いよいよ2024年もあとわずか。年が明けると、確定申告の時期になります。
会社勤めをしている人は年末調整をすれば税金に関してはクリアになりますが、フリーランスの人はそうはいきません。
長きにわたって申告をしている人は問題ないかもしれませんが、今年からフリーランスになったという人は不安がいっぱいかもしれません。
昨年からインボイス制度も導入されるなど、確定申告初心者には大変な作業かもしれません。
そこで、『新しいフリーランスの歩き方』を上梓した元東京国税局職員でフリーライターの小林義崇氏に、フリーランスの税金対策法を教えてもらいました。
(この記事は、『新しいフリーランスの歩き方』より一部を抜粋し、再編集しています)
◆フリーランスの税金は会社員より重たいという現実
会社員を辞めてフリーランスになる人は、いずれ必ずお金に関する“不都合な真実”に直面します。
日本の法制度上、フリーランスは会社員よりもさまざまな点で不利です。フリーランスを続けたいのであれば、「会社員並みの収入があれば大丈夫」という考えはできるだけ早く捨てなくてはいけません。
その主な理由は、次の4点にあります。
1.経費が自己負担になる
2.税金の負担が増える
3.社会保険料の負担が増える
4.もらえる年金が少なくなる
◆自己負担を踏まえつつお金の使い方を考える
それぞれについて説明しましょう。
仕事をするには、さまざまな費用がかかります。ライターは比較的経費がかからない仕事ですが、それでもパソコンの購入費や、取材先に行く交通費、仕事場所の賃料などの費用がかかります。
こうした仕事のための費用は、会社員なら会社が経費として全額負担してくれるのが普通ですが、フリーランスは「全額自己負担」が基本です。
自己負担した経費を確定申告すれば、税金が減る効果はあるのですが、それでも全額が戻ってくるわけではありません。たとえば10万円のパソコンを買ったとして、節税効果はせいぜい3万円程度。つまり、節税効果を差し引いても7万円程度の自己負担が必要となるのです。
こうした自己負担を踏まえながら、フリーランスはお金の使い方を考えなくてはいけません。基本的な税金の計算方法を理解しておかないと、むやみに経費を払うことになり、“節税貧乏”に陥ってしまいます。
◆フリーランスが経費で節税できるは、大きな誤解
フリーランスは税金の負担も多くなりがちです。ときどき、会社員の人から「フリーランスの人は経費で節税できていいね」などと言われるのですが、これは大きな勘違いです。なぜなら、会社員には「給与所得控除」というフリーランスにはない特権的なルールがあるから。
会社員の給料は、収入に対してそのまま課税されるわけではありません。給与収入に応じて、55〜195万円の「給与所得控除」を差し引いて税金を計算します。
つまり、会社員は経費を引けない代わりに、給与所得控除を引けるのです。
前述のとおり会社員の経費は、通常は会社が支払ってくれます。にもかかわらず、55〜195万円もの給与所得控除を引けるわけですから、会社員は優遇されていると言っても決して過言ではありません。
しかも、万が一給与所得控除を超えるほどの経費を会社員が自己負担したなら、特定支出控除という制度を使って税金を下げることが可能です。
◆所得税や住民税だけでは済まない可能性も
一方、フリーランスには給与所得控除はなく、実際に負担した必要経費を差し引くのが基本です。後ほど説明する青色申告特別控除という制度を使っても、必要経費以外に引けるのは最大65万円までとなっています。
会社員なら、たとえば年収500万円の人は給与所得控除144万円を差し引いて所得税と住民税を計算します。しかし同じ500万円の利益をフリーランスとして得た場合、差し引けるのは青色申告特別控除の65万円だけ。
このような差があることで、会社員から独立をすると所得税や住民税の負担が多くなってしまうのです。
しかも、フリーランスの場合、所得税や住民税だけで済まない可能性があります。業種や売上規模などによっては、消費税や事業税という会社員であればまったくかからない納税を求められる可能性もあります。
それに、会社員は会社が年末調整で税金の手続きをしてくれますが、フリーランスになれば毎年自ら確定申告を行わなくてはいけません。このような手間がかかることも、フリーランスが不利な点と言えるでしょう。
◆青色申告すると、毎年65万円分の利益を無税に
フリーランスとして活動を続けるなら、「青色申告」はぜひとも使いたい制度です。これを使うことによって税金のみならず国民健康保険料の負担も抑えられます。
青色申告とは、「一定水準の記帳をし、その記帳に基づいて正しい申告をする事業者」に認められている制度で、これにより複数の節税方法を使えるようになるというものです。
この制度を利用するには、所轄税務署に開業届を提出したうえで、「青色申告承認申請書」という書面も提出し、承認を受ける必要があります。この手続きをせずにいると、「白色申告」という通常の方式で確定申告をすることになり、青色申告の節税メリットを受けられません。
◆具体的な節税効果はどのくらい?
