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日本最低気温-41.2℃を記録した“極寒地帯”に鉄道があった?30年前の廃線を路線バスで巡った

日刊SPA! 2025年1月27日 8時51分

―[シリーズ・駅]―

 今から30年前の1995年、北海道の深川駅と名寄駅を結ぶ、JR深名線が廃止された。
 同路線は国鉄時代からワースト上位に入る赤字路線。JRへの分割民営化後も生き残ったのは、並行する幹線道路の整備状況が不十分だったため。道内でも屈指の豪雪地帯で除雪が追い付かないことも多かったからだ。

 それでも平成の世に変わってからは除雪環境が大きく改善。これを受けて廃線となったわけだが、その代替交通機関として重宝されているのが路線バスだ。

 鉄道時代の深名線のルートとほぼ並行する形で深川―名寄間の約120㎞を運行している。そこで今回は、路線廃止から30年の節目を迎える深名線をバスに乗って巡ってみた。

◆乗客は筆者1人の事実上の貸し切り状態

 深川から幌加内、朱鞠内を経て名寄に至る深名線バス。現在は深川―幌加内間を1日7往復、幌加内―名寄間を4往復(※土日祝は3往復)運行している。

 鉄道が廃止となった95年時点のダイヤは、深川―幌加内間が1往復に深川―朱鞠内間が4往復、朱鞠内―名寄が3往復だから運行本数は当時より少し多い。

 世間が年末年始の休みに入る直前の12月下旬、筆者は幌加内行きの始発のJRバスに乗るべく深川駅へ。

 深川市の南側は石狩平野の北端に位置し、周辺には山があるせいか積雪量が多く、保線職員たちが駅の跨線橋の屋根で雪下ろし作業中。駅前のロータリーでもショベルカーなど複数台の重機が除雪作業をしていた。

 これから向かう幌加内や朱鞠内は山を越えた先にあり、積雪量は深川市の平野部とは比べ物にならないほど多い。そんな不安を煽るかのように始発の8時20分発の幌加内行き快速バスの乗客は筆者だけだった。

◆深名線時代の幌成駅の駅舎がまだ保存されていた

 当時はすでに学校が冬休みに入っていたが、深川駅から10㎞以上北にある多度志の停留所まではノンストップ。

 ゆえに普段もこの時間のバスに通学の高校生が乗ることはなく、この先にある幌加内や朱鞠内も旅行者が大勢訪れるような人気観光地ではない。利用者の少なさに思わず心配になったのは言うまでもない。

 バスは出発して10分も経つと、あたり一面には雪原が広がるものの、そこからすぐに山道へと入っていく。多度志周辺は盆地になっていたが、そこを抜けると道は再び山の中へ。

 ぼんやり雪景色を眺めていると、幌成というバス停の付近に『幌成駅』と書いてある貨車を発見。北海道の秘境駅などでよく見かけるやつで、深名線時代の幌成駅の駅舎がまだ保存されていることにビックリ。

 後で調べてみると、この貨車駅舎は地元の農業機械工場に譲渡され、移転して事務所として使っているようだ。

◆深川駅前から1時間15分ほどで幌加内町に到着

 幌成駅以外にも盆地状になっている幌加内に入ると、現役当時と変わらぬ姿のままで保存されている沼牛駅の前を通過。

 窓にスマホをくっつけてシャッターチャンスを伺っていたが、駅はなんと反対側の車窓という痛恨のミス。バスは鉄道と違って各停留所に停まらないため、乗りながら写真撮影はやはり大変だ。

 そうこうしているうちに定刻から数分遅れが、深川駅前から1時間15分ほどで幌加内町の市街地にあるバスターミナル兼用の幌加内交流プラザに到着。西洋風の立派な施設だが、ここはかつての幌加内駅とはまったく違う建物だ。

