◇レスリング女子62キロ級 元木咲良が金メダル
努力する人には良い風も吹く。元木の金メダルを見て、改めてそう感じた。決勝はウクライナ選手に、武器である低いタックルから連続得点して圧勝した。おそらく最初にタックルに入った時から相性の良さを感じたと思う。実は、分岐点は準決勝。豪快な反り投げで逆転勝ちしたこともそうだが、ディフェンス力が高く、元木が苦手としていたキルギス選手が反対のブロックで負けたことだったかもしれない。
ジュニア時代から目立った成績はないが、努力を積み重ね、ライバルだった尾崎野乃香を破ってつかんだ代表。生来の体力に加え、俊英ぞろいの育英大の練習環境に恵まれたのだろう。高校卒業後、自衛隊に入ってからレスリングを始め、五輪代表にまで上り詰めた父・康年さんの“努力する才能”も継承したように思う。
高谷はもったいない銀だった。最初のタックルに入ったあと「ここからでも得点できる」と考えて、ウズベキスタン選手にしがみついた。これがエビ固めに移行される原因となった。あの場面はいったんリセットし、その後も攻撃を繰り返していれば、相手はバテて得意のタックルで勝てたはず。勝負どころを間違ってしまったのは、調子が良かっただけに落とし穴だったと言える。 (88年ソウル五輪金メダリスト、元日本男子強化委員長、専大教授)