Infoseek 楽天

20年で100倍も!AI時代に「現代アート」が所有・投資対象として注目される理由

日刊SPA! 2025年1月20日 15時51分

◆◆現代アートの「アート投資」が活況
 近年、美術品の価格が高騰している。2016年に著名経営者が62億円で購入したバスキアの作品が、2022年にはオークションで110億円もの値が付いて売却されたことが大きな話題となった。「投資目的」の美術品購入も激増しており、さらなる価格高騰を後押ししている。

 美術は主に、1860年代〜1970年代までに制作された「近代アート」と、1970年代以降に制作されている「現代アート」に分けられる。昨今、世界では特に現代アートのオークションが盛り上がっていて、この10年で取引額は約2倍、2000年代初頭と比べると100倍にもなっているという。

 近代アートといえばゴッホやピカソ、モネなど、視覚的に楽しめる美しさが特徴と言われる。対して現代アートは、「思考や洞察を通して楽しむアート」と言われる。現代アートでもっとも著名なアーティストの一人が、バンクシーだろう。

 現代アートが日本でも注目される理由として、日本人の活躍も挙げられる。かぼちゃをモチーフにした作品が有名な草間彌生氏、オタクカルチャーを取り入れた村上隆氏など、世界で活躍する日本人現代アート作家も多い。2008年、村上隆氏のフィギュアが約16億円で落札されたことを覚えている人も多いだろう。

 さらには、若手アーティストによる「超現代アート」と呼ばれる作品も登場している。この先、価格が高騰するという期待も大きく、金融商品的な意味で世界の超富裕層たちの間で人気が高まっている現代アート。その最新事情について、版画などの販売を行うアールビバン株式会社の代表取締役会長兼社長・野澤克巳氏に話を聞いた。

◆◆投資目的で価格が高騰する現代アート

 投資目的での美術品購入に目が行きがちだが、「絵画を購入する動機には大きく分けて2つあります」と野澤氏は話す。

「一つは自分で所有して飾って純粋に楽しむということと、もう一方では値上がりを見込んだ買い、この2つの側面が存在しています。我々は前者の暮らしの中でアートを飾り、その空間を楽しみ、心を豊かにしてほしいという想いに沿ってビジネスを展開しています。

 前述したように、美術には「近代アート」と「現代アート」がある。

「近代アートは美術館やコレクターが所有しており、オークションなどに出ても金額が高すぎて、一般の人が落札できることはほとんどありません。それに代わって、現代アートが今、世界的に注目されています。日本を代表するアーティストとして、草間弥生さんや奈良美智さん、村上隆さんをはじめ、世界で活躍されているアーティストたちの絵は、たしかに近年、相当な勢いで上がっています。

 ただし、現代アートなら全部上がっているかというと、そうではありません。一般の人が手を出す場合、相当な目利きと経験を持っていないと痛い目に遭いかねないことも付け加えておく必要があると思います」(野澤氏)

◆◆残念ながら日本は“アート後進国”

 野澤氏は「そもそも日本では『絵を買う・飾る』という習慣があまりない」と指摘する。

「日本では絵画は観るもので、美術館こそ行きますが、絵を買う習慣や文化が育まれることがないまま、経済事象だけが一人歩きしているように見えます。

 一方で世界を見ると、どの国に行っても家に絵があります。自宅に絵を飾るというのは海外では普通のことなのですが、日本はこれだけ経済大国になっても、残念ながら絵の分野だけはいまだに“アート後進国”と言わざるをえないと感じることがあります。

 我々の社名『アールビバン』(ARTVIVANT)は、フランス語で『絵のある生活』を意味しています。そういった“絵のある暮らし”を彩るアーティストを発掘し、育て、そのアーティストの版画を独自に制作して販売しています。投資的な形から入るのではなく、感性のある若い人たちに自分の暮らしの中でアートを味わっていただきたい、もう少し絵のある暮らしの良さを知っていただきたいと思っています」(野澤氏)

◆◆絵画への興味関心は学校や美術館では解決しない

 絵画を買うといっても、やはりハードルが高い。そもそも小中学生の「図工」や「美術」の時間に興味を持てなかったのも一因にありそうだ。野澤氏は幼少期の学校教育についてどのように考えているのか?

