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元子役・読者モデルの今。芸能界の厳しさも痛感、“歯科医師”としての新たな挑戦「20歳の女性が口を開けたら、歯がほとんどなくて」

日刊SPA! 2025年2月5日 8時52分

 いつか芸能界で活躍する日を夢見て“子役”や“読者モデル”として青春時代を過ごした人たちがいる。だが、そのうち成功するのはほんのひと握りである。その後は一体どんな人生を歩んでいくのだろうか。
 現在、岐阜県の「うずら歯科医院」で副医院長を務める一方、タレントとしても活動している野尻真里さん(31歳)。芸能界の厳しさに直面し、挫折も経験してきた。今回はそんな彼女が、歯科医師とタレントの“二足のわらじ”を履きこなすようになるまでの道のりに迫る。

◆中学生時代、地方にいながら雑誌の“読者モデル”に

 野尻さんが芸能活動を始めたきっかけは、小・中学生の頃に愛読していた雑誌だったという。

「小学校高学年の頃から中学生向けファッション雑誌『Hana*chu→(ハナチュー)』(※現在は休刊)をずっと読んでいました。雑誌には“読者アンケート”のページがあって、自分はこんなに大好きなんだから書いて送ってみようかなって」

 読者アンケートに写真とプリクラを貼って送ってみたところ、数週間後に編集部から電話がかかってきた。その内容は「“読者モデル”をやりませんか」というスカウトだった。

 しかし、撮影は基本的に編集部のある東京都内で行われる。岐阜県の飛騨高山に住んでいた野尻さんにとっては、まさに「夢のように遠い話」に思えたそうだ。

「事情を話したら、編集部の方が『じゃあ、写真を送る形で載せられる企画はぜんぶ声かけてあげるね』って言ってくれたんです。それで、地方にいながら自分が送ったものが雑誌に掲載されるようになって、純粋にすごく楽しいな、うれしいなって」

◆高校進学を機に芸能活動を本格化、“子役”では厳しさも痛感

 そこから高校進学のタイミングで芸能活動が本格化する。

「親から『高校は好きなところに行っていいよ』って言われたんです。『それは全国どこでもいいの?』って確認したら、『うん、どこでもいいよ』って」

 野尻さんは「制服が可愛くて勉強もそこそこできる高校」を探した。そして、山梨県のある高校に進学を決めたのだが、卒業生には芸能関係者も多かった。

「引っ越して東京に出やすくなったので、高校生になってからは事務所にも入って。土日に演技のレッスンを受けたり、ドラマの現場を見に行ったり、学校で勉強しながら自分の夢を追いかけるみたいな生活になりました」

 こうして雑誌の読者モデルと並行して子役としても活動するように。ここから順風満帆にいくのかと思いきや、“芸能界の厳しさ”を痛感したという。

「オーディションは覚えていないぐらい行きました。ただ、結果としてはぜんぜん残せなかったですね。現場を知るためにエキストラもたくさんやったのですが、テレビを見ているだけではわからなかった部分も見えてきて。

 当然ですが、きちんと役のある女優さんと、ちょっとセリフがあるだけの人、エキストラでは扱いがまったく違ってくるので。芸能界って厳しいんだなって」

◆「なかなか芽が出ない」テレビを見ていて“歯科医師になろう”と決意

 そんななかで、歯科医師兼タレントとして活動する“現在”につながる出来事があった。

 芸能界では、早いうちから結果を出さなければいけない……。そんな焦りから、野尻さんはなかなか芽が出ないことに悩んでいたという。

 高校の先生に進路相談した際、こんなことを言われたんだとか。

「先生からは『たぶん君は普通の会社に就職しようと思ってもうまくいかない。一生自分の武器になるような資格を取ったほうがいい』って。それで手に職をつけたいと思ったんです」

 そんなとき、テレビに映っている歯科医師を見てハッとした。

「女医さんがコメンテーターとして出演していたのですが、すごくカッコいいと思ったんです。そうか、歯のお医者さんもいるんだなって。

 姉が医療系なので、私もなんとなく良いかもなって気持ちがあったのですが、もしも医療系に進むとなれば、学費がネックですよね。うちは実家がお医者さんとかではないので。両親に『歯医者さんになりたい』と話した際も一度は『学費が高いからダメ』って言われて諦めかけたのですが、ちょうど朝日大学の歯学部が学費を大幅に下げたタイミングで。両親からも『ここなら払えるよ』って。それならば、とにかく留年しないようにがんばって勉強しようと思ったんです」