青色申告の節税メリットは複数ありますが、なかでも基本となるのが「青色申告特別控除」です。
これを利用すると、本来は売上から必要経費を引いた利益に対して課税されるところ、利益から最大65万円の青色申告特別控除を引いて、税金を計算できるようになります。
具体的な節税効果は、65万円に税率を掛けると計算できます。
所得税の税率は所得金額に比例して変動しますが、仮に所得税と住民税を合計して30 %の税率とすると、65万円×30%=19万5000円が1年あたりの青色申告特別控除による節税効果です。これに加えて国民健康保険料を減らす効果もあります。
◆青色申告特別控除には3パターンある
青色申告特別控除の良いところは、「お金を一切払わずに課税所得を引き下げられる」という点にあります。必要経費を使って節税しても節税効果より大きな出費をともないますが、青色申告特別控除にはそうしたデメリットがありません。
なお、青色申告特別控除には、10万円、55万円、65万円の3パターンが存在します。最高額の65万円の特別控除を受けるには、複数の条件をすべて満たさなくてはいけません。
これらの条件をクリアするのは難しいことではなく、会計ソフトを使って記帳や電子申告を行えば、問題なく65万円の控除を受けられます。
【年間65万円の青色申告特別控除を受けるための条件】
1.青色申告承認申請書を期限内に提出していること
2.事業所得または不動産所得があること
3.複式簿記で記帳していること
4.損益計算書と貸借対照表を作成し、申告時に添付すること
5.確定申告を期限内に行うこと
6.e‒Taxでの電子申告または電子帳簿保存を行うこと
◆家族に仕事を手伝ってもらって節税する方法
次に「家族に支払う給料を全額必要経費にできる」という、青色申告の2点目のメリットを説明します。正式名称は「青色事業専従者給与」というものです。
個人でビジネスをしていると、家族に仕事を手伝ってもらうことがあるかもしれません。僕もフリーライターとして独立してから、妻に経理作業などを手伝ってもらっているので、給料を支払って必要経費にしています。
青色事業専従者給与の節税効果は給料の設定により、たとえば毎月8万円の給料を払えば年間96万円もの必要経費が増える計算です。これによって、青色申告特別控除をもしのぐ節税効果を得ることができます。
しかも、青色事業専従者給与は家族に払うわけですから、外のスタッフに払う給料とはわけが違います。青色事業専従者給与として支払った給料は、その後家庭の生活費として自由に使うことができます。
青色事業専従者給与を利用するには、「青色事業専従者給与に関する届出書」を事前に提出する必要があります。この書面に、給料の金額や支払うタイミングなどを記載し、そのとおりに給料を支払わないと必要経費にできないので注意してください。
◆高すぎる給料を設定してはいけない
ただし、いくら必要経費を増やしたいからといっても、働きに見合わない高すぎる給料を設定してはいけません。
たとえば一般的には時給1200円ほどの事務作業を月に100時間頼むのであれば、月給は12万円にすべきです。これをもし月給100万円などとしてしまうと、税務署から過大な給料と見られ、世間相場を超える給料は必要経費とは認められないのです。
それに、高額な給料を払った場合、受け取った人の税金や社会保険料が高くなるおそれがあります。むやみに高い給料に設定せず、仕事の内容から見て違和感がないように設定しましょう。
【青色事業専従者の条件】
1.青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること
2.その年の12月31日現在で15歳以上であること
3.その年を通じて6か月を超える期間(※) 、働ける時間の大半を青色申告者の事業のためにあてていること(※年の途中から従事する場合は、従事できる期間の2分の1を超える期間)
<文/小林義崇 構成/日刊SPA!編集部>
【小林義崇】
2004年に東京国税局の国税専門官として採用され、以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事。2017年7月、東京国税局を辞職し、フリーライターに転身。書籍や雑誌、ウェブメディアを中心とする精力的な執筆活動に加え、お金に関するセミナーを行っている。『僕らを守るお金の教室』(サンマーク出版刊)、『元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者』(ダイヤモンド社刊)ほか著書多数。公式ホームページ
会社勤めをしている人は年末調整をすれば税金に関してはクリアになりますが、フリーランスの人はそうはいきません。
長きにわたって申告をしている人は問題ないかもしれませんが、今年からフリーランスになったという人は不安がいっぱいかもしれません。
