◇「虎に翼」猪爪花江役・森田望智インタビュー（2）
女優の伊藤沙莉（30）がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説「虎に翼」（月～土曜前8・00、土曜は1週間振り返り）は12日、第75回が放送され、主人公・佐田寅子が一人娘・優未を連れ、新潟に赴任した。親友にして“妻”のように、働く寅子をサポートしてきた猪爪花江の感情が爆発した第72回（7月9日）もSNS上などで話題。花江役を好演し、存在感を示している女優の森田望智（27）に撮影の舞台裏を聞いた。
＜※以下、ネタバレ有＞
向田邦子賞に輝いたNHKよるドラ「恋せぬふたり」などの吉田恵里香氏がオリジナル脚本を手掛ける朝ドラ通算110作目。日本初の女性弁護士・判事・裁判所所長となった三淵嘉子氏をモデルに、法曹の世界に飛び込む日本初の女性・猪爪寅子（ともこ）の人生を描く。吉田氏は初の朝ドラ脚本。伊藤は2017年度前期「ひよっこ」以来2回目の朝ドラ出演、初主演となる。
森田の朝ドラ出演は21年度前期「おかえりモネ」以来3年ぶり2作目。今回演じる花江は、寅子の兄・直道（上川周作）の妻。2人の息子、直人と直治を授かった。直道が戦死し、義母・はる（石田ゆり子）が亡くなった後は猪爪家のもう一人の大黒柱として家族を支える。
第72回は、寅子に新潟転勤の内示。判事補から判事への出世となるが、優未（竹澤咲子）を連れていくかどうか。とうとう花江の堪忍袋の緒が切れた。
花江「トラちゃんは何も見えてない。何も分かってない」
寅子「何？何の話？」
花江「猪爪直明（三山凌輝）ちゃんの言う通り優未は置いていって。私が責任を持って面倒見ますから、どうぞトラちゃんは新潟でお仕事に専念なさってちょうだい」
寅子「何を怒ってるの？言いたいことがあるなら言ってよ」
花江「言ったって仕方がないでしょ！そう思わせてきたのはトラちゃんよ。この家の主はトラちゃんなんだから」
寅子「何？その言い方」「だってひどいじゃない。こっちは家族のために、毎日必死で休まず働いてるのに！」
花江「そういう態度よ！そんなふうに、家族に目を向けられないくらいまで頑張ってくれなんて私頼んでない！優未はあなたに甘えたくても、必死に我慢していい子を頑張ってる。あなたに喜んでもらおうと、いい子のフリをしてる、分かる？トラちゃんが見てるのはね、本当の優未じゃないの」
花江の目に涙がこみ上げた。
そして、第74回は家族会議。それぞれが本音を語り、花江は「この決断の責任は、トラちゃんが負うべきよ」。寅子は家庭を顧みなかったことを反省。「一緒に新潟に付いてきてください」と優未に頭を下げた。
森田によると、第72回の撮影前は「意図したことは全くなかったんですけど、私が作品のことを考えるあまり、ピリッとした雰囲気が降りてきていたようで、沙莉ちゃんからしたら怖かったみたいです（笑）。 前室（スタジオ手前の待機場所）では和気あいあいとおしゃべりしますけど、それ以外の時間は、2人とも本番まで割と自分の世界に入って、お芝居に向き合うタイプ。この週はいつもより考えることが多かったので、自然とそういう距離感になりました」と明かした。
森田にとっては“花江週”と言えるヤマ場だが「私としては、どのシーンもヤマ場なんです。例えば直道さんの戦死を知るところ（第41回、5月27日）とかも、実際はオンエアよりも長くカメラを回していただいていたり。映り方としては、この週がヤマ場になっているかもしれませんが、1シーン1シーンに対する思いが強いので、いつもと変わらず大事に演じました」と自然体で臨んだ。
家庭を顧みない寅子に、花江は不満。しかし、今まで口には出さなかった。
「“親友なのに、どうして言いたいことも言えないの？”と思っていたんですけど、花江ちゃんはもう親友ではなくて、この時代の妻になっていたんですよね。だから我慢して、自分の気持ちに蓋をするんだと腑に落ちました。監督からも“これは親友の喧嘩ではなく、夫婦喧嘩です”というお話があって、関係性の変化が凄く面白く、長丁場の朝ドラならではだなと思いました」
“寅子不在の猪爪家”を描くのもユニーク。「子どもたちと結託して、トラちゃんを仲間外れにしているように見えるかもしれませんけど（笑）、トラちゃんへのリスペクトはしっかりあって。花江ちゃんの怒りにも色々あって、悲しんで怒っていることもあれば、少し諦めて怒っていることもある。同じ“怒っている”と書かれていても、吉田さんの脚本は色々な感情が込められています。誰か一人に責任がある、というような単純な話ではないんです。両方の気持ちが分かるというのが魅力的」と吉田脚本の妙。
最終的には「単純に怒っているというよりは、自分の信念、何を大切にしたいと考えているかをトラちゃんに伝えたいし、聞きたい気持ち。トラちゃんも思いをぶつけてくるので、結果としては摩擦のように見えてしまいますけど。花江ちゃんの中で、言い表すことができない感情が渦巻いていて、気づかないうちに溜まっていったものが、ふとしたきっかけで一気に全部あふれ出てしまった、そんなシーンだったのかなと思います」と振り返り、反響を呼んだ名場面を総括した。
＝インタビュー（3）に続く＝