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『おむすび』が朝ドラ“史上最低視聴率”を更新しそうなワケ…どの世代にも支持されない理由

日刊SPA! 2024年12月27日 8時51分

 10月に始まった朝ドラことNHK連続テレビ小説『おむすび』が、折り返し地点に到達した。12月19日放送の第59回までの平均世帯視聴率は13.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)にとどまっている。
 朝ドラの全回平均のワーストは2009年度下期の『ウェルかめ』の13.5%。現時点ではこれを下回っている。後半はワースト記録を更新するかどうかに注目が集まってしまうだろう。

『おむすび』としては後半からV字回復を目論んでいるはず。だが、ここ1カ月の平均世帯視聴率は13.2%と低調だから、簡単ではないだろう。なぜ、この朝ドラは観てもらえないのか。考察したい。

◆「ギャルの掟」に縛られるヒロイン

 まず登場人物たちに魅力が乏しい。前作『虎に翼』における桂場等一郎(松山ケンイチ)や佐田優三(仲野大賀)らがいない。前々作『ブギウギ』の羽鳥善一(草彅 剛)、茨田りつ子(菊地凛子)に匹敵する存在も不在だ。

 長丁場となる朝ドラは、視聴者が登場人物たちを好きになり、感情移入してくれると、ストーリーがひとりでに動き出す。『おむすび』はそうなっていない。

 橋本環奈(25)が演じる米田結からして惹かれにくいキャラクターだ。序盤では何事にも一生懸命に取り組む純粋な女子高生だったはずだが、第31回でギャルになり、「アゲー!」などと叫ぶようになったころから、キャラが変わった。空気を読まず、自分勝手なところのある女性になってしまった。

 結のバイブルである「ギャルの掟」が背景にあるのだろう。掟はこうだ。

「掟その1 仲間が呼んだらすぐ駆けつける」「掟その2 他人の目は気にしない、自分が好きなことは貫け」「掟その3 ダサいことは死んでもするな」

 ポイントは掟その2。他人の目を気にせず、自分が好きなことを貫くということは、協調性や常識の欠如につながる。そんなキャラが許されるのは、せいぜい高校生という設定までだろう。

◆言いたいことを言ってるだけに見えてしまう

 結のキャラを表す象徴的なエピソードが紹介されたのは第38回(11月20日放送)。神戸栄養専門学校に入学したときだ。登校初日の結はギャルメイクで茶髪、派手なネイルをしていた。

 父親の聖人(北村有起哉)は「その格好で行くんか」と目を丸くしたが、結は意に介さなかった。聖人と同じく、鼻白んだ視聴者は少なくなかったのではないか。

 学校では新入生の挨拶が行われた。開業医の娘・湯上佳純(平祐奈)は「栄養士になって人類を救いたい」との抱負を披露した。元陸上選手・矢吹沙智(山本舞香)も「スポーツ専門の栄養士を目指しています」と意欲的だった。

 一方、結は「付き合っている彼氏が野球をやっていて、プロを目指しているので、彼を支えるために栄養のことを学びたい」と悪びれずに言った。高校時代から交際している四ツ木翔也(佐野勇斗)が、大阪の社会人野球チーム・星河電器に所属し、当時はプロ野球選手を夢見ていたからである。

 ギャルメイクでこの言葉だから、同級生たちはあきれた。やはり同じ思いだった視聴者がいただろう。ドラマはリアリティを追求する必要はないが、いくらなんでも現実離れしていた。

◆覚悟の感じられない“薄っぺらな”主張

 第56回(12月16日放送)になると、結は栄養士として翔也のいる星河電器に入社する。就職試験に落ちまくった末の縁故入社だった。

 入社早々に調理師で職場のボスである立川周作(三宅弘城)にかまされる。

「先に言うとく。うちに栄養士なんかいらん!」

 どこの職場にもいる困った頑固おやじである。やがて結は女性社員に料理の量や味付けへの不満があることを知り、立川にこう進言する。入社1週間後のことである。

「ここの料理は全体的に味が濃く、塩分も多く含まれています。それと、ラードもメッチャ使ってますよね。ラードを使うと、コクが出て味がおいしくなりますが、飽和脂肪酸が多く含まれているので、生活習慣病のリスクが高くなると言われています。メニューをイチから見直しませんか」(結)

