2024年は日本銀行(日銀)の金融政策によって大きな変化が起きた年だった。3月には10年弱続いたマイナス金利を解除。そして7月には政策金利が0.25%に引き上げられた。12月の追加利上げは見送られたものの、銀行預金の金利が上がった一方で住宅ローンの金利も上がり、「これからどうなるんだ…」と不安を抱える人も多いはず。
「日銀の政策変更によって、日本には約30年ぶりに『金利のある世界』が戻ってきました。しかし、長く低金利時代が続いたせいで、40代以下の人は『低金利の日本』しか知らないんですね。金利が変わると金融領域のさまざまな商品に影響が出てきます。だから、これからは金利上昇時代に適した“お金の新常識”を身につけないとダメです」
そう話すのは、ファイナンシャルプランナーの深野康彦氏だ。深野氏は業界歴35年の大ベテラン。東京証券取引所や金融機関のセミナーに講師として呼ばれるなど、レジェンドと呼んでも差し支えのない存在だ。
そんな深野氏の新刊『金利で損しない方法、教えてください!人気FPが教える金利上昇時代の「お金の新ルール」』では、まさに金利上昇に合わせて「どのようにお金を増やすか?守るか?」というマネープランが細かく解説されている。なかでも深野氏が「最も大切なお金の守り方」と説くのが、間違った情報に惑わされないことだという。その真意を聞いてみよう。
◆住宅ローンの“煽り気味”ニュースに注意
金利が上がって特に不安を抱えているのは、おそらく住宅ローンを組んでいる人でしょう。日本人の大半は変動金利タイプの住宅ローンを利用していますので、金利が上がれば返済額も増えていく。日々のニュースでは「金利が上がって返済が大ピンチ!このまま変動でいいのか?」などと“煽り気味”の報道も目につきます。
しかし、私はあえて「焦らなくても大丈夫」と言いたいです。そういった煽り気味のニュースに踊らされることなく、正しい知識を得て、どっしりと構えていただきたい。
こういった報道でまず問題だと思うのは、住宅ローンが一時的に上がったとしても「ずっと高いままではなく、その後は金利が下がっていく」という事実を伝えていない点です。そもそも“金利の波”には「金利上昇局面」「ピーク圏」「下落局面」「ボトム圏」という4つの局面があります。
景気がよくて加熱しているときに、中央銀行は金利を上げて景気を冷まそうとします。すると、景気の加熱が収まり金利はピーク圏で「横ばい」になり、その後景気に陰りが見え始めると「下がって」いき、景気が悪化すると金利はほどなくしてボトム圏に入ります。このようなサイクルを繰り返していくものなのです。
今は金利上昇局面なので変動金利も上がっていきますが、その後はまた下がる局面に入ってきます。なので、いったん金利が上がって焦って家を手放したりすると、その後に大きな後悔をしてしまう可能性もあるわけです。そういった「金利の正しい知識」を持たずに日々のニュースに接してしまうと、ただただ焦って間違った判断をしてしまいます。
◆正しい判断をするためには「基礎的な知識」が必要
私は、一番大切なお金の守り方は、「情報を正しく見ること」だと思っています。最近ではテレビや新聞、書籍などではなくSNSで情報を得る人がとても増えました。むしろ今はSNSやYouTubeが主流になっているでしょう。
いずれのSNSが好みかは人それぞれですが、私はお金に関する情報は「基本的な知識」を持っているからこそ、その情報の真贋を見抜けると思っています。SNSの情報に優劣をつけたり、あるいは情報を有益に活用するためには、基本的な知識がなければダメなのです。
例えばSNSで「絶対に儲かる!」といった宣伝を見ると、最初は「本当かな?」と思いつつ、それっぽい解説を見るうちに「本当に儲かるかも!」などと気が乗ってきてしまう……。そんな誘導方法によって、投資詐欺のような案件に引っかかる人が後を絶ちません。
