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回転寿司チェーンで“ひとり負け”状態のかっぱ寿司。大手3社と分かれた明暗――ニュース傑作選

日刊SPA! 2024年12月22日 8時43分

2024年、反響の大きかった記事からジャンル別にトップ10を発表。企業や業界の実態から2024年を振り返る「経済ニュース」部門、好評につき延長の第12位の記事はこちら!(集計期間は2024年1月~10月まで。初公開2024年7月26日 記事は取材時の状況、ご注意ください) *  *  *

 1兆円市場に迫る回転寿司市場。ここまで拡大できた要因は、高級だった寿司を低価格で提供できるシステムを確立し、幅広い客層に支持されたからである。厨房に調理ロボットなどの機械を導入し、未経験者でも調理できるようにし、ネックだった人件費の高い職人が必要ないコックレス体制を確立。

 案内~注文~会計までを無人でできる仕組みも確立し、ホールの人件費も抑制。そして実現した業務プロセスの自動化・省力化で、安価で価値ある寿司を中心に品数を増やし、店の価値を高めてきたからだ。今回はスシロー、くら寿司、はま寿司の上位3社と、下剋上を狙う魚べい、かっぱ寿司の2社を分析したい。

◆各チェーンが粗利ミックスを有効活用

 回転寿司チェーンの洗練されたビジネスモデルは世界から注目されており、インバウンド効果で急増中の外国人旅行者にも大人気だ。店の特徴としては、売価は均一価格で注文しやすくしているが、原価は均一ではないために原価率70%もあれば20%もあるなど、ばらつきが大きく、トータル原価率で40~50%になっている。

 ネタが小さければ顧客不満足の主要因になる一方で、ネタに原価をかけ過ぎれば採算が合わず、店の経営が継続できなくなる。この加減が難しいが、同質化競争の中で、各社が知恵を絞り、競争優位性の確保に力を注いでいる。

 例えば、スシローの看板ネタであるマグロは原価60%を超え、こればかり食べられると原価的には厳しく、何とか低原価のネタと組み合わせて原価調整しているが、それでもスシローの原価は50%である(公式サイトより)。各店が、原価率の異なる商品をトータルで管理し、利益を創出するために、粗利ミックスを有効に活用している。ちなみに客単価は1000円程度で、1000円あれば満足できる業態だ。

◆業界を競争地位的に分析してみると

 国内店舗数では、1位の「スシロー」642店(24年4月時点)、2位「はま寿司」570店(23年6月時点)、3位「くら寿司」546店(24年3月時点)、4位「かっぱ寿司」311店(2024年7月5日時点)、5位「魚べい」169店(2024年6月時点)となっている。

 売上では1位「スシロー」3017億円(FOOD&LIFE、23年9月期)、2位「くら寿司」2114億円(23年10月期)、3位「はま寿司」1971億円(ゼンショーHD、24年3月期)となっており、上位3社で売上が6931億円でシェア75%と、市場(9250億円)を牽引している。

 4位の「かっぱ寿司」722億円(カッパ・クリエイト、24年3月期)、5位「元気寿司グループ」618億円(魚べいと元気寿司、24年3月期)も含めると上位5社だけで8442億円(海外市場含む)となっている。コロナ収束後の回転寿司の上位チェーンの成長は著しく、上位5社だけで、1兆円を超えるのは時間の問題だ。

◆売上を伸ばし続ける「スシロー」

 スシローは回転寿司業界のリーダーで、売上の推移を見ると5年前(2019年)は1990億円だった売上が、2020年2049億円、2021年2408億円、2022年2813億円、2023年3017億円と順調に増加させており、5年間で売上を1027億円(51.6%増)増やしており、成熟化した外食業界の中での急拡大には驚きだ。

 2024年期に入っても10~3月の上半期で前年比は、売上118.7%、客数115.6%、客単価102.6%と前年を上回っており、4~6月の第3四半期も売上110.1%、客数111%と前年2桁超えしている。

 ただし、客単価は前年比99.3%と下回っている。40周年感謝祭として100円寿司を多数投入したことが主要因と推察され、特に6月の客数は前年に対して18%伸ばしているが、客単価は2.6%減らしている。

