―[シリーズ・駅]―
22年8月上旬、東北地方を襲った豪雨の影響で土砂の流入や路盤・盛土の流出といった深刻な被害を受けたJR津軽線の蟹田―三厩間。
その後、復旧には最低でも6億円がかかること、JR東日本管内でも利用客が特に少ない区間であることから同社と沿線自治体の間で協議を重ね、27年春の廃止で調整していることがわかった。
◆代行バスとわんタクで廃止予定期間を巡る
そこで各メディアが報じた直後の11月中旬、津軽線の廃止予定区間の各駅、津軽半島最北端の竜飛崎を巡ってみることにした。
休みは1日しか取れなかったので前日夜に青森入りし、翌日の始発列車で青森からまずは蟹田へ。ここから先は、朝夕の4往復が代行バス、日中の4往復がワゴン車などによる『わんタク定時便』が担っている。
しかも、代行バスは終点の三厩駅にも停まるが、そこから1.3㎞先の三厩体育館の発着、わんタク定時便に至っては、三厩駅から約15㎞先の龍飛埼灯台まで行ってくれる。
しかも、ルート上であればどこでも自由に乗り降りが可能(※停留所以外での乗車は要予約)。さらにこれとは別にタクシー感覚で利用でき、定時便のルート以外のエリアにも対応している『わんタクフリー便』もあり、どちらも運賃は乗車区間に関係なく1回500円。
沿線自治体在住のマイナンバーカード所有者や75歳以上の方、JR津軽線(蟹田以北)区間を含むJRのおトクなきっぷ所有者は300円と少し安い。そこで今回は代行バスやわんタクを利用し、沿線の各駅を巡ってみた。
◆中小国駅~大平駅間
①中小国駅
黄緑色の平屋の建物が特徴の中小国(なかおぐに)駅には、現在も北海道と本州を結ぶ、貨物列車が行き来している。
実は、この駅と隣の大平駅の途中で津軽線と青函トンネル方面に線路が分岐。筆者の訪問時にはお目にかかれなかったが、運がよければ通過中の貨物列車を見られるかもしれない。
ちなみに駅には広い待合室があり、壁際には10人以上が座れそうな木造のベンチが設置。もう旅客列車の発着はないのに思った以上に室内はキレイだ。
②大平駅
駅の手前で線路が北海道新幹線の高架線と交差している大平(おおだい)駅は、駅舎の造りは中小国駅とほぼ同じ。また、大きな違いとしては、ホームの裏には保線車両用の車庫がある点だ。
この大平駅から徒歩10分ほどの場所には、世界遺産『北海道・北東北の縄文遺跡群』に指定されている大平山元遺跡と24年4月に完成した展示施設『むーもん館』がある。
遺跡からは紀元前1万3000年前の可能性がある土器片が出土。同じ青森県にある三内丸山遺跡に比べると規模は小さく知名度も低いが、いい意味で筆者の知的好奇心を満たしてくれた。
◆津軽二股駅~今別駅間
③津軽二股駅
新幹線秘境駅として一部鉄道ファンの間で有名な北海道新幹線『奥津軽いまべつ駅』との乗換駅。ただし、こちらJR北海道なのに対し、津軽二股駅はJR東日本と別会社の管轄になっている。
なお、同駅には駅舎がなく、ホームも『道の駅いまべつ』の建物の裏手にあるので少々わかりにくい。
④大川平駅
ここも駅舎は、中小国、大平の各駅のように平屋トタン屋根、黄緑色の壁。駅前には最近ほとんど見かけなくなった電話ボックスもあり、この空間だけ昔から時が止まったかのような雰囲気だった。
季節的には11月中旬の晩秋だったので草は枯れかかっていたが、線路を覆うように草が覆っており、すでに長い間列車が運行されていないことを感じさせる。でも、地域住民によるものなのだろうか、駅ホームの花壇はきちんと手入れがされていた。
⑤今別駅
津軽線の廃止予定区間でも比較的新しそうな今別駅の駅舎は、17年にリニューアルされたもの。今別町の市街地に位置し、駅周辺には住宅が密集している。なお、この駅も大川平駅同様に電話ボックスがある。
駅待合室には数カットのみだだが、蒸気機関車が走っていた昔の津軽線、まだ工事中だった青函トンネルなどの写真パネルが展示されていた。
