在留外国人数が過去最高を記録するなか、SNSでは問題行動が目に余る一部の不良外国人を敵視する声も溢れる。果たして、共生の道はあるのか? 今回、日本で必死に生きる彼らの自宅に突撃。虐げられた魂の叫びに耳を傾けた。
◆マルコスさん(38歳)
国籍:ブラジル
日本滞在:34年
ブラジルで生まれ、4歳から日本で育つ。母はブラジル育ちの日系人、父はブラジル人だが若くして両親は離婚。元ホスト、セクシー男優で現在はトー横に入り浸る生活を送る
◆群馬から片道2時間……。トー横夜廻りブラジル人
群馬県館林市の一角にある小さな一軒家。イエローの布団にブルーのカーテン、柄入りのポップな色彩に囲まれる6畳の部屋の主はブラジル国籍のマルコスさん(38歳)だ。
「これはかあちゃんの趣味だね。ブラジル人ってカラフルなもんが好きだからさ」
階下では母親が「息子がせっかく友人を連れてきたから」と料理中の様子。食欲を誘うスパイスの香りが漂ってくる。
3年前から新宿・歌舞伎町のトー横に入り浸るマルコスさんは、この実家と歌舞伎町を行き来する生活を送る。
「保護司の面談が2週間に一回あってさ。そのときは必ず帰ってかあちゃんの飯を食いながら、近況を話してるんだ」
◆2度の逮捕の真相は…
’23年2月、マルコスさんは威力業務妨害と建造物侵入で逮捕され、全国に報道された。
「俺はトー横近くのコンビニのヘビーユーザーで、仲のいい店員も多かった。でも、一人だけ日本人店員が俺を目の敵にしていた。近所のラーメン屋でスープをもらったから、おにぎりを買うついでに温めてほしいって言ったら『ダメ』って。じゃあおにぎりだけでも温めてよって言ったらそれも『ダメ』の一点張り。それ以降、俺を出禁にしやがった。それである日、その店員に思い知らせようと、近くにあったチャリで突撃したんだ」
だが、話をよくよく聞いてみると……。
「その日、そいつ店にいなかったんだよね。ちなみに棚に気をつけて、そろ~っと行ったから物は壊してないよ(笑)」
裁判では懲役1年半、執行猶予4年の判決が下った。
そして、懲りずに昨冬には、自転車の窃盗騒動も起こす。
「知人が電動自転車を見つけて拾っちまったんだ。それで、俺がわざとトー横の広場で目立つように乗ってた。そうすれば持ち主が見つけやすいだろ? 数日後、狙い通り持ち主が現れた。警察を連れて。『ほらよ』って素直に渡したのに逮捕。ひどくねぇか」
屁理屈に聞こえなくもないが、マルコスさんの目を見ると至って本気だ。
◆幼少期から苦しんだ外国人という立場
1990年代、大手企業の製造現場で深刻な人材難が生じ、入管法が改定。それに伴い群馬県大泉町にはブラジル人が大量移住した。隣町である舘林にも少数のブラジル人が移り住んだが、大泉に比べると外国人は少なく、奇異な目で見られて育った。
「両親は俺が生まれてすぐ離婚して、ブラジル人の父親の顔は覚えてない。かあちゃんはブラジル育ちの日系人。4歳のとき、親子2人で日本にきたけど、ずっと孤独だった。友達に何かとイジられ、笑って流しても劣等感は常にあって、夜は泣いてた。俺は日本では“ブラジル人”。ブラジルでは“ジャポネーゼ”。どうすりゃいいんだよって……」
孤独感のあまり悪さをしてしまい、親戚に「根性焼き」をされたこともあった。
「それでも家族を馬鹿にされるのが一番嫌でさ。かあちゃんの日本語がカタコトなのをからかわれるのだけは許せなかった。お前ら、俺のかあちゃんがどれだけ必死に生きてるか知らないだろうって。ブラジルでは食事は卵一つとかパンの耳だけ。かあちゃんはそんな生活を変えようって、身一つで日本に来たんだ」
中高生になると体格が良くなり、いじめは減ったが、地元が窮屈なのは変わらない。20歳で上京し、22歳のときに歌舞伎町でホストを始めた。29歳から男優としても活動し、トップセクシー女優と共演。男優の肩書を生かしてホストに箔をつけていった。
◆親友の死を受けて人生観が変わった
現在、ホストは引退し、男優活動も休止中。水商売をやっているオランダ人の彼女に養ってもらっている身だ。
酒好きでトラブルも絶えない。本人曰く「2年前までは逮捕とかの一線は越えなかった」が、粗暴な振る舞いが増えたのにはきっかけがあった。
「トー横を仕切ってたハウル(’22年に未成年淫行容疑で逮捕後、拘置所で死亡)ってやつがいただろ? みんなのために飯を作って、悩む若者に電話で3時間とか付き合って。あいつの姿を見て、俺、感動したよ。あんなに人のために行動する男は見たことない。なのに逮捕されたらみんな手のひら返し。この世に正義なんかないって絶望したよ」
この日の夕飯はナスや鶏肉などの揚げ物三昧。母親が「サッパリするよ」と大量のフルーツも剥いて出してくれた。
「このコは変わってるから本当に大変だよ!」そう笑いつつ、母親は夕飯を済ますと車で片道2時間をかけてマルコスさんと取材班をトー横まで送ってくれた。別れ際、マルコスさんはこう語る。
「ハウルの代わりは難しいけど、寂しくてトー横に来る若いコに、俺ができることはしてあげたい。“この間はありがとう”ってバイト代握りしめて来てくれるの見ると涙が出るよ。もちろん、そんなの受け取れねぇけどな」
居場所のなさに悩み、トー横に集まる若者たち。孤独を知るマルコスさんだからこそ差し伸べられる手もある。
