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かつて天下を獲った浪曲界 「衰退」も近年は復調の兆し 初の人間国宝誕生に新顔も

スポニチアネックス 2024年8月2日 18時2分

 【舌先三寸】7月末、「浪曲師・京山幸枝若が人間国宝に内定」のニュースが飛び込んできた。浪曲界初の人間国宝の誕生に「衰退の一途をたどる」浪曲界に朗報と“枕詞”付きで報じるメディアもあった。

 昭和初期には日本に浪曲師が約3000人いたという。芸能人の長者番付ベスト10のうち7人が浪曲師という時代もあった。「浪花節」とも呼ばれ、落語、講談と並んである大衆演芸の中で天下を獲ったジャンルといっても過言ではない。

 だが「清水次郎長伝」を演じて一世を風靡(ふうび)し、ブームを巻き起こした2代目広沢虎造が1963年(昭38)に引退。以後、一気に人気が衰えていった。現在ある浪曲の団体は大阪の「浪曲親友協会」(京山幸枝若会長)、東京の「日本浪曲協会」(天中軒雲月会長)で、所属している浪曲師は両会あわせて100人ほど。全盛期の30分の1にまで減った。

 「日本浪曲協会」は毎月1~7日に東京・浅草の木馬亭で定席を開いている。

 落語の寄席通いを初めて20年以上になるが私が木馬亭の浪曲定席に通い始めたのは昨夏から。ドキュメンタリー映画「絶唱浪曲ストーリー」を見たのがきっかけだった。

 浪曲は、三味線を弾く曲師、節(歌)と啖呵(せりふ)を演じる浪曲師の2人1組で演じる。両者の掛け合いの妙に落語、講談にはない魅力をみたからだ。浪曲は「歌う」ではなく「唸る」という。字の通り、口で念じる。歌に魂を乗せる。

 8月1日、木馬亭定席の初日をのぞいた。トリは今年4月、同協会の会長に就任した天中軒雲月。演じたのは「徳川家康~人質から成長まで」。ご近所にいる世話好きのおばちゃんといった親しみやすい雰囲気もいい。曲師は広沢美舟。

 人気の玉川奈々福は、文豪・尾崎士郎原作の「猫虎往生」を現代風にアレンジした「同2024」。途中でラップまで飛び出したのには驚いた。曲師の沢村まみとの掛け合いも斬新。ほかに出演は天中軒かおり、東家恭太郎、広沢菊春、鳳舞衣子、東家孝太郎、講談の神田紅佳。1人の持ち時間は15~30分。入場料の2400円はお得だ。

 「衰退」など散々な言われようの浪曲界も近年、新顔が入り復調の兆しも。この日、開口一番を務めた天中軒かおりは、昨年6月に雲月に入門、今年1月に初舞台を踏んだ。演じたのは「琴櫻」。大関・琴櫻の祖父である53代横綱の一代記。

 「猛牛」とあだ名された苦労の人。「先代・雲月のレコードを聴いて勉強しました」とかおりは言う。相撲好きとかで、将来が楽しみな若手だ。

 会場では演者や非番の若手がグッズ販売で声を張る。終演後は演者が入り口まで出てきて客と気軽に写真撮影に応じる。こういったアットホームな雰囲気も浪曲寄席ならでは。定席は7日まで。

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