いまだ終結の見通しが立たないウクライナ紛争。そんな中、先月、北朝鮮が建国以来、初めてとなるロシアへの大規模な派兵に踏み切った。これにより「朝鮮有事も起こりうる」と元内閣官房参与の髙橋洋一氏は言う。
本記事は『60歳からの知っておくべき地政学』の一部を再編集してお送りする。
◆北朝鮮とロシアの間で締結された条約
北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を続ける一方で、兵士をロシアとウクライナの戦争の最前線に派遣している。その理由は2024年6月に北朝鮮とロシアの間で「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結したからだ。
これは両国の有事における相互軍事支援を含む条約であり、事実上の軍事同盟とみなされている。
もっとも、金正恩総書記は「同盟」と表現しているが、プーチン大統領はそのように述べておらず、両国間には微妙な温度差が見られる。それでも、今回の北朝鮮によるロシア支援は条約の実行に他ならない。
◆北朝鮮のウクライナ派兵で朝鮮&台湾有事が同時勃発!?
一方で韓国はウクライナに武器支援を行っており、北朝鮮と韓国の間で間接的な戦闘が繰り広げられているともいえる。北朝鮮がロシアへの支援をさらに拡大すれば、韓国も対応を迫られ、現地に兵士を派遣する可能性も出てくる。
韓国と北朝鮮がウクライナで火花を散らすことになりかねず、それは近い将来の朝鮮半島有事を予見させるものだ。
もし朝鮮半島で有事が発生すれば、北朝鮮と同じ陣営である中国とロシアも行動を起こしてくる可能性があるので、日本有事は目前の危機となる。中国による台湾有事が起きれば、日本はまさに「ダブル有事」に直面しかねない。
◆NATOとアメリカの対応次第で大戦に発展する可能性も
北朝鮮のロシア支援に対して、NATO加盟32カ国は共同声明で「欧州・大西洋の安全保障に深刻な影響を及ぼし、インド太平洋地域にも影響を及ぼす」と警告。これにオーストラリア、日本、ニュージーランド、韓国、ウクライナも支持を表明している。
しかしNATOの本音としては、ロシアや北朝鮮が軍事的な行動を強化した場合、自分たちも積極的に対応せざるを得なくなることに懸念を抱いているように見える。アジアの問題までは面倒みきれないからアジアで処理してくれという立場だ。
もっとも、金正恩はトランプとの再対話を望んでいるだろう。トランプからみても、北朝鮮の切り崩しが一つの選択肢となるかもしれない。ウクライナの状況を含めて世界が大きく変わることも予想される。
◆日米関係の構築は首相次第
いずれにせよ、日本の安全保障という観点では、米国との関係を深めることが、中国、ロシア、北朝鮮といった非民主主義国家との戦争を避けるために重要だ。
そのためにはトランプに対応できる政治家が必要で、それは左に寄りすぎている首相では難しい。安倍元首相のようにトランプとうまく関係を構築できればまったく問題ないが、まさに首相次第だといえる。
日米同盟の強化や集団安全保障体制の構築もさることながら、中国、ロシア、北朝鮮が相互に協力しないようにくさびを打ち込むことも重要だ。最も交渉しやすいのは北朝鮮だが、それには拉致問題の完全解決が前提となる。
◆戦争回避のためには、極東アジア全体を俯瞰することが不可欠
極東地域に手が回らないロシアとも交渉する余地はある。安倍元首相の場合、三正面作戦(中国、ロシア、北朝鮮)を避けるため、まずはロシアとの関係改善を試みていた。
しかし、これはウクライナ侵攻の発生前のことで、西側諸国と基本的には同調しつつ個別問題では柔軟な姿勢だったが、このアプローチを再び試みることも一つの方法だ。
スウェーデンとフィンランドのNATO加盟によりバルト海が封鎖されたことで、ロシアが極東を重視する可能性が高まっている。そのため、日本にとってもチャンスがある。
いずれにせよ、対ロシア、対中国の戦略だけでなく、極東アジア全体を俯瞰して広い視点で戦略を考えることが必要だ。
<文/髙橋洋一 構成/日刊SPA!編集部>
【髙橋洋一】
1955年東京都生まれ。数量政策学者。嘉悦大学ビジネス創造学部教授、株式会社政策工房代表取締役会長。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年に大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(内閣総務官室)等を歴任。小泉内閣・第一次安倍内閣ではブレーンとして活躍。「霞が関埋蔵金」の公表や「ふるさと納税」「ねんきん定期便」などの政策を提案。2008年退官。菅義偉内閣では内閣官房参与を務めた。『さらば財務省!』(講談社)で第17回山本七平賞受賞。その他にも、著書、ベストセラー多数。YouTube「髙橋洋一チャンネル」の登録者数は123万人を超える。
本記事は『60歳からの知っておくべき地政学』の一部を再編集してお送りする。
◆北朝鮮とロシアの間で締結された条約
北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を続ける一方で、兵士をロシアとウクライナの戦争の最前線に派遣している。その理由は2024年6月に北朝鮮とロシアの間で「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結したからだ。
これは両国の有事における相互軍事支援を含む条約であり、事実上の軍事同盟とみなされている。
もっとも、金正恩総書記は「同盟」と表現しているが、プーチン大統領はそのように述べておらず、両国間には微妙な温度差が見られる。それでも、今回の北朝鮮によるロシア支援は条約の実行に他ならない。
◆北朝鮮のウクライナ派兵で朝鮮&台湾有事が同時勃発!?
