飽食の時代、寿司・焼肉・カレー・スイーツなど、あらゆるものが好きな時に食べられる日本。そんな状況にあって、徹底的に同じものを食べる人も存在する。冬になると食べたくなる「焼き芋」を毎日欠かさず食べている熱波師でライターの天谷窓大氏(41歳)もその一人。
健康問題は起きていないのか、太ることはないのか。本人を直撃した。
◆焼き芋に救われ、「極めてみたいな」と…
もともと、“人並み”に焼き芋が好きだったという天谷氏。話は、メンタルがかなり落ち込んでいた時期にさかのぼる。
「会社員時代、パワハラ地獄に苦しみ、生きる気力がなくなっていた時期があって……。その時に、たまたま食べた焼き芋の味に感動したんです。高級なものではなく、スーパーの軒先で売っているものだったんですけど、身体と心にしみたんですよね。美味しい焼き芋を食べたら、こんなに元気が出るんだなと」
焼き芋自体がこの数十年で大きく進化を遂げていたことも、大きな要因になっているという。
「僕が子供のころに食べていたのは、パサパサで当たり外れが多いというイメージでした。でも、『今はこんなにしっとりして甘くなっているんだ』と思いました。それで、焼き芋の世界を極めてみたいなと思って」
◆この2年で食べた焼き芋は「1000本以上」
その後、フリーランスとしてライターや熱波師の活動をするようになると、“焼き芋アンバサダー”を名乗り、焼き芋に関する広報活動やイベントのプロデュースをするようになる。
「アンバサダーと名乗り始めると、好きなだけでは説得力がないと思うようになりました。ちょうど、知り合いの農家さんからお芋を箱でいただく機会があったので、毎日食べようと決めて」
そこから約2年。最低でも1日1本の焼き芋を食べ続けている。調子の良い日は2〜3本になり、イベントの日は10本を超えることもあるとのことで、この2年で1000〜1500本の焼き芋を食べている計算だ。
◆シンプルな疑問「飽きないのか?」
いくら焼き芋の味に感動したといえど、味のバリエーションも多くはなさそうに思える。毎日食べていては、流石に飽きるのではないだろうか。
「品種それぞれに味わいが違いますから。そもそも、同じ焼き芋を食べることで『昨日と味の感じ方が違う』、あるいは『今日はいつもより食べられる』など、自分の体調やメンタルを測るバロメーターにもなりますしね」
疲れているとクエン酸が酸っぱく感じるのと同じように、体調の変化を顕現化してくれているようだ。
「たとえば焼き芋に合わせる飲み物を変えることで、味わいが全然変わるんです。一番合うのは牛乳ですね! 成分調整乳ではなく、生乳から作った脂肪分の強い牛乳がベストマッチです。アイスコーヒーや紅茶と合わせても美味しいですよ」
◆「オナラがいっぱい出る」のは本当なのか?
芋を食べるとオナラが出るのではないか。さつまいもの食物繊維が腸内で分解される際に、大量のガスが出るという理屈らしいが、実際のところはどうなのか。
「焼き芋に限らず、食事をすれば腸が動くので出ますよ。イベントで10本食べた日はオナラが止まらないとかもないですし(笑)。昔のお芋は、筋張って繊維質が多かったのでより胃腸が動いたのではないかと。だからおならが出るイメージが強いんじゃないかと思います。今はしっとりした品種ばかりですから、一概にそうとも言えないはずです」
また、ダイエットをする際に炭水化物を抜く人も多いが、芋類は炭水化物の多い食品の代表といってもいい。毎日焼き芋生活をはじめて以降、体重の変化はあったのだろうか。
「体重100kg超えの時点で説得力はほとんどありませんが(苦笑)。焼き芋を中心に据えた食生活になったことでメリハリがついて、余分な間食を取らなくても満足できるようになりました。焼き芋の腹持ちの良さは素晴らしいですよ。日々の食生活に焼き芋という太い芯が通ることで、食欲を上手にコントロールできるようになりました」
◆体調を崩すどころか「好転した」
そんな天谷さんの話を聞いていると、焼き芋は健康食なのではないかと思えてくる。さらに、天谷氏は“毎日焼き芋生活”をはじめてからの変化を語ってくれた。
「気分が落ち込むことが少なくなりました。ビタミンが多く入っていて食物繊維も豊富なので、胃腸の調子が良くなるんです。多くの神経細胞があることから『胃腸は第二の脳』とも言いますからね」
確かにさつまいもには、ビタミンCがりんごの7倍、食物繊維も多く含まれており整腸効果が高い食べ物であるので理屈は通る。
◆マニアが選ぶ「おすすめの品種」は…
筆者は、焼き芋を数十年食べた記憶がない。進化しているという焼き芋、代表的な品種とその特徴を教えてもらった。
「一番人気は『紅はるか』です。しっとり系の代表的存在で、焼き芋にすると透明感のある肉質と鮮やかな甘さが味わえます。丸っこい形と中身の黄色い見た目が特徴の『安納芋』も人気ですね。ねっとりと言ってもいいくらい粘り気のある口当たりです。お芋の繊維感が苦手という方も多いと思いますが、『シルクスイート』はしっとり系の中でも特に繊維感が少なく、スイートポテトのようにクリーミーな食感なのでオススメです。逆に、昔ながらの焼き芋を求めるなら『紅あずま』がホクホク系の代表格ですね」
=====
天谷氏がプロデュースする焼き芋イベントは、日本語のみでの告知にもかかわらずインバウンド観光客が大挙するという。今後、“焼き芋ビジネス”に勝機があるかもしれない。
<取材・文/Mr.tsubaking>
