移動に欠かせない交通手段のひとつである電車。しかし、通勤や通学の時間帯は混雑するため、殺伐とした雰囲気がある。車内では譲り合いの精神を持って、お互い気持ちよく過ごしたいものだ。
今回は、電車内での迷惑行為に遭遇しながら、何も言えず悔しい思いをした2人のエピソードを紹介する。
◆電車内で消臭・除菌スプレーを噴射する男性客
鈴木早紀さん(仮名・20代)は、家族と電車に乗っていた。
「空いている席がまばらだったので、父だけが向かいの席に、私たちは並んで座っていました。しばらくすると、席が空きはじめたため、父の隣の席には誰も座っていない状態でした」
すると、長身の男性が乗車してきたという。その男性は、すっかり眠っている父の隣に座った。男性は座るや否や“特大ボトルの消臭・除菌スプレー”をカバンから取り出した。そして、勢いよく全身にかけはじめたという。
「全身が霧に包まれるように念入りにかけていたので、隣で眠っている父にも大量にふりかかっていました。あまりにも“シュッシュ”という音がしていて、霧がふりかかったからなのか、父は途中で起きていました」
しかし、父はあまりにも奇想天外な出来事に理解が追いつかず、戸惑って寝たふりをしていたそうだ。
◆「ちょっと、何してんの?」周囲の声も聞く耳もたず
「やはり電車内では迷惑なので、姉が男性に聞こえるくらいの声で、『ちょっと、何してんの?』と声をあげました。でも、彼は動じる様子もなく、依然として全身にかけていました」
鈴木さんも「こっち来なよ! 移動したほうがいい」と父に声をかけたが、“スプレー男”が何をするのかわからず「怖かった」ため、その場から動けなかったようだ。
「母が『周りを気にせずにスプレーをかける人なんてマトモな人じゃないから、刺激しないほうがいい』と耳打ちしてきたので、申し訳ないけど父のことは見捨てて、見て見ぬふりをしていたんです」
そして、男性の奇行は、鈴木さんたちが電車から降りた後も続いていたのだとか。
「電車から降りてそっと見てみると、父が座っていた座席にも念入りにスプレーしていました。相当な潔癖症なんですかね……」
コロナ禍以降はウイルスや菌の付着を気にする人も増えたが、電車内で周囲に一言もなくスプレーをまくのはいかがなものだろうか。
◆肩を枕代わりにする見ず知らずの男性
菅田洋子さん(仮名・20代)は、上京してすぐに体験した衝撃的な出来事について教えてくれた。
「朝のラッシュ時間帯に、私はいつものように出社時間が同じの友人と電車に乗りました。車両は乗客で溢れていて、すし詰め状態でしたね」
電車のドアが閉まると、菅田さんの周りには知らない人たちばかり。ちょっとした密室のような圧迫感に包まれた。友人とはアイコンタクトで「混みすぎだろ」とやり取りをしながら、目的の駅まで乗っていたという。すると突然、肩のあたりに違和感を抱いた。
「友人がふざけて手か顔を乗せているのかと思いました。でも振り返ると、見知らぬ男性が、“まるで自分の枕かのように”私の肩にあごを乗せていたんです」
はじめは、「疲れているんだろうな……」と笑いそうになりながら、友人と目を合わせていたのだが、菅田さんの肩を枕代わりにする行為に、「あまりにも勝手すぎる」と次第に怒りが湧いてきたそうだ。
「いつまで顔を乗せているのかイライラしてきて、そのままじっと耐えるわけにはいきませんでした」
◆「この状態が40分も続くのか?」イライラが募る
何度か肩をすくめてみた菅田さん。しかし、男性は気にしない様子だった。
「だんだん不快感と男性特有の汗っぽい臭いが増していきました。『この状態が40分も続くのか?』と考えると、突き飛ばしたくなる思いでした」
男性の頭が徐々に菅田さんから離れていくことを期待したが、肩にあごを乗せたまま微動だにしなかったという。しばらくして、周りの人たちが少しずつ動き出したのだが、菅田さんの心の中では苦痛が続いていた。しかし、次の瞬間……。
「男性が動くと同時に、私の体が押されてしまったんです。駅に着いてドアが開いた瞬間に、男性は私を押しのけるようにして降りました。私は思わず舌打ちをしましたね」
漫画やドラマであれば、声をかけて“物申す”ところだと思うが、現実は怖さもあり、そうはいかないと菅田さんは振り返る。
「友人に、『何だよ、あいつ』と愚痴をこぼすことしかできませんでした」
菅田さんは、知らない人のあごが肩に乗るという、まさに信じがたい体験をした。
「これも、朝の通勤ラッシュの一部なのでしょうか……」