<取材・文/週刊SPA!編集部>
―[突撃ルポ[元不良外国人の自宅]]―
◆マルコスさん(38歳)
国籍:ブラジル
日本滞在:34年
ブラジルで生まれ、4歳から日本で育つ。母はブラジル育ちの日系人、父はブラジル人だが若くして両親は離婚。元ホスト、セクシー男優で現在はトー横に入り浸る生活を送る
◆群馬から片道2時間……。トー横夜廻りブラジル人
群馬県館林市の一角にある小さな一軒家。イエローの布団にブルーのカーテン、柄入りのポップな色彩に囲まれる6畳の部屋の主はブラジル国籍のマルコスさん(38歳)だ。
「これはかあちゃんの趣味だね。ブラジル人ってカラフルなもんが好きだからさ」
階下では母親が「息子がせっかく友人を連れてきたから」と料理中の様子。食欲を誘うスパイスの香りが漂ってくる。
3年前から新宿・歌舞伎町のトー横に入り浸るマルコスさんは、この実家と歌舞伎町を行き来する生活を送る。
「保護司の面談が2週間に一回あってさ。そのときは必ず帰ってかあちゃんの飯を食いながら、近況を話してるんだ」
◆2度の逮捕の真相は…
’23年2月、マルコスさんは威力業務妨害と建造物侵入で逮捕され、全国に報道された。
「俺はトー横近くのコンビニのヘビーユーザーで、仲のいい店員も多かった。でも、一人だけ日本人店員が俺を目の敵にしていた。近所のラーメン屋でスープをもらったから、おにぎりを買うついでに温めてほしいって言ったら『ダメ』って。じゃあおにぎりだけでも温めてよって言ったらそれも『ダメ』の一点張り。それ以降、俺を出禁にしやがった。それである日、その店員に思い知らせようと、近くにあったチャリで突撃したんだ」
だが、話をよくよく聞いてみると……。
「その日、そいつ店にいなかったんだよね。ちなみに棚に気をつけて、そろ~っと行ったから物は壊してないよ(笑)」
裁判では懲役1年半、執行猶予4年の判決が下った。
そして、懲りずに昨冬には、自転車の窃盗騒動も起こす。
「知人が電動自転車を見つけて拾っちまったんだ。それで、俺がわざとトー横の広場で目立つように乗ってた。そうすれば持ち主が見つけやすいだろ? 数日後、狙い通り持ち主が現れた。警察を連れて。『ほらよ』って素直に渡したのに逮捕。ひどくねぇか」
屁理屈に聞こえなくもないが、マルコスさんの目を見ると至って本気だ。
◆幼少期から苦しんだ外国人という立場
1990年代、大手企業の製造現場で深刻な人材難が生じ、入管法が改定。それに伴い群馬県大泉町にはブラジル人が大量移住した。隣町である舘林にも少数のブラジル人が移り住んだが、大泉に比べると外国人は少なく、奇異な目で見られて育った。
「両親は俺が生まれてすぐ離婚して、ブラジル人の父親の顔は覚えてない。かあちゃんはブラジル育ちの日系人。4歳のとき、親子2人で日本にきたけど、ずっと孤独だった。友達に何かとイジられ、笑って流しても劣等感は常にあって、夜は泣いてた。俺は日本では“ブラジル人”。ブラジルでは“ジャポネーゼ”。どうすりゃいいんだよって……」
孤独感のあまり悪さをしてしまい、親戚に「根性焼き」をされたこともあった。
「それでも家族を馬鹿にされるのが一番嫌でさ。かあちゃんの日本語がカタコトなのをからかわれるのだけは許せなかった。お前ら、俺のかあちゃんがどれだけ必死に生きてるか知らないだろうって。ブラジルでは食事は卵一つとかパンの耳だけ。かあちゃんはそんな生活を変えようって、身一つで日本に来たんだ」
中高生になると体格が良くなり、いじめは減ったが、地元が窮屈なのは変わらない。20歳で上京し、22歳のときに歌舞伎町でホストを始めた。29歳から男優としても活動し、トップセクシー女優と共演。男優の肩書を生かしてホストに箔をつけていった。
◆親友の死を受けて人生観が変わった
現在、ホストは引退し、男優活動も休止中。水商売をやっているオランダ人の彼女に養ってもらっている身だ。
酒好きでトラブルも絶えない。本人曰く「2年前までは逮捕とかの一線は越えなかった」が、粗暴な振る舞いが増えたのにはきっかけがあった。
「トー横を仕切ってたハウル(’22年に未成年淫行容疑で逮捕後、拘置所で死亡)ってやつがいただろ? みんなのために飯を作って、悩む若者に電話で3時間とか付き合って。あいつの姿を見て、俺、感動したよ。あんなに人のために行動する男は見たことない。なのに逮捕されたらみんな手のひら返し。この世に正義なんかないって絶望したよ」
この日の夕飯はナスや鶏肉などの揚げ物三昧。母親が「サッパリするよ」と大量のフルーツも剥いて出してくれた。
「このコは変わってるから本当に大変だよ!」そう笑いつつ、母親は夕飯を済ますと車で片道2時間をかけてマルコスさんと取材班をトー横まで送ってくれた。別れ際、マルコスさんはこう語る。
「ハウルの代わりは難しいけど、寂しくてトー横に来る若いコに、俺ができることはしてあげたい。“この間はありがとう”ってバイト代握りしめて来てくれるの見ると涙が出るよ。もちろん、そんなの受け取れねぇけどな」
居場所のなさに悩み、トー横に集まる若者たち。孤独を知るマルコスさんだからこそ差し伸べられる手もある。
<取材・文/週刊SPA!編集部>
―[突撃ルポ[元不良外国人の自宅]]―