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「麻雀したら1時間で10万円が溶けた」歌舞伎町に“摘発直前の隠れ高レート雀荘”が急増している理由

日刊SPA! 2025年1月18日 8時54分

 新宿・歌舞伎町の麻雀界隈で近年、異変が起きている。客の射幸心を過剰に煽る“実質的な高レート”で営業する店が急増しているのだ。あまりのハイリスクさに警察関係者も注視するその実態に迫った。
◆10万円が「1時間もたない」、過激ルールが猛威をふるう

 “雀荘の聖地”と呼ばれる新宿・歌舞伎町で、麻雀漫画さながらの「隠れ高レート店」が急増中だ。

 “隠れ”高レートと記したのは、麻雀のレート自体はオーソドックスな点ピン(1000点=100円)だが、点数以外にオプションでルールを設けて金銭のやり取りを過激にしているからだ。歌舞伎町の雀荘関係者が話す。

「要は、純粋な着順勝負だけでなく、追加ルールによってギャンブル性を高めているわけです。店によってやり方は違いますが、代表例が独自の“特殊牌”。それを使ってあがると、ボーナスとしてご祝儀(チップ)がもらえ、そのチップが1枚5000円などの高額に設定されています」

 チップ自体はフリー麻雀ではありふれたルールだが、問題なのは動くチップの額や枚数がとてつもなくインフレしている点だ。これを、歌舞伎町の麻雀愛好家界隈では「ネオ東風ルール」と呼ぶという。

「普通、点ピンのチップは1枚500円ですが、歌舞伎町は1000円。これは昔から“歌舞伎町ルール”と呼ばれ、マンズ・ピンズ・ソーズに各2枚ずつの計6000円というのが暗黙の了解でした。しかし、ネオ東風ルールではチップだけで1ゲームに数万円動くのはザラ。着順に関係なくいかにチップを稼ぐかの戦いで、こんなのもはや麻雀じゃない」(雀荘関係者)

◆「警察じゃないですか?」入店時にしつこく質問

 このような過激なルールを設ける店は現在、歌舞伎町内だけでも10店舗ほどが存在。

 SNSやネット掲示板では、店名やルールの特徴から「宝石店」「感覚店」などといった隠語で呼ばれているようだ。ネオ東風ルールの店に通っている客が話す。

「俺がよく行く雀荘Xだと、初回入店時には従業員からルール説明があって、『警察関係者じゃないですか?』と入念に聞かれる。初めての時はいつもの感覚で10万円を持っていったら1時間ももたなかったから驚いた。

 客は麻雀の鉄強(ギャンブルの強い人を表す言葉)か、得体の知れない金持ちがほとんど。人数が足りない時は従業員が数合わせで入るんだけど、自腹なんで3か月で200万円負けて“飛んだ”従業員もいたとか。

 逆に、年間に数百万円単位で勝って麻雀だけで生活してる“令和の雀ゴロ”もいる。20年近く歌舞伎町界隈の雀荘に通っているけど、こんなの今までのルールじゃあり得ない。マンション麻雀(営業許可のない超高レートなモグリの雀荘)でも行かなきゃ、雀ゴロなんてできなかったからね」

◆法務省刑事局の公式見解を“お墨付き”と解釈した雀荘業界

 そもそも雀荘業界には、「点ピンまでは大丈夫(摘発されない)」という暗黙の了解が存在してきた。ギャンブル誌のライターが背景を解説する。

「雀荘で賭博が行われていることは、業界のみならず世間一般、警察からしても『公然の秘密』です。とはいえ、’98年に漫画家の蛭子能収氏が1000点200円の『点リャンピン』で逮捕されたように、点リャンピンと点ピンが摘発のボーダーラインと考えられてきました。

 それを決定づけたのが、’20年に黒川弘務・元東京高検検事長が罰金刑を受けた点ピンの賭け麻雀事件。法務省刑事局が『(点ピンは)必ずしも高くない』との公式見解を示したことで、雀荘業界はこれを『お上のお墨付き』と捉え、より堂々と点ピン営業ができるようになった」