◆津軽浜名駅~三厩駅間
⑥津軽浜名駅
今別駅からは1.7㎞と廃止予定区間の中では駅間の距離がもっとも短い(※大川平―今別間も2.0㎞しかない)。開業時期は1960年12月と津軽線でもっとも遅く、当時からずっと無人駅のまま。
22年3月には、駅の近くにあった県立青森北高校今別校舎が閉校となり、駅ホーム上の待合室には卒業生のメッセージカードが飾られている。
⑦三厩駅
集落の外れにあるせいか駅周辺は閑散しており、最果ての終着駅らしい雰囲気を漂わせている。誤解している人もいるかもしれないが、本州最北の路線は津軽線ではなく下北半島を走る大湊線。三厩駅は本州で北から6番目にある駅となっている。
そんな同駅は難読駅としても知られるが、読み方は「みんまや」。ただし、以前は「みうまや」と呼ばれており、91年に改められた。
◆見どころの多い龍飛埼灯台
年間を通じて強風が吹いている。石川さゆりの『津軽海峡冬景色』の石碑、歩行者しか通れない全国で唯一の階段国道など意外と見所は多い。
近くには『青函トンネル記念館』もあり、竜飛斜坑線もぐら号で旧竜飛海底駅まで降りることができる。ただし、冬季は休館(※今年度は11月4日で営業終了)のため、残念ながら今回は見学することが叶わなかった。
復旧予定のない蟹田以北の区間で二度と列車に乗ることができないのは寂しいが、正式に廃止となるまでにはまだ2年以上の猶予期間が残されている。
代行バスやわんタクによって地域の交通は、津軽線が不通になる前よりも便利だと感じた。レンタカーで回るのも悪くないが、せっかくならこれらの公共交通機関を使って観光してみるのもいいかもしれない。
<TEXT/高島昌俊>
【高島昌俊】
フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。3度の世界一周経験を持ち、これまで訪問した国は50か国以上。現在は東京と北海道で二拠点生活を送る。
―[シリーズ・駅]―
22年8月上旬、東北地方を襲った豪雨の影響で土砂の流入や路盤・盛土の流出といった深刻な被害を受けたJR津軽線の蟹田―三厩間。
その後、復旧には最低でも6億円がかかること、JR東日本管内でも利用客が特に少ない区間であることから同社と沿線自治体の間で協議を重ね、27年春の廃止で調整していることがわかった。
◆代行バスとわんタクで廃止予定期間を巡る
そこで各メディアが報じた直後の11月中旬、津軽線の廃止予定区間の各駅、津軽半島最北端の竜飛崎を巡ってみることにした。
休みは1日しか取れなかったので前日夜に青森入りし、翌日の始発列車で青森からまずは蟹田へ。ここから先は、朝夕の4往復が代行バス、日中の4往復がワゴン車などによる『わんタク定時便』が担っている。
しかも、代行バスは終点の三厩駅にも停まるが、そこから1.3㎞先の三厩体育館の発着、わんタク定時便に至っては、三厩駅から約15㎞先の龍飛埼灯台まで行ってくれる。
しかも、ルート上であればどこでも自由に乗り降りが可能(※停留所以外での乗車は要予約)。さらにこれとは別にタクシー感覚で利用でき、定時便のルート以外のエリアにも対応している『わんタクフリー便』もあり、どちらも運賃は乗車区間に関係なく1回500円。
沿線自治体在住のマイナンバーカード所有者や75歳以上の方、JR津軽線(蟹田以北)区間を含むJRのおトクなきっぷ所有者は300円と少し安い。そこで今回は代行バスやわんタクを利用し、沿線の各駅を巡ってみた。
◆中小国駅~大平駅間
①中小国駅
黄緑色の平屋の建物が特徴の中小国(なかおぐに)駅には、現在も北海道と本州を結ぶ、貨物列車が行き来している。
実は、この駅と隣の大平駅の途中で津軽線と青函トンネル方面に線路が分岐。筆者の訪問時にはお目にかかれなかったが、運がよければ通過中の貨物列車を見られるかもしれない。
ちなみに駅には広い待合室があり、壁際には10人以上が座れそうな木造のベンチが設置。もう旅客列車の発着はないのに思った以上に室内はキレイだ。
