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「趣味:刑務所見学」異色のグラドルが受刑者との文通を始めたワケ。「犯罪者を甘やかしている」という批判について思うことも

日刊SPA! 2024年12月20日 8時53分

 ミス東スポ2020グランプリに輝き、グラビアアイドルとしても活躍する緑川ちひろさん(31歳)。抜群のプロポーションと美しい顔貌からは想像もつかない活動をしている。刑務所見学だ。また4年ほど前から、受刑者との文通を開始。これまで手紙をやり取りした受刑者は30名近くになるという。法務省が行っている「社会を明るくする運動」の一環で、全国の刑事施設から刑務作業製品の販売などを行う全国矯正展においては、今年、トークショーのメンバーに選ばれた。
 一風変わった、けれども社会に必要な発信を続ける彼女に、刑務所の魅力と活動の根源にあるモチベーションを聞いた。

◆生まれながらにして悪い人はいないと思う

 緑川さんの父親は警察官。だが、家庭で仕事の話を父親の姿は見たことはないという。

「守秘義務などもありますし、家族にも父は何も言わない人でした。ただ、書棚に事件や刑務所にまつわる本があって、わりと小さいころから興味を持って読んでいた記憶があります」

 率直に、怖くなかったのか。緑川さんは真っ直ぐに答えを返してくる。

「怖さはなかったですね。私、基本的に性善説で生きているんです。生まれながらにして悪い人はいないと思うし、犯罪を犯してしまった人も、何かのきっかけが続いてそうなってしまっただけで、環境さえ整えばそうならなかったのではないかと考えています」

◆プロフィールの趣味欄に記入したのは…

 緑川さんが芸能界に入ったのは25歳のとき。大卒後に入社した会社を退職し、アルバイトをしているときにスカウトをされた。

「自分でもまったく気づかないうちに、入社した会社で頑張りすぎてしまって、うつ病を罹患してしまったんです。もともと好奇心は強い方で、スカウトされたときも、『新しい環境で頑張ってみたい』と思えました。

 しばらくはさまざまなオーディションを受けて、レースクイーンのお仕事などもさせていただきました。事務所でプロフィールを記入するとき、趣味を思い返していたなかに『刑務所』があったんですよね」

 緑川さんには語るだけの知識もある。好きな刑務所は「千葉刑務所」、理由は「設計者の山下啓次郎さんが好きなんです。千葉刑務所のほか、4つの監獄(当時)を作ったんです」ときた。

◆ファンレターがきっかけで受刑者との文通を開始

 あふれんばかりの“刑務所愛”は、こんな形で成就する。

「雑誌の『実話ナックルズ』さんで私が刑務所に関するコラムを書いていたら、受刑者の方からファンレターが届きました。そのときは本当に嬉しかったですね。それがきっかけで、受刑者の方との文通が始まりました。肉筆によるやりとりなので、そのときの相手の感情がみえる感じがして、さまざまなことを考えさせられます」

 受刑者と手紙をやり取りすると、こんな“ミニ知識”が次々に舞い込んでくるのだという。

「刑務所のなかで使われる独特の用語があって、一般社会ではわからないものも多いです。たとえば私が文通をして初めて覚えた刑務所用語は、『ガルウィング』ですね。これは、逮捕・連行されるときに羽交い締めにされて連れて行かれる様子を指したものだそうです。興味深いのは、刑務所や拘置所でみんなが楽しみにしている食事の話です。いろいろなアレンジをして食事を楽しんでいるらしくて。たとえばきな粉を水で伸ばしてパンに塗ったり、味噌汁にかっぱえびせんを入れてお麩のような食感を味わっていると教えてくれました」

◆批判の声について思うこと

 知られざる刑務所の内情。究極の“小ネタ”だが、受刑者たちの息遣いが聞こえてきそうでもある。こうした活動について、SNSなどを通して批判の声が寄せられることもあるのだと緑川さんは話す。

「最初に見てしまったのは、ある媒体の取材を受けたとき、SNSで告知をしたところに書かれたコメントでした。犯罪者を甘やかしているのではないか、という内容が批判の主なものです。私は犯罪行為を擁護もしないし、犯罪者を甘やかした事実もありません。ただ、一度過ちを犯した人を社会全体で排除しようとするのはどうなのだろう、という気持ちはあります。もちろん、被害に遭われた方が怒ったり許せないと考えたりすることは理解できるところです。しかし第三者の私たちまで冷静さを失って叩いてしまえば、更生できる人もできなくなってしまいます」

◆更生することは、本人のためだけでなく…

 更生の重要性について、緑川さんはこのように考えている。

「過去に犯罪を犯した人が更生することは、本人のためだけでなく、社会のためでもあると思います。もしも社会が受刑者を永劫許さなければ、再犯を招く可能性があります。そうなれば、被害者は増え続ける。更生は、被害者を増やさないための策でもあると私は思うんです。『社会が寛容であること』と、『犯罪者に甘いこと』は異なります。再び罪を犯す人を少なくして、多くの人にとって安心した暮らしができる世の中を実現することに繋がっているはずです」
 
 緑川さんにはこれからの目標があるという。

「今年は『全国矯正展』に初めて出演させていただき、こうした活動の意義を改めて認識しました。私の地道な活動がほんの少しでも世の中にとって犯罪や人権を考えるきっかけになるとすれば、嬉しいです。そして、更生しようと頑張っている人を世間が少しでも応援する空気になってほしいと心から願っています」

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 緑川さんは物怖じしない。おそらく彼女がみている世界に、“悪い人、“怖い人”がいないからだろう。とかく私たちは敵を大きく描き、頭のなかで相手を鬼に化けさせがちだが、果たして本当にそうか。誰しも人から生まれ、対話のできる心を持っているのではないか。異形として石を投げた瞬間に、赦しは遠ざかる。フラットな目線で見渡し、手を差し伸べる建設的な社会のあり方が求められている。

<TEXT/黒島暁生>

【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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