ネット上では、ほぼ毎回のように存在意義を問われている印象がある。今年度は12月10日に放送された『女芸人No.1決定戦 THE W』(日本テレビ系、以下、THE W)のことだ。
その論調のほとんどは、以下の問いかけに集約されている。
「M-1グランプリにも女性芸人は出場できるのに、なぜ女性専用の大会が用意されているの?」
たしかに、うなずける部分はある。「体力で闘うスポーツじゃないのだから、女性芸人だけで賞レースを開催するのは女尊男卑!」という雑な主張をしたいわけではない。女性芸人だけを囲い、そのなかでだけ優勝者を決めて「女性の活躍!」と謳うのは、逆にバカにしているようで女性の活躍を妨げかねない……という印象を受けるからである。
◆女性芸人だけの賞レースとM-1は共存するか?
一方、THE Wならではの存在意義を挙げることもできる。2024年大会からTHE Wのプロデューサーを務める日本テレビの片岡明日香氏は以下のように語っていた。
「男性優位とされてきたお笑い界の中で、女性芸人は勝負できる表現の幅が狭かっただけで、元々ポテンシャルはあった。だから『THE W』を女性だけの大会にしたことで、そういう本来の能力が遺憾なく発揮できるようになったと思っています(「CREA WEB」2024年12月10日)
おもしろさやテクニックのみが物差しのM-1では見落とされがちな、女性芸人ならではの世界観。それらを披露しやすいTHE Wという環境を用意し、堪能する。男子プロレスと女子プロレスが共存しているように、女性芸人限定の賞レースにしかない魅力が浮き出れば、その時点で大会の存在意義はきっと生まれるはずだ。
◆THE Wでよく見るネタの傾向がある
ところが、毎年、あまりそういうイベントにはなっていないから残念なのだ。たとえば、放送中から賛否を巻き起こした今年の最終決戦における各組のネタのセレクトについて。
SNSでは「3組全部が下ネタ!」と驚きの声が散見されたが、正直、別にそれはどうってことない。『キングオブコント2019』(TBS系)を制したのは下ネタを貫き続けるどぶろっくだったし、2021年に開催された『シモネタGP』(ABEMA)は楽しく見たものだ。芸人らがエロネタを競い合う『ゴッドタン』(テレビ東京系)の「ネタギリッシュNIGHT」は出色の企画である。下ネタという飛び道具を使ったものの、そのリスクほど笑いが起きなかったのがなにより悲しかった。
昔から下ネタ一本でやってきた紺野ぶるまはともかく、他の2組(にぼしいわしと忠犬立ハチ高)が「うんこ」と「官能小説」を題材に選んだのも驚きではあった。『キングオブコント2022』(TBS系)で審査員を務めた東京03・飯塚悟志が「キスは禁じ手だと思う」と出場者へ苦言を呈したように、少なくとも賞レースでは下ネタ(性的なネタ)から脱却する流れにある男性芸人と比較すると、興味深い現象だ。
もう一つ気になるのは、女性ならではの感性を織り込むネタがテンプレ化してしまっている現状。容姿を自虐するネタ、年齢を自虐するネタ、嫌な女あるあるのネタ、そして下ネタのことである。『R1グランプリ』(フジテレビ系)でフリップネタを見るときに似た既視感は、THE Wのほうでも覚えることがある。
女性にしかできないネタという観点でいえば、やはり吉住はスペシャルだった。
◆“無理に褒める審査員”とM-1とのコントラスト
THE Wを見て最も気になるのは、ネタ終了後の審査コメントだ。「女芸人No.1決定戦」と銘打っているわりに、良いものはいい・悪いものは悪いと本当のことを言う審査員がいないのだ。無理に褒めるところを絞り出しながらコメントを発しているし、負けた側を気遣って「どちらも僅差でした」とフォローすることが常。
これが、どうにもつらい。「出場者が未熟で弱い存在だから、悪く言うことはできない」と暗に言っているようなもので、見ていてすごくしんどいのだ。
あまりに酷評をして、出場者の今後にネガティブな影響を与えたくないのか? 相手が女性だから、炎上を恐れてキツいダメ出しをしないのか? 特に、男性審査員が女性芸人にビシッと言ってしまうと面倒くさい事態になりかねないのは事実。だから、「どちらもおもしろくて迷いました」というぬるいコメントが頻発した。
しかし、このモヤモヤは「審査員に気を遣わせるような芸はどうなのか?」と視聴者に悪い印象を与えかねない。大会自体の説得力を弱めている。
『M-1グランプリ』で審査員を務めた立川談志や上沼恵美子、現役審査員でいえば中川家・礼二らの直言と比べると、このコントラストはあまりに大きい。
◆低視聴率の原因は、平日放送だから?