 意見された立川はキレて、「やめたる!」と叫んだ。このエピソードも結のイメージを下げた。入社間もない身で職場の責任者に進言したからではない。このあと、結は立川に謝罪したからだ。なぜ、謝ったのか。そもそも結は深慮の上で立川に進言したのではない。覚悟がなかった。いつものことだが、軽い。相手の気持ちも考えられない。

「結はまだ20歳だから」と言う人もいるだろう。しかし、同級生の矢吹沙智が星河電器に入社していたら、同じような摩擦が起きただろうか。結のキャラ設定には疑問を感じざるを得ない。

◆50代以上の女性に好かれるキャラではない

 朝ドラの主な視聴者は50代以上の女性である。『虎に翼』の個人視聴率を調べると、約4人に1人が観ていた。凄まじい数だ。次いで50代以上の男性。約7人に1人が観ていた。50代以上が観ないと、朝ドラは成立しない。

 それなのに結の言動は50代以上に受け入れられそうにない。実際、『おむすび』の50代以上の個人視聴率は惨憺たる有り様だ。女性50代以上は『虎に翼』より視聴者が約2割も減った。男性50代以上は3分の2になってしまった。

 そもそも50代以上がメインターゲットである朝ドラでありながら、設定を「平成青春グラフィティ」としたのは無理があった気がする。若い視聴者を増やせと大号令をかけていたNHK前会長・前田晃伸氏(79)の意向も酌み取られているのだろうが、視聴者層の異なる朝ドラでは無茶だ。

 しかも若い視聴者もよく観ているわけではない。F1層(女性20~34歳)とM1層(男性同)の個人視聴率はともに0.3%にも達していない。全世代で総崩れなのである。

◆仲里依紗が演じる姉の人物像にも疑問

 魅力に欠けるのはほかの登場人物も同じ。仲里依紗(35)が演じる結の姉・歩は、複雑な女性なのか単純なのかも分からない。

 歩をめぐっての肩透かしのエピソードが連発されたことも視聴者が離れる一因になったと見る。第17回、歩が若き日のギャル時代のライバルである「天神乙女会」の明日香(寺本莉緒)から勝負を挑まれた。

 ただならぬ雰囲気で、決闘が始まることを思わせた。しかし次の第18回で分かった勝負の中身はラーメンの大食い対決。シリアスな内容ではなかったが、ギャグとも思えなかった。クスリとも出来なかったからだ。

 第27回では歩の付き人を名乗る佐々木佑馬(一ノ瀬ワタル)が、米田家の実家がある福岡県糸島市にやって来た。

「歩さんは大女優」なのだという。福岡のテレビ局は東京並みで、7つのチャンネルがあるから、本当に大女優であるのなら家族が気付かぬはずがない。釈然としない話だった。

 大女優のエピソードは第30回まで延々と引っ張られる。オチはカラオケの映像に登場する女優という話だった。そんなことだろうと思っていた視聴者は多いのではないか。やはり笑えなかった。

◆前作、前々作のヒロインと比較すると

 感動が薄いのもこの朝ドラの弱点。前作『虎に翼』では高等試験(現・司法試験)に受かったヒロイン・猪爪寅子(伊藤 沙莉)による熱弁などがあった。「困っている方を救い続けます。男女関係なく!」(第30回)

 前々作「ブギウギ」でのヒロインの福来スズ子(趣里)は、自分の実の父母だと思っていた花田梅吉(柳葉敏郎)とツヤ(水川あさみ)が養父母だと知るが、それを黙っていることにする。梅吉とツヤが自分を我が子同然で育ててくれたからだ。第22回だった。

 朝ドラのファンは感動も求めているから、このままでは今後も浮上は難しいだろう。

<文/高堀冬彦>

【高堀冬彦】
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員

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