移動の合間を縫って食事がとれる駅そばは勤め人にとって誠に重宝な存在だ。特に、近年減ってきているホーム店は移動手段(=電車)のすぐ横で営業しているのだから究極のファストフードと言えるかもしれない。
ただ、「駅そば=早い」というイメージが先行し誤解を生み、誤った利用をしているお客も少なくない。
◆駅そば店員が最も恐れている「券売機のトラブル」
駅そば店の業務で「最も」と言っていいくらい気を使うのが券売機に関するトラブルである。釣銭が切れた、食券を印字するロール紙が切れた、メニューの売り切れ設定…などはあらかじめ準備しておくことである程度対応できる。
一方で、くしゃくしゃのお札が内部で詰まった、お札と一緒にレシートを投入してしまった、などが原因のマシントラブルはお客による人為的エラーなので予測がつかないだけに、繁忙時やワンオペ体制だとこれらの対応だけで営業が回らなくなる恐れも大いにある。
券売機が店外にある店舗だと店員の目が届きにくいのでなおさらだ。
そしてこのような券売機のトラブルを装って「詐欺行為」を働く輩も残念ながら一定数存在するのである。
◆「券売機が反応しない」嘘をついた卑劣な行為
「券売機に500円を入れたのに反応しないんだけど」
筆者にそのようなクレームをつけてきたのは30代くらいのサラリーマン。硬貨を入れたが購入もできなければ返金もできないという。
券売機の取引履歴を見てもそんな形跡はない。その旨を説明するとほとんど表情も変えることなく引き下がったところをみると、おそらくこのような詐欺行為を常習的に行ってきたのではないだろうか。
本人的には、「今回は失敗だったか…」程度の気持ちだろう。
券売機にはお金の投入から購入、返金まですべてのデータが履歴として残る。そして履歴がなく、原因がはっきりしない以上、いくら強硬に詰められてもその場で店員が直接お客に現金を渡すことはない。
先ほどの輩は過去に、新人や券売機操作に不慣れな店員をつかまえて成功した経験があったのだろう。しかも彼らは繁忙時やワンオペ時を狙ってやってくることがほとんどで、金銭の多寡を抜きにしても相当卑劣な行為だ。
◆「ネギダブルで」度を超えた無料サービスを要求する客
クレーマーというほどでないが、駅そば店は値段設定が低いからか、ときに度を超えたサービスの要求するお客が来店しがちだ。
例えば、筆者の働いている店舗はかつては通常の量の1.5倍を提供する「ネギ大盛り」は無料サービスで、常連には必ず頼むお客もいた。
ただし、1.5倍といっても毎回計量してから提供しているわけではなく、特に繁忙時は「なんとなく1.5倍」の場合もある。その無料サービスに対してお客から「もっと多くして」と言われたことは一度や二度ではない。
中には「ネギダブルで」とさらに調子に乗ったお客もいた。そんな無料サービスはない。おかげで今年からネギ増量は有料となった。
◆駅そば店に対する「高すぎる要求」は他にも
また、そば・うどんメニューに「半熟卵+きつね+天かす」がトッピングされていて420円とかなりお手頃な朝限定商品がある(ちなみに「かけそば」は340円)。
この半熟卵を「生卵に替えて」または「煮卵に替えて」と要求するお客もいる。たしかに卵類は単品すべて100円だが、販売数や仕入れ、仕込みの手間などを考慮し、時間を限定してお値打ち価格で提供しているのが限定メニューなのだ。
半熟卵から生卵への変更は許容できても、煮卵はさすがに断っている。
他にも、「中華そば」の注文時に「麺硬めで」と要求してくるお客も少なくないが、ここはそういう店ではない。
店のマニュアルにもあるように衛生面や商品の品質を確約できない以上、「麺硬め」は駅そば店には過度な要求と言える。
◆閉店間際に来店した客のはらわた煮えくりかえる一言
前述した券売機トラブルが起きやすい時間帯というものがある。「営業終了間際」である。
例えば、筆者はワンオペ勤務時は営業終了時間が夜10時だとしたら、9時55分までに券売機前にお客がいなかったら店を閉めるようにしている。
最後の一杯を作っている間に券売機前に次々にお客が並び、いつの間にかドラクエ3のジャケ絵状態になり、いつまでも営業を終えられなくなる恐れあるからだ。