【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。
健康問題は起きていないのか、太ることはないのか。本人を直撃した。
◆焼き芋に救われ、「極めてみたいな」と…
もともと、“人並み”に焼き芋が好きだったという天谷氏。話は、メンタルがかなり落ち込んでいた時期にさかのぼる。
「会社員時代、パワハラ地獄に苦しみ、生きる気力がなくなっていた時期があって……。その時に、たまたま食べた焼き芋の味に感動したんです。高級なものではなく、スーパーの軒先で売っているものだったんですけど、身体と心にしみたんですよね。美味しい焼き芋を食べたら、こんなに元気が出るんだなと」
焼き芋自体がこの数十年で大きく進化を遂げていたことも、大きな要因になっているという。
「僕が子供のころに食べていたのは、パサパサで当たり外れが多いというイメージでした。でも、『今はこんなにしっとりして甘くなっているんだ』と思いました。それで、焼き芋の世界を極めてみたいなと思って」
◆この2年で食べた焼き芋は「1000本以上」
その後、フリーランスとしてライターや熱波師の活動をするようになると、“焼き芋アンバサダー”を名乗り、焼き芋に関する広報活動やイベントのプロデュースをするようになる。
「アンバサダーと名乗り始めると、好きなだけでは説得力がないと思うようになりました。ちょうど、知り合いの農家さんからお芋を箱でいただく機会があったので、毎日食べようと決めて」
そこから約2年。最低でも1日1本の焼き芋を食べ続けている。調子の良い日は2〜3本になり、イベントの日は10本を超えることもあるとのことで、この2年で1000〜1500本の焼き芋を食べている計算だ。
◆シンプルな疑問「飽きないのか?」
いくら焼き芋の味に感動したといえど、味のバリエーションも多くはなさそうに思える。毎日食べていては、流石に飽きるのではないだろうか。
「品種それぞれに味わいが違いますから。そもそも、同じ焼き芋を食べることで『昨日と味の感じ方が違う』、あるいは『今日はいつもより食べられる』など、自分の体調やメンタルを測るバロメーターにもなりますしね」
疲れているとクエン酸が酸っぱく感じるのと同じように、体調の変化を顕現化してくれているようだ。
「たとえば焼き芋に合わせる飲み物を変えることで、味わいが全然変わるんです。一番合うのは牛乳ですね! 成分調整乳ではなく、生乳から作った脂肪分の強い牛乳がベストマッチです。アイスコーヒーや紅茶と合わせても美味しいですよ」
◆「オナラがいっぱい出る」のは本当なのか?
芋を食べるとオナラが出るのではないか。さつまいもの食物繊維が腸内で分解される際に、大量のガスが出るという理屈らしいが、実際のところはどうなのか。
「焼き芋に限らず、食事をすれば腸が動くので出ますよ。イベントで10本食べた日はオナラが止まらないとかもないですし(笑)。昔のお芋は、筋張って繊維質が多かったのでより胃腸が動いたのではないかと。だからおならが出るイメージが強いんじゃないかと思います。今はしっとりした品種ばかりですから、一概にそうとも言えないはずです」
また、ダイエットをする際に炭水化物を抜く人も多いが、芋類は炭水化物の多い食品の代表といってもいい。毎日焼き芋生活をはじめて以降、体重の変化はあったのだろうか。
「体重100kg超えの時点で説得力はほとんどありませんが(苦笑)。焼き芋を中心に据えた食生活になったことでメリハリがついて、余分な間食を取らなくても満足できるようになりました。焼き芋の腹持ちの良さは素晴らしいですよ。日々の食生活に焼き芋という太い芯が通ることで、食欲を上手にコントロールできるようになりました」
◆体調を崩すどころか「好転した」
そんな天谷さんの話を聞いていると、焼き芋は健康食なのではないかと思えてくる。さらに、天谷氏は“毎日焼き芋生活”をはじめてからの変化を語ってくれた。
「気分が落ち込むことが少なくなりました。ビタミンが多く入っていて食物繊維も豊富なので、胃腸の調子が良くなるんです。多くの神経細胞があることから『胃腸は第二の脳』とも言いますからね」
確かにさつまいもには、ビタミンCがりんごの7倍、食物繊維も多く含まれており整腸効果が高い食べ物であるので理屈は通る。
◆マニアが選ぶ「おすすめの品種」は…
筆者は、焼き芋を数十年食べた記憶がない。進化しているという焼き芋、代表的な品種とその特徴を教えてもらった。
「一番人気は『紅はるか』です。しっとり系の代表的存在で、焼き芋にすると透明感のある肉質と鮮やかな甘さが味わえます。丸っこい形と中身の黄色い見た目が特徴の『安納芋』も人気ですね。ねっとりと言ってもいいくらい粘り気のある口当たりです。お芋の繊維感が苦手という方も多いと思いますが、『シルクスイート』はしっとり系の中でも特に繊維感が少なく、スイートポテトのようにクリーミーな食感なのでオススメです。逆に、昔ながらの焼き芋を求めるなら『紅あずま』がホクホク系の代表格ですね」
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天谷氏がプロデュースする焼き芋イベントは、日本語のみでの告知にもかかわらずインバウンド観光客が大挙するという。今後、“焼き芋ビジネス”に勝機があるかもしれない。
<取材・文/Mr.tsubaking>
【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。