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“ミス慶應2024準グランプリ”の28歳女性が、「もったいない」と周囲に言われても、まずは「高卒で働くことにした」理由

日刊SPA! 2024年12月23日 8時54分

 市井の人々に取材し、人間関係や受験、恋愛などの岐路に立ったときの選択を取り上げる『Life Compass』というメディアがある。過度に悲惨な話でもなければ自慢に満ちた成功譚でもなく、より身近に感じられる点があらゆる世代から支持されている。 
 運営を担う土川満里奈さんは現在、慶應義塾大学に通う4年生。先日行われた同大学のミスコンでは、準グランプリに輝いた美貌を兼ね備える。一方で、高校卒業後、6年経ってから大学へ入学するなど、経歴も目を引く。彼女はなぜ、「著名人や有名人ではない人たちの選択」に焦点を当てたのか。

◆母校では「大学に行くのは当然」の空気が

――『Life Compass』、その人の人生のターニングポイントに着眼して記事が作られているので、とても興味深く拝読しています。まず、土川さんがこうしたメディアを立ち上げようと思ったいきさつを教えてください。

土川満里奈(以下、土川):ありがとうございます。簡単にいうと、自分が学生時代に「こういうメディアがあったら良かったな」と思うものを今作っている感じです。 私は愛知県名古屋市に生まれ、そのまま県内の進学校に通っていました。「大学に行くのは当然」という空気があって、実際、同じ高校から高卒で働いた人を私以外に知りません。当時の相談できる大人といえば、親、教員、塾の先生でしたが、いずれも大卒なんですよね。 

 もちろん真剣に相談に乗ってくれるし話も聞いてくれるのですが、「大学へ行ったほうがいい理由」は教えてくれても、高卒で働くという選択肢については詳しく知らないため、具体的なアドバイスをもらうことはできないんですよね。世の中には高卒で働いている人が大勢いて、その人たちが支えている部分も大きいのに。

◆高卒で働くのは「もったいない」と言われた

――当時の土川さんは高卒で働きたいと考えていたわけですか。

土川:というよりも、何も考えずに大学へ進学したくなかったんです。やりたいこともないのに、親がお金を出すからといって大学へ行くのは、私にはできませんでした。もしこのまま大学に進学したら、つまづいた時や辛くなった時に「誰かのせい」にしてしまうかもしれない。そう考えると、自分で選んだ道を歩みたかったんです。それで、高卒で働くことにしたんです。

――友人の反応などはどうでしたか。

土川:昔から勉強は好きだったし、成績もいい方でしたので、「もったいない」と言われました。塾の先生からも同じような反応をされました。けれども、勉強したことが無駄になっているわけではないし、この先の人生で大学へ絶対に行かないと決めたのではなく、あくまで「今は行かない」という選択をしただけなので、自分の中では特にそこまで大きな決断をしたとは思っていなかったですね。

◆社長秘書などを経て、大学進学を決意

――高卒後は、どんなお仕事をされていたのでしょうか。

土川:いろいろな仕事を経験しました。社長秘書をやり、次に営業職を経験し、カスタマーセンターで勤務したこともあります。働くことはとても楽しかったですね。

――社長秘書って重責ですね。

土川:社長が各地で講演会に呼ばれる方だったので、原稿の校正作業をしたり、YouTubeの動画編集をしたり、アルバイトの子たちの勤怠や業務の管理なども任されていました。とてもいい経験だったなと思います。

――かつて行かない選択をした大学に進学しようと思ったのはなぜですか。

土川:社会人をやっていくなかで、楽しいなかにも閉塞感を感じるようになっていました。将来にわたってずっとやりたいものに出会いたいとも思いました。いろいろな仕事をしていくなかで、「誰かの問題を解決して力になりたい」っていう気持ちがどんどん強くなっていったんです。

 大学に行こうと思ったのには大きく2つ理由があって、ひとつは、社会人になっても気分転換に数学の問題を解いてるくらい、やっぱり数学が好きで、それを活かせたらいいなと思ったこと。もうひとつは、情報学を学ぶことで、もっと多くの人の役に立てたり、いろんな課題解決に関わることができるんじゃないかと感じたことです。そんな思いを叶えるための第一歩として、大学進学を選びました。

