飽食の時代、寿司・焼肉・カレー・スイーツなど、あらゆるものが好きな時に食べられる日本。そんな状況にあって、徹底的に同じものを食べる人も存在する。激辛メニューでおなじみの「蒙古タンメン中本」(以下、「中本」)を毎日食べ続ける男性、づけとご氏もその一人。
体には悪くないのか? 毎日食べ続ける魅力はなんなのか? 本人を直撃した。
◆「1杯目の中本」は半分も食べられず…
づけとご氏は、2009年頃から毎日「中本」を食べており、これまでに食した数はおよそ7000杯。彼より多く食べた人物を探すのは至難の業だろう。さぞかし辛い食べ物に目がないのかと思いきや、彼の“中本キャリア”は、意外なところから始まっている。
「ずっとラーメンが好きで、高校時代に原付バイクの免許を取ってからは各地の人気店を食べ歩いていました。『中本』にも行くことになったんですが、辛いものが苦手だったので、『蒙古タンメン』を半分も食べることができずリタイアしたのが一杯目の思い出です」
完食できなかった中本の蒙古タンメンを好きになっていく過程には、づけとご氏の探究心があった。
「私は食べきれなかったのに、なぜこんなに人気があるのか不思議でした。どうしてもその魅力が知りたくて、2度目にチャレンジしたんです(笑)。その時も完食はできなかったんですが、何度か通い続けました。すると、やがて完食できるようになっていて、その時には中本の美味しさにどっぷりハマっていたんです」
中本に惚れ込んでいくうちに、それまでのライフワークであったラーメン食べ歩きへの興味は消え失せていったのだという。奇しくも中本の人気に火が付き、店舗数も増えたタイミング。追い風に乗り、「毎日中本を食べ続ける生活」が幕を開ける。
「基本的にはお店に行きます。もちろん行けない日もあるので、その時のために冷凍のテイクアウトを自宅にいつもストックしています」
◆健康でいるのも中本のため?
づけとご氏は太っていない。毎日中本を食べ続けても太ることはないのだろうか。
「中本を食べるようになってからも体型は変わっていません。ただ、気は使っていますよ。ランニングは毎日していますし、以前からやっていた空手でもしっかり体を動かしています」
運動は自身が太ってしまわないためでもあるが、よく聞くとそこにも中本への深い愛が見え隠れしていた。
「中本のラーメン(のほとんど)は、唐辛子のたくさん入った刺激物でもあるので、身体的にも精神的にも健康じゃないと食べられませんよね。つまり、中本を毎日食べ続けるためには健康でないといけないので、気を使っています。それに、私が病気をすると『中本ばかり食べているからだ』と、中本のせいになってしまいかねないので、健康でいなくてはいけないと思っています」
直近で受けたという血液検査の結果も提供してくださったが、尿検査・血液検査の結果も良好なものだった。
◆義実家では「隠れて食べた」
すでに約7000杯もの中本のラーメンを食べているにも関わらず、全く飽きることはないそうだ。ただ、その好きな感覚の機微には変化があるという。
「初期のころは、注文するたびにテンションが上がっていました。しかし今は、さすがにいちいち興奮しません(笑)。『家族が作るご飯を美味しく食べられる幸せ』に近いものを感じながら食べていますね」
日常食としての喜びがそこにあるならば、毎日になることもうなづける。もちろん、実際に毎日を続けて行くためには苦労もあった。
「旅行や出張などで中本のお店がない地域に行くときは、冷凍のテイクアウトを持って行きます。妻の実家である新潟にも中本はないので、帰省するときは必需品ですね」
しかし、実家に帰れば義父母が料理でもてなしてくれるのではないだろうか。まして、米どころで魚も美味しい新潟となればなおさらだが……。
「お義母さんの料理をおいしくいただいた後に、裏で中本を食べています。最初の頃は、さすがに申し訳ないのでこっそり食べていました(笑)。でもある時、テレビやネットニュースで私のことが取り上げられていることを、義理の両親が親戚から聞いたようで……隠れずに済むようになりましたね(笑)」
