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“ゴーストタウン化”が予想された「晴海フラッグ」、現在の入居率は意外にも…2つある懸念点のひとつは「“駅徒歩15分”のアクセス難」

日刊SPA! 2025年2月8日 8時52分

 経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回取り上げるのは企業ではなく、「晴海フラッグ」です。
 晴海フラッグは東京オリンピックの選手村跡地を開発したマンション街です。三井不動産レジデンシャルや野村不動産など、大手デベロッパー各社が手掛け、約5,600戸の住戸が供給されました。当初は投資目的の法人が殺到し、ゴーストタウン化を懸念する報道があったのも記憶に新しいところ。あれから1年経った今、晴海フラッグの入居率はどうなったのでしょうか。周辺事情や不動産状況について調べてみました。

◆総戸数は「5,632戸」

 晴海フラッグは晴海の南西側に位置します。東京オリンピックでは選手村として使われ、五輪後に宿泊施設がマンションとして再開発されました。総戸数は5,632戸。マンション街は下記4つのエリアに分かれています。

(1)SUN VILLAGE:分譲1,822戸
(2)PARK VILLAGE:分譲1,637戸
(3)PORT VILLAGE:分譲1,487戸
(3)SEA VILLAGE:賃貸686戸

 (1)と(2)は海側に面し、(3)と(4)は一部が有明通りに面しています。目玉となる地上50階建てのタワマン2棟、「SKY DUO」は晴海フラッグの中心部に位置しています。SKY DUOは今年秋の竣工予定です。エリア内には他にも晴海ふ頭公園や後述する商業施設、清掃工場などがあります。

◆「倍率266倍」安さ目当てに応募者が殺到

 晴海フラッグでは販売開始当初から購入希望者が殺到しました。都内のマンション価格が1億円超えとなっている現状において、6千万~7千万円台で購入できる安い部屋が多く供給されたためです。臨海の夜景に惚れ込んで購入した方も多いようです。抽選倍率は最大で266倍となりました。一帯のアクセスは悪いものの、これ以上安い新築物件が都内で出る可能性はゼロに近く、安さだけが売りになったといえます。

 そして購入制限をかけていなかったため、投資目的の法人による購入が相次ぎました。5戸以上購入した法人もあり、こうした業者は購入した物件を転売や賃貸に出し、利ざやを得ました。安く販売して転売屋が殺到する家電量販店と同じ構図です。

 晴海フラッグの入居が始まったのは昨年1月で、入居率の実態は5月時点で6~7割。そして現在は、晴海5丁目に約4,000帯が入居しています。晴海フラッグ外のマンションや工事中のSKY DUOを除くと、現在における晴海フラッグの入居率は8割弱とみられ、当初懸念されていた廃墟化は起きていません。晴海フラッグの人口は約8000人。開発完了により1.2万人を予定しています。

◆ネックは「アクセスの不便さ」と「乏しい商業施設」

 安さが人気の晴海フラッグですが、筆者はあまり肯定的ではありません。そもそもアクセスが良くないのです。晴海フラッグ内に鉄道・地下鉄の駅は無く、最寄りの勝どきまでは徒歩で15分ほどかかります。晴海フラッグと新橋駅を11分で結ぶ大型バス「東京BRT」がありますが、昼間は15分間隔の運行です。「都心への近さ」を謳っていますが、時間的には必ずしも便利ではありません。

 乏しい商業施設事情も晴海フラッグの懸念材料です。中心部に「ららテラス HARUMI FLAG」があり、食品スーパーや100円ショップ、薬局などがあるものの、飲食店は数店舗のみです。モールとはいえ、郊外にある駅ビルのような規模です。そして同施設以外にラーメン屋や居酒屋などの飲食店はなく、住民がふらっと寄って気軽に飲食できる場所はありません。また、エリア内のコンビニは2箇所しかなく、棟によっては往復で10分以上歩く必要があります。

 計画的に開発された場所であり、戸建てや雑居ビルもないため、今後、店舗や商業施設が新たに生まれる可能性も低いとみられます。学校などの公共施設は整っていますが、レジャー性という観点では魅力はありません。

◆今後の価格は「臨海地下鉄」次第か

 分譲の抽選は人気、賃貸もワンルームが14万円で出ているなど、今のところ高い人気を誇る晴海フラッグですが、将来的にはアクセスの悪さや乏しい商業施設事情が悪影響を及ぼしそうです。一気に売りに出したエリアは同時期に老朽化や高齢化を迎え、不動産価値が低下します。分譲の住民がすぐに退去する可能性は低いですが、賃貸価格を維持できるかは疑問です。

 一方で、「臨海地下鉄」構想が実現すれば、不動産価格が上昇するかもしれません。臨海地下鉄は東京駅を起点に、勝どきや晴海を通り、東京ビッグサイトまでを結ぶ路線です。東京都は2040年の開業を目指しています。タワマン街として知られる勝どき・月島は都営大江戸線が開業する以前、下町・倉庫街でした。利便性を向上させる新路線は不動産の価値を向上させます。ただし臨海地下鉄構想が頓挫すれば、衰退が早く進むでしょう。いずれにせよ臨海地下鉄次第といえます。

<TEXT/山口伸>

【山口伸】
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。 Twitter:@shin_yamaguchi_

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