今年の都知事選や衆院選では、YouTubeやSNSを活用した扇動や情報戦が目立つなど、新聞・テレビの既存メディアは存在価値が問われる一年だった。そこで、このたび時事コラム&メディア論集 『半信半疑のリテラシー』(扶桑社刊)を上梓する“時事芸人”のプチ鹿島氏に、「半信半疑」をキーワードに今年のニュースを総括してもらった!
◆半信半疑は下世話な野次馬精神の賜物
’24年はデマやフェイクニュースが一般層にも影響を及ぼした年だった。混沌とした情報戦を生き抜くには、一方の言い分を鵜呑みにしない「半信半疑」の姿勢が必要。そう語るのは、新聞14紙の読み比べをライフワークとする時事芸人のプチ鹿島氏だ。
「こういう活動をしていると『情報リテラシーが高いですね』と褒められることも、『オールドメディアなんか読んでいる時点でダメだ』と批判されることもありますが、私の根底にあるのは、下世話な野次馬精神なんです。ノリとしては学校や会社で『誰と誰が付き合っている』と噂が立ったとき、その情報源となる人の性格やキャラを加味した上で情報を精査したい。そこには『適当な情報をつかまされたくない』という警戒心やズルさがあります。私はニュースについても同じことをしているつもりです」
◆“オールドメディア”は鹿島的流行語大賞
そんな鹿島氏にとって、今年を象徴するキーワードは「オールドメディア」だという。たとえば兵庫県知事選。
「テレビや新聞はさんざん斎藤元彦氏側にネガティブな報道をしていたが、NHKから国民を守る党の立花孝志党首をはじめとするSNSやネット情報はそれとは違う“真実”を喧伝しました。斎藤氏の支持者からすれば、これはオールドメディアの敗北でしょう。一方、斎藤氏の一連の疑惑を注視していた人たちからすれば、選挙期間に新聞やテレビが公職選挙法と放送法を盾にして中立・公平を唱えているときに、SNSで真偽不明の言説が自由に飛び交った。その状態に『既存メディアはこれでいいのか』と疑問に思った人も多いはずです」
いずれの立場にしてもオールドメディアの立ち位置が問われた一年だったというわけだ。そんな半信半疑の視点から、今年のニュースTOP5を挙げてもらった。
「もっとも象徴的だったのは米大統領選。多くの支持者たちが高揚してトランプ氏の掲げる“物語”を強固に信じていたが、問題はその物語がフェイクニュースやデマから影響を受けていたのではないか、という点です。日本でも、東京都知事選での“石丸現象”、衆院選でSNSを活用した国民民主党の躍進、前述の兵庫県知事選にはその端緒を見ました。彼らが反発する既得権益の中に“オールドメディア”が含まれている。また、松本人志の性加害報道でも、擁護派による『文春はデマ、捏造』という浅いマスゴミ論のムーブが気になりました。トランプ氏も不利な情報が出てくるほど『これはデマだ』とエネルギーにして煽りましたが、同じものを感じます」
◆ネット的な煽りや冷笑主義に陥るな
一見牧歌的なスポーツ報道には、オールドメディアの欺瞞が表れていたと指摘する。
「大谷翔平の結婚発表では、『CNNの報道によると』という手法で、パートナーの写真や実名を報じていた。やり方がずるいですよね。報道するなら堂々と自社の責任で報じてほしい。また、パリ五輪に関して日本のメダル獲得に興奮を隠さない姿は、保守系もリベラル系も大同小異。選手に対するSNSでの誹謗中傷やメンタルヘルスの問題を報じておきながら、一方でメダル競争を煽る矛盾した姿勢は、選手にプレッシャーを与え、誹謗中傷を後押ししてしまったのではないでしょうか」
最後に毛色の違う例として、朝日新聞に掲載された読者相談への冷笑的な回答が炎上した件を挙げ、「理不尽を憂う人を小馬鹿にする記者に憤りを覚えた」と語気を強める。
「『世界の理不尽に我慢できない』という相談に対して、タレントの野沢直子氏が『そんなに心配なさっているのなら実際に戦場に出向いて最前線で戦ってくればいい』『そんなことを嘆く前に、今自分が幸せなことに感謝して自分の周りにいる人たちを大切にしましょう』と回答。さらに朝日の編集委員がSNS上で『沖縄に行かれて、本土ではまれな米軍基地と隣り合わせの生活をご覧になればどうでしょう』『あ、この相談者の方はそうした境遇の方なのかもしれませんね。そうでしたら誠に失礼しました』などと追従した。オールドメディアにはそういった冷笑主義に陥ってほしくない。伝統や歴史を生かし、取材をして裏付けをとる訓練を長年している組織はまだ利用できる価値があるはず。ネットニュースのマネをして安易なバズやエモを狙ってほしくないと思いますね」
功罪含めて「オールドメディア」が今を映す重要な言葉となった一年。読者もぜひ“半信半疑”の姿勢を取り入れることで、情報の受け手としてのリテラシーを上げてほしい。
構成/小西 麗 写真提供/産経新聞社
【プチ鹿島】
1970年、長野県出身。芸人、コラムニスト。新聞14紙を読み比べ、政治、スポーツ、文化と幅広いジャンルからニュースを読み解く。著書に『ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実』(双葉社)、『芸人式 新聞の読み方』(幻冬舎)など