昨年からインボイス制度も導入されるなど、確定申告初心者には大変な作業かもしれません。
そこで、『新しいフリーランスの歩き方』を上梓した元東京国税局職員でフリーライターの小林義崇氏に、フリーランスの税金対策法を教えてもらいました。
(この記事は、『新しいフリーランスの歩き方』より一部を抜粋し、再編集しています)
◆フリーランスの税金は会社員より重たいという現実
会社員を辞めてフリーランスになる人は、いずれ必ずお金に関する“不都合な真実”に直面します。
日本の法制度上、フリーランスは会社員よりもさまざまな点で不利です。フリーランスを続けたいのであれば、「会社員並みの収入があれば大丈夫」という考えはできるだけ早く捨てなくてはいけません。
その主な理由は、次の4点にあります。
1.経費が自己負担になる
2.税金の負担が増える
3.社会保険料の負担が増える
4.もらえる年金が少なくなる
◆自己負担を踏まえつつお金の使い方を考える
それぞれについて説明しましょう。
仕事をするには、さまざまな費用がかかります。ライターは比較的経費がかからない仕事ですが、それでもパソコンの購入費や、取材先に行く交通費、仕事場所の賃料などの費用がかかります。
こうした仕事のための費用は、会社員なら会社が経費として全額負担してくれるのが普通ですが、フリーランスは「全額自己負担」が基本です。
自己負担した経費を確定申告すれば、税金が減る効果はあるのですが、それでも全額が戻ってくるわけではありません。たとえば10万円のパソコンを買ったとして、節税効果はせいぜい3万円程度。つまり、節税効果を差し引いても7万円程度の自己負担が必要となるのです。
こうした自己負担を踏まえながら、フリーランスはお金の使い方を考えなくてはいけません。基本的な税金の計算方法を理解しておかないと、むやみに経費を払うことになり、“節税貧乏”に陥ってしまいます。
◆フリーランスが経費で節税できるは、大きな誤解
フリーランスは税金の負担も多くなりがちです。ときどき、会社員の人から「フリーランスの人は経費で節税できていいね」などと言われるのですが、これは大きな勘違いです。なぜなら、会社員には「給与所得控除」というフリーランスにはない特権的なルールがあるから。
会社員の給料は、収入に対してそのまま課税されるわけではありません。給与収入に応じて、55〜195万円の「給与所得控除」を差し引いて税金を計算します。
つまり、会社員は経費を引けない代わりに、給与所得控除を引けるのです。
前述のとおり会社員の経費は、通常は会社が支払ってくれます。にもかかわらず、55〜195万円もの給与所得控除を引けるわけですから、会社員は優遇されていると言っても決して過言ではありません。
しかも、万が一給与所得控除を超えるほどの経費を会社員が自己負担したなら、特定支出控除という制度を使って税金を下げることが可能です。
◆所得税や住民税だけでは済まない可能性も
一方、フリーランスには給与所得控除はなく、実際に負担した必要経費を差し引くのが基本です。後ほど説明する青色申告特別控除という制度を使っても、必要経費以外に引けるのは最大65万円までとなっています。
会社員なら、たとえば年収500万円の人は給与所得控除144万円を差し引いて所得税と住民税を計算します。しかし同じ500万円の利益をフリーランスとして得た場合、差し引けるのは青色申告特別控除の65万円だけ。
このような差があることで、会社員から独立をすると所得税や住民税の負担が多くなってしまうのです。
しかも、フリーランスの場合、所得税や住民税だけで済まない可能性があります。業種や売上規模などによっては、消費税や事業税という会社員であればまったくかからない納税を求められる可能性もあります。
それに、会社員は会社が年末調整で税金の手続きをしてくれますが、フリーランスになれば毎年自ら確定申告を行わなくてはいけません。このような手間がかかることも、フリーランスが不利な点と言えるでしょう。
◆青色申告すると、毎年65万円分の利益を無税に
フリーランスとして活動を続けるなら、「青色申告」はぜひとも使いたい制度です。これを使うことによって税金のみならず国民健康保険料の負担も抑えられます。
青色申告とは、「一定水準の記帳をし、その記帳に基づいて正しい申告をする事業者」に認められている制度で、これにより複数の節税方法を使えるようになるというものです。
この制度を利用するには、所轄税務署に開業届を提出したうえで、「青色申告承認申請書」という書面も提出し、承認を受ける必要があります。この手続きをせずにいると、「白色申告」という通常の方式で確定申告をすることになり、青色申告の節税メリットを受けられません。
◆具体的な節税効果はどのくらい?
