2025年1月5日に放送された人気ドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)に出演したお笑い芸人・小堀敏夫氏(57歳)が話題になっている。小堀氏はお笑いコンビ・ガッポリ建設として活動し、人気番組『エンタの神様』などでブレイクした。だが、仕事が減少してからというもの、相方や弟子などに借金をしながら食いつなぐ姿を、番組内では“クズ芸人”と評されていた。
文句のつけようのない“クズっぷり”を随所で見せつけたわけだが、実生活でも同様なのだろうか。本記事では、20年近く小堀氏の弟子として過ごした「魔法使い太郎ちゃん」氏(40歳)にインタビューを敢行。番組をご覧になった方ならご存じだろうが、現在は静岡県浜松市の焼肉店『KON太郎』を切り盛りするやり手の人物だ。話を聞いていくうちに、番組内では見られなかった小堀氏の姿が明らかになってきた。
◆「こんなに面白い人たちがいるんだ」と思った
――そもそも魔法使い太郎ちゃんさんが弟子入りをした経緯はどのようなものでしょうか?
魔法使い太郎ちゃん(以下、太郎):2006年、当時19歳だった私は、調理師専門学校に通いながら中華料理屋で修行をしているところでした。もともとお笑いが好きで、『エンタの神様』などで活躍する師匠たちの姿をみて、「こんなに面白い人たちがいるんだ」と思ったのです。そして、当時の所属事務所であったワハハ本舗に行ってガッポリ建設のおふたりに弟子入りをお願いしました。
――お笑いが好きだったとのことですが、他にも弟子入りをしたいと思った芸人さんはいましたか?
太郎:いえ、面白いと思う芸人さんはいますが、弟子入りを懇願したのは、ガッポリ建設のおふたりだけです。
◆意外と厳しいところがあった“小堀師匠”
――弟子入りを志願したときのおふたりの反応はどのようなものでしたか?
太郎:笑っていましたが、すぐに承諾してくれました。「俺たちもそんなに売れているわけじゃないのに弟子なんて、なんか面白いな」みたいなことを言っていたような気がします。
――具体的に、弟子は何をするのでしょうか?
太郎:雑務を担当するほか、いろんなことを勉強させてもらいましたね。特に“小堀師匠”は、意外と厳しいところがあるんですよ。
◆総額で「200万〜300万円」貸したが、2年以内に必ず返済
――『ザ・ノンフィクション』を拝聴したかぎり、ルーズな人だと思っていたので、衝撃です。
太郎:もちろん遅刻をする、借金をする、という点ではあの放送のまんまです。ただ、たとえば師匠と待ち合わせをするとします。そのときは「必ず何かボケながら登場しろ」と(笑)。師匠のご自宅に伺ってインターホンを押すときも、ひとボケ必要です。常に試されているので、弟子は何かしら考えておく必要があります。
――ちなみにどんなボケで応えたのでしょうか?
太郎:一例ですが、相撲取りの格好をして電柱にひたすら張り手をしたり(笑)。路上で本を売りながら待っていたこともありますね。ちなみに、ボケがつまらないと、写真を撮られて戒められます(笑)。
――スパルタですね(笑)。その一方で、小堀さんは弟子である太郎ちゃんさんにもお金を借りていますよね。
太郎:はい、これまで総額で200万〜300万円くらいは貸しているでしょうね。でも小堀師匠は義理堅くて、2年以内には必ず返済されるんです。たまに、現金を貸したのに図書カードで返ってきたりしますが(笑)。
◆お笑いよりも、お金についての処世術を教わった
――小堀さんに困らされたことはありますか?
太郎:実はそこまですぐに思い浮かぶことはないんですよね。つらかったのは、いきなり朝5時くらいに電話がきて、小堀師匠の自宅近くのスロットを一緒に打ちたいから来いと言われたことでしょうか。仮に私が勝っても、勝ち分は小堀師匠に上納しなくてはいけなくて(笑)。逆に小堀師匠が勝ったときはご飯をご馳走してくれます。意外と理不尽なことはないんですよ。
――世の中ではそれを理不尽と呼ぶと思いますが(笑)。反対に、弟子をやっていてよかったと思うことはありますか?