——電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。
今回は、電車内での迷惑行為に遭遇しながら、何も言えず悔しい思いをした2人のエピソードを紹介する。
◆電車内で消臭・除菌スプレーを噴射する男性客
鈴木早紀さん(仮名・20代)は、家族と電車に乗っていた。
「空いている席がまばらだったので、父だけが向かいの席に、私たちは並んで座っていました。しばらくすると、席が空きはじめたため、父の隣の席には誰も座っていない状態でした」
すると、長身の男性が乗車してきたという。その男性は、すっかり眠っている父の隣に座った。男性は座るや否や“特大ボトルの消臭・除菌スプレー”をカバンから取り出した。そして、勢いよく全身にかけはじめたという。
「全身が霧に包まれるように念入りにかけていたので、隣で眠っている父にも大量にふりかかっていました。あまりにも“シュッシュ”という音がしていて、霧がふりかかったからなのか、父は途中で起きていました」
しかし、父はあまりにも奇想天外な出来事に理解が追いつかず、戸惑って寝たふりをしていたそうだ。
◆「ちょっと、何してんの?」周囲の声も聞く耳もたず
「やはり電車内では迷惑なので、姉が男性に聞こえるくらいの声で、『ちょっと、何してんの?』と声をあげました。でも、彼は動じる様子もなく、依然として全身にかけていました」
鈴木さんも「こっち来なよ! 移動したほうがいい」と父に声をかけたが、“スプレー男”が何をするのかわからず「怖かった」ため、その場から動けなかったようだ。
「母が『周りを気にせずにスプレーをかける人なんてマトモな人じゃないから、刺激しないほうがいい』と耳打ちしてきたので、申し訳ないけど父のことは見捨てて、見て見ぬふりをしていたんです」
そして、男性の奇行は、鈴木さんたちが電車から降りた後も続いていたのだとか。
「電車から降りてそっと見てみると、父が座っていた座席にも念入りにスプレーしていました。相当な潔癖症なんですかね……」
コロナ禍以降はウイルスや菌の付着を気にする人も増えたが、電車内で周囲に一言もなくスプレーをまくのはいかがなものだろうか。
◆肩を枕代わりにする見ず知らずの男性
菅田洋子さん(仮名・20代)は、上京してすぐに体験した衝撃的な出来事について教えてくれた。
「朝のラッシュ時間帯に、私はいつものように出社時間が同じの友人と電車に乗りました。車両は乗客で溢れていて、すし詰め状態でしたね」
電車のドアが閉まると、菅田さんの周りには知らない人たちばかり。ちょっとした密室のような圧迫感に包まれた。友人とはアイコンタクトで「混みすぎだろ」とやり取りをしながら、目的の駅まで乗っていたという。すると突然、肩のあたりに違和感を抱いた。
「友人がふざけて手か顔を乗せているのかと思いました。でも振り返ると、見知らぬ男性が、“まるで自分の枕かのように”私の肩にあごを乗せていたんです」
はじめは、「疲れているんだろうな……」と笑いそうになりながら、友人と目を合わせていたのだが、菅田さんの肩を枕代わりにする行為に、「あまりにも勝手すぎる」と次第に怒りが湧いてきたそうだ。
「いつまで顔を乗せているのかイライラしてきて、そのままじっと耐えるわけにはいきませんでした」
◆「この状態が40分も続くのか?」イライラが募る
何度か肩をすくめてみた菅田さん。しかし、男性は気にしない様子だった。
「だんだん不快感と男性特有の汗っぽい臭いが増していきました。『この状態が40分も続くのか?』と考えると、突き飛ばしたくなる思いでした」
男性の頭が徐々に菅田さんから離れていくことを期待したが、肩にあごを乗せたまま微動だにしなかったという。しばらくして、周りの人たちが少しずつ動き出したのだが、菅田さんの心の中では苦痛が続いていた。しかし、次の瞬間……。
「男性が動くと同時に、私の体が押されてしまったんです。駅に着いてドアが開いた瞬間に、男性は私を押しのけるようにして降りました。私は思わず舌打ちをしましたね」
漫画やドラマであれば、声をかけて“物申す”ところだと思うが、現実は怖さもあり、そうはいかないと菅田さんは振り返る。
「友人に、『何だよ、あいつ』と愚痴をこぼすことしかできませんでした」
菅田さんは、知らない人のあごが肩に乗るという、まさに信じがたい体験をした。
「これも、朝の通勤ラッシュの一部なのでしょうか……」
——電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。