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書道家・根本知氏が明かした「光る君へ」題字の執筆秘話 「心が震えた」“まひろから道長への恋文の宛名”

スポニチアネックス 2024年8月11日 12時3分

 書道家の根本知氏(39)がNHK大河ドラマ「光る君へ」(日曜後8:00)で題字を担当している。流れるように美しく上品な題字はドラマの世界観を存分に伝えている。自身を「平安時代マニア」と語る根本氏が、題字に込めた思いや日本書道への思いを語った。

 「ふたりっ子」「セカンドバージン」「大恋愛~僕を忘れる君と」などを生んだ“ラブストーリーの名手”大石氏がオリジナル脚本を手掛ける大河ドラマ63作目。千年の時を超えるベストセラー「源氏物語」を紡いだ女流作家・紫式部の波乱の生涯を描く。大石氏は2006年「功名が辻」以来2回目の大河脚本。吉高由里子は08年「篤姫」以来2回目の大河出演、初主演となる。

 根本氏は初め、キャストへの書道指導のみオファーされていたという。題字のオファーを受けた心境を「寝耳に水だった」と振り返った。「根本さんが書くことで日本書道を伝えるきっかけになるかもしれない」という制作陣の熱い思いを受け、大役を快諾した。

 「タイトルだけを見て初めての平安ドラマがどのようなものか伝わるような題字を模索していきたいと言われた。何度も何度も書き直しました」。平安時代の歴史的な字を踏まえつつ、読みやすくエロティックにポップに。ハードルの高い注文に頭を悩ませた。そんな根本氏の霧を晴らしたのは、チーフ演出の中島由貴氏からの1本の電話だった。「“まひろが道長に恋文を書くとして、宛名を『道長さまへ』じゃなくて『光る君へ』にした字を見たい”と言われた。見えないものをつかむような感覚があった。一流のアドバイスに心が震えたのを覚えています」。まひろと道長の錯綜する思いを表すような、儚くも力強い題字を書き上げた。

 題字を書く上で参考にしたのが、歌手のちあきなおみの歌声。根本氏は、スナックのママだった母親の影響でちあきの大ファンだという。「ちあきなおみさんは、声を出していないのに余韻がすごく聞こえる。強い線はこういう声。細くても強い線は引けると思って、ずっとループで流していました」と明かした。

 根本氏が制作した題字は毎週のタイトルバックで、世界的ピアニストの反田恭平氏の美しく荘厳な演奏、市耒健太郎氏の耽美でロマンチックな映像、吉高の艶めかしく凛とした表情とともに映し出される。根本氏は「自分の書じゃない感覚があった。平安時代の調和の中に渦巻く力強さや情熱がすごく出ていた。自分の書が社会性を持って世に伝わっていく感動が大きかった」と興奮を伝えた。

 根本氏は、中学時代の家庭教師の先生がかな文字作家だったことがきっかけで、日本書道(かな書道)に興味を持った。日本書道は中国書道と違い、色とりどりの和紙に字を書く。「かなは自己表現の場ではない。日本の粋や職人の粋が一堂に結集されてハーモニーを生み出す世界」。美しく奥深い世界に魅了されていった。

 根本氏は今作で題字と書道指導だけでなく、劇中に完成版として登場する手紙や巻物を手掛けている。SNSではそれら書物に注目する声が上がっている。「すごく幸せなこと。驚きとともに感謝です。自分がやってきたころが報われていく毎日という感じです」と喜んだ。日本では中国書道が一般的であるため、日本書道をなかなか理解してもらえないという。「書道家というと、どうしても大きな漢字を書くイメージがある。日本書道を相手に分かってもらうのに時間がかかる。今年を契機に変わるチャンスかもしれないと思った。日本書道の伝え手になれたらいいな」と、今作への熱い思いを語った。

 ◇根本 知(ねもと・さとし)立正大学文学部特任講師。教鞭を執る傍ら、腕時計ブランド「GrandSeiko」への作品提供(2018年)やニューヨークでの個展開催(2019年)など創作活動も多岐に渡る。無料WEB連載「ひとうたの茶席」(2020年~)では茶の湯へと繋がる和歌の思想について解説、および作品を制作。近著に『平安かな書道入門 古筆の見方と学び方』(2023、雄山閣)がある。

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