そうならないためには、自分の判断基準にできる「基本的な知識」が必要なのです。基本的な知識とは、言い換えれば、金融における「セオリー」です。先ほど述べた、住宅ローンと金利変動の基礎的なメカニズムもそう。その知識を持っていれば、いずれ家を買うタイミングが来たとしても、偏った情報に惑わされず、その時折の金利情報を見て正しい判断ができるはずです。
◆お金の知識は「タイパ」で考えてはいけない
SNSを完全には否定しません。しかし、SNSは一次情報を得るには適していますが、深掘りしたり、一次情報を取り巻く環境などを知ることには、あまり適していないと思います。深掘りするなり、取り巻く環境を広く知る場合には、新聞やニュース、専門誌・紙などのオールドメディアの活用も考えるべきでしょう。
そしてもう一つ私が伝えたいのは、金融領域に関しては「タイパ思考を持ってはいけない」ということです。お金の基本は、タイパを求める行動ではほぼ知識の習得がままならないと、私は考えています。
幸いにして、パソコンやスマホからでもお金の「基本的な知識」を習得することは可能です。ちょっと時間がかかりますが、少しガマンして投資や資産運用に関する本を1冊ガマンして読んでみてもよいはずです。
そうして得られた知識はお金周り全般だけでなく、あなたの仕事を含めた生活全般のどこかで役立つはずです。数年前から「格差」が折に触れて叫ばれますが、筆者は今の格差は「知っているか、知らないか」の情報の格差だと思います。
あなたがとるお金周り全般の行動は、成功しようが、失敗しようが「すべて自己責任」で済まされてしまいます。あなたの大切なお金を、SNSで推奨される銘柄に投じるだけで簡単に(楽して)増やせるとは思わないでください。ビキナーズラックはありえるでしょうが、それがずっと続くことはないのです。
<構成/上野智(まてい社)>
【深野康彦】
ファイナンシャルリサーチ代表。大学卒業後、クレジット会社を経て独立系FP会社に入社。その後、1996年に独立し、現在の有限会社ファイナンシャルリサーチは2社目の起業。FP業界歴35年(2024年10月現在)を誇り、そのキャリアを通じて日本経済の浮沈を見守ってきた。メディア出演やセミナーを通じて、資産運用や住宅ローン、生命保険、税金、年金など幅広く「お金の知識」を発信している
「日銀の政策変更によって、日本には約30年ぶりに『金利のある世界』が戻ってきました。しかし、長く低金利時代が続いたせいで、40代以下の人は『低金利の日本』しか知らないんですね。金利が変わると金融領域のさまざまな商品に影響が出てきます。だから、これからは金利上昇時代に適した“お金の新常識”を身につけないとダメです」
そう話すのは、ファイナンシャルプランナーの深野康彦氏だ。深野氏は業界歴35年の大ベテラン。東京証券取引所や金融機関のセミナーに講師として呼ばれるなど、レジェンドと呼んでも差し支えのない存在だ。
そんな深野氏の新刊『金利で損しない方法、教えてください!人気FPが教える金利上昇時代の「お金の新ルール」』では、まさに金利上昇に合わせて「どのようにお金を増やすか?守るか?」というマネープランが細かく解説されている。なかでも深野氏が「最も大切なお金の守り方」と説くのが、間違った情報に惑わされないことだという。その真意を聞いてみよう。
◆住宅ローンの“煽り気味”ニュースに注意
金利が上がって特に不安を抱えているのは、おそらく住宅ローンを組んでいる人でしょう。日本人の大半は変動金利タイプの住宅ローンを利用していますので、金利が上がれば返済額も増えていく。日々のニュースでは「金利が上がって返済が大ピンチ!このまま変動でいいのか?」などと“煽り気味”の報道も目につきます。
しかし、私はあえて「焦らなくても大丈夫」と言いたいです。そういった煽り気味のニュースに踊らされることなく、正しい知識を得て、どっしりと構えていただきたい。
こういった報道でまず問題だと思うのは、住宅ローンが一時的に上がったとしても「ずっと高いままではなく、その後は金利が下がっていく」という事実を伝えていない点です。そもそも“金利の波”には「金利上昇局面」「ピーク圏」「下落局面」「ボトム圏」という4つの局面があります。
