ユニークで豪華なインテリアやテーマルーム、そしてジャグジーやカラオケなどの充実した設備により、非日常感が味わえるラブホテル。胸を高鳴らせ、甘い時間を期待しながら来店する人が多いことだろう。
そんな華やかな空間の裏側では……従業員たちが慌ただしく動き回り、ときには“珍事件”が巻き起こる。
今回は、福岡の繁華街にあるラブホテルで、ベッドメイクとフロント業務を5年続けた天野翔子さん(仮名)の実体験をご紹介しよう。
◆ラブホのピークは週末の午後
ある週末の午後、慌ただしくフロント業務に追われていたという天野さん。
「土日は、日が暮れる前から短時間利用で、男性客が“デリバリーのお姉さん”を呼ぶケースが多いんです。ですから、回転率を上げて次のお客様を案内するために部屋をすぐに空けなければなりません。この時間帯はラブホテルの『ゴールデンタイム』とも呼ばれ、スタッフは忙しく働いています」
その日、あまりの多忙ぶりに天野さんはフロント業務だけでなく、料理の調理・提供も担当していたそうだ。慌ただしく調理している最中、一本の電話がフロントに鳴り響いたという。
「うちのラブホテルでは、部屋に設置された自動精算機での支払いが基本ですが、あるお客様から、紙幣が濡れてしまい部屋の精算機が使えないと連絡がありました。
お客様にはフロントで清算してもらい事なきを得ましたが、そのときはちょうどゴールデンタイム。次のお客様を入れる準備をしなければと思い、フロントのPCで鍵を開け、お客様が利用した2時間分の料金を握りしめてその部屋に向かいました」
◆従業員がまさかの監禁状態に
フロントで対応した客の清算をするため、該当の部屋にやってきた天野さん。
「入室してドアを閉め、カチッと部屋のロックがかかった音にハッとしました。フロントのPC操作でこの部屋の鍵を開けていたため、マスターキーは持っていなかったからです。『閉じ込められた!?』と一瞬焦りましたが、大丈夫。先ほどのお客様の利用料金を支払えばまた鍵は開きます」
落ち着きを取り戻し、精算機の会計ボタンを押した天野さん。しかし表示された金額を見て驚愕したそうだ。
「表示された金額はさっきお客様が支払った金額よりずっと高くなっていたんです! お客様は2時間の休憩料金で精算したんですが、私がこの部屋に来るまでの間に2時間を超えてしまい、休憩料金ではなくノータイム料金(長時間利用料金)に上がってしまったようなんです……!」
天野さんが持っていたお金は2時間分の料金ぴったり。これでは清算もできず、部屋のドアも開かない。つまり監禁状態……!?
◆電話はキッチンに置いてきてしまった
「まさか、こんなハプニングが!?」と、パニックになる天野さんだが、さらに追い討ちをかけるように困った事態が発覚した。
「いつもならメイクスタッフと連絡を取るための電話の子機を必ず持ち歩いているんですが、そのときは電話も持っていませんでした。
フロントにお客様から電話があったとき、料理を作っている最中だったのでそのまま電話をキッチンに置いてきてしまっていたんです。『あれ? これ……もしかして詰んでる?』と、為す術もない状況に青ざめていくのが自分でもよくわかりました。
部屋に閉じ込められた状況では、ネガティブなことばかり考えてしまいましたね。他のお客様から注文や問い合わせの電話が鳴りっぱなしかもしれない。ヤバい……。かなりのクレーム案件になる。これは絶対クビになる……と震えていました」
八方塞がりの状況に大慌ての天野さんだったが、ある打開策を思いついた。
「客室の電話はフロントにしか繋がりませんが、フロント部屋にメイクスタッフがいれば、もしかすると電話に出てくれるかもしれないと考えました。
でも、部屋のテレビを操作して、各部屋の状態がわかるモニターに切り替えたところ、清掃中の部屋が5つも表示されていて…これではしばらくは清掃でフロントには戻らないでしょうし、手も足も出ない状況は長い時間続きました」
絶望的な状況だが、天野さんがしばらくモニターを見ていると、天野さんがいる部屋の真向かいに位置する部屋の表示が、「利用中」から「料金清算中」に変わったという。「これはチャンス!」と天野さんは心の中で叫んだそうだ。
◆大声で客に助けを求めるハメに
「このホテルでは、お客様の清算が終われば部屋の状態は“退室待ち”に切替わり、さらにお客様がドアを開ければ“清掃待ち”に変わるシステムなんです。
“清掃待ち”に表示が切替わるタイミングを狙って、私はドアを叩きながら『すみませーん! 向かいの部屋にいるホテルの者ですー! お客様ー!』と声を振り絞って必死に叫びました。それはもう祈るような気持ちで、ただがむしゃらに(笑)。
すると、奇跡的にお客様から反応があり、私はドア越しに『メイクスタッフを呼んでほしい』と叫び伝えました。そのあとお客様のおかげで無事に部屋を出ることができました。
鍵を開けてもらったメイクスタッフには爆笑され、電話を待たせてしまっていたお客様には平謝りし、一応店長に報告したところ笑われながらも説教されて……。散々な1日となりました」
――せわしなく働くラブホテル従業員のパニックぶりが垣間見られるハプニングエピソードだった。
【逢ヶ瀬十吾】
編集プロダクションA4studio(エーヨンスタジオ)所属のライター。興味のあるジャンルは映画・ドラマ・舞台などエンタメ系全般について。美味しい料理店を発掘することが趣味。
