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ダブルアート(2)賞レースより大切にしたい「12才の精神」 芸人の本質への回帰目指す将来像とは?

スポニチアネックス 2024年7月8日 13時6分

 結成17年目「ダブルアート」。ボケ担当タグのNSCデビューは衝撃だった。パンク界から飛び込んだ異色のコンビが目指す将来像とは?

◆同期をザワつかせたタグNSC初登場の日◆

 ―半年遅れのハンデはありましたか?

 真べぇ「ハンデはないんですが、周囲はヒリついてましたね。タグはこんな頭で革ジャンやし、先生に対しても、くだけた敬語で(笑い)。先生はすごいやつ来たなー、とおもしろがっているんですが、アシスタントの人はピリピリしてて(笑い)。一度、顔をタグの顔のすぐそばまで近づけて、先生に失礼やろ!オラ!みたいに言ったんです。で、その人が教室から出ていったら、タグが大きい声で“久しぶりに怒られたから気持ちええわー”、とか笑ってて。相方はデブのアフロみたいな髪型のただ笑ってるだけのヤツやし、同期は“変なヤツが変なヤツ連れてきたで”、みたいになってましたね」

 ―そういうところからなのか、ダブルアートさんのネタはどっか冷やっとするところがあるんですよね。

 真べえ「ハハハハ」

 タグ「ぼくはおもしろいと思ってるけど、なんかあかんもん見てるみたいな。冷やっというのがあったほうがいいかなとは思ってるんです」

 ―まさにそうで。なんというか、そこにダブルアートさんのパンクの精神みたいなものも感じられますよね。

 タグ「現場では、へ?となってても後で映像で見たらすげえ!みたいな。それを思い描いているときもあるんですけどね」

 真べぇ「ぼくはタグが作ったやつを読んで意味がわかんなくて、リハでやって意味がわかんなくて、本番やったらわかるか、と思ったらやっぱり意味がわからない」

 ―(笑い)

 真べぇ「でも、絶対誰ともかぶってへんというのは胸張って言える。これが伝わったとき、それが“あらびき団”とかですけど、普通のわかりやすいお笑いやるよりもパワーが全然違うんです」

◆藤井隆が過呼吸状態になった「あらびき団」のパフォーマンス◆

 ―「あらびき団」では2度もベストパフォーマーになられました。「宇宙開発恋愛センター」は衝撃でした(笑い)。藤井隆さんも笑い転げてましたね。

 タグ「アグレッシブに大胆に笑いは取りに行きたいんですね。同時に、意味わからんものでも意味わからんなあ、で終わるのではなく、なんかわからんけどおもろいなあ、と思ってほしい」

 ―失礼な言い草ですが、タグさんが頭おかしい系で、でも真べぇさんがどんと横で包容力たっぷりにいるというのが、2人の強みという部分はあるのでしょうか?

 タグ「そこはほんまにありがたいと思っています。アカンときでも思いっきり共倒れしてくれるのがうれしいですね。目指しているところは、なんでこの人らがやったらこんなにおもしろく見えるんやろ、と思ってもらえるようになることですね。それってすごいうれしいし、それが芸人かな、と思ってます」

 ―現在は芸歴17年目でM―1は一段落しました。今年はザ・セカウンドも勝ち上がられたりしましたが、賞レースはいかがですか?

 真べぇ「それこそ、この前話し合ったんですけど、あまり意識せんとこ、と思ってるんです。ぼくら、しっかり準備して一瞬に賭ける、みたいな感じでやった時はうまくいったためしがなくて(笑い)。そんなんよりも、これ楽しみたい、という感じでやってます。周囲は賞レースにすごく力が入ってるし、それに流されている部分は確かにありました。でも、無理にそれに合わさなくてもええんちゃう?と2人で話し始めてから、仕事でも結果が出るようになってきましたね」

 タグ「今は“あらびき団”とか“オールザッツ漫才”とかで負けるほうが悔しいです(笑い)。これは本当に正直な気持ちなんですが、オールザッツで優勝するのが夢なんです。みんながM―1優勝したい、キングオブコント優勝したいと思っているのと同じ感じかもしれないですね」

 ―賞レースより、子どもの頃からずっと親しんできた笑いの雰囲気で頂点をとるほうがうれしいということなのでしょうね。

 タグ「まず、賞レースという言葉がわからなかった(笑い)。意識していたわけでもなかったし、芸人になってから結果残さなあかんなというのはありましたけどね。もちろん、息をのんで誰が優勝すんねん?というのもカッコいいし、それを成し遂げるのはスゴイと思うんですけどね」

 ―そういう意味では現在、YouTubeでやっていらっしゃる番組「12才協会」はいま最も楽しくやっていらっしゃるものになるのでしょうか?

