2024年、反響の大きかった記事からジャンル別にトップ10を発表。企業や業界の実態から2024年を振り返る「経済ニュース」部門、第5位の記事はこちら!(集計期間は2024年1月~10月まで。初公開2024年3月30日 記事は取材時の状況、ご注意ください) * * *
経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回は株式会社サンマルクホールディングスの業績について紹介したいと思います。
サンマルクHDは「サンマルクカフェ」や「鎌倉パスタ」、「神戸元町ドリア」などを展開するカフェ・レストラン企業です。以前は無借金経営を標榜し、直営店主体でありながら営業利益11%と高い利益率を維持していましたが、コロナ禍では業績が大幅に悪化し店舗数も大幅に減少しました。しかし、現在は不採算店の閉店で収益性は改善しつつあります。サンマルクHDが高利益率を実現した背景や特徴的な戦略、近年の業績についてまとめました。
◆「サンマルクカフェ」と「鎌倉パスタ」が主力
飲食チェーンのなかでもサンマルクHDの歴史は比較的新しく、同社は1989年に株式会社大元サンマルクとして開業しました。「ベーカリーレストラン・サンマルク」1号店をオープンした後、インテリアコーディネイト業にも手を出します。
「サンマルクカフェ」を開店したのは99年のことで、都内に1号店を構えた後、主力事業の一つとして店舗数を増やしていきました。サンマルクカフェは焼き立てパンが売りで、パスタやソフトクリームの乗ったデニブランなど、競合のカフェチェーンより食事が充実している点が特徴的です。喫茶ではなく軽食目的で訪れる客も見られます。2002年には東証二部上場を果たし、翌03年に一部上場へ鞍替えしました(2006年、現社名として再度上場)。
2004年には生麺のパスタと一部店舗で実施しているパンの食べ放題が売りの「鎌倉パスタ」の1号店をオープンし、同業態も主力事業の一つとなりました。2007年には「神戸元町ドリア」、2008年にはフルサービス式カフェ「倉式珈琲店」の1号店を開店しています。
セグメントとしてはサンマルクカフェや倉式珈琲店の喫茶事業、鎌倉パスタや神戸元町ドリア、「バケット」を展開するレストラン事業に分類されており、事業規模はレストラン事業が上回ります。2024年3月期末第2四半期の段階で全社774店舗を展開し、主力は309店舗のサンマルクカフェと200店舗の鎌倉パスタです。ほとんどが直営店で運営されています。
◆なぜ高い利益率を実現できたのか
サンマルクHDは直営店主体でありながら営業利益率11%と高い収益性を確保していました(19年3月期)。通常の飲食店では一桁台が相場です。そして高い収益性を基に90%以上と自己資本比率を実現し、コロナ禍以前は無借金経営を標榜していました。高い利益率を実現できたのはコーヒーのほか、パンやパスタといった「粉もの」を主体とするためです。飲食店における通常の原価率は概ね30~35%ですが、サンマルクHDのそれは22%しかありません。肉や魚を扱う店舗を展開していれば実現できない数字といえます。
また、セントラルキッチンを持たないビジネスモデル「ファブレス」での展開を基本軸としているのも特色。グループ店舗で提供するパンについては、製パン大手「タカキベーカリー」が提供する冷凍パン生地を使うことで、焼き立てを提供できる体制を取っています。セントラルキッチンでの大量生産で高収益化を狙う他の飲食大手とは異なる体制です。店内調理を基本とすると厨房の負荷が高くなってしまいますが、徹底したマニュアル化で効率化を図っているようです。
◆駅前・SC立地が足かせに…405店舗が333店舗に減少
高利益率を維持していたサンマルクHDも、コロナ禍では大幅に業績が悪化しました。必需性の低いカフェ・レストラン業態であるほか、駅前や商店街、SCなどの商業施設を主な出店立地としていたためです。2020年3月期から23年3月期の業績は次の通りで、特に21年3月期、22年3月期は商業施設の休業や時短営業の影響も受けました。
【サンマルクHD(2020年3月期~2023年3月期)】
売上高:689億円→440億円→477億円→578億円
営業利益:41.6億円→▲40.,4億円→▲35.8億円→2.4億円
売上高(レストラン事業):358億円→233億円→263億円→334億円
売上高(喫茶事業):311億円→195億円→212億円→245億円
総店舗数:932店→864店→839店→793店
主力とするサンマルクカフェの閉店が著しく、20年3月期末から23年3月期末にかけて店舗数は405から333店舗へと減少しています。22年3月期から26年3月期を想定した中期経営計画では当初、不採算店を閉鎖しつつも鎌倉パスタを筆頭にレストラン事業の店舗を増やす計画を発表していました。26年3月期末時点でグループ950店舗という目標です。ただ、不採算店の閉鎖は進んだ一方で、消費活動の回復は当初予想よりも遅く、総店舗数は上記の通り減少し続けています。
◆以前の高収益体制に戻るも、拡大は難しい?