2024年のTHE Wは世帯視聴率が6.6%、個人視聴率は4.1%だった。ちなみに、2023年大会は世帯視聴率が8.2%、個人視聴率は5.3%である。どうやら、2024年大会は歴代最低の視聴率になってしまったようだ。
理由をいくつか挙げることができるが、火曜日という平日に放送されたことはやはり大きいだろう。土曜日の日テレは21時からドラマが2本放送されており、日曜日は『ザ!鉄腕!DASH!!』と『世界の果てまでイッテQ!』が無類の強さを誇っている。THE Wは、これらのレギュラー放送よりコンテンツとして弱いと局に判断されたのだろう。
日テレに対しては、多くの人が抱いている印象がある。テレ朝にはM-1が、TBSにはKOCが、フジにはR1がすでにあり、お笑い賞レースのコンテンツを持っていなかった日テレが「他局と横並びになりたい」という思惑で後発ながら立ち上げたのがTHE W。この印象は今も拭うことができていない。
そんなTHE Wも今や、テレビに不可欠な女性芸人を発掘する場として機能している。優勝賞品に「日テレ人気番組出演権」があるように、『おもしろ荘』や『Nizi Project』(ともに日テレ系)とその構造は遠からずだ。つまり、この賞レースはテレビ的に内向きな機能を担う大会でもあるということ。
◆「未熟な状態でテレビに発掘される」がM-1との違い
吉本興業に所属する2004年結成の女性漫才コンビ「Dr.ハインリッヒ」の幸は、過去のインタビューでこう発言している。
=====
――女性芸人だけの大会『THE W』には出ないと宣言されていますよね。『M-1』と『THE W』にはどんな違いがあると思われますか。
「全てのレベルがもう違う。『THE W』が始まった時に、またなんでこんな余計なことを……ってすごく思ったんですよ。賞レースに出られない女の人に対して、じゃあテレビに出れる、賞金もあるっていうチャンスとして始まったじゃないですか。でもそれ、ものすごい的外れな優しさだと思う」
――的外れな優しさ。
「お笑いってやっぱり『おもろい/おもろない』でしかないから。すぐバレるんですよ。女だけで戦ってるから、まだ面白くない状態でも出れてしまう。あと数年、劇場で経験積んだらもっと面白い完成度のネタを作れたかもしれん子が、未熟な状態のまま決勝に出れてしまうんです。そしたら『やっぱ女はおもろない』てこき下ろせる便利な装置になってしまってるんですよ。これは余計なもん作りおったって思った。だけども、『THE W』を目指してがむしゃらに頑張ってる子はいるんです。その子たちのあり方は、もちろん応援してるんやけど。ただね、ちょっとね、頑張ってる女の子にももうちょっと気づいて欲しい。漫才かコントかその他か関係なく、ルール無用で女のみで競い合うって、かなり不自然な事ですよ。でも出たいんでしょうね、若い子は」
――点数ではなくどちらがおもしろかったかで審査する『THE W』では、審査員のコメントも「僅差だった」に終始することが多くて、そこも「的外れな優しさ」を感じるところではあります。M-1の出場者のように審査員から厳しく言われることもない。
「そうですね。結局やっぱり……奥底にあるんでしょう、チャンスになるというのが。他の大会の決勝に行けない子が決勝に行けて、なんやったら優勝もできるわけですから」
(「文春オンライン」2022年1月29日)
=====
経験を積めばもっとおもしろいネタをつくれたかもしれない芸人が「テレビに出られる!」とチャンスをつかむべく、未熟な状態のまま世へ出てしまう。でも、不自然なこのイベントの構造に気付いてほしい。そう、彼女たちは問うている。
◆おもしろい女性芸人は多いのに……
Dr.ハインリッヒの2人は、未熟なまま決勝へ上がれてしまうTHE Wの現状を「『やっぱ女はおもろない』てこき下ろせる便利な装置になってしまってる」と憂いた。