◆コラボ企画で首位を追随する「くら寿司」

 海外を含めた総店舗数は2位だが、国内店舗数は3位のくら寿司。業績は売上2114億円、営業利益24億円(23年10月期)となっている。2024年度は前年を上回る好調さを維持しており、上半期を終えた2023年11月~2024年4月の業績を見ると、売上1160億円、営業利益56億円と前年同期比では売上は114.0%と14%増の2桁成長である。営業利益率は4.9%で、営業利益では前年が▲12億円の赤字だったから68億円増えたようだ。このように今期第2四半期は売上・利益と共に過去最高を更新した。

 国内ではもともとの強みであるまぐろ、カニなど質の高い商品を中心にしたフェアの展開、大人気キャラクター「ちいかわ」や人気アニメ「名探偵コナン」とのコラボ企画の実施で売上が伸びている。経費管理も前年同期比で原価が45.5%→40.9%と4.6%と抑制できているのが、営業利益の上昇要因だ。

 また衛生管理を強化しており、食の安全性に力を入れている。鮮度くん(寿司カバー)に上部のQRコードによる製造時間制限管理システムと、長時間レーン上に置かれた寿司を廃棄するシステムも導入。客が皿を投入口(皿カウンター)に入れることで自動的に回収され、同時に枚数がカウントされる。テーブル席に5皿ごとにカプセルトイの景品が当たる抽選機「びっくらポン」も子供さんに人気で大人も楽しんでいる。

 全店舗に店舗支援システムがあり、本部から全店舗を見て、運営に援助を受けられる。115円均一価格を維持させるための対策として、粗利益が確保できるらーめん・丼物・デザートなど販売。寿司だけでなく、追い鰹醤油らーめん、天丼、うな丼といったメニュー拡充を図りながら原価を適切にコントロールしている。

◆DX推進で利益を伸ばす「はま寿司」

 すき家などを運営する外食売上ランキング首位のゼンショー。回転寿司事業への参入を目的として、はま寿司を2002年10月に設立した。なお、ゼンショーは以前かっぱ寿司やあきんどスシローを傘下としていたが、現在は資本関係を解消している。

 2019年頃より寿司全皿平日90円キャンペーンを実施して価格競争を仕掛けたが、物価高騰などの理由で2022年6月に終了した。従業員の負担軽減を目的に「Pepper」を設置して話題にもなっている。

 メニューはお寿司の100円(税込110円)を基本とし、品目は90種類程度で、味噌汁・ラーメン・うどん・ケーキなども提供。他店とほぼ同質化しているように見える。

 業績は、売上は前年1695億円(2023年3月期)に対して1971億円(2024年3月期)と、前年同期比116.3%と伸ばしており、営業利益も前年84億円(2023年3月期)に対して114億円(2024年3月期)と、前年同期比135.5%に伸ばしている。売上より利益の伸びが大きいのは、DXの積極的な推進が、効率性をさらに高めているのが推察される。

◆圧倒的収益力の親会社。「魚べい」も好調!

 元気寿司グループが運営する「魚べい」も人気である。回らない回転寿司を標榜し、各テーブルには特急レーンで届ける仕組みである。

 ちなみに元気寿司グループの親会社は伸明ホールディングスで米の卸売り事業を展開する非上場企業である。寿司にシャリはつきものだ。米の卸会社が垂直統合で回転寿司チェーンを展開するのは、親会社と子会社がシナジー効果を発揮し、利益を享受し合うだろう。

 伸明はアグリフード・バリューチェンの構築を目的に川上事業(生産者支援)・川中事業(食の加工)・川下事業(中食と外食に参入)を垂直統合した食関連の多角化を実践している。ちなみに親会社の神明は営業利益率49.8%とほぼ半分が利益という圧倒的な収益力である。

 国内外で426店舗出店している。内訳は、国内185店、海外241店と海外のほうが多い。ブランド別では国内は魚べいが169店、元気寿司は9店と国内は魚べいブランドに経営資源を集中しているようだ。しかし、海外では逆に元気寿司が225店、魚べいが6店、千両が26店となっており、地域ごとにブランドの棲み分けを行っているようだ。

◆競合他店とは違う儲ける仕組みが確立

 魚べいの決算資料(2024年3月期)から業績を見ると、売上618億円、営業利益49億円、営業利益率8.0%と、大型回転寿司チェーンの平均値である5%を3%も上回っており、競合他店とは違う儲ける仕組みが確立されているようだ。

