スーパーの生鮮コーナーには、数多くの“魚商品”が並んでいる。例を挙げると、切り身、骨を抜いた「骨なし魚」や「骨取り魚」、さらには最近では、焼くだけで食卓に出せる「半製品」の魚もよく見かける。どれも便利で気軽に食べられるものだが、魚という食材のおもしろさや調理の楽しさを感じにくいもの。
一方で、東京・御徒町の「吉池(よしいけ)」や、新潟発祥の「角上魚類」が注目を集めている。いずれも新鮮さに定評があるスーパーであり、加工前の魚を買っていく客が絶えない。一から捌いて調理するような玄人志向の人は一定数存在するのだろう。
できればなるべく新鮮なものを選びたいものだが、一般人の場合、なかなかそうもいかないのが実情。そこで、本記事ではプロに聞いた「おいしい魚の見分け方」を紹介したい。
◆「目が澄んでいるもの」を選べば間違いなし
話を聞いたのは、羽田市場の創業者・社長の野本良平氏。野本氏は外食産業などで経験を積んだ後、2014年に羽田市場を創業。鮮魚の独自流通システムを構築し、朝に漁獲された鮮魚をその日のうちに空輸する「超速鮮魚」というビジネスモデルで注目を集めている。「ととけん」(日本さかな検定)の最難関である1級を持ち、切身からでも高確率で魚種を当てる“魚界のレジェンド”である。
野本氏によると、すべての魚に当てはまる見分け方があるという。
「目が澄んでいるものを選べば間違いありません。魚の目には透明なゼリー状の部分があり、ここが濁っているもの、充血して赤くなっているものは状態が良くありません。魚の目が赤くなる原因はいくつかあり、一つは網の中で暴れたことにより傷ができたり、内出血したりといったことが考えられます。また、輸送中や水槽内でほかの魚とぶつかる事故やストレスも、目が赤くなる原因の一つです。鮮度が劣化している懸念もあります」(野本良平氏、以下同じ)
エラの赤さや体の色も、鮮度を見分ける重要なポイントである。新鮮な魚のエラの内側は鮮やかな赤色をしている。また、魚の体を触ったときに弾力があることも新鮮さの証だ。もちろん、スーパーなどで魚を触るわけにはいかないので、体の色がきれいか、ウロコがはがれていないかをチェックすることをおすすめしたい。
◆アジは「色味」で判断すべし
おなじみのアジは、体の色味で味の良し悪しがわかるという。
「ヒレの色で見分けるのが重要です。ヒレは黒っぽいものより、明るい黄色をしているものを選びましょう。それから、小顔でしっかり太っているものが良いです。できるなら横から見て、身の幅が厚く、盛り上がってボリューム感のあるものがおいしいです。これらの特徴を備えたものを選べば絶対に失敗しません」
◆サンマで迷ったら「横から見てみよう」
さて、サンマはどうだろう。今年は当たり年だが、それでもスーパーや鮮魚専門店で見ても総じて小さめで頼りない。
「一般には、細めのものしか流通していませんよね。良く太ったものは揚がってはいるんですが、高級料理店にしか買えない高値で取り引きされています。見分けとしては、こちらも目が透き通ったものを選びましょう。『クチバシが黄色いものが良い』といいますが、ほぼすべて黄色いのであまりアテになりません。頭からつながる胴体部分が盛り上がっているものは最高です。横から見て厚みがあるものは脂の乗りが抜群ですよ」
サンマといえば、なんといっても塩焼きである。試行錯誤の末に編み出した最高の焼き方、食べ方があるという。
「体全体に塩を塗り、5分ほど置いてから焼くのが最もおいしいとわかりました。焼けたら頭から尻尾に向けて箸で押さえながら身をほぐしていくと、身から骨がするっと外れます。添え物の大根おろしに醤油をかけ、少しずつ身に乗せながら食べましょう。この方法を小学生への出前授業で教えると、みんな大喜びで骨まで食べてくれるんですよ」と教えてくれた。
◆ブリの切り身は「大きいもの」を
ブリは非常に大きな魚で、成魚になると1メートルを超えることも。そのため、スーパーや鮮魚店では主に切り身で見かけることが多い。
