山崎製パンの人気シリーズの一つ「薄皮シリーズ」。小さいサイズながらも、中身がぎっしり詰まった“ミニパン”で、あんぱんやクリームパン、期間限定味を含めた菓子パンシリーズとして展開してきた。
2024年には同シリーズにて“惣菜パン”シリーズを発売開始。なかでも「たまご味」は発売から10ヶ月で、累計1600万個を突破しているという。
なぜ薄皮シリーズで“惣菜パン”に注目したのか? 営業統括本部 マーケティング部の部長、早川史朗さんに、現在のパン市場を踏まえた開発理由や今後の展望について聞いてみた。
◆ヤマザキの人気ベストセラー「薄皮シリーズ」
食べやすさと食べ応えを両立する「薄皮シリーズ」の最初の商品「薄皮つぶあんぱん」が生まれたのは2001年。もともとは「ふつうのあんぱんより食べやすいサイズで、中身がずっしり入ったあんぱんを食べたい」といったお客様の声から生まれた。
ミニサイズのパンだが一つ食べると一定の満足感を得られ、一袋買うと何人かとシェアできる点がヒット。誕生してから約20年、ファミリー層を中心に人気を集めてヤマザキの人気ベストセラー商品になった。
そんな薄皮シリーズだが、2023年には衝撃のニュースで話題を集めた。原材料高騰の影響を受けて、これまで一袋5個入りだったものを4個入りに変更したのだ。
ただ実態としては、数を減らすだけではなく、代わりにパンの中身を増やし重量をつけることにした。
◆5→4個に変更して売り上げが1割アップ
ニュースを聞いた長年のファンからはSNSを中心に悲しむ声が上がる一方で、「コストカットしながらも満足感を維持させたのでは」と好意的な声も広がり、売り上げは以前よりも1割程度上がったのだそう。マーケティング部長の早川さんが当時を振り返る。
「部長という立場、数を減らすことは『失敗したらクビになる』ほど緊張感ある決断でした。変更してからもうすぐ2年が経ちますが、薄皮パンの売り上げは変更前よりも成長しており、結果的には皆様に受け入れていただけたのかなと思います。
何十年も販売する、いわゆるベーシックな商品の売り上げが伸びることは難しいため、この結果に対しては素直にうれしいですね」
◆薄皮シリーズの新たな挑戦
改定からちょうど1年後の2024年。1年間の売り上げから薄皮シリーズへの伸びしろを感じた早川さんは、さらに新たな企画を構想していた。
「あれから1年が経ち、さらに売り上げを伸ばすための新たな施策を考えていました。ただレアチーズクリームや、焼き芋などといった新しい味を開発することは面白くない。
なぜなら、これまでの20年で味の追加と入れ替えは十分やってきたからです。そこで、コロナ禍以降に売り上げが伸びていた“惣菜パン”に注目しました」
惣菜パンを作ることは薄皮シリーズにとって新たな挑戦。だが、きっとこれまで薄皮パンを選んでこなかったような“新しいお客様”を、キャッチできるはずだと考えた。
最初に出来上がったのは「薄皮ハンバーグ&ケチャップパン」だった。惣菜シリーズのテストマーケティングとして開発し、子どもをターゲットに夏休みの期間を狙って販売。結果的にその狙いは的中し、大きな反響を得た。そこで薄皮シリーズでの惣菜需要を確信し、本格的な開発に踏み切った。
◆「薄皮たまごぱん」が10カ月で1600万個のヒット
では、なぜ「たまご味」を選んだのだろうか。早川さんは「最初から売れる確信があった」と話す。
「理由はシンプルで、たまご味はヤマザキの人気商品『ランチパック』の中で、特に人気が高い味だから。ただ製造は思ったよりも難しかったです。
オーブンで焼くと中の水分が飛んでしまい、中身がスカスカになってしまう。薄皮パンの特徴である“食べ応え”を実現するために、何度も試作を重ねました。3ヶ月間の期間を経て、ようやく薄皮シリーズの名に恥じない食べ応えのあるパンが完成しました」
2024年1月1日に「薄皮たまごぱん」を販売開始すると、10ヶ月で1600万個の売り上げを達成。予想を上回る大きな反響があった。
「薄皮たまごぱん」は発売後から売り上げが変わらず、薄皮シリーズの人気商品の一つとなっている。
◆コロナ禍の節約志向で“惣菜パン”ブームに
「薄皮たまごぱん」の結果からも分かるように、現在パン市場では惣菜パンの需要が高まっている。
実際に同社においても「薄皮シリーズ」だけではなく、「ランチパック」「まるごとソーセージ」「大きなハム&たまご」など他の総菜パンにおいても、コロナ禍以降の売り上げが大きく伸びているそうだ。その背景にある要因を早川さんに聞いてみた。
「今外食するとなると、ワンコインでは食べられないことが多いですよね。対してヤマザキの『まるごとソーセージ』であれば、100円ほどで買えて、中身の充実度から一定お腹いっぱいになる。
つまりその1個のパンで食事が完結してしまうんです。そんな”食べ応え”があり、かつ“割安感”がある惣菜パンは需要が高まっていると感じます。
世の中では原材料の価格の高騰から、多くの商品が価格改定をしています。それもあって今の社会は間違いなく『節約志向』です。