太郎:ガッポリ建設は芸人から愛される芸人なんです。だからいろんな芸人仲間から「ガッポリの弟子か」と可愛がってもらえたことです。そのなかにどんどん売れていった芸人さんもたくさんいて、人脈が生きる場面も多く、助けてもらいました。当時、私の収入は営業によって支えられていました。経済的にそこまで不自由しなかったのは、売れている芸人さんからいただける仕事によるところが多かったですね。
――弟子として、小堀さんから教えてもらったことはどのようなことでしょうか?
太郎:お笑いのテクニカルな部分は実はあまりないんですよね(笑)。でもそれ以外の、お金についての処世術みたいなものは教わりました。社長さんと飲んでお車代をいただく“ギャラ飲み”も、「本当にタクシーに乗って帰るなよ。近ければ歩け」とか「無理に乗せられても、角を曲がったら降りて歩くんだぞ」とか(笑)。
◆『ザ・ノンフィクション』の反響は…
――特に『ザ・ノンフィクション』放送後、周囲の方に何か言われましたか?
太郎:実は、まったくと言っていいほど触れてこられずで……。友人はもちろん、親でさえもです。何か言いたそうではあるのですが(笑)。何を思っているのか、知りたいんですけどね。
――太郎ちゃんさんにとって、小堀さんあるいはガッポリ建設さんはどのような存在ですか?
太郎:解散しても、ずっとおふたりの弟子でいるつもりです。小堀師匠について言えば、個人的にはクズだと思っていないんですよね。人よりも少し遅刻が多くて、人よりも少しお金を借りてしまうだけなんです。それよりも、小堀師匠がどんな相手でも最終的には懐に入り込んでしまうのを見てきましたし、人間関係におけるさまざまな相談をしてきました。義理人情に厚い人なので、意外と弟子である私のことを思ってくれているんだなと感じる場面が多く、これからも変わらない関係性でいたいと思います。今貸している10万円も、2年以内には必ず返ってくるでしょうし(笑)。
=====
はたから見てどんなに危険物件に見えても、対峙した者だけが肌で感じる魅力がある。一般の感覚からかけ離れなければ、狂気は生まれない。狂気だけが、理屈を超越した笑いを生む。そこに魅了された者だけが刻む深い絆をみた。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
文句のつけようのない“クズっぷり”を随所で見せつけたわけだが、実生活でも同様なのだろうか。本記事では、20年近く小堀氏の弟子として過ごした「魔法使い太郎ちゃん」氏(40歳)にインタビューを敢行。番組をご覧になった方ならご存じだろうが、現在は静岡県浜松市の焼肉店『KON太郎』を切り盛りするやり手の人物だ。話を聞いていくうちに、番組内では見られなかった小堀氏の姿が明らかになってきた。
◆「こんなに面白い人たちがいるんだ」と思った
――そもそも魔法使い太郎ちゃんさんが弟子入りをした経緯はどのようなものでしょうか?
魔法使い太郎ちゃん(以下、太郎):2006年、当時19歳だった私は、調理師専門学校に通いながら中華料理屋で修行をしているところでした。もともとお笑いが好きで、『エンタの神様』などで活躍する師匠たちの姿をみて、「こんなに面白い人たちがいるんだ」と思ったのです。そして、当時の所属事務所であったワハハ本舗に行ってガッポリ建設のおふたりに弟子入りをお願いしました。
――お笑いが好きだったとのことですが、他にも弟子入りをしたいと思った芸人さんはいましたか?
太郎:いえ、面白いと思う芸人さんはいますが、弟子入りを懇願したのは、ガッポリ建設のおふたりだけです。
◆意外と厳しいところがあった“小堀師匠”
――弟子入りを志願したときのおふたりの反応はどのようなものでしたか?
太郎:笑っていましたが、すぐに承諾してくれました。「俺たちもそんなに売れているわけじゃないのに弟子なんて、なんか面白いな」みたいなことを言っていたような気がします。
――具体的に、弟子は何をするのでしょうか?
