現在、多くの企業が実施する早期退職制度。退職金が一定額上乗せされるとのメリットもあり、飛びつく者も少なくない。
この制度を利用して会社を辞めても本来の定年の年齢にはまだ早く、ほとんどの人間は別会社で働き続けるが、なかには早期退職を機にそのままリタイア生活に突入する者もいるようだ。
19年に医療機器メーカーを早期退職した葉山好和さん(仮名・61歳)は当時独身。40代前半で離婚した妻との間には子供がいなかったため、そのことも早期退職を後押しした。
実際、会社を辞める数年前から準備をしており、退職後は熱海に移住。大学時代から東京に住んでいたので首都圏には友人が多く、離れたくなったからだ。
◆熱海でリタイア生活を始めるもコロナが大流行
「海と山の両方に近く、できれば温泉のあるところがいいなって。それで湯河原と熱海、伊東で悩んだんですけど、熱海なら新幹線も停まるし、便利かなって。
学生時代からの旧友やプライベートでも付き合いのあった仕事仲間に移住のことを話すと、『熱海だったら近いな。遊びに行くよ』と言ってくれました」
ただし、そう話していた友人たちが遊びに来ることはほとんどなかった。移住して数か月もしないうちに新型コロナの感染が一気に広がってしまったからだ。
葉山さんにとって予想外の出来事だったのは言うまでもなく、それどころか外出もしにくい状況に。市内には日帰り入浴可能な旅館・ホテルが数多くあったが、宿泊者以外の利用ができなくなり、公衆温泉浴場も閉鎖されるなど楽しみにしていた温泉も入れずじまい。
外食することもできず、移住用に借りたマンションで籠って過ごすことが多かった。
◆早期退職は失敗だったと後悔
「早朝に散歩するくらいはしてましたけど、日中に街を散策とかはほとんどできなかったですね。糖尿病と高血圧持ちだったからコロナに感染したら重症化の恐れがあったし、そこはすごく神経質になっていました。
ただ、家の中で過ごすといってもNetflixやアマゾンプライムビデオを観たり、読書やゲームをしてゴロゴロするだけ。最初はそういう生活も悪くないと思いましたが、数か月もすると飽きてしまうんです。
もし会社を辞めていなかったらリモートになったかもしれませんが仕事はあったでしょうし、ここまで退屈に思うことはなかったはず。そういう意味では早期退職は失敗だったと後悔しましたね」
◆働いていた時には感じなかった孤独感やさびしさを覚えるように
本当は新しい趣味を見つけようと地元のカルチャースクールに入ることも考えていたが、こちらも休講や新規募集を控えている状態。
マンションの同じ階に住んでいるのは自分より明らかに年下の者ばかりで近所付き合いもない。人並み程度の社交性は持ち合わせていたが、移住先で友人や知り合いができることはほとんどなかった。
「これまで1人で居ることには慣れていたし、むしろそういう時間は欲しいタイプでした。ところが、移住後は時間に余裕が生まれたことも関係しているかもしれませんが、孤独やさびしさを覚えるようになったんです。
今までペットを飼いたいと思ったことはないのに無性に猫が欲しくなって。きっとメンタル的にちょっと病んでいたんでしょうね」
熱海には3年半近く住み、最後のほうは普通に外出するようになっていたが、それ以前にリタイア生活が嫌になり、再び働きに出たいと意識が変化。
そこで現地の賃貸マンションを引き払って埼玉県内に引っ越し。現在は求人サイトで見つけた別の医療機器メーカーに採用され、契約社員として働いている。
「埼玉にしたのは、以前住んでいた都内の持ち家のマンションは処分していたので。それで都内より家賃の安い埼玉を選んだだけです。戻る前から求職活動をしていて、採用された職場から比較的近いっていうのもありましたけどね」
◆働いている今のほうが生活にリズムがある
30代のころから資産運用もしており、前の会社の退職金を含めた預貯金、金融資産を含めた資産は5000万円以上ある。独り身であることを考えると、贅沢をしなければこのままリタイア生活を続けても十分逃げ切れそうな気はするが……。
「散財するタイプではないので逃げ切れるとは思います。けど、仕事が本当に好きってわけじゃないですけど、働いていたほうが生活にリズムが生まれて自分にはこっちのほうが合っているなって。それに時間も潰れますから(笑)。
契約が更新されなかったとしてもその場合は別の仕事を探すだけ。体の自由がある程度利く間は、70代になっても仕事を続けたいですね」
早期退職したタイミングが悪かったのかもしれないが、それに関係なくリタイア生活が暇すぎて飽きてしまったという人は意外と多い。遠回りする形になったとはいえ、それを身をもって知ることができたのは結果的によかったのかもしれない。
<TEXT/トシタカマサ>
【トシタカマサ】
ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。
この制度を利用して会社を辞めても本来の定年の年齢にはまだ早く、ほとんどの人間は別会社で働き続けるが、なかには早期退職を機にそのままリタイア生活に突入する者もいるようだ。
19年に医療機器メーカーを早期退職した葉山好和さん(仮名・61歳)は当時独身。40代前半で離婚した妻との間には子供がいなかったため、そのことも早期退職を後押しした。
実際、会社を辞める数年前から準備をしており、退職後は熱海に移住。大学時代から東京に住んでいたので首都圏には友人が多く、離れたくなったからだ。
◆熱海でリタイア生活を始めるもコロナが大流行
「海と山の両方に近く、できれば温泉のあるところがいいなって。それで湯河原と熱海、伊東で悩んだんですけど、熱海なら新幹線も停まるし、便利かなって。
学生時代からの旧友やプライベートでも付き合いのあった仕事仲間に移住のことを話すと、『熱海だったら近いな。遊びに行くよ』と言ってくれました」
ただし、そう話していた友人たちが遊びに来ることはほとんどなかった。移住して数か月もしないうちに新型コロナの感染が一気に広がってしまったからだ。
葉山さんにとって予想外の出来事だったのは言うまでもなく、それどころか外出もしにくい状況に。市内には日帰り入浴可能な旅館・ホテルが数多くあったが、宿泊者以外の利用ができなくなり、公衆温泉浴場も閉鎖されるなど楽しみにしていた温泉も入れずじまい。
外食することもできず、移住用に借りたマンションで籠って過ごすことが多かった。
◆早期退職は失敗だったと後悔
「早朝に散歩するくらいはしてましたけど、日中に街を散策とかはほとんどできなかったですね。糖尿病と高血圧持ちだったからコロナに感染したら重症化の恐れがあったし、そこはすごく神経質になっていました。
ただ、家の中で過ごすといってもNetflixやアマゾンプライムビデオを観たり、読書やゲームをしてゴロゴロするだけ。最初はそういう生活も悪くないと思いましたが、数か月もすると飽きてしまうんです。
もし会社を辞めていなかったらリモートになったかもしれませんが仕事はあったでしょうし、ここまで退屈に思うことはなかったはず。そういう意味では早期退職は失敗だったと後悔しましたね」
◆働いていた時には感じなかった孤独感やさびしさを覚えるように
本当は新しい趣味を見つけようと地元のカルチャースクールに入ることも考えていたが、こちらも休講や新規募集を控えている状態。
マンションの同じ階に住んでいるのは自分より明らかに年下の者ばかりで近所付き合いもない。人並み程度の社交性は持ち合わせていたが、移住先で友人や知り合いができることはほとんどなかった。
「これまで1人で居ることには慣れていたし、むしろそういう時間は欲しいタイプでした。ところが、移住後は時間に余裕が生まれたことも関係しているかもしれませんが、孤独やさびしさを覚えるようになったんです。
今までペットを飼いたいと思ったことはないのに無性に猫が欲しくなって。きっとメンタル的にちょっと病んでいたんでしょうね」
熱海には3年半近く住み、最後のほうは普通に外出するようになっていたが、それ以前にリタイア生活が嫌になり、再び働きに出たいと意識が変化。
そこで現地の賃貸マンションを引き払って埼玉県内に引っ越し。現在は求人サイトで見つけた別の医療機器メーカーに採用され、契約社員として働いている。
「埼玉にしたのは、以前住んでいた都内の持ち家のマンションは処分していたので。それで都内より家賃の安い埼玉を選んだだけです。戻る前から求職活動をしていて、採用された職場から比較的近いっていうのもありましたけどね」
◆働いている今のほうが生活にリズムがある
30代のころから資産運用もしており、前の会社の退職金を含めた預貯金、金融資産を含めた資産は5000万円以上ある。独り身であることを考えると、贅沢をしなければこのままリタイア生活を続けても十分逃げ切れそうな気はするが……。
「散財するタイプではないので逃げ切れるとは思います。けど、仕事が本当に好きってわけじゃないですけど、働いていたほうが生活にリズムが生まれて自分にはこっちのほうが合っているなって。それに時間も潰れますから(笑)。
契約が更新されなかったとしてもその場合は別の仕事を探すだけ。体の自由がある程度利く間は、70代になっても仕事を続けたいですね」
早期退職したタイミングが悪かったのかもしれないが、それに関係なくリタイア生活が暇すぎて飽きてしまったという人は意外と多い。遠回りする形になったとはいえ、それを身をもって知ることができたのは結果的によかったのかもしれない。
<TEXT/トシタカマサ>
【トシタカマサ】
ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。