規模は縮小したとはいえ、不採算店の閉鎖により収益性は改善した模様です。直近24年3月期3Q時点で1店舗当たりの売上高はコロナ禍以前の98%まで回復しています。24年3月期通年では売上高630億円、営業利益20億円を予想しており、売上・収益ともに改善しているようです。営業利益10%台となっていた以前の高収益体制に戻るのも近いでしょう。
ですが、店舗数の拡大についてはいくつかのハードルがあります。中計では従来通りの出店に加え、郊外立地を模索すると記載されています。しかし地方や郊外におけるサンマルクカフェの知名度はあまり高くはありません。そして、縮小が続いた都市部では拡大の余地が無いのが現状です。
鎌倉パスタについてはパスタ1品あたり概ね1,100~1,400円という決して安くはない価格帯が足かせとなります。外食各社の値上げが続く中、利益率に目をつむって値下げする、またはセットで何かを付けてお得感を出すといった施策で集客し拡大できそうですが、同社が目指してきた高収益体制に反する施策です。
以上のことからして、既存業態で拡大するのは難しいというのが、筆者の見立てです。
<TEXT/山口伸>
【山口伸】
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。 Twitter:@shin_yamaguchi_
経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回は株式会社サンマルクホールディングスの業績について紹介したいと思います。
サンマルクHDは「サンマルクカフェ」や「鎌倉パスタ」、「神戸元町ドリア」などを展開するカフェ・レストラン企業です。以前は無借金経営を標榜し、直営店主体でありながら営業利益11%と高い利益率を維持していましたが、コロナ禍では業績が大幅に悪化し店舗数も大幅に減少しました。しかし、現在は不採算店の閉店で収益性は改善しつつあります。サンマルクHDが高利益率を実現した背景や特徴的な戦略、近年の業績についてまとめました。
◆「サンマルクカフェ」と「鎌倉パスタ」が主力
飲食チェーンのなかでもサンマルクHDの歴史は比較的新しく、同社は1989年に株式会社大元サンマルクとして開業しました。「ベーカリーレストラン・サンマルク」1号店をオープンした後、インテリアコーディネイト業にも手を出します。
「サンマルクカフェ」を開店したのは99年のことで、都内に1号店を構えた後、主力事業の一つとして店舗数を増やしていきました。サンマルクカフェは焼き立てパンが売りで、パスタやソフトクリームの乗ったデニブランなど、競合のカフェチェーンより食事が充実している点が特徴的です。喫茶ではなく軽食目的で訪れる客も見られます。2002年には東証二部上場を果たし、翌03年に一部上場へ鞍替えしました(2006年、現社名として再度上場)。
2004年には生麺のパスタと一部店舗で実施しているパンの食べ放題が売りの「鎌倉パスタ」の1号店をオープンし、同業態も主力事業の一つとなりました。2007年には「神戸元町ドリア」、2008年にはフルサービス式カフェ「倉式珈琲店」の1号店を開店しています。
セグメントとしてはサンマルクカフェや倉式珈琲店の喫茶事業、鎌倉パスタや神戸元町ドリア、「バケット」を展開するレストラン事業に分類されており、事業規模はレストラン事業が上回ります。2024年3月期末第2四半期の段階で全社774店舗を展開し、主力は309店舗のサンマルクカフェと200店舗の鎌倉パスタです。ほとんどが直営店で運営されています。
◆なぜ高い利益率を実現できたのか