◆東京の街並みを見ると高揚する

――地元を離れて進学するのに不安はありませんでしたか。

土川:高校卒業後、東京で働いていたんですよね。

――地元にも仕事はあると思いますが、高卒後に東京で働いていたのはなぜでしょう。

土川:東京の街並みを見ると高揚するんですよね(笑)。それは昔からそうです。今ではすっかり慣れちゃって、その高揚感はあまり感じなくなりましたが(笑)。小学校くらいから家族で東京を訪れることが多くて、そのたびに東京の雰囲気にテンションが上がっていました。中学生になってからの休日は、単身で夜行バスに乗って東京に出て、また夜行バスで帰るみたいなことをやっていました。

――中学生がひとりで東京に出てきて、何をやっていたのかすごく気になるのですが。

土川:特に大崎駅が大好きで、よく訪れていましたね。お気に入りのカフェで問題集を広げて解いたりとか。とにかく、「街並みに溶け込んでいる自分」になりたくて、通っていた感じでしょうか(笑)。

――やりたいことを必ず達成する人だということだけはわかりました(笑)。

土川:それはあるかもしれません。特別なにか経験したわけではないのに、死ぬときに「あのときこうしておけば良かった」と思いたくないっていうのがすごくあって。だから進路に関しても、今は高卒で働く方が良いと思ったら実行するし、大学で学びたくなればそうしてきました。そうした選択が自分の納得のいく人生につながっていると思っています。

◆新鮮だった「ミスコンの世界」

――ミスコン応募は、何か思いがあってのことですか。

土川:ちょうど就職活動をしていた時期で、新しい何かを始めたくなったのがきっかけです。それまで、SNSもほとんどやったことがなく、自撮りもしないしインスタ映えするカフェもいかないのでフォルダに写真があまりないような人間でした。ファイナリストに選ばれてからはSNSを中心に写真アップや動画配信を頻繁にしなければならないので、これまで生きてきた世界と違い、新鮮でしたね。出場者の立場からミスコン運営をみる機会もあり、さまざまなことを考えるきかっけになりました。それから、自分のこれまでの経験を活かして取り組めたことで、やりがいを感じました。

◆無理をして大学へ進学する必要はないが…

――かつてあえて高卒を選んだ土川さんですが、次の春に慶應義塾大学を卒業されます。今の土川さんから、大学に入るメリットをあげるとすれば何でしょうか。

土川:私は今も、無理をして大学へ進学する必要はないと考えています。ただ、「やりたいことがないから見つけに行く」という人が大学に進学するメリットは確かにあると感じました。 大学は、授業を受けているうちにさまざまな知識を与えてくれて、知的好奇心を刺激してくれる場所です。そしてバラエティに富んだ友人もできるので、一緒に何かを考えたり議論するのはとても楽しい時間でしたね。  

 Life Compass運営や自分の経歴をSNSで発信していると、「進路で迷っていたけど、“自分軸”で決めようと思えた」と言っていただけることが多いです。それを聞くととても嬉しいですね。 ただ、自分の意見を闇雲に押し通すのではなく、周りの方の意見にも耳を傾けたうえで、最終的に自分で決断することが大切だと思います。 とりあえず決めたなら全力でやってみる。そうすれば、たとえうまくいかなかったとしても学ぶことは多く、自分の人生を生きられると思います。

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 人は誰しも時間の経過とともに考え方を変える。あのとき最善と踏んだ手が、現在もなお最善とは限らない。人生はたびたび選択を迫られるが、正解不正解は揺蕩っていて一概にいえない。 

 そう考えると、土川さんは胆力がありながら実に柔軟性に富んでいる。物事を深く考察し、ひとつの考え方に縛られることなく後から“正解”を手繰り寄せる方法を本能的に知っている。 

 来春、土川さんはエンジニア/データサイエンティストの仕事に就くのだという。科学の力によって、多くの人が生きやすい世の中になればと笑った。 

 しがらみに囚われない発想と度胸、何より持ち前の行動力によって、社会の「あったらいいな」に手が届くまでを彼女はきっと突き進む。

<取材・文/黒島暁生>

【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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