結成17年目を迎えたお笑いコンビ「ダブルアート」。その前身は将来を嘱望されたパンクバンド「WART」のメンバーだった。音楽での成功が目の前だったにもかかわらず、夢だったお笑いの世界に飛び込んだ2人。大阪の若手芸人がこぞって慕う兄貴分2人の、波乱に富んだ芸人人生を紹介する。(取材・構成 江良 真)
◆ファーストアルバム出した日に解散ライブ◆
―お2人は幼なじみと聞いていますが、芸人になる夢をずっと持たれていたのはタグさんだったんですよね?
タグ「そうですね。その思いはずっとあったけど、そんな簡単じゃない、という思いもあって心に押し込めていた感じでした。大きく変わったのはバンドを組んでからですね」
―パンクがお好きだったんですね。
タグ「真べぇとはライブハウスで一緒になるようになってから仲良くなったんです。すごく詳しくてアメリカのミスフィッツとか、いろんなバンドを教えてもらいました」
―その流れでバンドを組もうとなったんでしょうか?
真べえ「ぼくは軽い気持ちでバンドをやっていたんですが、タグがイベントでやったボーカルがすごくカッコ良くて。そっから組もう!となりました」
―オリジナルも作られるわけですね?
タグ「6曲入りの自主制作CDを作ったんです。それをCD屋さんに200円とか300円で置いてもらったんですが、それがパンク雑誌で話題になって、チャート1位が何カ月も続いたんです」
―すごい。それはNSCに入る前ですか?
タグ「1年前ですね。真べえはカフェやってて」
真べえ「翌年にはお店を任せてもらえるみたいな話になってました。飲食頑張りたいというのがあって、タグにはお笑い行け行け、と言ってたんです。でも、タグはずっと、そんな簡単ちゃうから、と言ってて。ところが、急にお笑い行く!となったんです。それがうれしくて。ぼくもテンション上がって、なんか知らんけどそこでぼくもパチンとスイッチ入って、よっしゃおれも飲食辞めてお笑い行く!となったんです。誘われたわけでもないのにね(笑い)。飲食の人に急に辞めると宣言して、バンドをやりながらNSCに入るんです」
タグ「バンドはけっこうな話題になって、小さなレーベルですけど、パンク界隈では知られているところからCD2枚出して、全国ツアーも回りながらNSC行ってたんです」
―すごい!
「さらにアルバム(「終走男児」)も出しました。その発売日に神戸スタークラブという有名なライブハウスでやって、満員でしたね。そこで真べぇがアンコールのときに宣言するんです。きょうで解散しますって」
―え?
真べえ「みんな本気にしない(笑い)。もうええって!みたいな(笑い)」
タグ「真べぇはいつもチョケたMCしてたんで、よけいに信じない(笑い)」
―それはしかし、ファンにしたら衝撃ですが迷うことはなく?
真べえ「バンドは2年だけやるという感じでした。お笑い行ったら両立なんてでけへんから、NSC卒業と同時に解散というのは決めていました」
◆NSC入りする予定がタグに合格通知届かず◆
―そのNSC入りにも波乱が(笑い)。
タグ「ぼくだけ合格通知が届かない(笑い)。真べぇは、不合格なわけないやんと思ってたそうです」
真べえ「やっぱ、行くのいやになったんかなあって思って。99%落ちないって言われてるのに」
タグ「ほんまにショック受けてて、おれ何したんやろ?とかいろいろ悩んで」
―通知が届かなかった理由はわからなかったんですか?
タグ「郵便事故ということになってますけどね。ほんまはわからなくて」
―バンドではもちろん顔を合わせてるんですよね。
タグ「そうなんです。なんでオレやなくてコイツがお笑い目指してんねん、みたいになって。なんか変な空気でしたけど、ぼくは曲いっぱい作って、めっちゃバンド頑張ってました」
真べえ「ぼくはとりあえず、地元のヤツとか、飲食の人らにも温かく送り出されたから辞めることもでけへん。タグには入って様子見てくるわ、みたいなことを伝えました。でも、コンビ組むわけではなく、授業来て笑ってるだけやから、先生がどうすんねん?と聞いてくれたんです。それで、実は外に相方がいて、卒業したら組みます、と言ってたら、その先生が覚えてくれてました。“あの、やんちゃっぽい子やんな?落としてないと思うで。途中からでもええんやったらおいで”、となったんです」
タグ「でも、半年遅れでも1年分の授業料取られました」
真べえ「さすが吉本ですわ(笑い)」
―そんな状況になってもタグさんがあきらめなかったのはなぜなのですか?
「高校の時、周囲となじめなくて、芸人になるという夢も奥の方にしまっていたんですが、やはりバンドの経験が大きいですね。自分が形にした音楽でみんなが拳を振り上げてくれるのを見て、あれ?おれってやりたいことやれば、イケんのか?と思うようになりました。自分の中で押し殺してた夢が光り出して、ちょっとやってみよ、と思ったんです。だからバンドやったんが飛び込むきっかけになったんです」
―少し勘違いしてました。バンドで行き詰まりを感じてお笑いという感じだったのかと思っていました。
タグ「ああ、全然です。バンドでは何も目指してなくて、単に自分の思いの丈を歌ってただけでした。芸人やりたいという気持ちを押し殺してバンドで発散していたという感じです。でも、それが後押ししてくれたんで、パンクがぼくの夢をつないでくれたという感じですね」
◇ダブルアート タグ(たぐ)1985年(昭60)1月22日生まれの39歳。兵庫県神戸市出身。ボケ担当。真べぇ(しんべえ)1984年(昭59)1月18日生まれの40歳。兵庫県神戸市出身。ツッコミ担当。小学校からの知り合いで、06年にパンクバンド「WART」を結成しブレイク。07年にNSCへ入門し、翌年から芸人活動に専念。YouTubeの番組「12才協会」は内外から高い評価を獲得。WARTも15年ぶりに再始動し、話題を呼んでいる。