―[[芸人式]ニュースの疑い方]―
◆半信半疑は下世話な野次馬精神の賜物
’24年はデマやフェイクニュースが一般層にも影響を及ぼした年だった。混沌とした情報戦を生き抜くには、一方の言い分を鵜呑みにしない「半信半疑」の姿勢が必要。そう語るのは、新聞14紙の読み比べをライフワークとする時事芸人のプチ鹿島氏だ。
「こういう活動をしていると『情報リテラシーが高いですね』と褒められることも、『オールドメディアなんか読んでいる時点でダメだ』と批判されることもありますが、私の根底にあるのは、下世話な野次馬精神なんです。ノリとしては学校や会社で『誰と誰が付き合っている』と噂が立ったとき、その情報源となる人の性格やキャラを加味した上で情報を精査したい。そこには『適当な情報をつかまされたくない』という警戒心やズルさがあります。私はニュースについても同じことをしているつもりです」
◆“オールドメディア”は鹿島的流行語大賞
そんな鹿島氏にとって、今年を象徴するキーワードは「オールドメディア」だという。たとえば兵庫県知事選。
「テレビや新聞はさんざん斎藤元彦氏側にネガティブな報道をしていたが、NHKから国民を守る党の立花孝志党首をはじめとするSNSやネット情報はそれとは違う“真実”を喧伝しました。斎藤氏の支持者からすれば、これはオールドメディアの敗北でしょう。一方、斎藤氏の一連の疑惑を注視していた人たちからすれば、選挙期間に新聞やテレビが公職選挙法と放送法を盾にして中立・公平を唱えているときに、SNSで真偽不明の言説が自由に飛び交った。その状態に『既存メディアはこれでいいのか』と疑問に思った人も多いはずです」
いずれの立場にしてもオールドメディアの立ち位置が問われた一年だったというわけだ。そんな半信半疑の視点から、今年のニュースTOP5を挙げてもらった。
「もっとも象徴的だったのは米大統領選。多くの支持者たちが高揚してトランプ氏の掲げる“物語”を強固に信じていたが、問題はその物語がフェイクニュースやデマから影響を受けていたのではないか、という点です。日本でも、東京都知事選での“石丸現象”、衆院選でSNSを活用した国民民主党の躍進、前述の兵庫県知事選にはその端緒を見ました。彼らが反発する既得権益の中に“オールドメディア”が含まれている。また、松本人志の性加害報道でも、擁護派による『文春はデマ、捏造』という浅いマスゴミ論のムーブが気になりました。トランプ氏も不利な情報が出てくるほど『これはデマだ』とエネルギーにして煽りましたが、同じものを感じます」
◆ネット的な煽りや冷笑主義に陥るな
一見牧歌的なスポーツ報道には、オールドメディアの欺瞞が表れていたと指摘する。
「大谷翔平の結婚発表では、『CNNの報道によると』という手法で、パートナーの写真や実名を報じていた。やり方がずるいですよね。報道するなら堂々と自社の責任で報じてほしい。また、パリ五輪に関して日本のメダル獲得に興奮を隠さない姿は、保守系もリベラル系も大同小異。選手に対するSNSでの誹謗中傷やメンタルヘルスの問題を報じておきながら、一方でメダル競争を煽る矛盾した姿勢は、選手にプレッシャーを与え、誹謗中傷を後押ししてしまったのではないでしょうか」
最後に毛色の違う例として、朝日新聞に掲載された読者相談への冷笑的な回答が炎上した件を挙げ、「理不尽を憂う人を小馬鹿にする記者に憤りを覚えた」と語気を強める。
「『世界の理不尽に我慢できない』という相談に対して、タレントの野沢直子氏が『そんなに心配なさっているのなら実際に戦場に出向いて最前線で戦ってくればいい』『そんなことを嘆く前に、今自分が幸せなことに感謝して自分の周りにいる人たちを大切にしましょう』と回答。さらに朝日の編集委員がSNS上で『沖縄に行かれて、本土ではまれな米軍基地と隣り合わせの生活をご覧になればどうでしょう』『あ、この相談者の方はそうした境遇の方なのかもしれませんね。そうでしたら誠に失礼しました』などと追従した。オールドメディアにはそういった冷笑主義に陥ってほしくない。伝統や歴史を生かし、取材をして裏付けをとる訓練を長年している組織はまだ利用できる価値があるはず。ネットニュースのマネをして安易なバズやエモを狙ってほしくないと思いますね」
功罪含めて「オールドメディア」が今を映す重要な言葉となった一年。読者もぜひ“半信半疑”の姿勢を取り入れることで、情報の受け手としてのリテラシーを上げてほしい。
構成/小西 麗 写真提供/産経新聞社
【プチ鹿島】
1970年、長野県出身。芸人、コラムニスト。新聞14紙を読み比べ、政治、スポーツ、文化と幅広いジャンルからニュースを読み解く。著書に『ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実』(双葉社)、『芸人式 新聞の読み方』(幻冬舎)など
―[[芸人式]ニュースの疑い方]―