あのカスハラ客が来たのも、営業終了5分を過ぎて筆者が券売機を営業中から営業終了に切り替えていたまさにその時だった。
高齢の男性が「券売機、もう使えないの?」と聞いてくる。
「5分前だし、ひとりくらい大丈夫だろう」と考え、「10時でお店を閉めますが、それでもよろしかったらどうぞ」と説明し、食券購入を認めてしまったのが運の尽きだった。
しかしこのお客、10時5分になっても10分になっても帰らないのである。
筆者が何度目かの「そろそろお店を閉めますので」と促すや、「食べ残ってるのに帰すのかよ」とすごんでくる。
「なるべく急いでいただけないでしょうか?」とお願いするや返ってきたのが、「入れなきゃよかったな」という一言。
はらわたが煮えくり返ったのは言うまでもない。
◆駅そばの年越しそば事情。早い時間の来店がおすすめ
この経験を踏まえて、1980年代後半に日本中で話題になった、大みそかのそば店を舞台にした童話「一杯のかけそば」はかなり虚飾に満ちていたことがわかる。
「大晦日の夜10時過ぎ。店主が店じまいをしかけていると、みすぼらしい身なりの母子3人が来店し、3人で1杯のかけそばを注文。店主も気を利かせて黙って通常の1.5倍のそばを提供するやこれが3年ほど続いたという…」
ざっとこんなあらすじだったと思うが、一度ならず3年連続となると、人情を逆手にとった計画的手口と言わざるをえない。
年の瀬のこの時期は駅そば店で年越しそばを食べるという読者も多いだろう。
筆者が勤務する系列店は年末年始も休みなく営業するものの、大みそかと元旦は通常よりも3時間ほど短い。店舗によっては年内の最終土曜日から三が日まで9連休というところもある。
会社勤めをしている普段のお客の売り上げが望めないためだ。年越しそばといっても、薄利多売の駅そば店はかなりドライな経営なのである。
そして年末年始は通常営業ではないだけに食材の発注量が難しい。かき揚げなどはお昼を過ぎるころには売り切れる場合もある。大みそかにお目当てのそばを食べたいなら早めの来店をおすすめする。
<文/ボニー・アイドル>
【ボニー・アイドル】
ライター。体験・潜入ルポ、B級グルメ、芸能・アイドル評などを中心に手掛ける。X(旧Twitter):@bonnieidol
ただ、「駅そば=早い」というイメージが先行し誤解を生み、誤った利用をしているお客も少なくない。
◆駅そば店員が最も恐れている「券売機のトラブル」
駅そば店の業務で「最も」と言っていいくらい気を使うのが券売機に関するトラブルである。釣銭が切れた、食券を印字するロール紙が切れた、メニューの売り切れ設定…などはあらかじめ準備しておくことである程度対応できる。
一方で、くしゃくしゃのお札が内部で詰まった、お札と一緒にレシートを投入してしまった、などが原因のマシントラブルはお客による人為的エラーなので予測がつかないだけに、繁忙時やワンオペ体制だとこれらの対応だけで営業が回らなくなる恐れも大いにある。
券売機が店外にある店舗だと店員の目が届きにくいのでなおさらだ。
そしてこのような券売機のトラブルを装って「詐欺行為」を働く輩も残念ながら一定数存在するのである。
◆「券売機が反応しない」嘘をついた卑劣な行為
「券売機に500円を入れたのに反応しないんだけど」
筆者にそのようなクレームをつけてきたのは30代くらいのサラリーマン。硬貨を入れたが購入もできなければ返金もできないという。
券売機の取引履歴を見てもそんな形跡はない。その旨を説明するとほとんど表情も変えることなく引き下がったところをみると、おそらくこのような詐欺行為を常習的に行ってきたのではないだろうか。
本人的には、「今回は失敗だったか…」程度の気持ちだろう。
券売機にはお金の投入から購入、返金まですべてのデータが履歴として残る。そして履歴がなく、原因がはっきりしない以上、いくら強硬に詰められてもその場で店員が直接お客に現金を渡すことはない。
先ほどの輩は過去に、新人や券売機操作に不慣れな店員をつかまえて成功した経験があったのだろう。しかも彼らは繁忙時やワンオペ時を狙ってやってくることがほとんどで、金銭の多寡を抜きにしても相当卑劣な行為だ。
◆「ネギダブルで」度を超えた無料サービスを要求する客