②大平駅
駅の手前で線路が北海道新幹線の高架線と交差している大平(おおだい)駅は、駅舎の造りは中小国駅とほぼ同じ。また、大きな違いとしては、ホームの裏には保線車両用の車庫がある点だ。
この大平駅から徒歩10分ほどの場所には、世界遺産『北海道・北東北の縄文遺跡群』に指定されている大平山元遺跡と24年4月に完成した展示施設『むーもん館』がある。
遺跡からは紀元前1万3000年前の可能性がある土器片が出土。同じ青森県にある三内丸山遺跡に比べると規模は小さく知名度も低いが、いい意味で筆者の知的好奇心を満たしてくれた。
◆津軽二股駅~今別駅間
③津軽二股駅
新幹線秘境駅として一部鉄道ファンの間で有名な北海道新幹線『奥津軽いまべつ駅』との乗換駅。ただし、こちらJR北海道なのに対し、津軽二股駅はJR東日本と別会社の管轄になっている。
なお、同駅には駅舎がなく、ホームも『道の駅いまべつ』の建物の裏手にあるので少々わかりにくい。
④大川平駅
ここも駅舎は、中小国、大平の各駅のように平屋トタン屋根、黄緑色の壁。駅前には最近ほとんど見かけなくなった電話ボックスもあり、この空間だけ昔から時が止まったかのような雰囲気だった。
季節的には11月中旬の晩秋だったので草は枯れかかっていたが、線路を覆うように草が覆っており、すでに長い間列車が運行されていないことを感じさせる。でも、地域住民によるものなのだろうか、駅ホームの花壇はきちんと手入れがされていた。
⑤今別駅
津軽線の廃止予定区間でも比較的新しそうな今別駅の駅舎は、17年にリニューアルされたもの。今別町の市街地に位置し、駅周辺には住宅が密集している。なお、この駅も大川平駅同様に電話ボックスがある。
駅待合室には数カットのみだだが、蒸気機関車が走っていた昔の津軽線、まだ工事中だった青函トンネルなどの写真パネルが展示されていた。
◆津軽浜名駅~三厩駅間
⑥津軽浜名駅
今別駅からは1.7㎞と廃止予定区間の中では駅間の距離がもっとも短い(※大川平―今別間も2.0㎞しかない)。開業時期は1960年12月と津軽線でもっとも遅く、当時からずっと無人駅のまま。
22年3月には、駅の近くにあった県立青森北高校今別校舎が閉校となり、駅ホーム上の待合室には卒業生のメッセージカードが飾られている。
⑦三厩駅
集落の外れにあるせいか駅周辺は閑散しており、最果ての終着駅らしい雰囲気を漂わせている。誤解している人もいるかもしれないが、本州最北の路線は津軽線ではなく下北半島を走る大湊線。三厩駅は本州で北から6番目にある駅となっている。
そんな同駅は難読駅としても知られるが、読み方は「みんまや」。ただし、以前は「みうまや」と呼ばれており、91年に改められた。
◆見どころの多い龍飛埼灯台
年間を通じて強風が吹いている。石川さゆりの『津軽海峡冬景色』の石碑、歩行者しか通れない全国で唯一の階段国道など意外と見所は多い。
近くには『青函トンネル記念館』もあり、竜飛斜坑線もぐら号で旧竜飛海底駅まで降りることができる。ただし、冬季は休館(※今年度は11月4日で営業終了)のため、残念ながら今回は見学することが叶わなかった。
復旧予定のない蟹田以北の区間で二度と列車に乗ることができないのは寂しいが、正式に廃止となるまでにはまだ2年以上の猶予期間が残されている。
代行バスやわんタクによって地域の交通は、津軽線が不通になる前よりも便利だと感じた。レンタカーで回るのも悪くないが、せっかくならこれらの公共交通機関を使って観光してみるのもいいかもしれない。
<TEXT/高島昌俊>
【高島昌俊】
フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。3度の世界一周経験を持ち、これまで訪問した国は50か国以上。現在は東京と北海道で二拠点生活を送る。
―[シリーズ・駅]―