 偶然が重なり、まるで運命に導かれるように野尻さんは歯科医師の道へ進むことになったのだ。

◆「20歳の女性が口を開けたら、歯がほとんどなかった」

 その後は朝日大学に進学し、雑誌やカタログ、ECサイトのモデルなどをやりながら勉学に勤しんでいた。

 研修中には、歯科医師として“原点”とも呼べる大きな体験があった。

「5年生になると病院に行って臨床実習をする“ポリクリ”が始まるのですが、そこで衝撃を受けました」

 20歳の若い女性患者が来院し、野尻さんは“ちょっと虫歯の治療かな?”くらいに思っていたが、実際は想像を絶する状態だった。

「口開けてみたら、歯がほとんどなかったんですよ。ブリッジ(歯を失った部分の両隣を削り、橋渡しするように被せ物をする治療)できる歯も残っていなくて。かといって、インプラント(人工歯根を埋め込む治療)は非常に高額なので本数的に支払えないだろうなって。私は、先生の近くで“これは一体どうするんだろう?”って見ていました」

 そこで担当医が勧めたのは“入れ歯”である。まだ20歳の女性にとって、それは受け入れがたい現実だろう。

「やっぱり泣いていたんです。その姿に胸が痛んだっていうか。もちろん、ここまでお口の中を悪くしてしまったのは彼女だし、この子に対して“今できること”は入れ歯しかない。

 ただ、歯を抜いたのは歯医者さんなので、ここまでの過程でも歯医者さんに通っていたはずなんです。その結果がこれです。もしも歯医者さんが、ただただ来る患者さんの虫歯をドリルで掘って詰め物をして帰すことを繰り返していたら、彼女のような悲劇がまた起きる。そうなってからではもう遅い。そこで、歯医者さんの在り方って、本当にこれでいいのかなって疑問を抱いたんですよね」

 こうして野尻さんは「予防歯科」(虫歯や歯周病などの病気を未然に防ぐこと)の重要性を強く意識するようになったそうだ。

◆国家試験と並行して“ミスコン”にも挑戦、ファイナリストに

 そんななか、大学生活も終わりを迎える頃に「ミスコンに出ませんか?」と声をかけられ、挑戦することになる。

 ミスコンといえば、出場者が大学卒業後にアナウンサーやタレントになることが多く、芸能界やメディア関係者からも“登竜門”として大きな注目を集めていた。野尻さんは「やっぱり芸能活動への未練もあったんだと思う」と振り返る。

「当時はミスコンが流行っていて、日本全国のサークルの中でのミスコンがあったんです。でも、日程が国試(国家試験)とかぶっていて。配信審査があったんですが、配信していたら国試に落ちると思って、なかなか時間が取れなくて。

 それでも投票してくれた人たちのおかげで、ファイナリストに選ばれたんです。優勝はできなかったけど、テレビやネットニュースなど、いろんなメディアにも取り上げられて。大学生活の最後の思い出として、本当にうれしかったですね」

◆歯科医師と芸能活動の“二足のわらじ”生活

 現在、野尻さんは岐阜県の歯科医院に勤務しながら、セミナーや講演会、さまざまなメディアで記事を執筆するなど、情報の発信も精力的に行っている。

「ただ、最初の3年ぐらいは“両立は無理なのかもしれない”って。歯医者になってすぐに週刊誌の巻頭企画や写真集に出させてもらって幸先よくスタートを切ったものの、生活リズムがつかめなかったんですね。ようやく慣れてきた頃にはコロナ禍が訪れて……。

 念入りに打ち合わせを重ねてきた企画が白紙になってしまったり、さまざまな制限があるなかで、SNSとか読モ時代からつながりがある雑誌で記事を書かせてもらうとか、自分にできる範囲でやっていこうと。それで去年ぐらいからコロナ禍が落ち着いてきて、本格的に再開しようと思って。芸能はもちろん、いろんなことに挑戦していきたいです」

 芸能の世界から一般社会にも踏み出したことで今後の目標や価値観も変わってきたという。

「以前はメディアで発信するのも“芸能がやりたい”という気持ちが強かったからなんですが、今は予防の知識を広めて、ちゃんと人のためになりたい。自分がきっかけでみなさんの歯に対する健康観がすこしでも高められたらいいなと考えています。

 また、どうしても芸能の感覚で何事も“若いうちが勝負”と思って生き急いでいたのですが、歯医者さんになってからは、いろんな先生や患者さんと接するなかで、もっと長い目で見て、学ぶべきことを1つ1つ学んで、積み重ねていくことが大切だと気づいたんです」

 読者モデル・子役から、現在は歯科医師兼タレントへ。芸能活動で培った発信力と、歯科医師としての経験・知識を組み合わせることで、より多くの人に予防歯科の重要性を届けていきたいと考えている。“自分のやるべきこと”が見えている人の言葉は明瞭だ。野尻さんの挑戦は続いていく。

<取材・文/藤井厚年>

【藤井厚年】
明治大学商学部卒業後、金融機関を経て、渋谷系ファッション雑誌『men’s egg』編集部員に。その後はフリーランスで様々な雑誌や書籍・ムック本・Webメディアの現場を踏み、現在は紙・Webを問わない“二刀流”の編集記者として活動中。若者カルチャーから社会問題、芸能人などのエンタメ系まで幅広く取材する。趣味はカメラ。X(旧Twitter):@FujiiAtsutoshi

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