クレーマーというほどでないが、駅そば店は値段設定が低いからか、ときに度を超えたサービスの要求するお客が来店しがちだ。
例えば、筆者の働いている店舗はかつては通常の量の1.5倍を提供する「ネギ大盛り」は無料サービスで、常連には必ず頼むお客もいた。
ただし、1.5倍といっても毎回計量してから提供しているわけではなく、特に繁忙時は「なんとなく1.5倍」の場合もある。その無料サービスに対してお客から「もっと多くして」と言われたことは一度や二度ではない。
中には「ネギダブルで」とさらに調子に乗ったお客もいた。そんな無料サービスはない。おかげで今年からネギ増量は有料となった。
◆駅そば店に対する「高すぎる要求」は他にも
また、そば・うどんメニューに「半熟卵+きつね+天かす」がトッピングされていて420円とかなりお手頃な朝限定商品がある(ちなみに「かけそば」は340円)。
この半熟卵を「生卵に替えて」または「煮卵に替えて」と要求するお客もいる。たしかに卵類は単品すべて100円だが、販売数や仕入れ、仕込みの手間などを考慮し、時間を限定してお値打ち価格で提供しているのが限定メニューなのだ。
半熟卵から生卵への変更は許容できても、煮卵はさすがに断っている。
他にも、「中華そば」の注文時に「麺硬めで」と要求してくるお客も少なくないが、ここはそういう店ではない。
店のマニュアルにもあるように衛生面や商品の品質を確約できない以上、「麺硬め」は駅そば店には過度な要求と言える。
◆閉店間際に来店した客のはらわた煮えくりかえる一言
前述した券売機トラブルが起きやすい時間帯というものがある。「営業終了間際」である。
例えば、筆者はワンオペ勤務時は営業終了時間が夜10時だとしたら、9時55分までに券売機前にお客がいなかったら店を閉めるようにしている。
最後の一杯を作っている間に券売機前に次々にお客が並び、いつの間にかドラクエ3のジャケ絵状態になり、いつまでも営業を終えられなくなる恐れあるからだ。
あのカスハラ客が来たのも、営業終了5分を過ぎて筆者が券売機を営業中から営業終了に切り替えていたまさにその時だった。
高齢の男性が「券売機、もう使えないの?」と聞いてくる。
「5分前だし、ひとりくらい大丈夫だろう」と考え、「10時でお店を閉めますが、それでもよろしかったらどうぞ」と説明し、食券購入を認めてしまったのが運の尽きだった。
しかしこのお客、10時5分になっても10分になっても帰らないのである。
筆者が何度目かの「そろそろお店を閉めますので」と促すや、「食べ残ってるのに帰すのかよ」とすごんでくる。
「なるべく急いでいただけないでしょうか?」とお願いするや返ってきたのが、「入れなきゃよかったな」という一言。
はらわたが煮えくり返ったのは言うまでもない。
◆駅そばの年越しそば事情。早い時間の来店がおすすめ
この経験を踏まえて、1980年代後半に日本中で話題になった、大みそかのそば店を舞台にした童話「一杯のかけそば」はかなり虚飾に満ちていたことがわかる。
「大晦日の夜10時過ぎ。店主が店じまいをしかけていると、みすぼらしい身なりの母子3人が来店し、3人で1杯のかけそばを注文。店主も気を利かせて黙って通常の1.5倍のそばを提供するやこれが3年ほど続いたという…」
ざっとこんなあらすじだったと思うが、一度ならず3年連続となると、人情を逆手にとった計画的手口と言わざるをえない。
年の瀬のこの時期は駅そば店で年越しそばを食べるという読者も多いだろう。
筆者が勤務する系列店は年末年始も休みなく営業するものの、大みそかと元旦は通常よりも3時間ほど短い。店舗によっては年内の最終土曜日から三が日まで9連休というところもある。
会社勤めをしている普段のお客の売り上げが望めないためだ。年越しそばといっても、薄利多売の駅そば店はかなりドライな経営なのである。
そして年末年始は通常営業ではないだけに食材の発注量が難しい。かき揚げなどはお昼を過ぎるころには売り切れる場合もある。大みそかにお目当てのそばを食べたいなら早めの来店をおすすめする。
<文/ボニー・アイドル>
【ボニー・アイドル】
ライター。体験・潜入ルポ、B級グルメ、芸能・アイドル評などを中心に手掛ける。X(旧Twitter):@bonnieidol