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全国統一模試「山梨県内1位」から“女子御三家”に。進学して“驚いたこと”は…「地元にいたタイプの人が皆無だった」

日刊SPA! 2025年1月28日 15時53分

 フレッシュな印象の女性だ。心地よいトーンの声で笑うと、場の雰囲気が華やぐ。早稲田大学のアイドルコピーサークル『ももキュン☆』でリーダーを務める、ゆゆきちさん(21歳)だ。現在、東京科学大学(旧東京医科歯科大学)医学部に通う2年生。
 才女はなぜ、アイドルになることではなく、アイドルのステージをコピーすることに志を傾けたのか。その半生とともに追う。

◆全国統一模試で「山梨県内1位」に

 ゆゆきちさんが生まれたのは山梨県。塾経営者の父親と専業主婦の母親に育てられた。世は中学受験全盛の時代。とはいえ、周囲に有名塾などはなかったという。

「首都圏と比べれば、いわゆる学力のための環境が整っていたわけではないと思います。しかし塾を経営していた父が『どうやったらわからないことがわかるようになるか?』という視点で思考力を伸ばしてくれたおかげで、考えることは好きになりました。我が家は『勉強しなさい』と子どもを急き立てることはなかったのですが、自然と学ぶ姿勢は身につきました。

 小学校時代、全国統一模試で山梨県内1位を獲ったのをきっかけとして、東京で中学受験をしてみないかと両親から提案されて。中学受験についてあまり詳しく知らなかったのですが、とりあえず偏差値の高い桜蔭学園中学校を受験することになり、合格しました」

◆地元にいたタイプの人が皆無だった

 桜蔭学園中学校はいわゆる“女子御三家”の筆頭。2024年の東大進学実績(一般)においても、女子校で唯一ベスト3に食い込むなど、飛び抜けた存在感を示す。しかもゆゆきちさんは、「ほとんどの時間を父に習っていて、塾はほぼ通っていない」という異色の経歴だ。

 ゆゆきちさんの桜蔭学園への進学をきっかけに、家族で東京へ移住した。入学後は、大多数を占める首都圏組との温度差に驚いたという。

「地元の小学校だと、お洒落な同級生は髪の毛を染めていたり、ピアスをしていました。そのお母さんも若くて派手な髪色をしていることが珍しくありませんでした。

 桜蔭にはそういう感じの子は皆無で、ひと目で『育ちがいい子たちだなぁ』と少し敷居を感じましたね。身につけているものも別に高級品ではないのに、気品があるというか(笑)。ただ、違いを尊重し合える雰囲気もあるので、高校生になるくらいには打ち解けることができたのですが」

◆歯学部から医学部に鞍替えした理由は…

「何をやりたいか明確に決まっていなかった」と振り返る高校時代、模試では東京大学理科I類のA判定を叩き出したものの、受験本番で0.3点差で嫌われた。後期入試で東京医科歯科大学(当時)歯学部に入学した。

「年の離れた姉が歯科医師で、開業していました。自立した女性で『かっこいいな』と感じていたので、私も歯科医師になりたいと思ったんです」

 だがその後、半年間の仮面浪人を経て同大学の医学部へ進学した。

「歯学部で出会った同級生たちと話していくなかで、本当に自分がやりたいことに向き合おうと思ったんです。同級生たちは地方から出てきて、自分たちの人生プランをしっかり考えて歯学部の門を叩いたのに対して、私は桜蔭時代の『勉強ができる=正義』みたいな価値観から抜け出られていないことに気づきました。さまざまな患者さんの人生に直接的にかかわれる医師という職業が魅力的に思えて、再受験を決意しました」

◆「週4日、3~5時間」でみっちり練習

 冒頭で紹介した通り、ゆゆきちさんは現在、アイドルのコピーサークルで活動している。“コピー”だけで成り立つサークルとは斬新にも思える。「そっくりさんみたいな感じだと説明することが多いのですが」と笑う彼女だが、アイドルコピーに傾ける熱量は高い。

「舞台で楽曲を流すので、自分たちで歌うことはありません。その分、私たちはダンスに重きを置いています。自分たちというより、曲の世界観を表現することに全力を注いでいるのかもしれません。

 早稲田大学にあるサークルですが、私も含め、メンバーは必ずしも早大生ではありません。それぞれの大学から、多いときは週に4日ほど集まって、平日は3時間、土日なら5時間くらい練習を行います。メンバー同士でいろいろな意見を出し合って、いかに舞台で映えるダンスにたどり着けるか――という点が課題でもあり醍醐味でもあります。

 受験勉強は個人戦でしたが、集団戦であるダンスもまた、新たな自分の一面に触れられるようで毎日楽しくやっています」

◆アイドルではなく、“アイドルのコピー”を選んだ理由

 目指すのはアイドルではなく、あくまでアイドルのコピー。それはなぜなのか。

「私は高校時代から、アイドルが提供する価値について特別だと考えていました。来客者に提供するのは楽しい時間であって、何か形があるものではない。客も形に残らないその時間に対して、安くない対価を支払うわけです。

 アイドルという存在に尊敬がある一方で、自分がアイドルになろうとは思いませんでした。私には、学業もこのまま続けて、医療従事者として社会貢献をする夢があります。大学生でいる間、舞台でアイドルのコピーを全力でやれたらと思っています」

 華麗に、楽しく舞う。そんな華美なイメージとは裏腹に、ゆゆきちさんのアイドルコピーへの向き合い方は泥臭い。

「2024年春からリーダーに就任して、通常のサークル活動に加え、慣れない新歓コンパの準備や夏の大会などの調整などが重なりました。もちろん、普段は医学部生として学業中心の毎日です。

 ある日、舞台のために美容院でヘアメイクをしてもらっていたら、美容師さんに『隠しておくから大丈夫だよ』と……。最初は何を言っているのかわからなかったのですが、どうやら円形脱毛症になっていたらしいのです。治るまで1ヶ月ほどかかりましたね。初めての経験だったもので、びっくりしました」

◆悩むこともあるが、喜びもひとしお

 各大学のアイドルコピーサークルが集い、その技を競い合う大会があるという。基本的な技術に加えて、来客得票数も勝敗を隔てる大切な要素だ。

「私たちはアイドルではないとはいえ、当然、観客を魅了するパフォーマンスは求められます。近ごろはなかなか思うような結果が得られず、悩むこともありました。それだけに、大会で良い成績を残せたときの喜びはひとしおです。本物のアイドルがそうであるように、パフォーマンスの時間だけは、見てくれる人を夢中にさせる存在になれるように頑張りたいと思って日々、試行錯誤を繰り返しています」

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 ゆゆきちさんは期間限定のアイドルコピー演者。大学サークルのステージで舞う数分など、彼女の長い人生において一瞬だろう。だが費やした時間の多寡が人生の濃淡と同一ではない。見てくれる人たちにどんな感情を届け、どう奮い立たせるか。「そっくりさん」に徹した情熱は、偽物でも贋作でもなく光り輝く。

<取材・文/黒島暁生>

【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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