 タグ「これをもっと広げたいです。やってるのは、ぼくら小学校のころとかはテレビで普通にやってたようなことなんです。ギリギリの下ネタと、深夜ならけっこう過激なものもいっぱいあって、それでもみんな真に受けんとハハって笑ってたし。12才のときのように、おもろいと思ったことを素直にやってるという感じですね」

 ―なぜ12才という表現を選ばれた?

 タグ「なんかええな、と思って。ガキからちょっと大人になって性に興味を持ち始めたり、悪いことにも手を出したり。好奇心が大きくなって、すごいドキドキすることがいっぱいあって。敬語や制服、規律や校則を守らなあかんかっけど、そのルールの中でどう楽しむか、どうはみ出すか、どうおもろくしていくか、ということばっかり考えてました。そういうところからお笑いにも導かれていったところはあるかもしれないですね」

 ―そういうタグさんが今のテレビで心をひかれる番組はどういうものになりますか?

 タグ「やはりダウンタウンさんの番組はおもしろいですね。水曜日のダウンタウンとかクレイジージャーニーとか、ぼくが好きやったものが詰まってますよね。ガキ使とかも挑戦的なことをしているし。アイデアと企画力と芸人力が試されるようなコンテンツはやっぱり大好きです」

◆遊びが勲章でなくなった芸人文化に一抹の寂しさも◆

 ―私が感慨深いのは、20年前とは明らかに違うお笑い文化のブ厚さ。賞レースや配信の激増も関係しているとは思うのですが。

 真べぇ「街で声をかけられるのも変わってきて、昔やったら、芸人や!なんかせえやって言われてたんです。今の人はリスペクトがあって、芸人さんやって敬称をつけてくれるんです(笑い)」

 ―ただ、少し遊びのほうが不自由というか(笑い)。

 真べぇ「なんかね(笑い)。それはほんとにね(笑い)」

 タグ「時代の要請というかね(笑い)」

 真べぇ「芸人の間でもそうですよ。女の子と遊んだ、という話ばかりしていると引かれる。女遊びは悪いウワサで出回ってきます」

 ―そんなことになっているんですか?

 真べぇ「昔は自慢する人がいっぱいいたんですけど。こんな子と遊んだとか。そんな話よりも毎月単独やってるとか、ネタこんだけ書いたとか、そんな話をして、周囲もカッコええみたいな感じになってますね」

 ―芸人さんもアーティスティックになったんですね(笑い)。

 タグ「それもね、ぼくらからしたら小っ恥ずかしい感じではあるんですけど」

 真べぇ「コメンテーターも増えましたし。芸人さんの地位が上がってるんですよ」

 タグ「でも、ぼくらはいつまでもアホなことをやっていきます」

 【取材を終えて】真べぇさんとの会話の中で少し耳の痛い話がありました。「大阪で舞台に立ってる芸人は全然東京に負けてない。でも、それを伝えるメディアの数が圧倒的に少ない。だから、みんな東京に行く。これは大きな問題だと思います」。

 その指摘、ぐうの音も出ません(笑い)。ただ、ダブルアートが配信で少しずつ存在感を大きくしているように、実はメディアも東京至上主義に風穴は開きつつあります。その一つの要因がネット報道。このインタビューも大阪発だけど、ボタン一つで世界を駆け巡ってくれます。

 もちろん、この連載なんて微力すぎてビビってしまうくらい微力ですが、少しでも大阪芸人を盛り上げられたらいいな、と心底感じたインタビューでした。(江良 真)

 ◇ダブルアートの12才協会presents真剣音楽祭 ラニーノーズら音楽活動をしている吉本芸人のほかアインシュタイン、見取り図、ツートライブらも参加。参加者全員がマジで音楽をやる。もちろんダブルアートの「WART」も登場。7月29日、大阪・なんばHatch。FANYチケットなどで発売中。

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