 当初、駅は廃止後にバス待合所として利用されていたが、残念ながら00年に火災で焼失。それに代わってバスの発着所となった施設だ。

 それでも待合室にはエゾジカ親子のはく製が展示され、2階には『深名線資料館』もある。貴重なお宝グッズの数々に鉄道ファンなら間違いなく喜ぶだろう。

◆日本最低気温-41.2℃を記録した町の温泉の露天風呂に入浴

 短い滞在時間を終え、今度は名寄駅前行きのバスに乗車。筆者はここからバスで16分の『幌加内せいわ温泉ルオント』で下車する。20年にリニューアルオープンしたこの施設は、広くてキレイと評判だったので以前から機会があれば来たいと思っていたのだ。

 この幌加内町は日本最低気温の-41.2℃の観測した自治体で、そんな超極寒の地域なのに露天風呂も完備。冬季のみ利用可能な“豪雪露天風呂”があり、さっそく体験してみたが雪に囲まれた中での温泉は格別だ。

 次のバスまでは3時間半近くあったため、サウナと氷点下の屋外での外気浴、温泉を交互に何度も楽しみ、24年最後の温泉とサ活に大満足。風呂から上がった後は、併設のレストランで名物のそばを楽しんだ。

 幌加内町は全国有数のそばの産地で、打ちたてのそばを食べることができる。地元オリジナルの品種『ほろみのり』を使ったそばは甘味が強く、特有のえぐみもなく上品な味わい。わざわざここまで来た甲斐があったというものだ。

◆ゴールの名寄駅前に到着。運賃は計2750円

 ルオントで心身ともに癒された後は、再びバスでゴールの名寄駅前を目指す。その途中には鉄道時代の沿線の中心駅だった朱鞠内駅があり、洋館風の駅舎は現存。今もバス待合所として利用されている。

 そんな朱鞠内駅を過ぎると、日本最大人造湖の朱鞠内湖が見えてくる。まだ12月中だったが湖面は凍って雪が積もっている。針葉樹に囲まれた湖畔の雰囲気は、まるでフィンランドの北極圏地域ラップランドのようだ。

 湖に沿ってバスはしばらく進み、途中で道道668号に入って峠越え。名寄盆地が視界に広がり、ゴールまであとわずかだ。

 名寄市街に向かう途中には天塩弥生駅が道沿いにあるが、これは土地の購入者が昭和40年代まで使われていた古い木造駅舎を復元したもの。現在は食堂兼ゲストハウスになっている(※現在は休業中)。

 が、筆者はバスに揺られながらウトウトしてしまい、見逃すという大失態。写真も撮り損ねてしまったため、別の機会にぜひ泊まって今回のリベンジを果たしたいものだ。

 ルオントからはこちらも若干遅れたが約1時間50分で名寄駅前に到着。運賃は深川駅―ルオントが1400円で、ルオント―名寄駅が1350円の計2750円だった。

◆深名線バスはタダで乗車できる『運賃無料DAY』も開催

 なお、深名線バスは定期的に『運賃無料DAY』という太っ腹イベントを行っている。今年1~2月にも1月11日(成人の日)、2月13日(建国記念の日)、2月23日(天皇誕生日)に実施予定。

 無料となるのは「幌加内町内のバス停で下車した場合」との条件が付くが、ルオントで降車した場合は、入館割引と名物『蕎麦ジェラートアイス』1個プレゼントがセットになった優待券を運転手からもらえる。

 運転手に尋ねたところ、イベント当日もバスが満員になるほど混むわけではないそうなので、これを利用して訪れるのもよさそうだ。

 雪景色が延々と続くとはいえ、山や盆地、湖ありで外を眺めているだけでも楽しい。駅舎や橋梁の鉄道遺産が目的の方、途中で温泉やそばを楽しみたい方のどちらでも楽しめる。

 バスで極寒の豪雪地帯を駆け抜け、かつての深名線に思いをはせるのも悪くなさそうだ。

<TEXT/高島昌俊>

【高島昌俊】
フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。3度の世界一周経験を持ち、これまで訪問した国は50か国以上。現在は東京と北海道で二拠点生活を送る。

―[シリーズ・駅]―

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