でも、その節約っていうのは安ければいいとは違くて。多少値段を出しても“食べ応え”のあるものは売れている。“コスパが良い”という感覚に近いのではないかと思っています」
◆“コスパの良さ”を維持するための企業努力
ただし、“コスパが良い”パンを作るためには、同時に原材料の高騰にも真摯に向き合い、企業側の製品の品質管理とリソース管理の徹底は必要不可欠だ。
「種数が多くなりすぎると手間がかかってしまうので、売れないものは数を減らす。できる限り価格維持をしながらも、品質は絶対に落とさないように努力する。
また同時に、今は満足感を維持する必要があります。いかに商品価値を担保して、お客様の期待に応えられるような商品を作れるかということは常に考えているところですね」
◆2025年の新作は「ツナ」。誕生の裏側と今後の期待
月間で大体60〜70品ほどの新商品を発売するヤマザキ。マーケティング部長の早川さんは、1週間で数百種類、多い日にはなんと「1日で100種類」も食べるのだとか。
ミニパンを5から4個に変更した2023年、惣菜パンシリーズを生んだ2024年。では、2025年は一体どんな企画を考えているのだろうか。
「2025年1月1日からは、惣菜シリーズ次なる味『薄皮ツナマヨネーズ』発売しています。新しい定番商品になりうる総菜シリーズを作ろうと思い、たまご味の2倍の時間をかけて開発しました。
味の選択肢はただ一つ、最初からツナマヨと決めていました。なぜならツナマヨも、たまご味に並ぶ、ランチパックで永遠不滅の味だからですね」
◆時代によって需要は変化していく
さらに2024年に発売した「薄皮たまごぱん」においても、中身の「たまご感」をアップデートしてリニューアルする予定だ。来年以降も惣菜パンには期待をしているのだそう。
「時代に合わせて、パンの生地や中身のリニューアルは常に行っています。振り返ると私が子供の頃は、朝から菓子パンを食べるなんて考えられませんでした。だけど今では普通ですよね。
そのように、時代によって需要は変わっていくんです。パン市場を見ていると、売れるものや受け入れられるもの、傾向などは1年ですごく変わるなと思います」
同社は時代の需要を捉えたヤマザキらしい商品を、今後も模索していくのだろう。
<取材・文/フジカワハルカ>
【フジカワハルカ】
広島生まれ、東京在住のライター。早稲田大学文化構想学部卒。趣味で不定期で活動するぜんざい屋を営んでいる。関心領域はビジネスと食、特に甘いものには目がない。X(旧Twitter):@fujikawaHaruka
2024年には同シリーズにて“惣菜パン”シリーズを発売開始。なかでも「たまご味」は発売から10ヶ月で、累計1600万個を突破しているという。
なぜ薄皮シリーズで“惣菜パン”に注目したのか? 営業統括本部 マーケティング部の部長、早川史朗さんに、現在のパン市場を踏まえた開発理由や今後の展望について聞いてみた。
◆ヤマザキの人気ベストセラー「薄皮シリーズ」
食べやすさと食べ応えを両立する「薄皮シリーズ」の最初の商品「薄皮つぶあんぱん」が生まれたのは2001年。もともとは「ふつうのあんぱんより食べやすいサイズで、中身がずっしり入ったあんぱんを食べたい」といったお客様の声から生まれた。
ミニサイズのパンだが一つ食べると一定の満足感を得られ、一袋買うと何人かとシェアできる点がヒット。誕生してから約20年、ファミリー層を中心に人気を集めてヤマザキの人気ベストセラー商品になった。
そんな薄皮シリーズだが、2023年には衝撃のニュースで話題を集めた。原材料高騰の影響を受けて、これまで一袋5個入りだったものを4個入りに変更したのだ。
ただ実態としては、数を減らすだけではなく、代わりにパンの中身を増やし重量をつけることにした。
◆5→4個に変更して売り上げが1割アップ
ニュースを聞いた長年のファンからはSNSを中心に悲しむ声が上がる一方で、「コストカットしながらも満足感を維持させたのでは」と好意的な声も広がり、売り上げは以前よりも1割程度上がったのだそう。マーケティング部長の早川さんが当時を振り返る。
「部長という立場、数を減らすことは『失敗したらクビになる』ほど緊張感ある決断でした。変更してからもうすぐ2年が経ちますが、薄皮パンの売り上げは変更前よりも成長しており、結果的には皆様に受け入れていただけたのかなと思います。
何十年も販売する、いわゆるベーシックな商品の売り上げが伸びることは難しいため、この結果に対しては素直にうれしいですね」
◆薄皮シリーズの新たな挑戦
改定からちょうど1年後の2024年。1年間の売り上げから薄皮シリーズへの伸びしろを感じた早川さんは、さらに新たな企画を構想していた。
「あれから1年が経ち、さらに売り上げを伸ばすための新たな施策を考えていました。ただレアチーズクリームや、焼き芋などといった新しい味を開発することは面白くない。