「実は私は、美術の時間が嫌いで逃げ回っていました(笑)。そんな私が何をきっかけに変わったのか。それは私が20代のとき身をもって体験した出来事がきっかけです。知人が絵のビジネス始め、そこで1枚作品を買わせていただいたんです。それを家に飾ってからというもの、雷に打たれたような感覚になったんです。絵って、こんなにもすごい存在感を見せるのか、と。

 いくら学校で習ったり美術館に足を運んでも、たぶん解決しないのではないかと思います。ほとんどの人は、少し絵画をわかったつもりになるだけで終わるのではないでしょうか。

 ですから私は、『まずは1枚絵を買ってみること』が大事だと思っています。どんな作品でもいいんです。自分のできる範囲で1枚買ってみて、飾ってみる。それが、絵画に興味を持つ最大のきっかけになるのではないかと思っています」(野澤氏)

◆◆日本の「サブカルチャーアート」が世界中から高評価

“アート後進国”ともいえる日本だが、世界で秀でている分野がある。昨今では、近代・現代アートのほかにも、映えるイラスト「ファインアート」や、アニメやゲームを中心とした「イラストアート」など、なんとも今時なイラスト・絵画も登場しているのだ。

「アニメ、イラスト、ゲーム、マンガなど“日本のお家芸”をひっくるめて『サブカルチャー』と呼ばれ、世界では大変評価されています。日本はこの分野に秀でていて、世界中でこのジャンルのアーティストたちが評価され、どんどん売り上げも伸びています。

 弊社が扱う商材のうち、今は3割弱くらいをしめていますが、今後もっと伸びて、3~4年くらいで倍増するんじゃないかと見ています」(野澤氏)

 昨今のAIの進化は目覚ましく、画像生成AIを活用すれば、誰でも本格的なイラストが描けてしまう時代になった。このような風潮に対し、どのように考えているのだろうか?

「いろいろな表現方法があって、私はいいと思います。何を使って、どう表現するかが大事であって、表現するツールは“手で描く”だけじゃなくてもいいような気がします。デジタル作品も表現方法の一つではないでしょうか。

 実際、現代アートの大作ともなると、一人ですべてを描いたりするのではなく、大勢の人で分担して作業するスタジオ製作になっています。ですから、アートの表現方法はいろいろな手法があって良いと思います」(野澤氏)

 AIが進化すると「偽物」も出回ってしまいそうだが……。近代・現代アートの「真贋」についてはどのように進化してきたのか?

「よく聞かれる質問なのですが、結論から言うと、実は皆さんが思っているほど真贋が問題になることはないですよ。なぜ、ないに等しいかというと、近代アートはまずほとんど世に出回ることがないですし、現代アートは現存するアーティストさんによって制作されているので、サインも含めて自分の絵かどうか、すぐわかってしまうからです。一番偽物が出回りそうですが、実は一番偽物がない世界なんです」(野澤氏)

 野澤社長率いるアールビバンでは、近・現代アートだけでなく、最新のファインアート、イラストアート、サブカルチャーアートなど様々な分野のアートを手掛けるほか、障がい者との共創により制作した版画作品を展示販売する「チャレンジド・アート展」なども展開している。

「アートは、正解・不正解がない分野なんですね。100人が見たら答えが100通りあって、これら全部が正解で、不正解がないんです。これがアートの最大の魅力だと思います。アートは何を作り上げるかというと、つまるところ私は『想像力』だと思います。それを育てていくんです。

 一つの作品を見て、自分ではこう見たけれども、ある人は違う見方をしている。そういう見方もあるんだといろいろな考え方を知り、さまざまな角度から見るべきだというヒントになっていく。ですから、アートには世界観を変えていく力があるんじゃないでしょうか。アートの力というのは偉大だと私は思います」(野澤氏)

 所有目的、投資目的ときっかけはさまざまだが、価格が高騰する「現代アート」への注目度はますます高まっていきそうだ。

<取材・文/日刊SPA!編集部>

この記事の関連ニュース