 2024年3月期の業績は、売上618億円、原価254億円(原価率 41.1%)、粗利益364億円(粗利益率58.9%)、販管費 315億円(販管費比率 50.9%)、営業利益49億円(営業利益率8.0%)となっており、自己資本比率は33.5%と財務構造の適否から見ても問題はない。

 商品面では、実際に食べてその良さが分かるが、ネタの大きさと価格の安さには満足度が高い。スシローが看板商品として力を入れるマグロも価格は10円高いがネタの大きさと鮮度から比較しても遜色がない。回転寿司もこれだけ競争が激しくなると、メニュー内容や各商品の価値に差がなくなり、価格も含めた実質的価値の勝負になってくる。

 しかし、魚べいにこれだけお客さんが集まるのを見ると、多くの人にその価値が認められているということだろう。原価率もあれだけネタが大きいのに、回転寿司にしては低く安定しており、店舗の原価管理能力の高さと親会社の支援体制が強力なのが推察される。

◆巻き返しを図る「かっぱ寿司」

 1994年は回転寿司業界のリーディングカンパニーだった「かっぱ寿司」。頻繁に流れていたあのCMソングを懐かしむオールドファンも多い。低迷した原因は総菜事業など業容拡大に励んだものの、競合他店より広めでムダの多い空間で、経営効率が低下し、業績低迷に陥った。

 そこで業績向上のために手っ取り早く原価を抑制して利益確保に努めたが、お客さんから商品への不満が増えて、さらに業績が悪化した。そういった状況下で、革新的なビジネスモデルで追随してきた大手3社に差をつけられてしまったのである。

 今は外食業界売上5位のコロワイド傘下で、グループ企業との連携を強化しながら、リブランディングに力を注いでいる。業績は売上722億円、営業利益17億円、営業利益率2.4%となっており、上位3社にはまだ差をつけられている。

 しかし、タレントを起用したテレビCM、 価格競争力の維持、100円商品を100種以上取り揃えた商品の魅力度強化、名店とのコラボレー ション商品や贅沢感のあるネタで巻き返しを図っている最中である。2024年に入って第一四半期は推移は売上105.5%、客数103.5%、客単価102.0%と、わずかながらでも伸ばしており、特に直近の6月は売上17.6%、客数14.5%と著しい伸びで、今後に期待できそうだ。

◆生産性向上に向け、飲食店DXを各店が競う

 現在は業界横断的な人手不足もあり、オペレーションの効率化を課題に、飲食店DXの推進を各店が競っている。予約はスマホ、席案内はデジタル案内板、注文はタッチパネル、料理提供はベルトコンベア、会計はセルフレジと、人に依存しない効率的なシステムで運営されている。

 お客もこのスタイルに慣れ親しんで、何の違和感もなく普通に楽しんで食事をしており、店側の業務効率化によるコスト削減のメリットがさらなる商品価値の向上に繋がることを期待したい。

 原材料高、エネルギーコスト高、円安、人手不足と賃金上昇機運の高まりなどで、飲食店の事業運営には大きな逆風が吹いている。何でも値上がりする環境の中で、いかに損益分岐点の低い店作りをするかが栄枯盛衰の分岐点になる。人とロボットとの最適な協働体系を確立し、販管費の低減に向け効率的なオペレーションを追求してほしい。

◆回転寿司業界の将来!

 これからも各社が競い合って、市場のさらなる拡大が予想される。各店が成長に向け、①仕入れ力の強化、②顧客に魅力ある品揃えの強化と自店の適正な利益確保、③DXも含めたオペレーションの強化に磨きをかけて競争優位性を獲得するであろう。

 回転寿司業界を取り巻く環境では、まず供給面で地球温暖化や海洋汚染から、水産資源保全の観点からも、海産物たちが生きている海を何とかしないといけない。海水温の上昇や世界的な人口増加、ウクライナ危機などを背景に、漁獲量の減少や魚価格の高騰が、回転寿司の経営を圧迫することが懸念される。

 需要面でも、日本人の魚離れが深刻で20年間で半減しているそうだ。生臭い、調理が大変などが主な原因だが、昔と違い元気な高齢者が多く、肉食が増えているのは事実で、ネタの種類も魚から肉系が増えているようだ。もちろん、家庭で食べなくなった分を、安く食べさせてくれる回転寿司チェーンへの来店が増えるかもしれない。こういった環境から、今後の需給バランスがどう変化するかは難しいところだ。

<TEXT/中村清志>

【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan

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