景気がよくて加熱しているときに、中央銀行は金利を上げて景気を冷まそうとします。すると、景気の加熱が収まり金利はピーク圏で「横ばい」になり、その後景気に陰りが見え始めると「下がって」いき、景気が悪化すると金利はほどなくしてボトム圏に入ります。このようなサイクルを繰り返していくものなのです。
今は金利上昇局面なので変動金利も上がっていきますが、その後はまた下がる局面に入ってきます。なので、いったん金利が上がって焦って家を手放したりすると、その後に大きな後悔をしてしまう可能性もあるわけです。そういった「金利の正しい知識」を持たずに日々のニュースに接してしまうと、ただただ焦って間違った判断をしてしまいます。
◆正しい判断をするためには「基礎的な知識」が必要
私は、一番大切なお金の守り方は、「情報を正しく見ること」だと思っています。最近ではテレビや新聞、書籍などではなくSNSで情報を得る人がとても増えました。むしろ今はSNSやYouTubeが主流になっているでしょう。
いずれのSNSが好みかは人それぞれですが、私はお金に関する情報は「基本的な知識」を持っているからこそ、その情報の真贋を見抜けると思っています。SNSの情報に優劣をつけたり、あるいは情報を有益に活用するためには、基本的な知識がなければダメなのです。
例えばSNSで「絶対に儲かる!」といった宣伝を見ると、最初は「本当かな?」と思いつつ、それっぽい解説を見るうちに「本当に儲かるかも!」などと気が乗ってきてしまう……。そんな誘導方法によって、投資詐欺のような案件に引っかかる人が後を絶ちません。
そうならないためには、自分の判断基準にできる「基本的な知識」が必要なのです。基本的な知識とは、言い換えれば、金融における「セオリー」です。先ほど述べた、住宅ローンと金利変動の基礎的なメカニズムもそう。その知識を持っていれば、いずれ家を買うタイミングが来たとしても、偏った情報に惑わされず、その時折の金利情報を見て正しい判断ができるはずです。
◆お金の知識は「タイパ」で考えてはいけない
SNSを完全には否定しません。しかし、SNSは一次情報を得るには適していますが、深掘りしたり、一次情報を取り巻く環境などを知ることには、あまり適していないと思います。深掘りするなり、取り巻く環境を広く知る場合には、新聞やニュース、専門誌・紙などのオールドメディアの活用も考えるべきでしょう。
そしてもう一つ私が伝えたいのは、金融領域に関しては「タイパ思考を持ってはいけない」ということです。お金の基本は、タイパを求める行動ではほぼ知識の習得がままならないと、私は考えています。
幸いにして、パソコンやスマホからでもお金の「基本的な知識」を習得することは可能です。ちょっと時間がかかりますが、少しガマンして投資や資産運用に関する本を1冊ガマンして読んでみてもよいはずです。
そうして得られた知識はお金周り全般だけでなく、あなたの仕事を含めた生活全般のどこかで役立つはずです。数年前から「格差」が折に触れて叫ばれますが、筆者は今の格差は「知っているか、知らないか」の情報の格差だと思います。
あなたがとるお金周り全般の行動は、成功しようが、失敗しようが「すべて自己責任」で済まされてしまいます。あなたの大切なお金を、SNSで推奨される銘柄に投じるだけで簡単に(楽して)増やせるとは思わないでください。ビキナーズラックはありえるでしょうが、それがずっと続くことはないのです。
<構成/上野智(まてい社)>
【深野康彦】
ファイナンシャルリサーチ代表。大学卒業後、クレジット会社を経て独立系FP会社に入社。その後、1996年に独立し、現在の有限会社ファイナンシャルリサーチは2社目の起業。FP業界歴35年(2024年10月現在)を誇り、そのキャリアを通じて日本経済の浮沈を見守ってきた。メディア出演やセミナーを通じて、資産運用や住宅ローン、生命保険、税金、年金など幅広く「お金の知識」を発信している