「切り身の色が鮮やかで透明感があるものを選びましょう。養殖物は特に色変わりが早いです。ドリップと呼ばれる赤い汁が出ているものは、鮮度が落ちています。それから、ブリは本来大きな魚なので、切り身から本体を想像し、これはきっと大きいと感じさせるものを選ぶと良いでしょう。ブリは成長に合わせて呼び名が変わる魚です。関東ではワカシ、イナダ、ワラサ、ブリ、関西ではモジャコ、ワカナ、ツバス、ヤズ、ハマチ、メジロ、ブリなどと呼ばれます。店によっては、ブリと呼べるサイズに達していないものも、ブリとして販売していることもあります」
ブリの切り身には腹側と背側の部分があるが、好みで選べば良い。
「腹側は皮が白っぽく、身に網目のように白い脂肪層が入っています。こってりとした濃厚な味わいで、柔らかく、口の中でとろけるような食感を楽しめます。一方、背側は皮が黒っぽい色をしています。こちらは脂が少なめで、身が締まっています。背側、腹側のどちらを選ぶかは好み次第です。2種類買って、家族で取り分けながら部位ごとに食べ比べるのも楽しみの一つです」
◆イカは「目が澄んで傷が少ないもの」を
今ではすっかり高級品になったスルメイカ。スーパーではアメリカオオアカイカなどの輸入品が目立つが、スルメイカやヤリイカなどの旬の国産品を見つけたら、次の方法でいいものを選んでおいしく食べてほしい。
「イカの口の部分は『イカトンビ』と呼ばれ、鳥のトンビのような鋭い歯を持っています。定置網で獲ったイカは、網の中でイカ同士が咬みつき合うことがあります。刷り物でもイカ同士が咬み合うことがあります。だからイカは傷ができやすいのですが、なるべく咬み傷や体の欠損のないきれいなものを選びましょう。それから、目がきれいなものが新鮮です。体の色は白いものより赤いものが良いです」
=====
店で売られている魚を吟味し、さらに料理することは魚を学ぶ良い機会になる。年末年始に腰を据えて台所に立つ際には、ぜひこの記事を参考に目利きしていただきたい。
<取材・文/木村悦子>
【木村悦子】
フリーの編集者・ライター。出版社勤務後、編プロ「ミトシロ書房」を創業。実用書やガイドブックの企画・編集を行う傍らで、Webライターとしても活動。飲食・日本文化・占い・農業など、あらゆることに興味があるが、生き物が大好きすぎて本も書く。『日本で会えるペンギン全12種パーフェクトBOOK』、『ラッコBOOK』を執筆。
一方で、東京・御徒町の「吉池(よしいけ)」や、新潟発祥の「角上魚類」が注目を集めている。いずれも新鮮さに定評があるスーパーであり、加工前の魚を買っていく客が絶えない。一から捌いて調理するような玄人志向の人は一定数存在するのだろう。
できればなるべく新鮮なものを選びたいものだが、一般人の場合、なかなかそうもいかないのが実情。そこで、本記事ではプロに聞いた「おいしい魚の見分け方」を紹介したい。
◆「目が澄んでいるもの」を選べば間違いなし
話を聞いたのは、羽田市場の創業者・社長の野本良平氏。野本氏は外食産業などで経験を積んだ後、2014年に羽田市場を創業。鮮魚の独自流通システムを構築し、朝に漁獲された鮮魚をその日のうちに空輸する「超速鮮魚」というビジネスモデルで注目を集めている。「ととけん」(日本さかな検定)の最難関である1級を持ち、切身からでも高確率で魚種を当てる“魚界のレジェンド”である。
野本氏によると、すべての魚に当てはまる見分け方があるという。
「目が澄んでいるものを選べば間違いありません。魚の目には透明なゼリー状の部分があり、ここが濁っているもの、充血して赤くなっているものは状態が良くありません。魚の目が赤くなる原因はいくつかあり、一つは網の中で暴れたことにより傷ができたり、内出血したりといったことが考えられます。また、輸送中や水槽内でほかの魚とぶつかる事故やストレスも、目が赤くなる原因の一つです。鮮度が劣化している懸念もあります」(野本良平氏、以下同じ)
エラの赤さや体の色も、鮮度を見分ける重要なポイントである。新鮮な魚のエラの内側は鮮やかな赤色をしている。また、魚の体を触ったときに弾力があることも新鮮さの証だ。もちろん、スーパーなどで魚を触るわけにはいかないので、体の色がきれいか、ウロコがはがれていないかをチェックすることをおすすめしたい。
◆アジは「色味」で判断すべし
