書道家の根本知氏（39）がNHK大河ドラマ「光る君へ」（日曜後8:00）で書道指導を担当している。書の美しさや奥深さをたっぷり堪能できる今作。俳優陣の書道シーンも見どころとなっている。根本氏は吉高由里子ら出演者の書を絶賛した。
「ふたりっ子」「セカンドバージン」「大恋愛～僕を忘れる君と」などを生んだ“ラブストーリーの名手”大石氏がオリジナル脚本を手掛ける大河ドラマ63作目。千年の時を超えるベストセラー「源氏物語」を紡いだ女流作家・紫式部の波乱の生涯を描く。大石氏は2006年「功名が辻」以来2回目の大河脚本。吉高は08年「篤姫」以来2回目の大河出演、初主演となる。
紫式部直筆の字は現存していないため、後世の人々が紫式部と同じオーラだと判断した「伝紫式部」の古筆を基にまひろの字を作り上げた。「『伝紫式部』を見ると、凄く細くて回転が多くて小粒な字。古筆切れを基にまひろの字を書きたいと決めた。作家っぽく気楽にタッチよくしました」と明かした。
まひろを演じる吉高は本来左利き。今作の撮影にあたり右手での書道をマスターした。根本氏は「ナチュラルでいるけど、大変な努力家。家で凄い量を書いてきています。初めは手元吹き替えにする話もあったけど、何回か稽古した時にいけると思った。歩み寄ってくださって努力してくださる方と数回の稽古で分かった」と、吉高の稽古に対する姿勢を評価した。
現在の吉高の書を「とんでもなくうまい。僕が書いているのとつなげて書いても分からない」とべた褒め。物語の序盤と現在でまひろの字が変化していることからも吉高の上達ぶりが伺える。「ドラマと同じように吉高さんの書も子供から大人に成長している。紫式部になるにつれて書も大人っぽく品よくなっている」と話した。今後まひろは『源氏物語』を書くが、根本氏が書道指導する上でこだわったのは姿勢。「やや猫背にしました。物語は自分の世界に入るので背中を丸めて書くのではないかと思いました。速く書くために、筆を持つ位置を下げました」。想像の翼を広げて物語の世界に没頭するまひろを書を通して表現している。
根本氏は「筆跡には人が出る」と語る。登場人物や役者のキャラクターをそれぞれの書に反映させている。ファーストサマーウイカ演じるききょう（清少納言）の「枕草子」は、右上がりの字。小粒のまひろとは対照的に四角の枠の中に納まらない。「ウイカさんは負けん気の強い方なので、芯のある女性のイメージで書を演出したいと思った。教師をしていると、右上がりの字を書く子は何か目指すところがしっかりある子だと思う。右上がりの字を提案した」。すると、ウイカも元々右上がりの字を書いていたという。ウイカとききょうの意志の強さがリンクし、美しい書道シーンが生まれた。
藤原道長の字は「御堂関白記」で残っているが、あまり奇麗な字ではない。そこで若き日の道長（三郎）は書が苦手という設定にし、書を習っていない柄本佑の字を“佑フォント”としてそのまま採用した。現在の柄本は稽古を重ね、「御堂関白記」の道長の字を完コピしている。根本氏は道長の書道の腕前について「お経を入れる筒に書いた字は決して下手ではない。本気を出せばうまい」と明かし、「気を使って上手い字を書く必要がないくらいそのままで生きられた方。大器で堂々とされていた方だと感じます。柄本さんも大器で穏やかな方。かなりの哲学を持ってらっしゃるけど、誰にも偉そうにしない。本当に道長だなと思います」と、道長と柄本を重ねた。
根本氏が“書道の神様”と尊敬する藤原行成を演じる渡辺大知について「本当に書がうまいです」絶賛。藤原実資を演じる「ロバート」秋山竜次については、「速書きで本物の実資の字に似ている。自然に実資でした」と明かした。根本氏は「奇跡的な配役。字で選んだんですかというくらいベストマッチしている」と、役者とそれぞれが演じる歴史上の人物の字が似ていることに驚いた。平安文化を伝えるために細部までこだわり抜かれた今作。それぞれの人となりが伺える書にも注目だ。
◇根本 知（ねもと・さとし）立正大学文学部特任講師。教鞭を執る傍ら、腕時計ブランド「GrandSeiko」への作品提供（2018年）やニューヨークでの個展開催（2019年）など創作活動も多岐に渡る。無料WEB連載「ひとうたの茶席」（2020年～）では茶の湯へと繋がる和歌の思想について解説、および作品を制作。近著に『平安かな書道入門 古筆の見方と学び方』（2023、雄山閣）がある。