なぜなら、これまでの20年で味の追加と入れ替えは十分やってきたからです。そこで、コロナ禍以降に売り上げが伸びていた“惣菜パン”に注目しました」
惣菜パンを作ることは薄皮シリーズにとって新たな挑戦。だが、きっとこれまで薄皮パンを選んでこなかったような“新しいお客様”を、キャッチできるはずだと考えた。
最初に出来上がったのは「薄皮ハンバーグ&ケチャップパン」だった。惣菜シリーズのテストマーケティングとして開発し、子どもをターゲットに夏休みの期間を狙って販売。結果的にその狙いは的中し、大きな反響を得た。そこで薄皮シリーズでの惣菜需要を確信し、本格的な開発に踏み切った。
◆「薄皮たまごぱん」が10カ月で1600万個のヒット
では、なぜ「たまご味」を選んだのだろうか。早川さんは「最初から売れる確信があった」と話す。
「理由はシンプルで、たまご味はヤマザキの人気商品『ランチパック』の中で、特に人気が高い味だから。ただ製造は思ったよりも難しかったです。
オーブンで焼くと中の水分が飛んでしまい、中身がスカスカになってしまう。薄皮パンの特徴である“食べ応え”を実現するために、何度も試作を重ねました。3ヶ月間の期間を経て、ようやく薄皮シリーズの名に恥じない食べ応えのあるパンが完成しました」
2024年1月1日に「薄皮たまごぱん」を販売開始すると、10ヶ月で1600万個の売り上げを達成。予想を上回る大きな反響があった。
「薄皮たまごぱん」は発売後から売り上げが変わらず、薄皮シリーズの人気商品の一つとなっている。
◆コロナ禍の節約志向で“惣菜パン”ブームに
「薄皮たまごぱん」の結果からも分かるように、現在パン市場では惣菜パンの需要が高まっている。
実際に同社においても「薄皮シリーズ」だけではなく、「ランチパック」「まるごとソーセージ」「大きなハム&たまご」など他の総菜パンにおいても、コロナ禍以降の売り上げが大きく伸びているそうだ。その背景にある要因を早川さんに聞いてみた。
「今外食するとなると、ワンコインでは食べられないことが多いですよね。対してヤマザキの『まるごとソーセージ』であれば、100円ほどで買えて、中身の充実度から一定お腹いっぱいになる。
つまりその1個のパンで食事が完結してしまうんです。そんな”食べ応え”があり、かつ“割安感”がある惣菜パンは需要が高まっていると感じます。
世の中では原材料の価格の高騰から、多くの商品が価格改定をしています。それもあって今の社会は間違いなく『節約志向』です。
でも、その節約っていうのは安ければいいとは違くて。多少値段を出しても“食べ応え”のあるものは売れている。“コスパが良い”という感覚に近いのではないかと思っています」
◆“コスパの良さ”を維持するための企業努力
ただし、“コスパが良い”パンを作るためには、同時に原材料の高騰にも真摯に向き合い、企業側の製品の品質管理とリソース管理の徹底は必要不可欠だ。
「種数が多くなりすぎると手間がかかってしまうので、売れないものは数を減らす。できる限り価格維持をしながらも、品質は絶対に落とさないように努力する。
また同時に、今は満足感を維持する必要があります。いかに商品価値を担保して、お客様の期待に応えられるような商品を作れるかということは常に考えているところですね」
◆2025年の新作は「ツナ」。誕生の裏側と今後の期待
月間で大体60〜70品ほどの新商品を発売するヤマザキ。マーケティング部長の早川さんは、1週間で数百種類、多い日にはなんと「1日で100種類」も食べるのだとか。
ミニパンを5から4個に変更した2023年、惣菜パンシリーズを生んだ2024年。では、2025年は一体どんな企画を考えているのだろうか。
「2025年1月1日からは、惣菜シリーズ次なる味『薄皮ツナマヨネーズ』発売しています。新しい定番商品になりうる総菜シリーズを作ろうと思い、たまご味の2倍の時間をかけて開発しました。
味の選択肢はただ一つ、最初からツナマヨと決めていました。なぜならツナマヨも、たまご味に並ぶ、ランチパックで永遠不滅の味だからですね」
◆時代によって需要は変化していく
さらに2024年に発売した「薄皮たまごぱん」においても、中身の「たまご感」をアップデートしてリニューアルする予定だ。来年以降も惣菜パンには期待をしているのだそう。
「時代に合わせて、パンの生地や中身のリニューアルは常に行っています。振り返ると私が子供の頃は、朝から菓子パンを食べるなんて考えられませんでした。だけど今では普通ですよね。
そのように、時代によって需要は変わっていくんです。パン市場を見ていると、売れるものや受け入れられるもの、傾向などは1年ですごく変わるなと思います」
同社は時代の需要を捉えたヤマザキらしい商品を、今後も模索していくのだろう。
<取材・文/フジカワハルカ>
【フジカワハルカ】
広島生まれ、東京在住のライター。早稲田大学文化構想学部卒。趣味で不定期で活動するぜんざい屋を営んでいる。関心領域はビジネスと食、特に甘いものには目がない。X(旧Twitter):@fujikawaHaruka