◆“公式より早い発信”をするワケ
特定のお店が好きだったり、毎日同じメニューを食べる人物のSNSは、食べ物の写真が中心になりがちだ。しかし、づけとご氏のSNSでの発信はお店の休業情報や限定メニューの売り切れ情報が並ぶ。そこにはどんな思いがあるのか。
「売り切れや、設備トラブルによって臨時閉店する時って、お店の人は対応に追われるので、情報がすぐに出るわけではないんですよね。本社も他にやることがあるようで、迅速な発信はありません。でもファンの一人として、そういった情報はすぐ欲しいんですよ。だったら、自分で情報を集めて発信しようと思って始めました」
たしかに、定休日ではないのに来店したら閉まっていたり、限定メニュー目当てに遠出したのに売り切れていると悲しい思いをする。しかし、中本の社員でもない人物が、情報を取りまとめて発信するのは容易ではないはずだ。
「まだ2〜3店舗しかなかった頃はよかったんですが、今や29店舗あるので、私一人では情報収集しきれません。なので、『◯◯店の限定メニュー、僕の次で売り切れましたよ!』など、各店舗の常連さんから私に情報が集まってくるネットワークができているんです。だから、中本が公式で出すより私の方が早いこともよくありますよ(笑)」
◆「辛いかどうか」は重要ではない
話を聞くほどにほとばしるほどの中本への愛。いったい中本の魅力とはどんな部分なのか。
「辛さゼロの塩ラーメンにするか、辛い北極ラーメンにするか迷うケースがありますが、どちらも『美味しいラーメン』だからなんです。つまり『辛いかどうか』は、さほど重要ではなくて。世の中には、一番辛い北極を食べきることをゴールに設定している人も見かけますが、そうした人には『辛さの中にある旨味を感じられてからが中本のスタートなんだよ』と伝えたいですね」
まさに“辛さの向こう側”を味わっている者の意見である。話を聞きながら、蒙古タンメンの味を思い出し、何度も口の中にジュワッと唾液が湧き出てきた。辛いと感じなくなるまでは長い道のりではあるだろうが、いつか到達してみたいものだ。
<取材・文/Mr.tsubaking>
【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。
体には悪くないのか? 毎日食べ続ける魅力はなんなのか? 本人を直撃した。
◆「1杯目の中本」は半分も食べられず…
づけとご氏は、2009年頃から毎日「中本」を食べており、これまでに食した数はおよそ7000杯。彼より多く食べた人物を探すのは至難の業だろう。さぞかし辛い食べ物に目がないのかと思いきや、彼の“中本キャリア”は、意外なところから始まっている。
「ずっとラーメンが好きで、高校時代に原付バイクの免許を取ってからは各地の人気店を食べ歩いていました。『中本』にも行くことになったんですが、辛いものが苦手だったので、『蒙古タンメン』を半分も食べることができずリタイアしたのが一杯目の思い出です」
完食できなかった中本の蒙古タンメンを好きになっていく過程には、づけとご氏の探究心があった。
「私は食べきれなかったのに、なぜこんなに人気があるのか不思議でした。どうしてもその魅力が知りたくて、2度目にチャレンジしたんです(笑)。その時も完食はできなかったんですが、何度か通い続けました。すると、やがて完食できるようになっていて、その時には中本の美味しさにどっぷりハマっていたんです」
中本に惚れ込んでいくうちに、それまでのライフワークであったラーメン食べ歩きへの興味は消え失せていったのだという。奇しくも中本の人気に火が付き、店舗数も増えたタイミング。追い風に乗り、「毎日中本を食べ続ける生活」が幕を開ける。
「基本的にはお店に行きます。もちろん行けない日もあるので、その時のために冷凍のテイクアウトを自宅にいつもストックしています」
◆健康でいるのも中本のため?