毎年、THE W開催後に感じることがある。「女性芸人のためという大義名分を掲げながら、この賞レースはむしろ女性芸人に悪い印象を与えているのでは?」と思うことが少なくないのだ。視聴者に変な偏見を植え付けたり、ネガキャンとして機能する恐れを否定できない。
言うまでもなく、おもしろい女性芸人はたくさんいる。アジアンやヨネダ2000らはM-1の決勝に進出した。『IPPONグランプリ』(フジテレビ系)で脚光を浴びたハリセンボン・箕輪はるかのセンスは特筆ものである。上沼恵美子や今いくよ・くるよは言わずもがな。なにより、今年のTHE Wの2日前に放送された『THE MANZAI 2024』(フジテレビ系)では、海原やすよ ともこが極上の漫才を見せつけたばかりだ。
言葉を選ばず書くと、女性芸人がつまらないのではなくTHE Wがいまいちなのだ。「女芸人No.1決定戦」という賞レースがある一方、2017年に上方漫才大賞を受賞した際に海原ともこが口にした「女芸人と呼ばれるのは嫌で、今後も漫才師と呼ばれ続けたい」という言葉は重い。
◆女性特有のおもしろさを放出するイベントになっていない
THE Wの片岡プロデューサーは、前述のインタビューでこのように発言している。
「これは自分が女だからかもしれないですけど、『女のほうが面白い』って思うんですよ。女のほうが複雑でわかりにくくて、奥深くて、面白くないですか?」(「CREA WEB」 2024年12月10日)
残念ながら、複雑でわかりにくくて奥深い女性特有のおもしろさを放出するイベントにTHE Wはなっていない。「M-1があるのに、なぜ女性芸人だけの大会を開く?」という指摘への回答を提示するに至っていない。
大したことを言えなくて悔しいが、来年以降も大会を続けるならばドラスティックな変化は絶対に必要だ。
<TEXT/寺西ジャジューカ>
その論調のほとんどは、以下の問いかけに集約されている。
「M-1グランプリにも女性芸人は出場できるのに、なぜ女性専用の大会が用意されているの?」
たしかに、うなずける部分はある。「体力で闘うスポーツじゃないのだから、女性芸人だけで賞レースを開催するのは女尊男卑!」という雑な主張をしたいわけではない。女性芸人だけを囲い、そのなかでだけ優勝者を決めて「女性の活躍!」と謳うのは、逆にバカにしているようで女性の活躍を妨げかねない……という印象を受けるからである。
◆女性芸人だけの賞レースとM-1は共存するか?
一方、THE Wならではの存在意義を挙げることもできる。2024年大会からTHE Wのプロデューサーを務める日本テレビの片岡明日香氏は以下のように語っていた。
「男性優位とされてきたお笑い界の中で、女性芸人は勝負できる表現の幅が狭かっただけで、元々ポテンシャルはあった。だから『THE W』を女性だけの大会にしたことで、そういう本来の能力が遺憾なく発揮できるようになったと思っています(「CREA WEB」2024年12月10日)
おもしろさやテクニックのみが物差しのM-1では見落とされがちな、女性芸人ならではの世界観。それらを披露しやすいTHE Wという環境を用意し、堪能する。男子プロレスと女子プロレスが共存しているように、女性芸人限定の賞レースにしかない魅力が浮き出れば、その時点で大会の存在意義はきっと生まれるはずだ。
◆THE Wでよく見るネタの傾向がある
ところが、毎年、あまりそういうイベントにはなっていないから残念なのだ。たとえば、放送中から賛否を巻き起こした今年の最終決戦における各組のネタのセレクトについて。
SNSでは「3組全部が下ネタ!」と驚きの声が散見されたが、正直、別にそれはどうってことない。『キングオブコント2019』(TBS系)を制したのは下ネタを貫き続けるどぶろっくだったし、2021年に開催された『シモネタGP』(ABEMA)は楽しく見たものだ。芸人らがエロネタを競い合う『ゴッドタン』(テレビ東京系)の「ネタギリッシュNIGHT」は出色の企画である。下ネタという飛び道具を使ったものの、そのリスクほど笑いが起きなかったのがなにより悲しかった。
