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【広岡達朗】メジャー帰りの選手を甘やかすな。複数年契約なら「基本給+完全出来高払い」であるべき理由

日刊SPA! 2025年1月25日 15時52分

 大リーグの年俸バブルは論外だが、コミッショナー事務局や球団にアメリカのような経済力がない日本も、いつの間にかアメリカの真似をしてマネー競争がエスカレートしている。
 日本プロ野球選手会が発表した2024年度の年俸調査結果によると、開幕時の支配下公示選手716人の平均年俸は前期に比べて245万円増の4713万円で、現行の調査方法になった1988年以降、最高額になったという。(※本記事は、広岡達朗著『阿部巨人は本当に強いのか 日本球界への遺言』(朝日新聞出版)より抜粋したものです)

◆「ソフトバンクの平均年俸」を押し上げた山川穂高

 球団別ではソフトバンクが6806万円と2年ぶりに1位に返り咲き、2位が巨人の6243万円だった。最下位は日本ハムの3483万円で、リーグ別ではセ・リーグが4923万円、パ・リーグは4498万円。全体の中央値は1800万円で、球団別の中央値ではロッテと巨人の2300万円がトップだった。

 他人の財布をのぞく趣味はないが、ソフトバンクがトップになった大きな理由として、内野手の山川穂高が西武からFA移籍して平均年俸を押し上げたことは、ファンならだれでも知っているだろう。

 山川は2023年5月に強制性交等の疑いで書類送検されたことで西武から無期限の公式試合出場停止処分を受け、同季の出場は
17試合で止まっていた。西武での通算10年間で218本塁打を放った大砲を、右の長距離打者が欲しいソフトバンクが4年契約12億円プラス出来高払いの総額20億円で獲得した。その人的補償として、甲斐野央投手が西武に移籍。

 ソフトバンクはその前年、日本ハムからFAで外野手の近藤健介を獲得したが、報道によると契約は7年総額50億円だという。そして近藤は2023年シーズンの打点王とホームラン王の二冠を獲得、2024年も首位打者のタイトルを手にしている。

 ソフトバンクが球団別平均年俸で1位に返り咲いたのは、2年続けての大型補強が底上げしたからだろう。そして2024年はダントツの独走で4年ぶりのリーグ優勝に輝いた。

◆1985年の最高年俸は3000万円

 ちなみに私が西武の監督として2度日本一になり、3度目のリーグ優勝を飾った1985(昭和60)年の最高年俸は3000万円だった。
 
 39年前の話で、当時私は53歳。当時の大卒サラリーマンの初任給は月額13万5000円で、2024年でも20万1800円(賃金構造基本統計)だから3000万円は大金だし、その後の物価指数や実体的な貨幣価値の変化を見ると単純には比較できないが、いまのように契約時にどんぶり勘定で大金を渡すのは間違っている。

 私も巨人で13年間ショートを守り、ヤクルトと西武で計8年間監督を務めたので、選手の気持ちや事情はよくわかる。だから球団に「カネを出すな」というわけではない。日本にふさわしい契約の改革をしたほうがよいのではないか、といっているのだ。

◆複数年契約なら「基本給+完全出来高払い」で

 プロ野球の契約は1年が原則だと思う。どうしても実力のある選手と複数年契約をしたいなら、1年目はたとえば全選手の平均年俸などを基本給として契約し、「これこれ以上の成績を挙げたら何億円でも出す。その代わり、これ以上の仕事をしなかったら最低保証しか出さないよ」というインセンティブを利用すればいい。

 インセンティブは目標の行動をうながす「刺激」や「動機」を意味する経済用語で、選手の意欲的な行動を引き出し、モチベーションを向上させる効果がある。本当の意味での出来高払いにすれば、選手は一生懸命やるし、結果として力のある選手は何億円でも稼ぐことができる。

 それをアメリカの年俸バブルの真似をして複数年契約で保証するから、ベテランなど実績のある選手が手を抜いて「給料泥棒」と言われるようになるのだ。

 こんなことを言うと、「現行の契約でも活躍すれば翌年の年俸がボーナスになるから同じではないか」という意見があるだろうが、それはプロとしての覚悟が違う。

 たとえば引退間際のベテラン選手は、最後のシーズンを迎えても前年の高給が担保になるし、球団も実績のある選手の力が落ちても、それまでの貢献度を考慮して大幅減俸はしにくいという温情が働く。

 逆に先述のような厳しい出来高払いなら、複数年契約にあぐらをかくことはできないから、結果として選手生命を限界まで延ばすことになる。

 この出来高払い契約は、大谷ブームのいま、急に思いついたことではない。

◆メジャー帰りの選手を甘やかすな

 ひとつ例を挙げるなら、2015年、メッツから9年ぶりに日本球界に復帰し、推定年俸4億円の3年契約でソフトバンクと契約した松坂大輔投手だ。

 横浜高校のエースとして甲子園で活躍した松坂は、西武で8年間に108勝を挙げて「平成の怪物」と呼ばれたあと、2006年秋にポスティングシステムでボストン・レッドソックスに6年契約総額5200万ドル(約60億円)で移籍した。

 その後、松坂は8年間のメジャー生活で肩を痛め、56勝しか挙げられなかったが、9年ぶりに日本に復帰した手負いの怪物をソフトバンクは年俸4億円の3年契約で迎え入れた。この時点での松坂の日米推定総年俸は80億円を超えるという報道もある。

 問題はその松坂が、その後ソフトバンクで1年、中日で2年、西武で1年の計4年間で6勝しかしていないことだ。ちなみに松坂の通算勝利数は日本で114、大リーグで56の計170勝だが、私が驚いたのはソフトバンクが松坂入団の翌2016年、大リーグ・カブスでの2年間で5勝5敗の元エース・和田毅を3年契約+出来高払いで復帰させたことだ。

 和田は復帰後いきなり15勝したが、その後は故障で1ケタ勝利が続き、一時はマウンドに立てないこともあった。

◆「巨人が獲得した複数年契約選手」の大半が…

 アメリカ帰りの有力選手は数えきれないほどいるが、私が同じように「間違っている」と思うのは、FA移籍選手たちの複数年契約だ。

 有力なFAの複数年選手を集めて戦力補強する流行を作ったのは巨人で、その第1号が1993年末の落合だった。報道によると、三冠王3度の落合は複数球団と競合の末、年俸約4億円の2年契約で中日から移籍した。

 その後、2019年のFA市場の目玉だった広島の丸が5年契約総額25億5000万円で巨人に移籍するまで、FAで巨人に移籍した選手は26人(2023年末時点では28人)。そのほとんどが複数年契約だった。

 巨人が獲得した複数年契約選手の中には、大半を二軍で過ごし、契約に見合う活躍をしないまま退団した者も多い。たとえば2016年末に日本ハムから5年総額15億円で移籍した陽岱鋼は5年目の2021年、7試合に出場しただけで退団した。その後、アメリカの独立リーグでプレーしたが、2024年にNPB(日本野球機構)のイースタン・リーグに新規参入したオイシックス新潟に入団
した。

 すでに述べたように、2024年シーズンのソフトバンクが近藤、山川の連続FA効果によってパ・リーグを独走したからといって、複数年契約が正当化できるわけではない。

<TEXT/広岡達朗>

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