青色申告の節税メリットは複数ありますが、なかでも基本となるのが「青色申告特別控除」です。
これを利用すると、本来は売上から必要経費を引いた利益に対して課税されるところ、利益から最大65万円の青色申告特別控除を引いて、税金を計算できるようになります。
具体的な節税効果は、65万円に税率を掛けると計算できます。
所得税の税率は所得金額に比例して変動しますが、仮に所得税と住民税を合計して30 %の税率とすると、65万円×30%=19万5000円が1年あたりの青色申告特別控除による節税効果です。これに加えて国民健康保険料を減らす効果もあります。
◆青色申告特別控除には3パターンある
青色申告特別控除の良いところは、「お金を一切払わずに課税所得を引き下げられる」という点にあります。必要経費を使って節税しても節税効果より大きな出費をともないますが、青色申告特別控除にはそうしたデメリットがありません。
なお、青色申告特別控除には、10万円、55万円、65万円の3パターンが存在します。最高額の65万円の特別控除を受けるには、複数の条件をすべて満たさなくてはいけません。
これらの条件をクリアするのは難しいことではなく、会計ソフトを使って記帳や電子申告を行えば、問題なく65万円の控除を受けられます。
【年間65万円の青色申告特別控除を受けるための条件】
1.青色申告承認申請書を期限内に提出していること
2.事業所得または不動産所得があること
3.複式簿記で記帳していること
4.損益計算書と貸借対照表を作成し、申告時に添付すること
5.確定申告を期限内に行うこと
6.e‒Taxでの電子申告または電子帳簿保存を行うこと
◆家族に仕事を手伝ってもらって節税する方法
次に「家族に支払う給料を全額必要経費にできる」という、青色申告の2点目のメリットを説明します。正式名称は「青色事業専従者給与」というものです。
個人でビジネスをしていると、家族に仕事を手伝ってもらうことがあるかもしれません。僕もフリーライターとして独立してから、妻に経理作業などを手伝ってもらっているので、給料を支払って必要経費にしています。
青色事業専従者給与の節税効果は給料の設定により、たとえば毎月8万円の給料を払えば年間96万円もの必要経費が増える計算です。これによって、青色申告特別控除をもしのぐ節税効果を得ることができます。
しかも、青色事業専従者給与は家族に払うわけですから、外のスタッフに払う給料とはわけが違います。青色事業専従者給与として支払った給料は、その後家庭の生活費として自由に使うことができます。
青色事業専従者給与を利用するには、「青色事業専従者給与に関する届出書」を事前に提出する必要があります。この書面に、給料の金額や支払うタイミングなどを記載し、そのとおりに給料を支払わないと必要経費にできないので注意してください。
◆高すぎる給料を設定してはいけない
ただし、いくら必要経費を増やしたいからといっても、働きに見合わない高すぎる給料を設定してはいけません。
たとえば一般的には時給1200円ほどの事務作業を月に100時間頼むのであれば、月給は12万円にすべきです。これをもし月給100万円などとしてしまうと、税務署から過大な給料と見られ、世間相場を超える給料は必要経費とは認められないのです。
それに、高額な給料を払った場合、受け取った人の税金や社会保険料が高くなるおそれがあります。むやみに高い給料に設定せず、仕事の内容から見て違和感がないように設定しましょう。
【青色事業専従者の条件】
1.青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること
2.その年の12月31日現在で15歳以上であること
3.その年を通じて6か月を超える期間(※) 、働ける時間の大半を青色申告者の事業のためにあてていること(※年の途中から従事する場合は、従事できる期間の2分の1を超える期間)
<文/小林義崇 構成/日刊SPA!編集部>
【小林義崇】
2004年に東京国税局の国税専門官として採用され、以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事。2017年7月、東京国税局を辞職し、フリーライターに転身。書籍や雑誌、ウェブメディアを中心とする精力的な執筆活動に加え、お金に関するセミナーを行っている。『僕らを守るお金の教室』(サンマーク出版刊)、『元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者』(ダイヤモンド社刊)ほか著書多数。公式ホームページ