昔から下ネタ一本でやってきた紺野ぶるまはともかく、他の2組(にぼしいわしと忠犬立ハチ高)が「うんこ」と「官能小説」を題材に選んだのも驚きではあった。『キングオブコント2022』(TBS系)で審査員を務めた東京03・飯塚悟志が「キスは禁じ手だと思う」と出場者へ苦言を呈したように、少なくとも賞レースでは下ネタ(性的なネタ)から脱却する流れにある男性芸人と比較すると、興味深い現象だ。
もう一つ気になるのは、女性ならではの感性を織り込むネタがテンプレ化してしまっている現状。容姿を自虐するネタ、年齢を自虐するネタ、嫌な女あるあるのネタ、そして下ネタのことである。『R1グランプリ』(フジテレビ系)でフリップネタを見るときに似た既視感は、THE Wのほうでも覚えることがある。
女性にしかできないネタという観点でいえば、やはり吉住はスペシャルだった。
◆“無理に褒める審査員”とM-1とのコントラスト
THE Wを見て最も気になるのは、ネタ終了後の審査コメントだ。「女芸人No.1決定戦」と銘打っているわりに、良いものはいい・悪いものは悪いと本当のことを言う審査員がいないのだ。無理に褒めるところを絞り出しながらコメントを発しているし、負けた側を気遣って「どちらも僅差でした」とフォローすることが常。
これが、どうにもつらい。「出場者が未熟で弱い存在だから、悪く言うことはできない」と暗に言っているようなもので、見ていてすごくしんどいのだ。
あまりに酷評をして、出場者の今後にネガティブな影響を与えたくないのか? 相手が女性だから、炎上を恐れてキツいダメ出しをしないのか? 特に、男性審査員が女性芸人にビシッと言ってしまうと面倒くさい事態になりかねないのは事実。だから、「どちらもおもしろくて迷いました」というぬるいコメントが頻発した。
しかし、このモヤモヤは「審査員に気を遣わせるような芸はどうなのか?」と視聴者に悪い印象を与えかねない。大会自体の説得力を弱めている。
『M-1グランプリ』で審査員を務めた立川談志や上沼恵美子、現役審査員でいえば中川家・礼二らの直言と比べると、このコントラストはあまりに大きい。
◆低視聴率の原因は、平日放送だから?
2024年のTHE Wは世帯視聴率が6.6%、個人視聴率は4.1%だった。ちなみに、2023年大会は世帯視聴率が8.2%、個人視聴率は5.3%である。どうやら、2024年大会は歴代最低の視聴率になってしまったようだ。
理由をいくつか挙げることができるが、火曜日という平日に放送されたことはやはり大きいだろう。土曜日の日テレは21時からドラマが2本放送されており、日曜日は『ザ!鉄腕!DASH!!』と『世界の果てまでイッテQ!』が無類の強さを誇っている。THE Wは、これらのレギュラー放送よりコンテンツとして弱いと局に判断されたのだろう。
日テレに対しては、多くの人が抱いている印象がある。テレ朝にはM-1が、TBSにはKOCが、フジにはR1がすでにあり、お笑い賞レースのコンテンツを持っていなかった日テレが「他局と横並びになりたい」という思惑で後発ながら立ち上げたのがTHE W。この印象は今も拭うことができていない。
そんなTHE Wも今や、テレビに不可欠な女性芸人を発掘する場として機能している。優勝賞品に「日テレ人気番組出演権」があるように、『おもしろ荘』や『Nizi Project』(ともに日テレ系)とその構造は遠からずだ。つまり、この賞レースはテレビ的に内向きな機能を担う大会でもあるということ。
◆「未熟な状態でテレビに発掘される」がM-1との違い
吉本興業に所属する2004年結成の女性漫才コンビ「Dr.ハインリッヒ」の幸は、過去のインタビューでこう発言している。
=====
――女性芸人だけの大会『THE W』には出ないと宣言されていますよね。『M-1』と『THE W』にはどんな違いがあると思われますか。