太郎:雑務を担当するほか、いろんなことを勉強させてもらいましたね。特に“小堀師匠”は、意外と厳しいところがあるんですよ。
◆総額で「200万〜300万円」貸したが、2年以内に必ず返済
――『ザ・ノンフィクション』を拝聴したかぎり、ルーズな人だと思っていたので、衝撃です。
太郎:もちろん遅刻をする、借金をする、という点ではあの放送のまんまです。ただ、たとえば師匠と待ち合わせをするとします。そのときは「必ず何かボケながら登場しろ」と(笑)。師匠のご自宅に伺ってインターホンを押すときも、ひとボケ必要です。常に試されているので、弟子は何かしら考えておく必要があります。
――ちなみにどんなボケで応えたのでしょうか?
太郎:一例ですが、相撲取りの格好をして電柱にひたすら張り手をしたり(笑)。路上で本を売りながら待っていたこともありますね。ちなみに、ボケがつまらないと、写真を撮られて戒められます(笑)。
――スパルタですね(笑)。その一方で、小堀さんは弟子である太郎ちゃんさんにもお金を借りていますよね。
太郎:はい、これまで総額で200万〜300万円くらいは貸しているでしょうね。でも小堀師匠は義理堅くて、2年以内には必ず返済されるんです。たまに、現金を貸したのに図書カードで返ってきたりしますが(笑)。
◆お笑いよりも、お金についての処世術を教わった
――小堀さんに困らされたことはありますか?
太郎:実はそこまですぐに思い浮かぶことはないんですよね。つらかったのは、いきなり朝5時くらいに電話がきて、小堀師匠の自宅近くのスロットを一緒に打ちたいから来いと言われたことでしょうか。仮に私が勝っても、勝ち分は小堀師匠に上納しなくてはいけなくて(笑)。逆に小堀師匠が勝ったときはご飯をご馳走してくれます。意外と理不尽なことはないんですよ。
――世の中ではそれを理不尽と呼ぶと思いますが(笑)。反対に、弟子をやっていてよかったと思うことはありますか?
太郎:ガッポリ建設は芸人から愛される芸人なんです。だからいろんな芸人仲間から「ガッポリの弟子か」と可愛がってもらえたことです。そのなかにどんどん売れていった芸人さんもたくさんいて、人脈が生きる場面も多く、助けてもらいました。当時、私の収入は営業によって支えられていました。経済的にそこまで不自由しなかったのは、売れている芸人さんからいただける仕事によるところが多かったですね。
――弟子として、小堀さんから教えてもらったことはどのようなことでしょうか?
太郎:お笑いのテクニカルな部分は実はあまりないんですよね(笑)。でもそれ以外の、お金についての処世術みたいなものは教わりました。社長さんと飲んでお車代をいただく“ギャラ飲み”も、「本当にタクシーに乗って帰るなよ。近ければ歩け」とか「無理に乗せられても、角を曲がったら降りて歩くんだぞ」とか(笑)。
◆『ザ・ノンフィクション』の反響は…
――特に『ザ・ノンフィクション』放送後、周囲の方に何か言われましたか?
太郎:実は、まったくと言っていいほど触れてこられずで……。友人はもちろん、親でさえもです。何か言いたそうではあるのですが(笑)。何を思っているのか、知りたいんですけどね。
――太郎ちゃんさんにとって、小堀さんあるいはガッポリ建設さんはどのような存在ですか?
太郎:解散しても、ずっとおふたりの弟子でいるつもりです。小堀師匠について言えば、個人的にはクズだと思っていないんですよね。人よりも少し遅刻が多くて、人よりも少しお金を借りてしまうだけなんです。それよりも、小堀師匠がどんな相手でも最終的には懐に入り込んでしまうのを見てきましたし、人間関係におけるさまざまな相談をしてきました。義理人情に厚い人なので、意外と弟子である私のことを思ってくれているんだなと感じる場面が多く、これからも変わらない関係性でいたいと思います。今貸している10万円も、2年以内には必ず返ってくるでしょうし(笑)。
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はたから見てどんなに危険物件に見えても、対峙した者だけが肌で感じる魅力がある。一般の感覚からかけ離れなければ、狂気は生まれない。狂気だけが、理屈を超越した笑いを生む。そこに魅了された者だけが刻む深い絆をみた。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki