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荒井敦史 「熱海殺人事件」5年連続主演 我が身一つで駆け上がる一流役者の道

スポニチアネックス 2024年6月29日 5時10分

 若手俳優集団「D―BOYS」などで活躍した俳優の荒井敦史(31)が主演する舞台「熱海殺人事件 Standard」が7月5日、東京・紀伊国屋ホールで幕を開ける。昭和の名劇作家つかこうへいさんの代表作で5年連続の大役は、亡き父が携帯の待ち受けにするほど喜んでくれたという。名優も苦しんだ長ゼリフを自身の代名詞としつつある舞台で、孤軍奮闘する原動力を聞いた。

 雑誌のオーディションを機に、15歳で芸能界入り。当時は「マネジャーに言われるまま、受動的に生きていた」という。トレーラーの運転手をしていた父に「売れねえな、お前」と言われ続けたと苦笑いした。

 その父が喜んでくれたのが2020年から主演する「熱海殺人事件」。平凡な殺人事件を主人公の木村伝兵衛部長刑事と新任刑事が“劇的な殺人事件”にしてしまうセリフ劇。1973年の初演から半世紀も上演が続く人気作で風間杜夫(75)、阿部寛(60)らが演技に開眼した作品としても有名だ。

 自身も「19歳で馬場徹さんがタキシード姿でまくし立てる姿を見て、これに出る!と決めた」と憧れ続けた作品。長ゼリフを畳みかける息子を父は誇らしげに「携帯電話の待ち受けにしていた」。

 だが父との別れは突然訪れた。2年前の夏、胸の痛みを訴えた。急性大動脈解離と心筋梗塞の合併症。8時間後に逝った。「突然のことで悔いが残っているだろうなって。親父の顔を見て、俺もやらないより、やって後悔する方がいいと思った」。ハンドル一つで家族を支えた父のように。「熱海」をきっかけに羽ばたいた風間、阿部のように事務所の力に頼らず、一人でやっていこうと決めた。

 マネジャーもおらず事務作業も一人でこなしつつ今年は既に舞台5本に出演。50公演以上「熱海」で座長を務めた頑張りを周囲は見ていた。

 事務所を出る前に「お前なんか役者に向いてないと言われたことがありました」。力のある事務所にいなければ生き残れない。それが“芸能界の常識”だった。今は投げかけられた厳しい言葉が力をくれている。「相手を恨まず、胸に湧いた苦い感情は演じる役の心情に生かそうって。そうやって芸能界に居続けることが、俺をバカにした人への復讐(ふくしゅう)になる。だから今は復讐の途中なんです」。父のように我が身一つで芸能界の荒波を乗り越えていく。(西村 綾乃)

 ◇荒井 敦史(あらい・あつし)1993年(平5)5月23日生まれ、埼玉県出身の31歳。2008年に「第21回JUNONスーパーボーイコンテスト」でビデオジェニック賞を受賞し、翌年芸能界入り。D―BOYSのメンバーとして活動した。14年にフジテレビ「GTO」、17年BS―TBS「水戸黄門」シリーズで格さん役。1メートル83、血液型O。

 ▽熱海殺人事件 故つかこうへいさんの初期の代表的戯曲で、初演は1973年。つかさんは翌年、史上最年少で「岸田国士戯曲賞」を受賞した。早口で畳みかける長ゼリフは見せ場の一つで、主役の木村部長刑事は、三浦洋一さん、風間杜夫、阿部寛ら名だたる俳優が、歴史をつないでいる。つかさんの命日にあたる7月10日は、特別公演が上演される。

 

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