づけとご氏は太っていない。毎日中本を食べ続けても太ることはないのだろうか。
「中本を食べるようになってからも体型は変わっていません。ただ、気は使っていますよ。ランニングは毎日していますし、以前からやっていた空手でもしっかり体を動かしています」
運動は自身が太ってしまわないためでもあるが、よく聞くとそこにも中本への深い愛が見え隠れしていた。
「中本のラーメン(のほとんど)は、唐辛子のたくさん入った刺激物でもあるので、身体的にも精神的にも健康じゃないと食べられませんよね。つまり、中本を毎日食べ続けるためには健康でないといけないので、気を使っています。それに、私が病気をすると『中本ばかり食べているからだ』と、中本のせいになってしまいかねないので、健康でいなくてはいけないと思っています」
直近で受けたという血液検査の結果も提供してくださったが、尿検査・血液検査の結果も良好なものだった。
◆義実家では「隠れて食べた」
すでに約7000杯もの中本のラーメンを食べているにも関わらず、全く飽きることはないそうだ。ただ、その好きな感覚の機微には変化があるという。
「初期のころは、注文するたびにテンションが上がっていました。しかし今は、さすがにいちいち興奮しません(笑)。『家族が作るご飯を美味しく食べられる幸せ』に近いものを感じながら食べていますね」
日常食としての喜びがそこにあるならば、毎日になることもうなづける。もちろん、実際に毎日を続けて行くためには苦労もあった。
「旅行や出張などで中本のお店がない地域に行くときは、冷凍のテイクアウトを持って行きます。妻の実家である新潟にも中本はないので、帰省するときは必需品ですね」
しかし、実家に帰れば義父母が料理でもてなしてくれるのではないだろうか。まして、米どころで魚も美味しい新潟となればなおさらだが……。
「お義母さんの料理をおいしくいただいた後に、裏で中本を食べています。最初の頃は、さすがに申し訳ないのでこっそり食べていました(笑)。でもある時、テレビやネットニュースで私のことが取り上げられていることを、義理の両親が親戚から聞いたようで……隠れずに済むようになりましたね(笑)」
◆“公式より早い発信”をするワケ
特定のお店が好きだったり、毎日同じメニューを食べる人物のSNSは、食べ物の写真が中心になりがちだ。しかし、づけとご氏のSNSでの発信はお店の休業情報や限定メニューの売り切れ情報が並ぶ。そこにはどんな思いがあるのか。
「売り切れや、設備トラブルによって臨時閉店する時って、お店の人は対応に追われるので、情報がすぐに出るわけではないんですよね。本社も他にやることがあるようで、迅速な発信はありません。でもファンの一人として、そういった情報はすぐ欲しいんですよ。だったら、自分で情報を集めて発信しようと思って始めました」
たしかに、定休日ではないのに来店したら閉まっていたり、限定メニュー目当てに遠出したのに売り切れていると悲しい思いをする。しかし、中本の社員でもない人物が、情報を取りまとめて発信するのは容易ではないはずだ。
「まだ2〜3店舗しかなかった頃はよかったんですが、今や29店舗あるので、私一人では情報収集しきれません。なので、『◯◯店の限定メニュー、僕の次で売り切れましたよ!』など、各店舗の常連さんから私に情報が集まってくるネットワークができているんです。だから、中本が公式で出すより私の方が早いこともよくありますよ(笑)」
◆「辛いかどうか」は重要ではない
話を聞くほどにほとばしるほどの中本への愛。いったい中本の魅力とはどんな部分なのか。
「辛さゼロの塩ラーメンにするか、辛い北極ラーメンにするか迷うケースがありますが、どちらも『美味しいラーメン』だからなんです。つまり『辛いかどうか』は、さほど重要ではなくて。世の中には、一番辛い北極を食べきることをゴールに設定している人も見かけますが、そうした人には『辛さの中にある旨味を感じられてからが中本のスタートなんだよ』と伝えたいですね」
まさに“辛さの向こう側”を味わっている者の意見である。話を聞きながら、蒙古タンメンの味を思い出し、何度も口の中にジュワッと唾液が湧き出てきた。辛いと感じなくなるまでは長い道のりではあるだろうが、いつか到達してみたいものだ。
<取材・文/Mr.tsubaking>
【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。