「全てのレベルがもう違う。『THE W』が始まった時に、またなんでこんな余計なことを……ってすごく思ったんですよ。賞レースに出られない女の人に対して、じゃあテレビに出れる、賞金もあるっていうチャンスとして始まったじゃないですか。でもそれ、ものすごい的外れな優しさだと思う」
――的外れな優しさ。
「お笑いってやっぱり『おもろい/おもろない』でしかないから。すぐバレるんですよ。女だけで戦ってるから、まだ面白くない状態でも出れてしまう。あと数年、劇場で経験積んだらもっと面白い完成度のネタを作れたかもしれん子が、未熟な状態のまま決勝に出れてしまうんです。そしたら『やっぱ女はおもろない』てこき下ろせる便利な装置になってしまってるんですよ。これは余計なもん作りおったって思った。だけども、『THE W』を目指してがむしゃらに頑張ってる子はいるんです。その子たちのあり方は、もちろん応援してるんやけど。ただね、ちょっとね、頑張ってる女の子にももうちょっと気づいて欲しい。漫才かコントかその他か関係なく、ルール無用で女のみで競い合うって、かなり不自然な事ですよ。でも出たいんでしょうね、若い子は」
――点数ではなくどちらがおもしろかったかで審査する『THE W』では、審査員のコメントも「僅差だった」に終始することが多くて、そこも「的外れな優しさ」を感じるところではあります。M-1の出場者のように審査員から厳しく言われることもない。
「そうですね。結局やっぱり……奥底にあるんでしょう、チャンスになるというのが。他の大会の決勝に行けない子が決勝に行けて、なんやったら優勝もできるわけですから」
(「文春オンライン」2022年1月29日)
=====
経験を積めばもっとおもしろいネタをつくれたかもしれない芸人が「テレビに出られる!」とチャンスをつかむべく、未熟な状態のまま世へ出てしまう。でも、不自然なこのイベントの構造に気付いてほしい。そう、彼女たちは問うている。
◆おもしろい女性芸人は多いのに……
Dr.ハインリッヒの2人は、未熟なまま決勝へ上がれてしまうTHE Wの現状を「『やっぱ女はおもろない』てこき下ろせる便利な装置になってしまってる」と憂いた。
毎年、THE W開催後に感じることがある。「女性芸人のためという大義名分を掲げながら、この賞レースはむしろ女性芸人に悪い印象を与えているのでは?」と思うことが少なくないのだ。視聴者に変な偏見を植え付けたり、ネガキャンとして機能する恐れを否定できない。
言うまでもなく、おもしろい女性芸人はたくさんいる。アジアンやヨネダ2000らはM-1の決勝に進出した。『IPPONグランプリ』(フジテレビ系)で脚光を浴びたハリセンボン・箕輪はるかのセンスは特筆ものである。上沼恵美子や今いくよ・くるよは言わずもがな。なにより、今年のTHE Wの2日前に放送された『THE MANZAI 2024』(フジテレビ系)では、海原やすよ ともこが極上の漫才を見せつけたばかりだ。
言葉を選ばず書くと、女性芸人がつまらないのではなくTHE Wがいまいちなのだ。「女芸人No.1決定戦」という賞レースがある一方、2017年に上方漫才大賞を受賞した際に海原ともこが口にした「女芸人と呼ばれるのは嫌で、今後も漫才師と呼ばれ続けたい」という言葉は重い。
◆女性特有のおもしろさを放出するイベントになっていない
THE Wの片岡プロデューサーは、前述のインタビューでこのように発言している。
「これは自分が女だからかもしれないですけど、『女のほうが面白い』って思うんですよ。女のほうが複雑でわかりにくくて、奥深くて、面白くないですか?」(「CREA WEB」 2024年12月10日)
残念ながら、複雑でわかりにくくて奥深い女性特有のおもしろさを放出するイベントにTHE Wはなっていない。「M-1があるのに、なぜ女性芸人だけの大会を開く?」という指摘への回答を提示するに至っていない。
大したことを言えなくて悔しいが、来年以降も大会を続けるならばドラスティックな変化は絶対に必要だ。
<TEXT/寺西ジャジューカ>