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イオン、ドンキによる買収合戦の結末は…大手小売り各社が「西友」を手に入れたい理由

日刊SPA! 2025年1月23日 8時53分

 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
 アメリカの投資ファンドKKRが、総合スーパーの西友を売却する意向を示しました。イオンや「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)などが応札している模様。スーパーの買収合戦が過熱していますが、危うさも見えてきます。

◆西友が北海道事業と九州事業を売却した理由

 240あまりの店舗を展開する西友の買収額は数千億円になると見られています。

 西友は2024年4月に北海道事業をイオン北海道、九州事業をイズミに譲渡しました。このM&Aにより、西友は展開エリアを本州に集中させたことになります。

 KKRと楽天が西友の株式を取得すると発表したのが2020年11月。当時の企業価値は1725億円と見積もっていました。KKRは2023年5月に楽天の西友株20%を220億円で取得しています。

 投資ファンドがエグジット(持株を譲渡してリターンを得ること)する期間は、概ね5年程度と言われています。西友が北海道事業と九州事業を売却したのは、KKRのエグジットの一環でしょう。すなわち、資産を切り売りした方が高く売却できると踏んだと予想できます。

◆営業利益率3.9%という驚異的な収益性

 西友は北海道から九州までカバーする数少ないスーパーでした。同じように店舗の規模が大きく、広いネットワークを持つスーパーはイオンやAコープ、フランチャイズが主体の業務スーパーなど一部の会社に限られます。

 規模が大きすぎると売却先も限定されます。買収に前向きな会社の間口を広げるという観点からも、本州への集約は合理的なものだと言えます。

 スーパーの運営者側にとっても、出店エリアを集中することで地域の食文化や嗜好に合わせた商品の発売、商品開発ができるというメリットがあります。

 西友は極めて業績の良好な会社。2023年12月期の営業利益は259億円で、営業利益率は3.9%。スーパーは利益率の低い業態として知られており、中央値は1.3%(「スーパーマーケット年次統計調査」より)。西友のように売上規模が1000億円以上の場合でも2.8%ほどしかありません。

 西友は2022年12月期の営業利益率が2.9%でした。1年で1.0ポイントも改善したのです。

◆大胆な再建策により、3年ほどで目標を達成

 KKRは買収後の2021年に新たな経営体制を敷きました。代表取締役社長に就任したのが大久保恒夫氏。成城石井の社長やセブン&アイ・ホールディングスの取締役などを務めた小売業界の敏腕経営者です。

 西友は2021年8月に本部社員約200人の希望退職者を募集するなど、大胆な再建策を打ち出しました。このときに営業利益を2倍にする目標を掲げます。

 連結で見た場合の西友の2023年度の営業利益は315億円。2021年度は162億円でした。KKRが買収して経営改革に乗り出してから、わずか3年ほどで目標を達成したのです。

 新体制になった西友はデジタル化を進め、業務プロセス・データ活用基盤の構築を行っています。これを活かして、生産・原材料にまで踏み込んだ商品調達・商品開発を行い、販売力を高めて利益を生み出す戦略を打ち出しました。

 つまり、商品力を高めて安売りからの脱却を図ったのです。

◆「安売りからの脱却」は正解だったのか

 実はこの戦略の変更は、消費者の意識に負の兆候として表れています。リサーチ会社マイボイスコムは、大手スーパーのブランド調査を行っています(「【大手スーパーのブランドイメージに関する調査】」)。

 2023年5月の調査において、「価格が最も魅力的だと思う大手スーパー」の回答で、西友と答えたのは12.0%。KKRが買収する前の2020年5月は15.5%でした。3.5ポイント低下したのです。

「最も品質がよいと思う大手スーパー」で西友と答えたのは、2023年5月の調査は4.1%で、2020年5月は4.6%。もともとの比率が低いうえに、数字が下がりました。

 それに加えて、「最も品揃えが充実していると思う大手スーパー」における西友の比率はわずか3.5%。こちらも2020年5月の調査から0.5ポイント数字を落しました。

 西友は安さを武器にして展開し、消費者からの支持を得ていました。しかし、その方針を改めたことによって、ブランドへの意識が変化していることを示しています。品質や品揃えに好意を持つ人の比率も高まっていません。

 つまり、今の西友は消費者がブランドの変化に気づき始めたタイミングであり、買収する会社は価格に見合った商品力をつける努力や、再び安売り戦略を仕掛けるなど、何らかの中長期的プランを策定し、それを粘り強く実施する胆力が必要とされる可能性が高いのです。

◆西友を「PB商品を並べる棚」にすべきではない

 西友の買収を希望する会社の狙いは明白。物流網の活用や、店舗数が増えることによる仕入れの価格交渉力の強化、駅前という好立地の獲得などです。

 イオンは特にプライベートブランドの開発に力を入れており、240という店舗数は魅力的。

 PPIHも「ドン・キホーテ」だけでなく、総合スーパーの「アピタ」や「ピアゴ」も運営しています。こちらも同じくオリジナル商品の開発に注力中。食料品だけでなく、フライパンなどの生活雑貨や衣類、自転車、玩具なども独自に開発しています。今では数少なくなった総合スーパー・西友との相性が良いのです。また、好立地に出店していることから、スーパー以外の売場を「ドン・キホーテ」にリニューアルすることも視野に入ってくるでしょう。

 西友の買収をめぐる報道においては、こうしたメリットを強調する論調が目立ちます。しかし、ブランドに対する消費者の目は厳しくなっており、単純にプライベートブランドの商品を並べるだけで収益性が向上するとは考えられません。西友に来店する消費者の調査や購買データを細かく分析し、地域特性に合致した商品展開、販売戦略を実施するという泥臭い仕事が必要になるのではないでしょうか。

 M&AはPMIが重要だと言われます。PMIはシナジー効果を最大化するための統合プロセスのこと。西友はまさにそれが当てはまる会社であるように見えます。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

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