一方で韓国はウクライナに武器支援を行っており、北朝鮮と韓国の間で間接的な戦闘が繰り広げられているともいえる。北朝鮮がロシアへの支援をさらに拡大すれば、韓国も対応を迫られ、現地に兵士を派遣する可能性も出てくる。
韓国と北朝鮮がウクライナで火花を散らすことになりかねず、それは近い将来の朝鮮半島有事を予見させるものだ。
もし朝鮮半島で有事が発生すれば、北朝鮮と同じ陣営である中国とロシアも行動を起こしてくる可能性があるので、日本有事は目前の危機となる。中国による台湾有事が起きれば、日本はまさに「ダブル有事」に直面しかねない。
◆NATOとアメリカの対応次第で大戦に発展する可能性も
北朝鮮のロシア支援に対して、NATO加盟32カ国は共同声明で「欧州・大西洋の安全保障に深刻な影響を及ぼし、インド太平洋地域にも影響を及ぼす」と警告。これにオーストラリア、日本、ニュージーランド、韓国、ウクライナも支持を表明している。
しかしNATOの本音としては、ロシアや北朝鮮が軍事的な行動を強化した場合、自分たちも積極的に対応せざるを得なくなることに懸念を抱いているように見える。アジアの問題までは面倒みきれないからアジアで処理してくれという立場だ。
もっとも、金正恩はトランプとの再対話を望んでいるだろう。トランプからみても、北朝鮮の切り崩しが一つの選択肢となるかもしれない。ウクライナの状況を含めて世界が大きく変わることも予想される。
◆日米関係の構築は首相次第
いずれにせよ、日本の安全保障という観点では、米国との関係を深めることが、中国、ロシア、北朝鮮といった非民主主義国家との戦争を避けるために重要だ。
そのためにはトランプに対応できる政治家が必要で、それは左に寄りすぎている首相では難しい。安倍元首相のようにトランプとうまく関係を構築できればまったく問題ないが、まさに首相次第だといえる。
日米同盟の強化や集団安全保障体制の構築もさることながら、中国、ロシア、北朝鮮が相互に協力しないようにくさびを打ち込むことも重要だ。最も交渉しやすいのは北朝鮮だが、それには拉致問題の完全解決が前提となる。
◆戦争回避のためには、極東アジア全体を俯瞰することが不可欠
極東地域に手が回らないロシアとも交渉する余地はある。安倍元首相の場合、三正面作戦(中国、ロシア、北朝鮮)を避けるため、まずはロシアとの関係改善を試みていた。
しかし、これはウクライナ侵攻の発生前のことで、西側諸国と基本的には同調しつつ個別問題では柔軟な姿勢だったが、このアプローチを再び試みることも一つの方法だ。
スウェーデンとフィンランドのNATO加盟によりバルト海が封鎖されたことで、ロシアが極東を重視する可能性が高まっている。そのため、日本にとってもチャンスがある。
いずれにせよ、対ロシア、対中国の戦略だけでなく、極東アジア全体を俯瞰して広い視点で戦略を考えることが必要だ。
<文/髙橋洋一 構成/日刊SPA!編集部>
【髙橋洋一】
1955年東京都生まれ。数量政策学者。嘉悦大学ビジネス創造学部教授、株式会社政策工房代表取締役会長。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年に大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(内閣総務官室)等を歴任。小泉内閣・第一次安倍内閣ではブレーンとして活躍。「霞が関埋蔵金」の公表や「ふるさと納税」「ねんきん定期便」などの政策を提案。2008年退官。菅義偉内閣では内閣官房参与を務めた。『さらば財務省!』(講談社)で第17回山本七平賞受賞。その他にも、著書、ベストセラー多数。YouTube「髙橋洋一チャンネル」の登録者数は123万人を超える。