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セブン&アイ“7兆円”争奪戦、買収側の本音「セブンが日本ローカルの小さな流通企業に」

日刊SPA! 2024年12月31日 8時51分

 セブン&アイ・ホールディングスが、カナダのコンビニエンスストア大手、アリマンタシォン・クシュタールから買収提案をうけたことで幕を開けた「セブン&アイ争奪戦」。セブン&アイは徹底抗戦の構えを見せており、買収交渉の行方は不透明。着地点を見出せないまま、年をまたぐことになりそうだ。
◆買収防衛策が不発で奇策に

 2024年8月にクシュタール1株14.86ドル、当時の為替レートで換算すると総額6兆円規模で全株式を取得するとセブン&アイに提案。これに対しセブン&アイは「企業価値を『著しく』過小評価している」などと回答して提案を拒否した。それを受けてクシュタールは10月に入って1株18.19ドル(約2700円)、買収総額にして7兆円規模まで引き上げる“再提案”を行っている。 

 その間セブン&アイは、クシュタールからの買収防衛として株価を引き上げるため、イトーヨーカ堂やデニーズ、赤ちゃん本舗、そしてロフトといった非コンビニ事業の切り離し(株式の一部は保有し続ける方針)を発表し、社名も2025年に「セブン‐イレブン・コーポレーション(仮)」に変更する方針を打ち出した。また、2030年までにグループ売上高を今のおよそ2倍に当たる30兆円まで引き上げるといった大風呂敷も開示したが、市場は冷ややか。株価はそこまで上がらなかった。

 そのためセブン&アイは最後の“秘策”に打って出る。MBO(経営者による買収)による株式の非公開化だ。形式上は創業家による買収提案だが、実態は買収防衛策の一環。しかし8兆円とも9兆円とも言われる巨額の資金調達に苦労しており、実現の可能性は不透明だ。

◆米国事業だけを買収すれば安く済む

 日本が誇る流通最大手の一角を襲った、外資による突然の買収劇。果たして、セブン&アイはどうなるのか。

「①クシュタールの買収提案、②創業家の買収提案、そして③セブン&アイの独自路線という3つの選択肢が同時に走っており、どのプランを選ぶか検討する特別委員会の判断がカギを握る。だが、判断を誤れば、セブン&アイが日本ローカルの小さな流通企業になってしまう可能性もある」

 そう危惧するのは、東洋経済新報社の田島靖久記者。20年間にわたってセブン&アイを取材し、今回の争奪戦を詳細にまとめた『セブン&アイ 解体へのカウントダウン』を上梓した田島氏の目には、クシュタールという“黒船”の本音が透けて見えるという。

「現時点でクシュタールは『同意なき買収』については否定し、セブン&アイ全体の買収を目指している、と主張しています。しかし、関係者への取材からは、セブン&アイが展開する米国でのコンビニ事業が喉から手が出るほど欲しい様が感じられた。ガソリンスタンド併設型の店舗を展開しているクシュタールとはシナジーが生まれやすいですからね」

 また、セブン&アイ・ホールディングスの米国コンビニ事業のトップを務めるジョセフ・マイケル・デピントは、「もともとセブン‐イレブンは米国発の会社だという思いが強く、独立心も強い」との評価が一般的。そのためセブン&アイも、デピントに77億円という日本企業トップの役員報酬を支払ってつなぎ止めている。そんなデピントが「クシュタールの買収をきっかけとしてセブン&アイグループを離れて独立し、上場を目論んでいるのではないかといった見方もある」と田島氏は指摘する。

「クシュタールにしてみれば、7〜8兆円程度で全体を買収してから、米国のセブン‐イレブンだけ残して他を売却すれば、最終的な買収額は低く抑えることができる。デピントと組んでそうしたスキームを検討しているのではないかという見立てだ」

◆創業家にしても「渡りに船」

 一方、創業家のMBOにしても、田島記者はこう語る。

「守りたいのは祖業であるイトーヨーカ堂で、事業の継続性を考えればそれに国内のセブン‐イレブンがあればいい。資金用達面で苦労しており、米国事業を売却すればMBOの資金は抑えられる。つまり両者の思惑は一致するという見方です」

 事実、セブン&アイは、そごう・西武の売却時にある“奇策”を弄している。

「そごう・西武を買収した投資ファンドのフォートレスは、買収と同時にヨドバシホールディングスに西武池袋本店や渋谷店などを売却し、その資金で銀行からの借り入れを返済した。こうしたスキームについては『ヨドバシによるトンネル買収ではないか』といった声も出たが、そうした経験があるため、今回も同様のスキームを検討している可能性がある」

 現時点ではそうした奇策が検討されているかは表面化しておらず不透明だ。だが、もしそうした事態になれば、セブン&アイは最大の成長エンジンで屋台骨の米国事業を失ってしまう。そのため、「長らく再建を果たすことができなかったイトーヨーカ堂と、すでにオーバーストア状態で成長の余地が乏しい国内のコンビニ事業だけでは苦戦するのは必至で、セブン&アイは国内最大の流通グループから滑り落ちる可能性が高い」と田島氏は指摘する。

 果たしてセブン&アイはどういった道を選ぶのか。その結論は年をまたいで明らかになりそうだ。

●田島靖久 週刊東洋経済副編集長(たじま・やすひさ)/1970年生まれ。NHKをへてダイヤモンド社に入社。流通、商社、銀行などを担当しながら特集制作に携わる。2020年からは東洋経済新報社に入社し報道部長をへて現職。近著に「セブン&アイ 解体へのカウントダウン」(東洋経済新報社)がある

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