―[ラブホの珍ハプニング]―
そんな華やかな空間の裏側では……従業員たちが慌ただしく動き回り、ときには“珍事件”が巻き起こる。
今回は、福岡の繁華街にあるラブホテルで、ベッドメイクとフロント業務を5年続けた天野翔子さん(仮名)の実体験をご紹介しよう。
◆ラブホのピークは週末の午後
ある週末の午後、慌ただしくフロント業務に追われていたという天野さん。
「土日は、日が暮れる前から短時間利用で、男性客が“デリバリーのお姉さん”を呼ぶケースが多いんです。ですから、回転率を上げて次のお客様を案内するために部屋をすぐに空けなければなりません。この時間帯はラブホテルの『ゴールデンタイム』とも呼ばれ、スタッフは忙しく働いています」
その日、あまりの多忙ぶりに天野さんはフロント業務だけでなく、料理の調理・提供も担当していたそうだ。慌ただしく調理している最中、一本の電話がフロントに鳴り響いたという。
「うちのラブホテルでは、部屋に設置された自動精算機での支払いが基本ですが、あるお客様から、紙幣が濡れてしまい部屋の精算機が使えないと連絡がありました。
お客様にはフロントで清算してもらい事なきを得ましたが、そのときはちょうどゴールデンタイム。次のお客様を入れる準備をしなければと思い、フロントのPCで鍵を開け、お客様が利用した2時間分の料金を握りしめてその部屋に向かいました」
◆従業員がまさかの監禁状態に
フロントで対応した客の清算をするため、該当の部屋にやってきた天野さん。
「入室してドアを閉め、カチッと部屋のロックがかかった音にハッとしました。フロントのPC操作でこの部屋の鍵を開けていたため、マスターキーは持っていなかったからです。『閉じ込められた!?』と一瞬焦りましたが、大丈夫。先ほどのお客様の利用料金を支払えばまた鍵は開きます」
落ち着きを取り戻し、精算機の会計ボタンを押した天野さん。しかし表示された金額を見て驚愕したそうだ。
「表示された金額はさっきお客様が支払った金額よりずっと高くなっていたんです! お客様は2時間の休憩料金で精算したんですが、私がこの部屋に来るまでの間に2時間を超えてしまい、休憩料金ではなくノータイム料金(長時間利用料金)に上がってしまったようなんです……!」
天野さんが持っていたお金は2時間分の料金ぴったり。これでは清算もできず、部屋のドアも開かない。つまり監禁状態……!?
◆電話はキッチンに置いてきてしまった
「まさか、こんなハプニングが!?」と、パニックになる天野さんだが、さらに追い討ちをかけるように困った事態が発覚した。
「いつもならメイクスタッフと連絡を取るための電話の子機を必ず持ち歩いているんですが、そのときは電話も持っていませんでした。
フロントにお客様から電話があったとき、料理を作っている最中だったのでそのまま電話をキッチンに置いてきてしまっていたんです。『あれ? これ……もしかして詰んでる?』と、為す術もない状況に青ざめていくのが自分でもよくわかりました。
部屋に閉じ込められた状況では、ネガティブなことばかり考えてしまいましたね。他のお客様から注文や問い合わせの電話が鳴りっぱなしかもしれない。ヤバい……。かなりのクレーム案件になる。これは絶対クビになる……と震えていました」
八方塞がりの状況に大慌ての天野さんだったが、ある打開策を思いついた。
「客室の電話はフロントにしか繋がりませんが、フロント部屋にメイクスタッフがいれば、もしかすると電話に出てくれるかもしれないと考えました。
でも、部屋のテレビを操作して、各部屋の状態がわかるモニターに切り替えたところ、清掃中の部屋が5つも表示されていて…これではしばらくは清掃でフロントには戻らないでしょうし、手も足も出ない状況は長い時間続きました」
絶望的な状況だが、天野さんがしばらくモニターを見ていると、天野さんがいる部屋の真向かいに位置する部屋の表示が、「利用中」から「料金清算中」に変わったという。「これはチャンス!」と天野さんは心の中で叫んだそうだ。
◆大声で客に助けを求めるハメに
「このホテルでは、お客様の清算が終われば部屋の状態は“退室待ち”に切替わり、さらにお客様がドアを開ければ“清掃待ち”に変わるシステムなんです。
“清掃待ち”に表示が切替わるタイミングを狙って、私はドアを叩きながら『すみませーん! 向かいの部屋にいるホテルの者ですー! お客様ー!』と声を振り絞って必死に叫びました。それはもう祈るような気持ちで、ただがむしゃらに(笑)。
すると、奇跡的にお客様から反応があり、私はドア越しに『メイクスタッフを呼んでほしい』と叫び伝えました。そのあとお客様のおかげで無事に部屋を出ることができました。
鍵を開けてもらったメイクスタッフには爆笑され、電話を待たせてしまっていたお客様には平謝りし、一応店長に報告したところ笑われながらも説教されて……。散々な1日となりました」
――せわしなく働くラブホテル従業員のパニックぶりが垣間見られるハプニングエピソードだった。
【逢ヶ瀬十吾】
編集プロダクションA4studio(エーヨンスタジオ)所属のライター。興味のあるジャンルは映画・ドラマ・舞台などエンタメ系全般について。美味しい料理店を発掘することが趣味。
―[ラブホの珍ハプニング]―