と疑問に思うような独特なセリフがあったりするんです。今回だと豆の花や蛾の羽がでてくるんですが、「なんで蛾の羽……?」と、一瞬思うじゃないですか? そこに、ちゃんと意味があるのがシェイクスピアなんですよ。
――本当に奥が深いんですね。
美山:今は、そういったことを解き明かしていくのが楽しい段階ですね。あと、古典なのでお芝居のメソッドがたくさん詰まっているんです。歌舞伎でいう“見得を切る”ようなセリフの言い方もあれば、シェイクスピア特有の長ゼリフを言いやすいように区切る方法もあったりして、初めて学ぶことばかりで楽しい。早くこの世界に馴染みたいです。
【美山加恋】
1996年、東京都生まれ。2002年、5歳のときに子役デビュー。近年は、『around1/4 アラウンド・クォーター』『ラーメン大好き小泉さん』シリーズなどに出演している。ドラマ『デスゲームで待ってる』は、フジテレビ系で毎週木曜24:25から放送中。また、舞台『夏の夜の夢』は、彩の国さいたま芸術劇場 大ホールにて12月16日まで上演中
<撮影/尾藤能暢 取材・文/松本まゆげ ヘアメイク/池戸朝都 スタイリング/藤井希恵(THYMON Inc.)>