 もちろん、レートにかかわらず賭博行為は厳密には違法だ。点ピンやそれ以下のレートであっても、数年に一度はどこかの店が“見せしめ”のように摘発を受けている。

◆独自ルール導入による過激化に、コロナ禍が拍車をかけた

 しかし、現在の歌舞伎町で増えているのは、そんな従来の認識すら無視した実質的な高レート麻雀。なぜこのような事態が起きているのか。

「転換期となったのは’17年。それまで歌舞伎町の雀荘はできるだけ目立たないよう全店ほぼ同じルールで統一されていました。

 しかし’17年に『〇勝戦』というイベントを歌舞伎町で導入する店が出始めた。これは〇勝した人に店が賞金を出すというもので、それ以降、独自ルールによる各店の差別化が激しくなっていったんです。

 なかには賞金5万円の5勝戦を一日5回開催し、総額25万円が動くイベントも行われて、来店客の行列ができて整理券が配られることがあったほどです」(ギャンブルライター)

 そうした雀荘過激化の流れに拍車をかけたのが、新型コロナの流行だ。

「飲食サービス業に休業要請が出されましたが、一部の雀荘は営業を続行。それによってさらに“濃いギャンブラー”が集うようになり、どさくさに紛れてルールもどんどん過激になりました。

 そもそも歌舞伎町は、ほかのギャンブルとの集客競争が激しい地域。オンラインカジノなどと比べれば麻雀は時間もかかるし、1半荘で動くお金にも限りがあります。そのため、より射幸性を高めないと引きになりません。その結果、いまや一晩で40万、50万円負けて当然のようなレートにまで発展したわけです」(ギャンブルライター)

◆立ちんぼ対策の影に紛れていたが…摘発はすぐか

 近年はその流れが渋谷や池袋など他エリアにも波及。「特に新橋は歌舞伎町に次ぐ第二の聖地になりつつある」(ギャンブルライター)とか。

 しかし、こうした事態に警察も警戒を強めている様子だ。警察関係者が話す。

「今はオンラインカジノや大久保公園周辺の立ちんぼ対策が歌舞伎町の喫緊の課題。東京五輪前には浄化作戦と称して歌舞伎町全体の取り締まりに乗り出しましたが、それも終わりました。

 こうした当局の目が行き届いていない隙を突いて高レート化が進んだと思われるが、さすがに看過できないレベルになってきている。近いうち、どこかの店へ摘発が入るのではないか」

 お金以外に摘発のリスクも高まる隠れ高レート店。摘発までは秒読みかもしれない。

◆ギャンブル性を高める「隠れ高レート店」ルール例

①色鮮やかな「特殊牌」
従来は祝儀牌といえば赤牌だったが、青や金、プラチナなど色鮮やかで見た目がギラギラした牌が登場。それらの特殊牌を使ってあがると高額ボーナスが得られる仕組み

②1回で動くチップ数の増加
特殊牌を使ってあがっただけでチップ2~3枚を得るのが当たり前(チップ1枚1000円)で、もはや「点リャンピン」レート以上。もらえるチップを倍にする特殊牌も

③4着が1着に2万円「完全順位戦」
4着が1着に、3着が2着に決まった順位点を支払うルール。4着が1着に順位点2万円という店も。ご祝儀だけでなくこうした順位ボーナスも加わり、大きな額が動く

④既定の勝ち数で賞金を出す「〇勝戦」
3勝戦や5勝戦が一般的。先に3勝(5勝)した人に賞金が出る。金額は1万円が多く、一日に数回開かれることも。このイベントのためだけに朝から店に並ぶ人もいる

⑤SNSも駆使「キャリーオーバー制度」
〇勝戦に制限時間が設けられ、時間内に達成者がいなければ賞金をキャリーオーバーする制度。キャリーオーバーが発生したらSNSで告知する店も多く、射幸心が煽られる

取材・文/週刊SPA!編集部

―[摘発直前[隠れ高レート雀荘]が急増中!]―

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