サンマルクHDは直営店主体でありながら営業利益率11%と高い収益性を確保していました(19年3月期)。通常の飲食店では一桁台が相場です。そして高い収益性を基に90%以上と自己資本比率を実現し、コロナ禍以前は無借金経営を標榜していました。高い利益率を実現できたのはコーヒーのほか、パンやパスタといった「粉もの」を主体とするためです。飲食店における通常の原価率は概ね30~35%ですが、サンマルクHDのそれは22%しかありません。肉や魚を扱う店舗を展開していれば実現できない数字といえます。
また、セントラルキッチンを持たないビジネスモデル「ファブレス」での展開を基本軸としているのも特色。グループ店舗で提供するパンについては、製パン大手「タカキベーカリー」が提供する冷凍パン生地を使うことで、焼き立てを提供できる体制を取っています。セントラルキッチンでの大量生産で高収益化を狙う他の飲食大手とは異なる体制です。店内調理を基本とすると厨房の負荷が高くなってしまいますが、徹底したマニュアル化で効率化を図っているようです。
◆駅前・SC立地が足かせに…405店舗が333店舗に減少
高利益率を維持していたサンマルクHDも、コロナ禍では大幅に業績が悪化しました。必需性の低いカフェ・レストラン業態であるほか、駅前や商店街、SCなどの商業施設を主な出店立地としていたためです。2020年3月期から23年3月期の業績は次の通りで、特に21年3月期、22年3月期は商業施設の休業や時短営業の影響も受けました。
【サンマルクHD(2020年3月期~2023年3月期)】
売上高:689億円→440億円→477億円→578億円
営業利益:41.6億円→▲40.,4億円→▲35.8億円→2.4億円
売上高(レストラン事業):358億円→233億円→263億円→334億円
売上高(喫茶事業):311億円→195億円→212億円→245億円
総店舗数:932店→864店→839店→793店
主力とするサンマルクカフェの閉店が著しく、20年3月期末から23年3月期末にかけて店舗数は405から333店舗へと減少しています。22年3月期から26年3月期を想定した中期経営計画では当初、不採算店を閉鎖しつつも鎌倉パスタを筆頭にレストラン事業の店舗を増やす計画を発表していました。26年3月期末時点でグループ950店舗という目標です。ただ、不採算店の閉鎖は進んだ一方で、消費活動の回復は当初予想よりも遅く、総店舗数は上記の通り減少し続けています。
◆以前の高収益体制に戻るも、拡大は難しい?
規模は縮小したとはいえ、不採算店の閉鎖により収益性は改善した模様です。直近24年3月期3Q時点で1店舗当たりの売上高はコロナ禍以前の98%まで回復しています。24年3月期通年では売上高630億円、営業利益20億円を予想しており、売上・収益ともに改善しているようです。営業利益10%台となっていた以前の高収益体制に戻るのも近いでしょう。
ですが、店舗数の拡大についてはいくつかのハードルがあります。中計では従来通りの出店に加え、郊外立地を模索すると記載されています。しかし地方や郊外におけるサンマルクカフェの知名度はあまり高くはありません。そして、縮小が続いた都市部では拡大の余地が無いのが現状です。
鎌倉パスタについてはパスタ1品あたり概ね1,100~1,400円という決して安くはない価格帯が足かせとなります。外食各社の値上げが続く中、利益率に目をつむって値下げする、またはセットで何かを付けてお得感を出すといった施策で集客し拡大できそうですが、同社が目指してきた高収益体制に反する施策です。
以上のことからして、既存業態で拡大するのは難しいというのが、筆者の見立てです。
<TEXT/山口伸>
【山口伸】
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。 Twitter:@shin_yamaguchi_