おなじみのアジは、体の色味で味の良し悪しがわかるという。
「ヒレの色で見分けるのが重要です。ヒレは黒っぽいものより、明るい黄色をしているものを選びましょう。それから、小顔でしっかり太っているものが良いです。できるなら横から見て、身の幅が厚く、盛り上がってボリューム感のあるものがおいしいです。これらの特徴を備えたものを選べば絶対に失敗しません」
◆サンマで迷ったら「横から見てみよう」
さて、サンマはどうだろう。今年は当たり年だが、それでもスーパーや鮮魚専門店で見ても総じて小さめで頼りない。
「一般には、細めのものしか流通していませんよね。良く太ったものは揚がってはいるんですが、高級料理店にしか買えない高値で取り引きされています。見分けとしては、こちらも目が透き通ったものを選びましょう。『クチバシが黄色いものが良い』といいますが、ほぼすべて黄色いのであまりアテになりません。頭からつながる胴体部分が盛り上がっているものは最高です。横から見て厚みがあるものは脂の乗りが抜群ですよ」
サンマといえば、なんといっても塩焼きである。試行錯誤の末に編み出した最高の焼き方、食べ方があるという。
「体全体に塩を塗り、5分ほど置いてから焼くのが最もおいしいとわかりました。焼けたら頭から尻尾に向けて箸で押さえながら身をほぐしていくと、身から骨がするっと外れます。添え物の大根おろしに醤油をかけ、少しずつ身に乗せながら食べましょう。この方法を小学生への出前授業で教えると、みんな大喜びで骨まで食べてくれるんですよ」と教えてくれた。
◆ブリの切り身は「大きいもの」を
ブリは非常に大きな魚で、成魚になると1メートルを超えることも。そのため、スーパーや鮮魚店では主に切り身で見かけることが多い。
「切り身の色が鮮やかで透明感があるものを選びましょう。養殖物は特に色変わりが早いです。ドリップと呼ばれる赤い汁が出ているものは、鮮度が落ちています。それから、ブリは本来大きな魚なので、切り身から本体を想像し、これはきっと大きいと感じさせるものを選ぶと良いでしょう。ブリは成長に合わせて呼び名が変わる魚です。関東ではワカシ、イナダ、ワラサ、ブリ、関西ではモジャコ、ワカナ、ツバス、ヤズ、ハマチ、メジロ、ブリなどと呼ばれます。店によっては、ブリと呼べるサイズに達していないものも、ブリとして販売していることもあります」
ブリの切り身には腹側と背側の部分があるが、好みで選べば良い。
「腹側は皮が白っぽく、身に網目のように白い脂肪層が入っています。こってりとした濃厚な味わいで、柔らかく、口の中でとろけるような食感を楽しめます。一方、背側は皮が黒っぽい色をしています。こちらは脂が少なめで、身が締まっています。背側、腹側のどちらを選ぶかは好み次第です。2種類買って、家族で取り分けながら部位ごとに食べ比べるのも楽しみの一つです」
◆イカは「目が澄んで傷が少ないもの」を
今ではすっかり高級品になったスルメイカ。スーパーではアメリカオオアカイカなどの輸入品が目立つが、スルメイカやヤリイカなどの旬の国産品を見つけたら、次の方法でいいものを選んでおいしく食べてほしい。
「イカの口の部分は『イカトンビ』と呼ばれ、鳥のトンビのような鋭い歯を持っています。定置網で獲ったイカは、網の中でイカ同士が咬みつき合うことがあります。刷り物でもイカ同士が咬み合うことがあります。だからイカは傷ができやすいのですが、なるべく咬み傷や体の欠損のないきれいなものを選びましょう。それから、目がきれいなものが新鮮です。体の色は白いものより赤いものが良いです」
=====
店で売られている魚を吟味し、さらに料理することは魚を学ぶ良い機会になる。年末年始に腰を据えて台所に立つ際には、ぜひこの記事を参考に目利きしていただきたい。
<取材・文/木村悦子>
【木村悦子】
フリーの編集者・ライター。出版社勤務後、編プロ「ミトシロ書房」を創業。実用書やガイドブックの企画・編集を行う傍らで、Webライターとしても活動。飲食・日本文化・占い・農業など、あらゆることに興味があるが、生き物が大好きすぎて本も書く。『日本で会えるペンギン全12種パーフェクトBOOK』、『ラッコBOOK』を執筆。